いつのまにか、エンジュシティ上空を漂っていた黒雲が消え、青空が顔を出していた。 その理由を知るものは少ない。 “海の神”の怒りが収まったことなど・・・・・・。 何だか、あっけらかんとなって・・・・・・・・。 無駄に、呆けてしまって・・・・・・・。 疲れてしまった。 ************  リベンジャー  第19話「2つの収穫」 ************ カイは“焼けた塔”の中心で、立ち尽くしていた。 カゼマルは今はボールの中である。 ちなみにジンはというと、 「ロケット団のいないところに用はない・・・・・。  またいつか・・・・・・どこかで・・・・・」 と言って、どこかへ消えてしまった。 カイにとって、この数分間の出来事が、やけに長く感じられた。 “焼けた塔”に入り、ロケット団に遭遇し、ジンに出会い、さらにルギアが現れた。 ほんの2,30分の出来事が、1時間以上長く感じられた。 そして、気になるあの言葉・・・・・・・。 ・・・・・・お前たちは1つ、勘違いをしている・・・・・・ 勘違いだと・・・・・?いったい何を間違えてるってんだ・・・・・? 奴等に言った言葉の中にその勘違いってヤツがあるとしか考えられんな・・・・。 キーワードは・・・・・。 ・・・・・・仇・・・・・・ロケット団・・・・・・復讐・・・・・・。 ・・だめだ・・・・・わかんねぇ・・・・。 なんとなく空を見上げて、そのまま雲が消えたことにも違和感を感じることなく、空を見つめて・・・・・・・・。 時折視界にルギアの顔がチラホラすることにも特に何も考えず・・・・・・・。 心に穴が開いたような気がして・・・・・・・・・。 頭をボリボリかきながらうなっているカイの上から声がしてきた。 「カイ」 「あ?なんだよルギア」 「私はもう行くが・・・・異存は?」 「・・・・ねぇよ。俺ももう行くつもりだったし」 ヘアバンドを首に下ろし、リュックを拾い上げ背負うと、出口に向かって歩き出した。 「待て」 「何だよルギア、まだなんかあんのか?」 出鼻をくじかれたような気がして、思わず語気が強まる。 ルギアが自分の翼をついばむと、羽を1枚抜き取った。 その羽をカイに向かって放った。 「これを持っていけ」 カイのもとに羽が舞い降りた。 それをカイは空中でキャッチした。 その銀色にきらめく羽をカイはしげしげと眺める。 「それを持っていろ。  そうすればお前と私はまたいつか出合うことになる」 「・・・・・」 カイはルギアから受け取った羽・・・・“銀色の羽”を見つめながらルギアの言葉に耳を傾けていた。 羽は異常なほどきらめいており、リュックにしまっても光が漏れてしまうほどだった。 「また会おう・・・・・若き戦士よ」 カイの返事を待たずに、ルギアはどこかへ飛び去っていった。 「よくわかんねぇ野郎だ・・・・・。  ・・・・・・俺も行くか」 カイの足が“焼けた塔”から外へ踏み出した。 「すげぇ・・・・・」 そこには、まるでペンキで書いたような鮮明な虹が空を貫いていた。 「・・・・・・?」 カイがあることに気がついた。 異常なほど輝いていたはずの“銀色の羽”が、ほんの少しだけきらめくだけになっていた。 おそらく羽の主・・・・・ルギアが近くにいれば反応して光り輝くのだろうと、勝手にカイは推測した。 そのとき、カイは気づいていなかった。 上空の虹に上を飛んでゆく、巨大な鳥ポケモンがいたことを・・・・・。 「さて、ちっと時間食っちまったが、行きますか!ジムへ!」 カイが第1歩を踏み出そうとした。 ・・・・・刹那。 「君、ちょっといいかい?」 突然、カイの横から声がしてきた。 カイが顔を向けると、そこにはカイと同じようにヘアバンドをした、20歳前後ぐらいの青年が立っていた。 