それは…あまりに信じ難(がた)いことだった。    悲しみ、そして…… タケシの叫びに駆け付けたサトシ。 聞かされたのは信じられない事実。 「嘘だ!!」 叫んだ。 けれど、 いかにサトシが叫ぼうとも、事実は変わらない。 叫んでも、泣いても、激しく首を振ろうとも、事実は、あまりに無情で、容赦が無い。 ふらふらと、夢遊病者の様に、サトシは彼女に近寄った。 カスミ。 草むらに横たわるカスミ。 手を胸の上で組み、その表情はまるで眠っているかのよう。 けれど、彼女は眠っているわけではない。 眠っているわけではない。 サトシは、カスミの髪を梳(と)かす。 さらさらと気持ちがいい。 けれど、今はそれすらも悲しい。 「カスミ……」 返事は返らない。 けれど… 「カスミ……」 返って来ないとわかっていても、声をかけずにはいられない。 視界が、歪む。 「カスミぃ……」 首の後ろに手をやり、上半身を抱き起こし、そっと口付ける。 カスミの唇に。 ほんのり甘い。 悲しかった。 「カスミ……」 サトシは、空いた手をカスミの頬にそっと這わせた。   グニィ!! 「いたたたたたた!!」 カスミが悲鳴を上げて目を開ける。 「な、何すんのよ!」 「お前、オレの分のホットケーキ食べちゃったんだって?」 「……」 カスミはサトシから目をそらす。 「カスミ……」 「あ、あたしじゃないわよ!トゲピー……そう!トゲピーが食べたのよ!」 「でも、甘かったぜ?カスミの唇」 「!!?」 「あれは間違いなくメイプルシロップ……カスミ、食べただろ?」 「…寝てる女の子にキスするなんて、どーゆう了見よ?」 「寝てたんじゃなく、寝たふりだろ?………じゃあさ」 「え?」 「寝てないときだったらキスしてもいいのか?」 「!!?」 「じゃ、しちゃおーっと!」 「ちょっ!――ん!!」 反論する間も与えず、サトシは強引に唇を重ねる。 最初は抵抗していたカスミだが…やがてサトシの背に手を回し、自らサトシを求める。 深く、そして、長いキス。 お互いを確かめ合う口付け。 一方その頃。 「な―にやってんだろね、あの二人は」 「ぴかぴか…」 「そもそも前半のあのくらーい感じは何だったんだ?」 「…」 「…そもそも俺達の存在意義って…なに?」 ありません。 言わば刺身のつまです。 「……」 「……」 タケシとピカチュウは顔を合わせてため息をついた。 その後ろで、サトシとカスミはいまだにイチャついていた。 ま、ほどほどにねお二人さん。 おわり