***********  リベンジャー  第30話「バトル!」 *********** 「ニ・・・・ニドリーノ!」 毒針ポケモン・ニドリーノが、倒れた。 コガネ中央公園の中で行われているポケモンバトル。 どうやら1人が挑戦者を募っているようだ。 倒れたニドリーノにトレーナーと思われる少年が駆け寄り、ボールに戻した。 相手のポケモンであろう冬眠ポケモン・リングマの勝利が確定した瞬間だった。。 リングマの後ろに立っていた少年、おそらくトレーナーと思われる少年が、 「さぁさぁ!他に挑戦するやつはいないか!?」 と次の挑戦者と募った、その時! 「ハイハイハイハイ!!俺俺!俺やるぜぇ!!」 と、ドラゴンポケモン・ハクリューに乗ったそいつは颯爽と現れた。 オレンジ色の髪にオレンジのTシャツの少年。 そのオレンジ男はハクリューをボールに戻すと、他のボールを手にとった。 手にとったボールを勢いよくリングマのトレーナーに見せつける。 「バトルなんだろ!?バトルなんだろ!?早く始めようぜ!」 少年・・・・コウのギャラリーの目線をものともしないでかい声が響き渡る。 コウの顔は満面の笑み。 早くバトルしたくてうずうずしているようだ。 「よし、次はお前だな!行け!リングマ!」 「ゴアァァァアアア!!」 リングマはでかい鳴き声とその太い両腕を振り回し、コウを威嚇する。 が、コウは全くビビっていない。 むしろ、強者を目の前にして嬉しそうだ。 「お〜し!いっくぞぉ!!」 コウはボールを持った方の腕をぶんぶん振り回し、勢いよく放った。 青いボディ。 長い角。 この2つの特徴をもつポケモンは、ボールから出るなり、 「クロロロロロロロロ!」 と威嚇の鳴き声でリングマを翻弄する。 1本角ポケモン・ヘラクロス。 その立派な角を使った攻撃は、並大抵のパワーでは到底敵わない。 性格はいたって温厚な傾向が多い。 が、このコウのヘラクロス、普通のヘラクロスと少し違う。 「クロロォ・・・・!」 ヘラクロスはリングマを睨んだまま、低く唸った。 立派な角をリングマに向けたまま、ギロリとリングマを睨んでいる。 「クレス!どーやらなかなか腕が立つリングマみてぇだ。  久々に暴れるぜぇ!!」 「ク・・・・・ロロロロロロロロロ!!!」 コウの言葉への返答か。クレスは角を振り回し、その力強さをアピールする。 どうやら、かなりの戦闘好きのようだ。 「リングマ!爆裂パンチ!!」 「ゴアアアア!!」 バトルスタート。 ギャラリー達で出来上がった円形状バトルフィールド。 まず先手を切ったのはリングマだ。 リングマが走りながら勢いよく右腕を振りかぶった。 対して、クレスは動かない。 あえてリングマがこちらまで来るのを待っているかのように。 すぐにリングマとクレスの距離がゼロのなる。 リングマの豪腕が、空を薙いだ。 敵の姿が消えていた。 敵・・・・・クレスの居場所は、真下。 クレスの角が、リングマの脚の間に入り込んでいた。 「ゲ!ヤバ・・・・・」 「ブン投げろォッ!!」 驚く少年、叫ぶコウ。 気がつけば、リングマの体が宙を舞っていた。 クレスがリングマを角ごと持ち上げたのだ。 案の定、リングマは呆気なく投げ飛ばされた。 リングマの体がクレスを飛び越え、コウを飛び越え・・・・・。 ギャラリー達に向かって落下していく。 「ギャアアアアアァァァ!!!」 ギャラリーの一部・・・・・・コウの後ろにいたギャラリー達・・・・が、揃って絶叫した。 「あ・・・・あぶね・・・・・」 ギャラリーの1人が、尻もちをついてボソリと呟いた。 突然リングマが突っ込んできたことに仰天したギャラリー達は一斉に避難。 幸い、リングマの不時着に巻き込まれた者はいなかった。 