他人(ポケモン)の気持ちなど、誰にもわからない どんなに近くにいても分かりなどしないのだ。 「ニューラが変??」 「ああ…」 エンジュシティのポケモンセンター。 一人の少年が参ったといった顔つきで電話の前に座っている。 「いや、ニューラが変って言われても…」 「変なんだ」 「だから、具体的にどう変なのよ」 電話の相手の少女はどうにも要領を得ない少年の言葉にやや強い調子で問いかける。 「…アサギに行こうとするとだな…唸るんだ」 「はぁ?」 「だから…アサギに行こうとすると唸ってアサギに行きたがらないんだ」 少年はそう言ってジョーイさんのいるカウンターに目をやる。 話題のニューラはその奥で治療を受けているはずだ。 「とにかく、変なんだ」 「それは……よくわかんないわね……シルバー、あんた今どこにいんの?」 「エンジュだ」 「ふ〜ん…あたし今タンバにいるのよ。何とか会えない?」 「タンバか…だとするとアサギシティで会うのが一番早いな。しかしアサギは…」 「そこはそこ、何とか根性で来なさい!」 少女の言葉に少年…シルバーはため息をつく。 「ブルー、お前最近性格変わってきてるぞ」 「そのセリフ、そっくりそのまま返すわよ。……話戻すけどさ」 少女…ブルーは真顔になる。 「そのニューラなんだけどね、他にもなんかしてない?」 「いや、別に。どうしてだ?」 「…ポケギアの発信履歴見てみなさいよ」 「??……!!?」 発信履歴を確認してシルバーは度肝を抜かれる。 ブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルー ブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルーブルー……… 発信履歴すべてブルーのポケギア宛になっている。 「なんだこれは……」 「…どーやら気づいてなかったみたいね」 「あ、ああ…」 「最近よくかかってくるのよ」 「だったらどうしてかけ直してくれないんだ?」 「いやー、先月ポケギア使いすぎちゃって……料金払えなかったもんだから発信できなくなっちゃった」 「……」 呆れた様子でシルバーが天を仰ぐ。 「とにかく、アサギのポケモンセンターで待ってるからね」 「ああ、すまない」 「じゃね!」 その言葉を最後にぷつっと電話が切れる。 シルバーはため息をつき、ポケモンを受け取るためにカウンターに向かった。 「さて、ニューラをどう説得するか…」 予想通り、ニューラにアサギに行くと告げるとニューラは全力で反抗してくれた。 たとえば地面に転がって駄々をこねてみたり。(周りの人々の視線がいたかった) たとえば勝手にどこかに行ってみたり。(見つけるのに半日かかった) たとえば靴紐を切ってくれたり。(別に不吉な事は起きなかった) たとえば目の前を横切ってくれたり(やっぱり不吉な事は起きなかった) などなど……… しかし不思議な事に。 アサギに行く理由を何気なくつぶやくと、ニューラは急におとなしくなる。 それどころか逆にアサギへと急がせようとする始末。 シルバーにはまったく持ってニューラの真意がわからない。 結局アサギに着いたのはブルーに電話してから4日後の事だった。 「アサギのポケモンセンターで………はいいんだが…どこのポケモンセンターだ?」 アサギのポケモンセンターは一つではない。 さてどうしたものかと考えてみるがいい考えは浮かばない。 浮かんだのは別の事。 「……ジムにでも寄ってみるか?あいつがいるはずだからな」 あいつとはアサギジムリーダのミカン。 ジムリーダーなだけにポケモンバトルの腕前は一級品。 シルバーは彼女と面識がある。 ………いや、面識なんてレベルではないのだが。 「よし」 行くか!と足を踏み出そうとすると、 「にゅら!」 「?? なんだ?」 ニューラがシルバーの足にしがみつく。 「どうした、ニューラ?」 「にゅら!にゅらにゅら!!」 ニューラは首をブンブンと振っている。 「…ジムに行くな、と言いたいのか?」 「にゅら!」 「しかし…せっかくここまできたわけだし」 「にゅら……」 ニューラは何かを考えるように視線をさまよわせていたが、 「にゅら!!」 なにやら思いついたようだ。 そして、 「にゅにゅ!!」   キィィィィィィィィ!!! 「っ!!?ニューラよせ!!」 