***********  リベンジャー  第20話「生命誕生」 *********** ここは何処かの研究所に一室。 壁、床、天井が全て鉄で出来ている。 天井は10m近くあり、なかなかの高さ。 100m四方の巨大な部屋。 天井に設置されたいくつかの照明のうち、ほんの2,3個しかついておらず、部屋の中は薄暗い。 その部屋の床の半分の円形状にコンピュータが並べられており、向こう側にはコンピュータの列の端を通らないと行けないようになっている コンピュータといっても、ほとんどが市販化されていない特殊なものばかりだった。 コンピュータからは無数のコードが延びており、部屋の奥に置かれたカプセルへと伸びていた。 一際目立つ、大きなカプセル。 部屋の奥に置かれたそのカプセルは、高さ8m、幅2mという巨大なものだ。 カプセルは緑色の培養液で満たされており、中に何かがいた。 ポケモンだった。 人型で、体色は白、長い尻尾だけ紫だ。 身長は2m強、身体は全体的に細く、頭から背中にかけて管が繋がっており、頭には尖っていない2本の角がある。 白い身体には何本もの奇妙なコードが繋がれていた。 眼は閉じていて、起きる気配は全く無い。 取り付けられたコードに支えられ、ポケモンは静かに眠っていた。 コンピュータの半円の中心に、1人、椅子に腰掛けたまま座っている人物の姿があった。 白衣を着て、顔つきからして男性、白髪で、しわがあるところを見るともう歳のようだ。 不意に、ドアが開く音がした。 老人がその音に気付き、跳ね起きた。 「な!?ジェド博士、また起きていらしたんですか!?  もう夜中の2時ですよ!?」 「あ・・・・・・ああ、ニック。恥ずかしい所を見られたもんだ。  君こそどうしたんだ?」 「ちょっと忘れ物をしまして・・・・・・・」 「この子が、いつ目覚めてもいいようにと、思ってな」 「博士・・・・・・・覚醒予測時刻は午前9時ですよ?」 ニックが呆れながら答えた。 「いやしかし・・・・・・気になってな・・・・・・」 「とにかく!もう遅いですし、お休みになってください。  これじゃあ博士の身体が先に参ってしまいますよ?」 「ハハ・・・・・・そうだな」 ジェドが、苦笑する。 カツンカツンと靴底から音を鳴らしながら、2人は廊下を歩いていた。 「・・・・・・・・・博士」 「ん?なんだ」 「彼は・・・・・・・・エデンは私たちに力を貸してくれるでしょうか?」 「・・・・・・・・・わからん。協力してくれるかもしれんし、いきなり攻撃してくるというのもありえる」 「・・・・・・・・・やはり、エデンを生み出したのは間違いだったのでないでしょうか?  いくらミュウの遺伝子を使用しているとはいえ、その半分は・・・・・・・」 「・・・・・・・ニック。その話は止めてくれ」 「あ!す、すいません・・・・・・・」 「何故、博士は自分のお孫さんを危険な目に?」 「私もわざわざヤナに任せたいとは思っていない。できれば有能なポケモントレーナーに任せたものだ。  ・・・・・・・・一般のトレーナーにこのことを話しても、面倒になるだけだ。  有名なトレーナー・・・・・・四天王やチャンピオンも難しい。マスコミに騒がれる」 「・・・・・・・ニック。私はたまにふと、思うのだよ」 「何をです?」 「あの日・・・・・・・私はとんでもないものを拾ってしまった・・・・・・。  ポケモンの形をした・・・・・・・・・悪魔・・・・・・・というべきか・・・・・・」 「そんな!博士が悪いのではありません!博士は全人類のために・・・・・」 「だが結果はコレだ・・・・・・取り返しのつかないことをしたと、反省している」 「そのための・・・・・・エデンなのでしょう!?」 「まぁ・・・・・・な。エデンは正直・・・・・・前代未聞の賭けだ。  