影が宙を舞った。 地に落ち、影は一回り小さくなるとおろおろと森の中へ消えていく。 またひとつ、影が斬り裂かれた。 影は真っ二つになり、黒い霧に包まれる。 先刻の影と同じように小さくなり、森の中へ消えていく。 緑の剣士は大地を蹴り、影へ切りかかる。 “闇を斬る力”を持つ剣士は刃を振るう。 横では奇妙な鳥が目を光らせ、不思議な力で影を吹き飛ばす。 緑の剣士は刃を振るう。 この一撃一撃が、自分の未来を決めているとも知らず・・・・・・・。 *********  リベンジャー   第32話「暴走」 ********* 「ひとつ聞きたいことがあるのだが・・・・・・・」 「ん?何だ」 シノとカイは大量のゴースト相手に奮闘していた。 遠くのゴーストがセイレーンのサイコキネシスで吹き飛び、襲い掛かるものはカゼマルの風斬核で切り裂かれる。 「そなたのストライク・・・・・・・何故にゴーストを斬れるのだ?  ゴーストタイプは打撃斬撃を受け付けないハズ・・・・・・」 「・・・・・・・カゼマルは、決められた箇所しか斬ってねぇんだ」 「決められた箇所?」 「よく見てみろよ」 シノがカゼマルの動きに注目する。 あるときはゴーストの頭の角のような部分を、あるときは離脱している手を切り裂く。 「・・・・・・全然バラバラに斬って見えるのは気のせいか?」 「俺にもそう見える」 「な!?一体どうゆう・・・・・・」 「カゼマルはな・・・・・・感じることができるんだ」 「何を・・・・・だ?」 「不定形ポケモン・・・・・・ゴーストやムウマ、ベトベターなどの固定した体を持たないポケモンに必ずある物・・・・・・。  それをカゼマルは斬ってる」 「必ずある物・・・・・・?」 「そ!・・・ってまた来たぜ!カゼマル!風斬核!」 「シャッ!!」 カゼマルが今日30回目の風斬核を放った。 また1匹、ゴーストが小さくなり、森の中へ消えていった。 「不定形ポケモンが必ず持っているもの・・・・・。  その体を構成するために体のどこかに必ずある“核”を、カゼマルは切り裂いてる。   だけど、不定形連中もそうやすやすと核の場所は教えてくれない。  常に体中を移動させ、気づかせまいとがんばってる。だが・・・・・・」 カゼマルがまた1匹切り裂いた。 「俺のカゼマルは即座に核の場所を感じ取り、切り裂く!  倒した後の出るちっこいヤツは核を切り裂かれて体を構成できなくなったゴーストさ。  その内、核は元通りになるがな」 「・・・・・・!!」 「ところでなんかコイツら変じゃねぇか?」 「・・・・・?何がだ?」 「なんつうか・・・・・・こう、妙に必死なんだよな。  まるでやらなきゃ殺されるって言われてるみたいなんだよな・・・・・」 「何・・・・・・?」 カゼマルに切り裂かれたゴーストはともかく、セイレーンのサイコキネシスをくらいまだ体力を残しているゴーストは、すぐに起き上がり襲い掛かってくる。 まるでなにかに脅えているかのように。 「た、確かに・・・・・・・」 その時だった。 ドドドドドドドドドドドドド!!! 何かの発射音のような音が2人の耳に突き刺さった。 音がしてきた東の空を見つめる。 「・・・・・・!」 「なんだありゃ・・・・・!!」 2人に迫る無数の漆黒の玉。 「あれは・・・・・・・シャドーボール!」 そう、向かってくる謎の球体の正体は、ゴーストポケモンが最も得意とする技、シャドーボールだった。 「リング!カゲロウ!」 カイがボールを2つ地面に叩きつけた。 中からリングとカゲロウが飛び出す。 2匹はすぐに東の空から迫る無数のシャドーボールの存在に気づく。 「全部打ち落とせ!連続シャドー&ファイヤーボール!」 リングが口からシャドーボール、カゲロウが尻尾の炎からシャドーボールを連続で打ち出す。 激しい連続速射のすえ、東の空は沈黙した。 「なんだったんだ?今のは・・・・・・・」 「?カイ、後ろを見てみろ」 「ん?」 シノが後ろを見ながら言うのでカイも後ろも向く。 「あり?」 今まで休みナシで襲い掛かってきていたハズのゴーストが、頭を抱え、脅えていた。 「どうしたんだ?コイツら・・・・・・」 「・・・・・・・たびたびすまないが、今度はこっちを見てくれ」 「あ?」 シノは今度は東の空を見つめていた。 そこには・・・・・・・・。 「・・・・・・・ゲンガー?」 そう、東の空に浮かんでいたのは確かにゲンガーだった。 が、どこかおかしい。 「・・・・・・・あいつ瞳ねぇぞ?」 普通、ゲンガーの両目には、人間でいう白目の部分は赤、瞳の部分は人間と同じく黒である。 が、宙に浮くゲンガーの目には瞳が存在せず、赤目だけが残っていた。 「めちゃくちゃ不気味なんだけど・・・・・・」 「いや、この場合は不気味すぎると言った方が正しいな・・・・・」 カイとシノが話している隙を、ゲンガーは見逃さなかった。 ゲンガーは両手を広げ、手に黒いエネルギーをため出していた。 「ゲ!リング!カゲロウ!連続・・・・・・」 カイの指示は一瞬遅れた。 