すべては順調だった。 あの日から、私はいやというほど戦闘訓練を行った。 すべては、みんなを幸せにするため・・・・・・・、ヤナの笑顔を見るため・・・・・。 その間、ヤナは私に“感情”というものを教えてくれた。 “うれしい”という感情を覚えた。 だが、あと2つ、“悲しみ”と“怒り”についてはわからない。 あとあと、わかると思う。 すべては順調だった。 あの日が来るまでは・・・・・・・。 *************  リベンジャー  第22話「悲しみと怒り」 ************* その日、エデンの頭に不安がよぎった。 特に理由があるわけではない。 ただ単に、不安だった。 そして、それは現実のものとなる・・・・・・・。 戦闘訓練を終えたエデンは、廊下を歩いていた。 明日になれば、また戦闘訓練があるが、苦痛ではなかった。 自分の行動のすべてがみんなのためになる、そう思うだけで、励みになっていた。 散歩を切り上げ、そろそろラボに戻ってヤナ達の雑談でもしようと思った、その時だった。 ダダダダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・・・・! 「?」 エデンのとって聞きなれない音が研究所に響いた。 エデンは何事かと思い、体を少し中に浮かせ、全速力で廊下を駆け抜けた。 「な・・・・・・!?おい、大丈夫か!?」 廊下に何人か人間が倒れていた。 エデンがそのうちに1人の体をゆすり応答を求める。・・・が、返事はない。 よく見れば、左の胸のあたりの白衣に血が染込んでいる。 その時だった。 ―――・・・・・・エ・・・・デン・・・・き・・・・ちゃ・・・・・・だめ・・・・・――― いつも聞きなれた声が頭に響く。 ・・・・・が、いつもより苦しそうな声である。 「!・・・・・・ヤナ!」 エデンはいつものラボを頭に思い浮かべる。 「・・・・・ヌン!」 エデンの体がその場から消失した。テレポートである。 「・・・・・・・・・!!!??」 “惨劇” その言葉がもっとも似合う状態だった。 壁と床、コンピュータが血まみれになっていた。 うつ伏せの死体、仰向けの死体、どれもこれも血まみれだった。 部屋の中心にジェドが倒れているのに気がついたエデンはすぐに駆け寄る。 「博士・・・・・・!?」 「・・・・・・エ・・・エデン・・・・・か・・・?」 ジェドはわき腹から血を流していた。 「エデ・・・・・ン、何できたの・・・・・・?」 エデンが声がしてきたほうへ顔を向けた。 そこには、足から血を流したヤナの姿があった。 「ヤナ!大丈夫か!?」 「どうしてきたの・・・・・・?来ないでっていったのに・・・・」 「そんな事を言っている場合か!」 エデンはヤナの体を静かに起こし、傷の具合を見る。 「酷い・・・・・・一体誰が・・・・・・」 「私がやったんですよ」 「!」 エデンがその声に反応して振り向いた。 ドアが開き、銃を持った黒ローブの人間が次々と入り込んできた。 黒ローブの人間が一列に並ぶ。 その列の真ん中が割れると、いつかの背の高い白いローブを着た金髪の男が立っていた。 「お久しぶりですね、ジェド博士。  そして・・・・・・はじめまして、エデン」 「お前が・・・・・やったのか?」 先ほどとは打って変わり、やたらと静かな口調でエデンが男に言った。 「答えろ・・・・・・!」 エデンが鬼のような顔をしていった。 「正確に言えば・・・・・・・私がやったというより、私が命令したのですよ。この者達に・・・・・・ね」 男が一呼吸おくと、言った。 「エデン以外のこの研究所関係者をすべて抹殺せよ・・・・・・・・とね」 「!!!」 「だからこないでって・・・・・言ったのに・・・・・・」 ヤナの声がエデンの後ろから弱々しく聞こえてきた。 「あいつら・・・・・・私たちを囮に・・・・・・待ち伏せして・・・・・・」 「その少女の言うとうりですよ、我々は彼女らを少し利用させていただいただけです」 「・・・・・・・・・・!!!!」 一瞬の沈黙。 「キサマァァァァァーーーーー!!」 エデンが掛け声とともに左腕を後ろに下げた。 すると、左腕に青い炎がともった。 「消え去れぇぇぇぇ!!」 エデンが左腕を突き出した。 青い炎が解き放たれ、球状になりまっすぐ男たちに向かって飛んでいく! 「フン・・・・・ベトベトン!」 男がボールを投げた。 ボールが開き、中からヘドロポケモン・ベトベトンが姿を現した。 ベトベトンがシャドーボールに向かって腕を突き出す。 シャドーボールが腕に当たると、吸い込まれるように消えてしまった。 男がベトベトンをボールに戻した。 「な・・・・・・・!?」 「・・・・・エデン、取引をしませんか?」 突然、男が奇妙なことを口走った。 「・・・・・・取引・・・・・だと?」 「そう、私たちの任務は、先ほど言った通り、研究所関係者をすべて抹殺すること・・・・・・、そして・・・・・・」 男が目つきを鋭くした。そして先ほどより声を低くして、 「あなたを同志として引き入れること。  あなたがおとなしく我らの仲間になるのなら、そこに倒れている人間2人を助けてあげてもかまいません。・・・・・・・どうしますか?」 