「リ、リングマ!大丈夫か!?」 少年が遠くから大声で訊くと、リングマはのそりと立ち上がり、まだ戦えると言っているかのように、クレスを睨む。 が、今の投げ飛ばしがノーダメージだったわけではないらしく、少しふらついている。 「おお〜、まだ動けたか。  クレス!油断すんなよ!」 コウはバトル中にも関わらず笑顔でクレスに喝を入れる。 が、その時、コウはまだ気付いていなかった。 ギャラリーの間を縫うようにして突き進み、自分を睨み続ける謎の視線の正体を・・・・・・。 「強ぇ・・・・・スゲェ強ぇぞ!さっきの爆裂パンチ、かなりパワーが込められてた!  それにクレスにブン投げられてすぐに立ったってのもスゲェ!」 コウは両眼を爛々と輝かせながら喜ぶ。 クレスも闘志の表情を崩さず、心の中で喜んでいた。強敵に遭えたことに。 「あのヘラクロスにはうかつには近づけねぇ・・・・・・。  リングマ!炎のパンチ!」 リングマは右腕に炎を灯らせると、またも突進してきた。 クレスもさっきと同じように動かない。 この光景、先ほどのほとんど同じ展開。 クレスの背後にいたギャラリー達は身の危険を感じた。 爆裂パンチと炎のパンチ。 この2つのパンチの違いは、3つ。 決定的な違いは、タイプの違い。 威力では爆裂パンチが勝っている。 だが、威力が高い分動作が鈍ってしまうので、命中率は炎のパンチが上。 さらに炎のパンチは、虫タイプであるクレスの弱点でもある。 先ほどよりも明らかに速いパンチにクレスは微動だにしない。 慌てず騒がず、コウの指示を待っている。 リングマの炎を灯した拳が、クレスに向かって打ち出される・・・・。 「クロス!見切り!」 リングマのパンチがまたも空を薙いだ。 先ほどの爆裂パンチも見切れでかわしたらしい。 「かかった!リングマ!左腕で爆裂パンチ!」 リングマは突き出した右腕を引かずに左腕で爆裂パンチを放った。 拳の矛先は、真下。 そこには、先ほどと同じようにクレスがリングマの脚の間に角を入れようとしていた。 当然、クレスの目線は地面を向いている。 リングマの爆裂パンチが迫っていることに全く見向きもしない。 「クレス!カウンター!!」 「クロ!!」 「グ・・・・!?」 クレスが全身に物理攻撃反射効力を持つカウンターを張ったおかげで、リングマの爆裂パンチは弾き返された。 それどころか、爆裂パンチはリングマの頬にヒットした。 クレスのカウンターの存在がなければ、まるで自分を殴ったようにも見える。 リングマは自分の爆裂パンチ・・・・しかも2倍の威力のものをモロにくらい、吹っ飛びはしないものの、数歩交代する。 やはりかなり効いたのか、頬を抑えて痛がっている。 コウはそんなリングマの様子を見るなり、 「お、チャーンス!クレス!アイツにアレをお見舞いしてやろうぜ!」 とクレスに次の指示を出す。 クレスは角をリングマへ向けると、精神を集中させる。 すると、角を中心に空気が渦を巻き出した。 ヘラクロス最強の技、メガホーンとは少し違う、“何か”。 相手の少年やギャラリー達にただ1つわかること、それは明らかにメガホーンの域を越えていることだった。 角の回りを取り巻くように渦巻いていた空気が、消えた。 その代わり、クレスの角が光り輝いている。 「クレス!“ギガホーン”!!」 青い体が、飛んだ。 羽を羽ばたかせ、低空飛行でリングマへと迫る。 角は空気を貫き、一直線に進んでいく。 リングマは、大きなダメージのせいで、動けない――― ドゥン!!!! 爆発、そして爆音、さらに爆風。 クレスの角がリングマを突いた瞬間、爆発が起きた。 ギャラリーの中には、吹っ飛ぶ者、尻もちをつく者、何とか耐える者、人それぞれだ。 