すでにエネルギーは解き放たれ、異常な量のシャドーボールとなり迫ってきている。 「ク、クソ!攻撃中止!よけろォォォォ!!」 カイが叫んだ。 ドゴォォォォォォォォン!! あたりを砂煙が包み込んだ。 ゲンガーはケラケラと無気味に笑う。 が、すぐに異変に気づく。 巻き起こった砂煙が、一向に消えないのだ。 その“砂煙”が、“砂嵐”だと気づくのにゲンガーは時間をかけすぎていた。 後ろの謎の気配に気づく。 急いで振り返るゲンガー。 刃を振り上げる、緑の剣士。 「風斬核!」 カイの指示がカゼマルに響く。 刃が影を切り裂いた。 が、すぐに影は再生された。 『ク!外し・・・・・・』 カゼマルに黒い光線、ナイトヘッドが炸裂した。 モロに攻撃を受け、カゼマルがまっさかさまに落ちる。 「カゼマル!」 砂嵐が晴れ、カイが叫ぶ。 その横には、砂嵐を起こしていたと思われるスピンの姿があった。 「任せろ!カイ!」 石段の下から声が聞こえた。 その声と同時に、カゼマルの下からリュウが現れ体を巻きつけ救出する。 「俺に待ってろなんて言ってよ、大人しく待ってると思うか!?カイ!」 またあの声が響いた。 カイが石段の下を覗き込む。 石段の下で、必要ないほど大ぶりで両腕を降っているコウ。 「そいつは俺がしとめるぜ!いけ!ディン!」 コウがゲンガーに向かってボールを投げた。 ボールからディンが出現すると、すぐにゲンガーにサイコキネシスを放った。 のけぞるゲンガー。 が、すぐに体制を立て直すと、ディンに向かってシャドーボールを放った。 「へ!そんなモンへでもねェ!ディン!ダブルバリアー!」 ディンが左腕からバリアー、右腕からリフレクターを出し重ね合わせ二重の壁にする。 ガキィ!! シャドーボールがダブルバリアーにヒットした。 ダブルバリアーは確実にシャドーボールを押さえ込んでいる。 「おし!ディン!そんなボールはとっとと持ち主に返して・・・・・・」 その時、予想し得ないことが起きた。 シャドーボールが着々とダブルバリアーにめり込み始めたのである。 「い!?」 バキィィィィ!! ダブルバリアーが割れた。 そのままシャドーボールはディンの腹に直撃する。 「ク・・・・クォ・・・・!!?」 ディンは苦悶の表情を浮かべ、落下する。 「も、戻れディン!」 コウがボールをかざし、ディンをボールに戻す。 ユウラがコウに駆け寄った。 「ちょ、ちょっと!そんなモンへでもないって言っときながら簡単にやられちゃったよ!?  ちょっと思い上がって・・・・・・・」 「有り得ねぇ・・・・・・」 「え?」 「俺のディンのダブルバリアーは、どんな打撃攻撃でも破られることはなかった。  だが・・・・・・破られた」 「そ、そんなことよくある話じゃ・・・・」 「他にも・・・・・・妙なことがある」 「妙なこと・・・・・?」 「あのゲンガー・・・・・・・素早さとかはさっきにカゼマルの攻撃を見てわかったけど、あのすばやさであの攻撃力は在り得ねぇ」 「どうゆうこと?」 「つり合ってないんだ。あのゲンガーのすばやさのレベルなら攻撃力もさほど高くないハズだ。まるで・・・・・・・」 コウが間をおいた。 そして、 「剣の舞でも・・・・・・したみてぇだ」 「剣の舞・・・・・・」 「ま!もうどうでもいいけどな」 「は?」 「この戦いはもう・・・・・・」 ゲンガーはまた後ろにある気配に気がついた。 ゲンガーは振り返ろうとするが、“気配”はそれを許さない。 「俺たちの勝ちだ」 気配・・・・・・カゼマルは刃を振るった。 彼らは輪を作って何かを取り囲んでいた。 中央には、気絶したミニサイズのゲンガー。 「妙なヤツだったな」 「さっきのゴーストはこいつの仲間・・・・・・って言うより手下ってカンジだな」 「まぁいいじゃねぇか!倒せたんだからよ!」 「何だったんだろうね・・・・・・」 「こいつさぁ・・・・・・・何かおかしかったんだよな・・・・・・。  こんだけスゲェ攻撃力持ってんのにさ・・・・・全然ペース配分考えてなかったような気がする・・・・。  まるで・・・・・・・・」 「混乱してたみてぇだ・・・・・・・」  あとがき クロ「よっしゃぁ!今回からあとがきはこのポケモン史上最高の頭脳をヤミカラス、クロ様が仕切るぞ!」 YAN「俺もいるんだけど・・・・・・・」 クロ「ハァ〜ン?ハイハイ、まあいるってコトにしとくわ」 YAN「ハナクソほじりながら言われても全然実感ねェんだけど・・・・・」 クロ「まぁそのことは置いといて・・・・・・で、どうなんだ?これからの展開は?」 YAN「う〜ん・・・・・・多分、2,3人死んでもらうことに・・・・・・・」 クロ「オイ!殺すのかよ!」 YAN「あとポケモンも誰か1匹死んで・・・・・・・」 クロ「テメェ殺しすぎだ!」 YAN「まぁいいじゃん!そんなこと!」 クロ「めちゃくちゃ重要だァ!!」  次回予告  前回の冒頭にあったワケのわからん文章の謎が、明らかになる・・・・・。 第33話 鋼鉄の宝玉(仮)