「エデン・・・・・奴の言うことに・・・・・・耳を貸すな・・・・・」 エデンの後ろから少しかすれた声でジェドが言った。 その声に反応して、エデンが振り向く。 「奴等は・・・・きっ・・・・・・と・・・・お前・・・・をボールに・・・・押し込めた・・・・あ・・・とで・・・・・・私たちを・・・・・殺すつもりだ・・・・・・。  そんなやつらと一緒に行っては・・・・・・・」 その時だった。 ドン! 「・・・・・・!?」 「!!!??」 突然、黒ローブ集団の1人が持っていた銃が火を吹いた。 発射された弾丸は、ジェドの頭を軽く貫いた。 「あ・・・・・・あ・・・・・・・・!」 ヤナのかすれた悲鳴がエデンの耳に届く。 「クククク・・・・・・・!」 男の不気味な笑い声もエデンの耳に届く。 「余計なことを・・・・・・うまくいくところだったのに・・・・・」 「ハ・・・・・カ・・・・・セ・・・・・?」 エデンが弱々しい声でジェドを呼んだ。 が、返事はない。 エデンがジェドの死に気を取られたいた、その時だった。 ガチャガチャガチャ・・・・・・・。 男たちが持っていた銃が、すべてエデンに向けられた。 「!!!」 轟く銃声。 すべてはエデンの体を貫く・・・・・・・ハズだった。 「な・・・・・・・!?」 「!!」 エデンと銃弾の間に、青い影が割り込んだ。 青い影に銃弾が当たると、銃弾は勢いを失った。 同時に、青い影がエデンの目の前に倒れた。 「ヤナ・・・・・・?」 エデンは膝をガクッと落した。 「ヤナ・・・・・なぜ・・・・・?」 エデンの目の前には、青い髪を真っ赤に染めたヤナの姿があった。 「あな・・・・・タは・・・・・死んで・・・・・は・・・いケない・・・・・・」 ヤナの目から涙がこぼれだした。 「私・・・・・ね・・・・、エデンと・・・・・一緒・・・・に・・・・、た・・・・びに・・・・・でたカった・・・・。  たたカって・・・・ロケ・・・・ット・・・・・・・団を・・・・・、倒しテ・・・・・そして・・・・・」 「いっぱい・・・・・思イ出・・・・・・作りタか・・・」 ドン! 白ローブの男が、どこからか小銃を取り出し、ヤナの額を貫いた。 額は血が出やすいためか、血は勢いよく飛び散り、エデンの顔も赤く染めた。 視界に、赤い液体が映った。 何も考えられないような気がした。 だが、やはり考えていた。 どうやれば、スッキリする? どのような方法であの男達を殺せば、スッキリする? 「・・・・・・・・」 エデンは開きっぱなしのヤナの目を閉じた。 エデンが静かに立ち上がった。 頭を落としたまま、無言で左腕を顔の高さまで持ち上げる。 すると、先ほどの青炎と違い、紫炎が左手を包んだ。 「な・・・・・!?」 男たちが驚きの声をあげる。 そして、エデンが静かに語りだした。 「ヤナは・・・・・私に“感情”というものを教えてくれた・・・・・!  そして、その中でわからなった2つの感情について、今理解した・・・・・・!  こういう感情を・・・・・“悲しい”というんだな?ヤナ。  そして・・・・・、体中から力が湧きあがってくるこの感情が・・・・・」 エデンがゆっくり顔をあげた。 しかし、そこには透き通った海色の目はなく、代わりに・・・・・・・。 「“怒り”!」 殺気ごもった紫色の目があった。 「ヒ・・・・・!!」 男が言葉にならない悲鳴を上げる。 「う・・・・撃てーーーーー!!」 男たちの銃が咆えた。 エデンはあせることなく右腕を突き出した。 すると、銃弾がすべて空中で静止してしまった。 その内の1つをエデンがつまんだ。 「こんな物で・・・・・・」 「私を殺せはしない」 バキィ! エデンがつまんでいた銃弾を指の圧力だけで粉々にした! それに共鳴するかのように、空中で静止していた銃弾も粉々になった! 「何・・・・・・!!?」 「・・・・・・」 エデンがゆっくり男達に背を向けた。 ゆっくり左腕を振り上げ、そして、なにやら呪文のような言葉をつぶやいた。 「地を翔ける破壊の衝撃・・・・・・」 「・・・・・・・・!!」 男が叫んだ。 「そ、総員待避ィィーーーーーー!!!」 「ギガクラッシュ!」 カ・・・・・!! ドゴォォォォォォォォン!! エデンが左腕を振り下ろしたとき、すべては始まった。 地を翔ける紫炎・・・・・・・。 真っ二つに割れるコンピュータ・・・・・・・。 巨大な爆音・・・・・・・。 「・・・・・・・・」 エデンがゆっくりと立ち上がった。 何もなかった。 自分を取り囲む研究所の残骸・・・・・・、さらにそれを取り囲む海・・・・・・。 「博士・・・・・ヤナ・・・・・、私は約束する・・・・。  やつらに、博士の屈辱を・・・・・・・、やつらに、ヤナの痛みを・・・・そっくりそのまま返してみせる・・・・・・。  やつらに・・・・・・」 「復讐を・・・・・・!」 エデンはゆっくり体を浮かせ、そのままどこかへ飛び去ってしまった・・・・。  あとがき いやー!やっと終わったよ『2匹のミュウツー編』! ほんでもってやっと戻れるよ、カイの冒険のほうに! エデンの再登場はいつぐらいになるかなー。  次回予告 森を進むカイの耳に届いたのは、聞きなれた陽気な男の声、聞きなれない女の声、そして・・・・・。 人間じゃない声。 第23話 うるせぇ奴等