公園の側を通っていた人たちが、何事かと公園を覗き込む。 皆の目線が、頃焦げになったリングマに注がれた。 そして、倒れた。 次に、皆の視線はクレスへと向けられた。 角の先が多少焦げた、1匹のヘラクロス。 クレスは焦げた角を重々しく持ち上げ、そして、 「クロロロロロロロロ!!!!」 勝利の咆哮。 「いやー、派手なバトルだったぜぇ!ナッハッハッハ・・・」 苦笑いなしながら近づいてくるコウに対し、金髪の少女、ユウラは何も答えない。 ただ、その表情は非常にわかりやすい。 コウはユウラにある程度と近づいたとき、その表情がハッキリ見えた。 同時に、近づく足を止める。 「あ〜・・・・・・もしかして、怒ってる?」 訊くまでもない質問。 「・・・・・・今日のあたし達の予定は?」 「へ?」 頬を引きつらせながら聞いてくるユウラに対し、コウは、 「忘れた!」 と、自信満々に答えた。 「・・・・・とりあえず、殴っとくわ」 「へ?」 バゴォン!! ユウラの鉄拳がコウの頬に炸裂した。 先ほどのクレスの“ギガホーン”にも引けを取らない音量。 「・・・・・・・まだ引かねぇんだけど」 「自業自得よ」 コウとユウラはポケモンセンターの前で、カイを待っていた。 もう町は夕焼け色に染まっている。 2人の顔も、夕焼け色に染まっている。 コウの頬が多少腫れあがっているが、ユウラは大して気にしていない。 その時、何者かの足音が聞こえてきた。 テンポが速い。走っているようだ。 しかも二重に聞こえる。どうやら2人のようだ。 ズザザッと砂煙を起こしながらブレーキをかけ、角を曲がってきたのは青髪の少年。 カイだった。 カイは再び走り出す。 コウ達の存在に気付くやいなや、ニヤリと笑いポケモンセンターへと駆け込んだ。 「どうしたんだろ・・・・・」 「さぁ・・・・・・」 突然の出来事に一瞬呆然となる2人。 カイがポケモンセンターへと駆け込んだすぐ後に、1人の少女がカイと同じように角を曲がってきた。 「!アレって・・・・・・たしかジムリーダーの・・・・」 「アカネ・・・・・・だよな・・・・・・」 ジムリーダー・アカネが何故走ってくるのか2人には見当もつかない。 よく見ると、アカネの表情は険しかった。 「!ちょうどええところに!」 アカネはこちらの存在に気付くなり、彼らの前で足を止めた。 以前2人はジムの挑戦したことがあるので3人は顔見知りだった。 「今ここに青い髪の・・・・・・」 「ああそれなら・・・・・」 アカネが用件を言い切る前にユウラが口を開く。 「あっちに行った」 コウが指差す。勿論ポケモンセンターとは無関係な方向を。 「あっちやな!?逃がさへんでぇ!」 アカネは猛スピードで走り去っていった。 アカネの姿が見えなくなると、2人は不思議そうな顔でセンターの中へと入っていった。 入り口の近くの長椅子に、ぜぇぜぇと息を切らしているカイの姿があった。 「どーした?何で追われてたんだ?」 コウが訊く。 「ああ・・・・・・実はな・・・・・・」 カイ、ジム挑戦。アカネ、受けて立つ。 カイ、圧勝。アカネ、敗北→号泣→バッジを渡す→激怒。 アカネ、リベンジ。カイ、受けて立つ。 カイ、圧勝。アカネ、敗北→リベンジ。 カイ、やってられなくなり逃走。アカネ、追跡。 「・・・・・・・・とまぁこんなカンジよ。  で、そっちは買うモン買ったのか?」 「うんまぁ・・・・・・・・買うには買ったんだけど・・・・・」 「?どうした?」 ユウラがコウの身勝手な行動を全て話すと、カイは「まぁ別にいいだろ」と丸く治めてしまった。 大都会、コガネシティに夜が訪れる・・・・・。  つづく  次回予告 第31話 神聖なる神社(仮)