*************  リベンジャー  第23話「うるせぇ奴等」 ************* 「なぁ・・・・・機嫌直せよ・・・・・」 「・・・・・・・・」 少年は足元でふてくされている黄色いポケモンを相手に悪戦苦闘していた。 オレンジのTシャツ、茶色の少し大きめなズボン、背中に背負った黒いリュック、オレンジ色の目、耳にぎりぎりかからない長さのオレンジ色の髪、頭に巻かれたオレンジ色のバンダナ・・・・・。 ほとんどの装備品がオレンジ色というちょっと変わった服装をしている少年は、手に持っていたすでにもう見飽きた地図に再び目を通す。 「誰にだって間違いはあるだろ?だからさぁ・・・・・」 「・・・・・・・」 少年は言い訳を止めた。 明らかに普通の人では起こりえないミスをしてしまったことは、自分でもわかっていた。 だけど、やっぱり自分のミスでえらいことになってしまったことを認めたくなかった。 「・・・・・・・・・」 ここはエンジュ〜コガネ間にあるとある森の中。 小さいながら人をよく迷わせるためか、あまり人は寄り付かない。 最深部までいけば、たまに人骨が転がっているのを発見できるほどの森である。 日はすっかり落ちて、もう月が顔を覗かせていた。 少年は黙ってポケットを探り、ポケギアを取り出した。 すでに午後8時を過ぎていた。 吹き付ける冷たい風が、彼らの頬を冷やす。 『・・・・・ハァ・・・・』 頭に電気プラグのような突起物を持ち、小柄な体に比べ大きめな腕を持つポケモン、電気ポケモン・エレキッドのエレクは自分の主人のありえないミスに落胆していた。 自分の主人・・・・・コウは昔から馬鹿だということは知っていた。 しかし、いくらなんでもここまで馬鹿だとは思ってもいなかった。 エレクがこれからこの馬鹿をどうお仕置きしようか考えていた、そのときだった。 「・・たし・・・・こんな・・・・!」 「・・・・・・・なん・・・・・こ・・・・・・・・ば・・・・・・・・!?」 「なんか・・・・・・聞こえるよな・・・・・・」 「・・・・・ベベ・・・・・」 コウとエレクがどこからともなく聞こえてくる二つの声に気がついた。 1人と1匹は、声のするほうへ歩いていく。 緩やかなカーブを超えて、ほかのより少し大きめな木を横切ろうとしたとき、その2つの姿を確認できた。 コウとエレクは足をとめ、木の裏に身を隠すことにした。 「は!?あんたもう1度言ってみなさいよ!」 「あーー言ってやるぜ!テメェはバカ野郎さ!この世で1番の大バカモンだぜ!」 「あんただって分かれ道とかで方向決めるとき納得してたじゃないのよ!  あたしのせいじゃないわよ!」 「ていうかてめぇはよ!買った時点で間違いに気づくべきだったんじゃねぇのよ!」 「何よ!」 「あんだよ!」 「なんだありゃ・・・・・・」 『俺に振るなよ・・・・・わかるわけねぇだろ?人とポケモンの会話なんてよ』 会話をしている2つの影の1つは少女だった。 コウと同じくらいの身長、140cm程、白いフリース、白いズボン、毛先がはねた金髪、大きい茶色の目、背中に赤いリュックを背負った少女だった。 そして、もう一方の影はというと・・・・・・・人ではなかった。 夜、その姿を見れば、不吉なことが起きる前兆だといわれるポケモン・・・・・。 暗闇ポケモン・ヤミカラスだった。 「・・・・・俺たちの耳はいかれちまったか?あのヤミカラス・・・・・・人語をしゃべってるような・・・・・・」 『ああ・・・・・・・確実にしゃべってるよな・・・・・・』 次の瞬間、コウは重大なミスを犯してしまった。 なんと、足元の転がっていた小枝を踏んでしまったのである。 パキ・・・・・・・・。 「!誰!?」 「!誰だぁ!?」 少女がその音に反応し、腰のボールに手をかける。 ヤミカラスも、羽を左右に伸ばし、戦闘体制をとった。 「あ・・・・・・・わりぃ、エレク」 『まったく・・・・・・このバカ・・・・・・!』 「え?あんたたちも迷ってんの?」 「いやー、いろいろあってよー」 『何がいろいろだ・・・・』 コウと少女は焚き火をはさんで人が座るのちょうどいい大きさの石に腰掛けていた。 エレクとヤミカラスも、それぞれの主人の横に腰掛けている。 