シリーズ・ケンカ ふぉーてぃーん! ケンカ…すなわち争いごと。 争いごとの好きな人なんていませんよね? え?いる? いえいえ。 それは人間じゃありません。 人の皮をかぶったケダモノです。 ケダモノがだめならばか者たわけ者うつけ者です! そんなわけで。 ケンカを好む人なんていないんです。 けど、だったらどうして? ケンカをしてしまうんでしょうね? いつもニコニコ仲良しなサトシ達ご一行。 けど、たまーに一行に不穏な空気が流れることもあるわけで。 そう、今現在がまさにその状態。 ケンカ中なのはもちろん… 「サトシ〜いい加減仲直りしたら〜?」 「うっさいな〜カスミは〜!オレからは絶対引かないからな!」 サトシとカスミの二人……ってあれぇ!!!? ちがうやん!! サトシとカスミは仲良さげやん!!? 「そんな子供みたいなこと言わないで、ね。ピカチュウと仲直りしなさいよ」 「いやだ!!」 そうなんです。 今回はサトシとカスミのケンカじゃないんです。 サトシとピカチュウのケンカなんです! さて、けんかの原因なんですが、これはつい先ほどのポケモンバトルにさかのぼります。 一進一退の攻防を繰り返すサトシのピカチュウと相手のポケモン。 だが、ピカチュウが軽くないダメージを受けてしまう。 サトシはピカチュウを下げ、別のポケモンを繰り出そうとしたのだが、 ピカチュウはサトシの命令を無視してバトルを続行。 結果的にそのバトルには辛うじて勝ったのだが、それ以来サトシとピカチュウはケンカをしているのだ。 「だいたい、トレーナーの指示には従うもんだろ?普通」 「まあね。けど、明らかに間違ってる指示には従わないわよ」 「なんだよ!じゃあカスミはオレの指示が間違ってたって言うのか!?」 「そうは言ってないでしょ?ただ、ポケモンは道具じゃないんだから。自分で考えて行動するってことよ」 「知ってるよ!そんなこと!!」 サトシは怒鳴って、カスミから顔をそむける。 「こら!あたしの話はまだ終わってないわよ!こっちむきなさい!」 「いやだ!聞きたくない!」 「いいから!」 カスミはサトシの頭を両手でつかんで強引に自分のほうへと向かせた……のだが。 「あ!!?」 「いいっ!!!」 お互いの顔が急接近。 両者キスして……もとい!期せずして見詰め合ってしまう羽目になった。 「……」 「……」 顔を赤らめて沈黙する二人。 二人の脳裏にピカチュウのことなどもう微塵もないんだろうなぁ〜。 とはいえ、いつまでも見詰め合ってるわけにはいけません。 背後からはタケシの興味深げな視線も感じられますし。 「と、とにかく!早くピカチュウと仲直りしなさいよ!」 「…いやだ。オレは絶対に引かない」 「……そう」 強情なサトシ。 普通なら、カスミはここでプッツンしてしまうのだが、今日は違う。 カスミにはサトシの考えていることがわかっているから。 「サトシは…ピカチュウに無理してほしくないのよね」 「!?」 「さっきのバトル。ピカチュウのダメージが酷そうに見えたから、交代させようとしたのに、 ピカチュウが無理して戦ったから…だから怒ってるんでしょ?」 サトシはなんでわかるんだ?と言わんばかりの目をカスミに向ける。 カスミは苦笑して話を続ける。 「わかるわよ、それくらい。ついでに言うとピカチュウの考えてることもわかるわよ」 「ピカチュウの?」 「そ。教えてほしい?」 「……ああ」 「じゃあ次の皿洗い当番代わってくれる?」 「う…わ、わかった」 「なら教えてあげる。ピカチュウもサトシと同じ気持ちだったのよ」 「は?」 カスミの言葉にサトシは目が点になるが…すぐに気を取り直しカスミに食って掛かる。 「ば、ばかいうなよ!オレとおんなじ気持ちだったら、何でバトルを続けたりするんだよ!!?」 「……サトシは、どうしてピカチュウを交代させようとしたの?」 「それはさっきカスミが言ったじゃないか」 「ええ、そうね。ピカチュウに無理をさせたくなかったからよね。 ……でも、どうして無理させたくなかったの?」 「え、だって……その……」 「…好きだからでしょ?ピカチュウのことが?」 「あ、ああ!ピカチュウは大切な友達だからな!」 「ピカチュウもそう思ってる。大好きなサトシの為に少しでもがんばりたいって。 無理してでも役に立ちたいって」 「!!!?」 カスミの言葉を聞いた瞬間、サトシの顔が驚きに歪む。 「…気づいてなかったみたいね」 「……ああ」 「変な話よね。お互いがお互いのことを大好きで、相手のために一番いいと思うことをしたはずなのに。 それなのにケンカしちゃうんだもん。悲しいよね」 「カスミ……」 話をするカスミの顔は切なげで、儚げで……。 思わず声をかけたサトシだが、なんと言っていいのかわからず口をパクパクさせてしまう。 そんなサトシを見て、カスミは笑みを浮かべる。 いつもの、明るい笑顔。 「まったく、なんて顔してんのよ。ほら、ピカチュウと仲直りする気になった?」 「……ああ。サンキューカスミ」 「どういたしまして。皿洗い当番のこと忘れちゃだめよ」 「わかってるって!」 いたずらっぽい笑顔を浮かべるカスミにサトシは満面の笑みを返した。 その後、サトシとピカチュウがどうなったかは……まあ、言うまでもありませんね。 おわり