ニューラは爪と爪を擦りあわせ、嫌な音を発する。 「ニューラ!!」 「にゅ!!」 「くっ…」 シルバー自身は嫌な音には絶えられる。 しかし……悶絶する通行人、割れ爆ぜる街灯、波打つ水面、落ちるポッポ……まわりの被害が酷い。 「わかった!ジムには行かない!だからもうよせ!」 嫌な音に負けないよう大声で叫ぶと、ニューラはやっと爪を擦る手を止める。 同時に嫌な音もやみ、辺りに平和が戻る。 「…そんなにジムに行くのは嫌か?」 「にゅ!!」 縦に首を振る。 その様子にシルバーはため息をつく。 と、 「シルバー!!」 名を呼ばれ振り向くとこちらに向かって駆けてくるブルーと一人の少年、そしてピカチュウ。 「ブルー。それにレッドか」 「よ、久しぶり!元気――あだだだだだだ!!!」 「ニューラ!」 乱れひっかき。 レッド、いきなりニューラに襲われる。 「いててててて!おいよせ!よせってニューラ!!シルバー何とかしろぉ!!」 「やめろニューラ!!」 シルバーに怒鳴りつけられてニューラはようやくレッドから離れる。 「な、なんなんだよ…一体?オレなんかしたか?」 「レッド大丈夫?」 「あ、ああ。まあいちお――どわぁぁ!!」 「ニューラ!いい加減にしろ!!」 再びレッドに襲いかかったニューラをシルバーは強引に引き剥がす。 「おうっ!!!!」 ……その際にニューラの爪がレッドの顔面を思いっきりひっ掻く。 それはそれとして、ニューラは尚もじたばたもがく。 その様子を見てブルーはなるほどと頷く 「確かに…ちょっとニューラおかしいわね」 「ああ。さっきもアサギジムに行こうとしたらいきなり嫌な音を使った」 「街中で無茶するわね〜」 「アサギジム…ミカンか…」 「呼びましたか?」 「「「うわっ!!」」」 いきなり声をかけられ三人一様に飛びあがる。 「あ、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんですけど…」 「あーびっくりした」 「すみません…」 声をかけた少女――ミカンは――しゅんとして謝る。 「いや、気づかなかった俺達が悪いんだ」 「そうそう」 「そうですか…そう言っていただけるとありがたいです」 ミカンはにっこりと微笑む。 「それよりもミカン、あんた何でこんな所に?ジムはいいの?」 「その…街中でポケモンが暴れていると通報があったものですから…」 「ああ……それシルバーのニューラの事ね」 「え?シルバーの?」 驚いた様子でミカンがシルバーの腕の中のニューラに目をやる。 「にゅにゅ!!にゅっ!にゅっ!!」 「…威嚇…されてます?わたし?」 「みたいだな」 レッドの言葉にミカンは寂しそうな表情を見せる。 シルバーが慌ててフォローする。 「気にするな。こいつ最近様子が変なんだ」 「様子が変?」 「ああ…」 シルバーはミカンと、そしてブルーとレッドにも事細かにニューラの様子を話す。 「なるほど…それは確かに変ね」 「理由はなんだと思う?」 「さあ…?」 「ポケモンの事はポケモン。ピカ、聞いてみてくれないか?」 「ぴっか!ぴかぴか、ぴっぴかちゅうちゅう?」 「…にゅっ!」 ニューラはぷいっと顔を背けてしまう。 「だめか…」 「とりつく島なしだな」 「どうしようもないわね…」 一同ため息をつく。 とりわけシルバーのため息には疲れが色濃い。 「ニューラ、ほんとにお前一体どうしたんだ?」 「…」 「だめか…」 「なんとかポケモンの気持ちがわかるといいんですけど…」 「あのねぇ、そんな事できるわけ――!!」 「ポケモンの気持ち…?あっ!!」 ブルーとレッドがお互い顔を見合わせる。 「「イエロー!!」 同時に一人の少女の名を叫ぶ。 「あいつならポケモンの気持ちを読み取れる!」 「そうよ!イエローがいるじゃない!レッド電話してすぐに来てもらって!」 「へっ?オレ電話番号知らないぜ?ブルーが知ってるんじゃないのか?」」 「あたし知らないわよ。…それ以前に、あの子ポケギア持ってるの?」 「…」 「…」 「…」 「…」 寒い空気が流れる。 「……仕方ない、危険だが探知機を使おう」 「探知機?」 「ああ」 不思議そうな顔をするシルバーにレッドは苦い笑顔を浮かべる。 「精度抜群、超高性能の人間探知機さ」 そう言ってレッドはオーキド研究所に電話をかける。 