「あ、自己紹介がまだだったね。あたしの名前はユウラ・シアードっていうの。  で、このバカ鳥がクロ」 「誰がバカ鳥だ!誰が!」 「あ、バカラスの間違い?」 「ぅオイ!!」 ユウラとクロのコントもかねた自己紹介を、コウとエレクは笑い顔で見ていた。 「俺はコウ!コウ・コードローだ!んで、こっちの電気プラグがエレク」 『普通にエレキッドって言えよ!』 話はいろいろな方向へ発展していった。 なぜ森に迷ったのかという話から、互いの故郷のこと、なぜ旅をしているかなど・・・・・・。 コウが森に迷った理由は、ただ単に地図を上下さかさまに見ていただけだった。 ユウラの迷った理由をまたすばらしかった。 なんと、地図を買い間違えた挙句、コンパスが壊れていたのに気がつかなかったという。 これにはコウとエレクは笑わずにはいられなかった。 ユウラはリーグに出るために旅をしているとコウに話したが、コウはユウラが何か隠しているように見えた。 実際、コウもリーグに出るためと言ったが、本性は違う。 ロケット団に、町を壊された復讐をするためとは、とても言えなかった。 次にコウは顎が外れるほど驚いてしまった。 なんと、ユウラはすでにバッジを8つすべて手に入れていたのである。 コウはまだ4つしか持っていない自分が恥ずかしくなってきていた。 その後すぐ、お互いの故郷の話をした・・・・・・とはいえなかった。 コウは明るくギンバネ島の話をしたが、ユウラは何も話さなかった。 理由は、ただ単に話したくない、というものだった。 何か分けアリらしかったので、コウはこれ以上聞かないことにした。 「あ、もう9時過ぎてるよ」 「もうかよ、時がたつのは早ェなぁ・・・・・」 「今日はもうここで野宿か?」 「そうねぇ・・・・・もう暗いし・・・・・」 「ユウラァ、久しぶりに寝袋の中に入れてくれよぉ」 クロがユウラにほおずりしながらおねだりする。 「あんたは外!」 「ケチくせぇな・・・・・」 「・・・・・・・お前なんか企んでねぇか?勝手に寝袋はいんなよ」 「ベ・・・・・ベベベベ(チ・・・・・ばれたか)」 「おまえもだぞ、ライラ」 「ぴーーい(へーーい)」 ・・・・・・・・・・・・・・へ? 2人がようやく何気なく現れた第三者の存在に気がついた。 「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」 「でけぇ声突然出すな・・・・・・耳がイカレるだろ・・・・・」 「カ、カイ!?お前なんでこんなとこいんだ!?」 「いちゃわりィかよ・・・・・・・あ、いやはやはじめまして」 「!・・・・・・え・・・あ、はじめまして・・・・・」 「オイコラ!てめぇナニモンだぁ!突然現れやがって!」 「・・・・ってあんたは何ドサクサにまぎれてはいってんの?」 いざ寝袋の入って寝ようとしていたコウとユウラは、突然の訪問者に驚いて、反射的に寝袋から飛び出し、腰のボールに手をかけていた。 突然の訪問者、カイは、地べたに座って寝る準備をしていた。 クロとエレクはというと、どちらもいつのまにか寝袋の侵入していた。 「俺はカイ、カイ・ランカルだ。よろしく。こっちがライラ」 突然の訪問、自己紹介にユウラは「はじめまして」と言ったきり口がポカンと開いたままだった。 ようやくどこかへ飛んでいた意識を取り戻し、ユウラはコウにしたときと同じように自己紹介することにした。 「えっと、あたしはユウラ・シアード、で、こっちが・・・・・」 「ポケモン史上最高の頭脳を持つポケモン!ヤミカラスのクロ様だぁ!  頭がたけぇ・・・・・・」 ゴス! 「余計なこと言わなくてよろしい」 ユウラがクロの頭に鉄拳を入れると、クロは一撃でダウンした。 「ア・・・・・・アイ・・・・・」 「ちぃっと話し変わるぞ」 「何だ?」 「まずは・・・・・・」 「コイツなんだ?」 カイが近くの木の根元を指差した。そこには・・・・・。 「あ、サンド」 「お、サンドだ」 「なんだ、サンドじゃねぇか」 彼らの視線の先には、ねずみポケモン・サンドがいた。 しかし、どこかおかしい。 どこかもがいているように見え、下半身が見えない。 「あ・・・・!コイツ、木の根っこに挟まってる」 カイがサンドの手をつかんで引っ張ってやろうとする。 