成功すれば、世界を光へと導くチャンスが訪れ・・・・・失敗すれば、世界を闇へと誘う研究・・・・」 「ジェド博士、お客様が来ております」 「何、客?」 翌朝、研究室は騒がしかった。 室内のコンピュータの前にある椅子は全て埋まっており、白衣を着た何人もの人間がキーボードを叩いている。 奥にあるカプセルの中にいる白いポケモンは、微動だにしない。 「今は8時半・・・・・・これからだという時に、一体誰だ?帰ってもらえ」 「い、いえ、それが・・・・・・・」 「おはようございます。ジェド博士」 ニヒルな、男の声。 不意にドアが開き、客と思われる3人の人間が入ってきた。 白いローブを着た、背の高い男。 その横にいる黒いローブを着た2人はさらに背の高い大男である。 大男たちはフードを深く被っていて顔は見えない。 白いローブの男は、方までかかるぐらいの金髪、鋭い目つきをしていて、正直、かっこいい部類に入る顔立ちをしている。 「・・・・・・また来たのか」 ジェドは彼らに聞こえないように舌打ちした。 どうやら来て欲しくない客だったようだ」 「・・・・・・どうやら嫌われてしまったようですね・・・・・」 白いローブの男が、2人の大男を後ろに従えながら、ジェドに近づく。 3人はジェドの前で足を止めると、白いローブの男が口を開く。 「私たちはあなたのかわいいお子さんの顔を見に来ただけですよ」 「・・・・・・帰ってくれないか?これから大事な用があるんだ」 「おやおや、冷たいですね。ミュウのまつげ・・・・・・・とても貴重な遺伝子を提供したのは誰だと思っているのですか?」 「何が提供だ・・・・・・半ば強引に突きつけてきたくせに・・・・・!  それにミュウの遺伝子は私が買ったのだ。  客と商人の関係だ。それほど親しくする必要もあるまい」 「フフ・・・・・・・!まぁいいでしょう。  そうそう、ちょっと話が変わるのですが、よろしいかな?」 「・・・・・・・・・?」 「“生物兵器”と“破壊兵器”はどうされました?」 男の言葉に、ジェドの顔色が変わった。 周りにいた研究員の何人かも反応する。 ジェドは何も知らんとばかりに平常心を保つ。 「・・・・・・何の話だ?」 「我らに隠し事は無駄ですよ。  ・・・・・・・・と言ったところで、口を割るような男ではないと承知しております。  “破壊兵器”にはこれといった名はない・・・・・・・。  だが、“生物兵器”に名があることは既に調査済みです」 「・・・・・・・・・・・・!!」 「もう1度訊きましょう。“破壊兵器”と・・・・・・・・“カオス”はどうされました?」 ジェドの表情が一変する。 「貴様、その名を何処で・・・・・・・・!!?」 「フフフ・・・・・・・!もう結構ですよ。私はこの場所の“カオス”と“破壊兵器”の存在を確認したかっただけです。  これ以上問い詰めませんよ」 「・・・・・・・・貴様ら、それを確認してどうするつもりだ?」 「あなたが知っても・・・・・・・・どうにもならないことですよ。  ・・・・・・・・・・さて」 男が、白いポケモンが入ったカプセルに目をやった。 「まだ目覚めていないようですね・・・・・・。  それでは、お子さんが目を覚まされたら、またお伺いします。その時まで・・・・・」 男が浅く頭を下げると、大男2人を率いて、部屋を出て行った。 「まったく・・・・・・ん?」 3人の男とすれ違いに、1人の少女が入ってきた。 長い青い髪をツインテールにした、10代前半の少女。 「おじいちゃん、今の人たち、誰?」 「あ、ああ。ヤナか。ただの友達だよ」 「ふーん・・・・・・あ!ねぇ、エデンは?目、覚ました?」 「まだ起きていないよ。でも、もうじき目覚めるはずだ」 「ホント!?」 ヤナが、一番奥のコンピュータの前まで走っていった。 ここが一番カプセルに近づけるからだ。 