「もしもし、オーキド博士?グリーンの奴どこにいます?」 グリーンはコガネシティのポケモンセンターで午後の紅茶を楽しんでいた。 好物のレモンティー。 ほのかなレモンの香りがたまらない、なかなかの品。   ピロピロピロ!!ピロピロピロ!! 優雅な時間に電子音が終わりを告げる。 グリーンはため息をつきながらポケギアの液晶に目をやる。 発信は公衆電話から。 眉をひそめながら受信ボタンを押す。 「もしもし?」 「よかった、やっと繋がった。もしもしグリーン!?」 「ブルーか……何のようだ?」 「なに落ち着いてるのよ!!ばか!!」 「……」 いきなり馬鹿と言われ憮然とするグリーン。 一瞬、切ってやろうかと思う。 「あ!それどころじゃないのよ!大変なのよ!!」 「…レッドが拾い食いで腹でも壊したか?」 「そうじゃないのよ!!イエローが…イエローが!!」   ガタガタンッ!! 「イエローがどうした!!?」 グリーンは思わず勢いよく立ちあがってしまった。 「おいブルー!!」 「イエローがね…イエローが…急に――」 「おい!…もしもし!?もしもし!!…………」 切れてしまったポケギアを持ってぼーぜんとするグリーン。 しかし次の瞬間勢いよく表に飛び出し、リザードンをボールから出し、その背に飛び乗る。 「リザードン、自然公園まで全速力だ!!」 「りざー!!」 リザードンは力強く羽根を羽ばたかせ、大空に舞いあがる。 目指すは自然公園。 グリーンは気づかなかった。 すぐそばから同じように舞いあがる影がある事を。 自然公園にはカイロス、ストライクといった珍しいポケモンが数多く生息している。 だからここを訪れる大半のトレーナー達の目的はポケモンゲットなのだが… 「ん〜!……い〜きもち〜……」 草むらに身を横たえ、イエローは大きく伸びをする。 傍らでピカチュウ――チュチュ――も同じように伸びをする。 ほにゃんとした顔。 リラックスと言うよりも気が抜けていると言った感じ。 「…ぴか?」 「ん?どうしたのチュチュ?」 「ちゅぴ!」 イエローはチュチュの指差す方向に目をやる。 物凄い勢いで飛んでくるリザードン。 その背に乗る人物を見てイエローが驚きの声を上げる。 「えっ!?………グリーンさん!!?」 確かについ先ほどグリーンに電話をかけたばかりだから自分がここにいる事は知っているだろうけれど、 何故こんなにも急いでやってくるのだろうか? 「イエロー!」 「へ?あっ!?」 なんて事を考えているうちにグリーンが目の前に立っていた。 「イエロー……大丈夫か?」 「は?なにがですか?」 「なにがって……」 グリーンは言いよどむ。 確かに慌ててイエローの元にかけつけたはいいがイエローは別に普段と変わった様子はない。 辺りの様子も平和そのもの。 「……」 「?? グリーンさん?」 首をかしげるイエローに何事か言おうとした瞬間。 「!!??」 一陣の風が吹いたかと思うと麦わら帽子を残してイエローの姿が消えた。 グリーンが反射的に空を見上げると猛スピードで離れていく飛行物体とキラキラ光る髪。 それらから導き出される事はただ一つ。 イエローは第三者に連れ去られた。 「このっ!!」 グリーンは麦わら帽子を拾い、チュチュを抱きかかえてリザードンの背に飛び乗る。 「追え!」 「…遅い」 「遅いって…まだ3時間しかたってませんよ」 「3時間もこのあたしを待たせるなんて…」 アサギシティでブルー、シルバー、ミカンの三人は人を待っていた。 「あの…そもそも見つかるんですか?イエローさんは?」 ちらちらとシルバーを見ながらミカンがブルーに話しかける。 「だーいじょーぶ!!グリーンならあっという間にイエローを見つけるわよ」 「でもなんでグリーンさんはイエローさんを見つけられるんですか?」 ちらちらとシルバーを見る。 ミカンを威嚇するニューラ。 宥めるシルバー。 ニューラの様子にため息をつきながらミカンは言葉を続ける。 「イエローさんはポケギアを持っていないのでしょう?」 「そうだけどグリーンなら見つけるわね」 「……どうやってだ?」 「決まってるじゃない」 ブルーは怪しげな笑みを浮かべる。 「愛の力よ!」 「「………愛?」」 「………ま、それは冗談にしても…あの子、グリーンにはよく連絡入れてるみたいなのよ」 そう言って肩をすくめて見せる。 