「ギ!ギウギウ!」 サンドがカイの手を振り払い必死に抵抗する。 小さなつめが、カイの手の甲を引っかいた。 「!いっつ・・・・・・」 「!」 カイが一瞬痛がったのに気がついたサンドは、何を思ったのか、抵抗するのを止めた。 抵抗しなければ、捕獲されてしまうかも知れぬ状況で・・・・・・。 しかし、彼にはなんとなくわかった。 その少年には、他の人間と違った、“何か”があるような気がした。 カイがサンドの小さな腕をつかみ、思いっきり引っ張ってやる。 スポンという音とともに、サンドの体が木の根っこから抜け出した。 「ふう・・・・・抜けた」 カイが手についた土を払う。 「?どした?」 カイが抜け出したときから頭を抱えておびえているサンドに気がついた。 つかまる・・・・・・! そんな考えで頭がいっぱいになっていた。 しかし、いつまでたっても人間がポケモンを捕まえるために使う“恐怖の玉”は飛んでこない。 サンドがゆっくり目をあけた。 「・・・・・・もしかして、捕まるとでも思ってたのか?」 そのには、自分の身長にあわせてくれているのか、しゃがんだまま自分を見つめている少年の姿が会った。 「捕まえたりしねぇから、とっとといけよ」 少年が笑いながら言った。 「・・・・・・!」 サンドが小走りで森の中へ消えていった。 「さてと・・・・・・次は・・・」 「お前なんで喋れんだ?」 「いや遅ェなオイ!?」 カイの質問にクロがツッコミをいれた。 「なんで喋れるかって言われてもなぁ・・・・・・・・。  生まれたときから人間と一緒にいたからかもなぁ・・・・・・・」 「・・・・・・・すげぇ簡単な理由だな」 「ほっとけや!」 「あと、ほかには・・・・・・」 「コウ、バッジ何個手に入れた?」 「お!?良くぞ聞いてくれたなぁ!聞いて驚け!なんと・・・・・・!」 「・・・・・・・・・」 「なんと」と言ってからやたらとタメるコウを横目に、カイとユウラは寝る準備をはじめた。 「・・・・・・ってオイ!聞けよ!」 「聞けよってお前・・・・・・必要以上にためすぎなんだよ。  聞こうにも聞けねぇだろ」 「・・・・・・・!わかったよ!とっとと言うから聞いてくれよぉ・・・」 コウが半ば半泣きでカイに了解を求める。 「わかったわかったって・・・・・聞いてやるよ、何個だ?」 「4個!」 「!!?」 4という数字を耳にしたカイが顔面蒼白になった。 「?どした?カイ」 「ま・・・・・」 「?」 「負けた・・・・・・・」 「・・・・・・は?」 この後、まだ3個しか手に入れてないと聞いたコウとユウラは大爆笑モードに突入した。 ユウラがもう8個バッジを手に入れたと聞いた時のカイの顎が、コウと同じように外れそうになったのは言うまでもない・・・・・・・。 「コウ、エレクを起こせ。ユウラもクロを起こすんだ。   で、さらに寝袋をしまって、すぐに出発できるようにしろ」 「は?」 「何で?まだぜんぜん夜なのに・・・・・・」 「いいからとっとと起こせ」 仕方なくコウとユウラはいつのまにか寝てしまったエレクとクロをたたき起こす。 寝ぼけたクロがユウラにドリルくちばしを繰り出したが、ユウラはそれを素手で弾き飛ばした。 「いいか?今からはなすことを単語ひとつ聞き漏らすなよ」 「おう」 「うん」 「ベ」 「ピカ」 「アイ・・・・・・・」 顔がボコボコでまともに話すことができないクロを無視した“カイの気になること”についての話が始まった。 「え〜とな、実は話すことなんて何もないんだ。  ただ・・・・・・・・」 「ゆっくり上を見てくれればいい」 「上・・・・・・?」 2人と3匹が上をゆっくり見上げる。そこには・・・・・・。 「ゲ・・・・・・・!」 「うそ・・・・・・」 『マジかよ・・・・・』 『なんでこんな・・・・』 「今日は寝れそうにないな・・・・・・・」 木に枝からぶら下がった無数の影。 ギラリと光る牙・・・・・・・・。 蝙蝠ポケモン・ゴルバットの群れが、彼らを見下ろしていた。  あとがき よぉぉっしゃー!合流したー!主人公チーム! とかいっときながらまだヒロインが合流してません。(爆)  次回予告 逃げろ!逃げろ!逃げろ!戦え! 第24話 オレンジ野郎の死闘(仮)