時計の針が、10時を指した。 が、エデンの身体に変化はない 全員の顔に焦りの色が浮かび上がる。 ・・・・・・・・・刹那。 ・・・・・・・ココハ・・・・・・・・ドコダ・・・・・・ 「!!?」 突然、ヤナの頭に聞きなれない声が響いた。 自分以外の、誰かの声が。 なんとなく、辺りを見渡してみるが、いるのはエデンを心配している研究員達と、自分の祖父のみ。 ・・・・・・私ハ・・・・・・・ダレダ・・・・・・・? その声の主がカプセルの中で眠るエデンだと直感で感じたヤナ。 すぐに、返答してやる。 「あ、あなたの名前はエデンよ」 「ど、そうした?ヤナ」 突然眠っている相手に語りだす孫を見て、目を丸くするジェド。 「多分・・・・・・・・エデンが話し掛けてきてると思うの。頭の中に・・・・・」 「な、何!?」 全員の視線がカプセル内のエデンに集まる。 エデンは全く動かない。 ・・・・・・・・エ・・・・・・デ・・・・・・ン・・・・・・? 「あなたはポケットモンスターっていう動物で、種族名はミュウツ―、名前はエデン!」 ・・・・・・・・ポケットモンスター・・・・・・・ミュウツー・・・・・・エデン・・・・・・・・ 「そう、エデンっていうの。わかる?」 ・・・・オ前は・・・・・・・誰ダ・・・・・・・・・? 「私はヤナ。あなたの友達よ」 ・・・・・・・ト・・・・・モ・・・・・ダ・・・・・チ・・・・・・・・ 「そう、友達よ」 ・・・・・・・・・・・・ エデンが、何も答えなくなった。 少し首を傾げるヤナ。 その時だった。 何ダ・・・・・・・ 「え?」 入ッテクルナ・・・・・・・ 「どうしたの?エデン」 私ノ中ニ・・・・・・・・入ッテクルナァァァァ!!! 「博士、大変です!」 「どうした!」 「エネルギー計測器の針が振り切っています!  エデンのエネルギーが・・・・・・・暴走しています!」 「な・・・・・・・・!!?」 「どうしたのエデン!おねがい、やめて!」 何ダ・・・・・・・!ヤメロ・・・・・・・・!私ニ纏ワリツクナ!! 大地がゆれた。 「きゃあ!?」 「うわっ!?」 研究員達が次々と転倒していく。 ヤナとジェドも転倒した。 「エデン・・・・・・・!?」 誰カ・・・・・・・・私ヲ・・・・・・・助ケテ・・・・・・・・クレ・・・・・・・! ヤナは下唇を噛んだ。 この謎のエデンの暴走の原因については、心当たりがある。 ヤナは意を決し、叫んだ。 「お願いヘヴン!エデンを苦しめないで!!」 ・・・・・・・・・・・・・ 何事も無かったようにエネルギー計測器の針が正常に戻り、大地のゆれが、止まった。 「暴走が・・・・・・・止まった・・・・・・・」 ジェドの口は開いたままだった。 「エデン・・・・・・・・?」 その時だった。 エデンの指がピクリと動いたのだ。 さらに嬉しいことに、閉じられていた両目をゆっくりと開けたのだ。 「おじいちゃん!」 「ば、培養液を抜いてやれ」 研究員の1人がキーボードを叩く。 培養液がカプセルの後ろにあるタンクに流れ込んでいく。 流れきった直後、エデンに装着されていたコードが一斉に外された。 身体を支えるものがなくなり、エデンが膝をついた。 腕をだらりと下げ、眼が半開きになっている。 コンピュータを乗り越え、ヤナが駆け寄った。 「エ、エデン、大丈夫?」 「・・・・・・・・・・」 エデンがゆっくりと口を開けた。 「・・・・・・・・・眠い・・・・・・・」 「え・・・・・・?」 「・・・救護室へ運んでやれ」 エデンの身体が特殊の装置が取り付けられた担架に乗せられ、部屋を出て行った。 それをヤナが追いかける。 「やれやれ・・・・・・やっと目覚めたか。  だが安心してられないな。これからが、本番だ」 ジェドが、大きくため息をついた。  つづく 次回予告・第21話 真相