「・・・・・何か用ッスか?俺に」 「君に聞きたいことがあるんだ」 その青年がカイの横に立った。 青年はカイを下から上までじっくり調べるように見つめると、 「さっき君が会話していた相手は・・・・・ルギアだね?」 「そうだけど?」 「・・・・突然だけど、俺は“千里眼”が使えるんだ」 「“千里眼”っていったら、確か・・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・長考・・・・・・・ 「探し物が見つかるってゆうアレ?」 その間、約15秒。 「そ、その通りだよ」 「でも、その“千里眼”が使えるスゲェ人が、俺になんか用ッスか?」 「俺は今まで、虹色のポケモンを追ってきた」 「虹色のポケモン?」 「そう、この地は、数々の伝説ポケモンのゆかりの地なんだ。  そして、この地で最も珍しいといわれる、虹色のポケモン“ホウオウ”を探してるんだ」 「ホウオウ・・・・・」 「だけど、俺の“千里眼”では、何故かホウオウの姿を探し出すことはできなかった。  ・・・・・・・他の伝説のポケモン達も・・・・・・だが、君は遭ったいた。“海の神”ルギアに・・・・・!」 この時、カイの脳裏の、ある予感が浮かび上がった。 こ、この人、まさか、なんにしてねぇのにルギアに遭っちまった俺に・・・・・まさか・・・・!? 嫉妬!!?(爆) 「い、いや俺は別に遭いたくて遭ったんじゃないッスよ!?  ただあいつが勝手に・・・・・・!」 カイがおどおどしながら叫んだ。 「ど、どうしたんだい?突然」 「あ・・・・・・イヤ、別に・・・・」 「実は、そのことでお礼を言いに来たんだ」 「お、お礼?」 「今まで見ることすらできなかった伝説のポケモンを拝めることができた・・・・・・。  感謝しているよ」 「いや、そんなたいしたことじゃ・・・・・」 カイが後頭部に右手をやりながら素直に照れていると、青年がポケットの手を突っ込んだ。 「これを受け取ってほしい」 そう言って差し出したのは・・・・・・。 ジムバッジ。 ・・・・・・・・・・・・・へ・・・・・・・・・・・・? ・・・・・・・・ またも長考。 「バッジィ!!!!!????」 その間、約30秒。 「ず、ずいぶん遅かったね・・・・・・」 「いや、認識に手間取った」 「先ほどの会話を聞いていると、君はルギアには何度も会っているらしいね。  それはきっと、ルギアに認められたことだと思うよ」 「・・・・・・・・・」 「ルギアに認められた人間は、俺に認められたも同じ・・・・・。  君もポケモントレーナーなんだろ?受け取ってくれるね?」 「あんた・・・・・まさか・・・・・・・」 「あ、自己紹介がまだだったね。俺はエンジュシティジムリーダー、マツバだ。よろしく」 「カイ君」 エンジュシティ南に位置する森の向かおうとするカイを、マツバは先ほど聞いたばかりの名前で呼び止めた。 「何ッスか?」 「コガネシティに行くと言っていたね?  コガネの前にある森は、よく旅人を迷わせる迷路のような森なんだ。気をつけるんだよ」 「お気遣いドーモ!じゃ、俺もう行くんで」 「ああ。旅先で伝説のポケモンにでも出会ったら、そのときの様子を聞かせてくれよ」 「ウイッス!」 エンジュシティを後にしたカイのシャツには、3つ目のバッジ、ファントムバッジが飾られていた。 目指すは、大都会、コガネシティ。  つづく  あとがき いつもよりちょっと長めの19話でした。 さて、次回からちょっとカイの冒険はお休みして、違うストーリーが展開していきます。 その名も・・・・・『2匹のミュウツー編』です! なぜ2匹なのかは、少しずつ、明らかになっていきます。 次回予告・第20話 救世主(仮)