と、 「ぴぴかちゅぴ!!」 「ん?レッド来たの?」 「ぴっか!」 ピカの指差す空に影。 ブルーは双眼鏡を取り出す。 「どれどれ……ちゃんと連れてきたみたいね」 「…待て、後ろにもう一つ影があるぞ」 「なんでしょう?」 「あれは……グリーンのリザードン……やっぱりついてきたわね…」 そうこうする内にレッドとイエローの乗るプテラがブルーたちの前に着陸する。 「ブルー!」 「え!?なになに?」 「パス!!」 「へ?」 有無を言わせず、レッドは抱えたイエローをブルーに投げ渡す。 突然の事に唖然としながらもブルーは何とかイエローを受け止める。 次の瞬間、   ドカッ!! 「おふぅ!!」 グリーンを乗せたリザードンがレッドに強烈な体当たり!! レッドと共にその一撃を食らったプテラは吹き飛ばされながらも空へと飛びあがる。 しかし、レッドは飛べない。 地面をズザザザザザザッッと滑り、そして、   ゴンッ!!!! 「!!!」 電柱に頭からぶつかって止まった。 レッドはピクリとも動かないのだが…みんな無視。(酷い…) 「ブルー…これはどういう事だ」 「やっだ〜、グリーンたら……怖い顔しちゃいやん」 「……」 「そ、そんなマジで怒んないでよ。ちゃんと理由説明するから。もちろんイエローにもね」 そんなわけでブルーはニューラの事を二人に説明しましたとさ(ああ手抜き) 「なるほど…それなら確かにイエローが適任だな」 「でもそれでしたら理由を言ってくれればよかったのに…」 「いや〜…まあそれは色々と……とにかくイエロー、頼むわね」 「わかりました」 イエローがシルバーの抱えたニューラの額に手を置き目を閉じる。 ぽぅとイエローの手が光る。 イエローはそのまましばらく動かない。 一同固唾を飲んで見守る。 やがて光が消え、イエローが目を開ける。 すかさずシルバーが問いかける。 「…どうだ?」 「あ、えっとその……」 「??」 基本的にハキハキと話すイエローには珍しく、もごもごと言いよどむ。 「結局ニューラはなに考えてたわけ?」 「え〜っと…その……」 ブルーとミカン、そしてシルバーの顔を代わる代わる見る。 「えっと……シルバーさんは、ブルーさんの事が好き…なんですか?」 「「「はあっ?」」」 一同、マヌケな声がハモってしまった。 イエローの話を要約するとこうだ。 ニューラはどこをどう間違ったかシルバーはブルーの事が好きだと思いこんでしまった。 そしてミカンはシルバーにちょっかいを出してくる厄介者。 シルバーは弱みを握られているのか彼女に対して強く拒否する事ができない。 また、レッドはブルーにちょっかいを出してくるやな男。 以上の事より、ニューラはミカンとレッドを敵と認識。 アサギは敵地であるため行くのを嫌がったと言うわけだ。 「……と、言うことなんですけど………」 「どこをどう間違えたんだ、お前は?」 シルバーは真剣な表情でニューラに問いかける。 その横ではブルーが腹を抱えて爆笑している。 「あっははははは!!!」 「笑うなブルー!!」 「これを笑わずに何を笑えって言うのよ?」 「……」 ブルーの言葉にシルバーはイエローに向き直る。 「ニューラは何でそんな誤解をしたんだ?」 「えっと……? ポケギアの後ろのプリクラ??」 ニューラの考えを読み取っていたイエローが首を傾げるがシルバーははっとする。 「これか…」 「シルバー、心当たりがあるんですか?」 「ああ」 ポケギアを腕から外し、ミカンに裏を見せる。 そこには確かにブルーと二人で写っているプリクラが一枚貼られていた。 「…ニューラ、よく聞け。このプリクラは俺が貼ったんじゃない。ブルーに無理やり貼られたんだ」 「にゅっ!?」 ビックリするニューラ。 少し離れた所ではグリーンも頷いている。 身に覚えでもあるのだろうか? 「ブルーの事は嫌いではない。いい友達だと思っている。それだけだ」 「ひどい!!あんなに愛し合ったのに!!」 「……」 「…ごめん、悪かった」 軽くボケたつもりのブルーだが物凄い眼で睨まれてしまった。 「にゅ〜……」 ニューラはシルバーの言葉を聞きしゅんとする。 そしてシルバーの腕から抜け出し、ミカンの傍に行き頭を下げる。 「にゅら〜…」 「え?なあに?どうしたの?」 「多分…威嚇した事を謝っているのだろう。すまないミカン」 「そんな…ニューラもシルバーも謝らないでください」 「ニューラは悪くない。俺が不注意だったんだ」 「にゅらにゅら〜!」 悪いのは自分だとばかりにニューラはさらに頭を深く下げる。 ミカンはにっこり微笑んでニューラを抱き上げる。 「いいのよ、ニューラ。シルバーの事を思って事だもの。えらいわね、あなたは」 「俺のためにありがとう、ニューラ」 「にゅら〜…」 二人に頭を優しく撫でられ、ニューラは気持ちよさそうに目を細める。 さっきまで威嚇し威嚇されの関係だったニューラとミカンだが、今はそんな片鱗もない。 仲睦まじい。 二人を見つめるシルバーの顔もやさしい。 「あ〜らあらあら、な〜んかいい雰囲気作っちゃってこの方たちは…」 「「!!?」」 シルバーとミカンがはっとする。 「さ、お邪魔虫は退散しましょ。行くわよ、グリーン、イエロー」 「ああ」 「はい!」 ブルーはグリーンとイエローの背を押しその場から立ち去ろうとして足を止める。 「シルバー、ちょっと」 「?? なんだ?」 「いい、よく聞きなさい」 ブルーはシルバーの耳に顔を近づける。 「だいたいあんたが意志表示をはっきりしないからこんな事になったのよ。 もっと押したらどう?相手も満更じゃないみたいだし」 「!!? 余計なお世話だ!!」 シルバーは真っ赤になって叫ぶ。 「友達からの助言にはしっかり耳を傾けなさいって!じゃあね!」 「……」 手を振りながら走り去っていくブルーを苦々しい表情で見送るシルバー。 「シルバー?」 「……」 「ブルーさんに何言われたんですか?」 「……大した事じゃない」 「そうですか…」 僅かにミカンの顔が曇る。 「…それより食事にでも行かないか?」 「え!?」 当然の申し出にミカンが驚く。 「…嫌なら別に構わないが」 「い、行きます!…でもどうしたんですか、急に?」 「……」 「シルバー?」 首をかしげるミカンの耳に顔を寄せ、そっと囁く。 「もうちょっと積極的になれと助言されたからな。それを実行したまでだ」 「!!!」 シルバーの言葉にミカンの顔が赤く染まる。 「覚悟しろ、俺はしつこいからな」 ニヤリと不適な笑みを浮かべるシルバーにミカンは真っ赤な顔のまま頷いた。 その様子を見ていたニューラ。 自分が何をどう間違えていたのかやっと悟った。 そして新たに決意を固める。 さあ、この二人の邪魔者は誰だ? 終わり おまけ パートわん 「ところでグリーンさん」 「なんだ?」 「グリーンさんもプリクラ貼られたんですか?」 「ああ、ポケギアの裏にな……」 そう言ってイエローに見せてやる。 「…どうして剥がさないんです?」 「後が怖い」 「そうですか……」 思案顔で頷くイエロー。 グリーンは眉をひそめる。 イエローがどことなく不機嫌。 (何故だ?) 何故だときたよ、この男。 「グリーンさん!!」 「な、なんだ?」 「プリクラ取りましょう!!」 「…は?」 「いいから!ほら!!」 「おい、ひっぱるな」 その後、グリーンはイエローとプリクラを取り、ポケギアの裏に貼ったらしい。 しかも二枚。 それはイエローのささやかな自己主張。 おまけ パートつー リザードンのハイパータックル(ただの体当たりです)を食らい、 大地と口付けをした後、電柱と熱烈な抱擁をしたレッドは今だ倒れ伏していた。 「ううう…ピカ…オレは…もうだめだ……」 「ぴっか…」 「ああ、せめて…先行者の実物が見たかった……」 それは俺も見てみたいよ。 「ちょっとレッド、大丈夫」 「ああ……ついに天使がお迎えにきたか…」 「何馬鹿な事言ってるのよ。あたしよ、ほらあたし」 「ん……」 レッドが目の前の人物を眼に捕らえ、ため息をつく。 「ああ……ここは地獄か…」 「(怒)」   ゴツッ! 「…こら!怪我人に止めを刺すな!!」 「人の顔見て地獄なんて言うからよ!」 「軽い冗談じゃないか……まったく、先行者が川の向こうで手振ってたぜ」 先行者はもういいって。 「ほらほら、馬鹿な事いってないで、いくわよ」 「へ〜い」 ふらふらと立ち上がったレッド。 よろけた拍子にポケギアを落とす。 「いけね」 慌てて拾い上げたポケギアの裏にはやはりブルーとのツーショットプリクラ。 ただし。 他の二人と違い、フレームはハートだったとかどうとか…… それは先行者だけが知っている。 「「それ(先行者)はもういい!!」」 ……はい。