**********  リベンジャー   第34話「ヘヴン」        ********** ここは何処かのビルの中。 そのビルの中の廊下を、少年が歩いていた。 白い壁に白い天井、灰色の床。 かなり地味な廊下を、少年は歩いている。 紫のローブに金髪、ホークという名のエアームドの上からカイたちを見下ろしていた少年である。 少年の表情ははっきり言って暗い。 少々大きめなローブは、少年の口元を隠していた。 まるで少年のその暗い表情を少しでも隠そうとしているようだった。 廊下の突き当たりにエレベーターがあった。 少年の足が止まり、扉の横のボタンを押す。 ゴウンゴウンという音の後、扉が開いた。 少年がエレベーターに入った。 中にあるボタンは、最下で地下1階、最上で8階まである。 少年は8階行きのボタンを押す。 扉が閉まり、エレベーターが動き出す。 しばらくして、エレベーターが止まった。 扉が開き、少年が歩き出す。 先ほどと同じ、味気ない廊下を歩く。 カツンカツンと、少年の靴が床とあたり甲高い音を出す。 靴に何か鉄でも仕込まれているのだろうか? 少年の目線に、2人の黒ローブの男二人、そして大きな扉が見えてきた。 黒ローブの男2人は手にライフルを抱えている。 扉は廊下と違いやや装飾が施されており、明らかに周りと違う雰囲気を漂わせている。 少年が2人の前で足をとめた。 少年と黒ローブの男たちの身長はかけ離れており、男たちが少年を見下ろす形になっている。 少年が口を開く寸前で、男の1人が口を開いた。 「ロット様。ヘヴン様がお待ちです。どうぞ中へ」 そう言って、2人が道を開ける。 少年・・・・・改め、ロットが無言で2人の間を通る。 ロットが扉を開こうとすると、先ほどしゃべらなかった男が扉を開けた。 ロットが部屋の中へ入っていく。 部屋に入り終えると、男が扉を閉める。 どうやらこのロットという少年、この“組織”内での地位はかなり高いようだ。 部屋の中はどちらかと言うと少し薄暗かった。 部屋には大きなデスクがひとつ、壁は暗くて見えない。 床には赤いじゅうたん。 奥の壁はガラス張りになっており、青い海が見渡せるようになっている。 そのガラス張りの前に、背を向けた赤い影が見える。 ただ単に赤いローブを羽織った男にしか見えないのだが、“それ”は人間ではなかった。 黒い。 黒く、2つの角がある頭。 さらに背中にはローブの中で何かうごめく物体が見えた。 その物体がローブの隙間からチラッと見えた。 真っ赤な、赤い尻尾が。 少年が口を開いた。 「・・・・・・報告に参りました」 その声がすると同時に、赤ローブの“人間ではない何か”が振り返った。 黒い顔。 鼻と口は小さい。 背丈は2メートル弱。 そして、最も目立つ、血の様に赤い瞳。 すべての人間をにらみ殺してしまいそうな、恐怖の目。 そう、この黒い謎の生物こそ、エデンと同じ体を持ち、同じ力を持つポケモン。 ミュウツー。 名を、ヘヴンという。 「・・・・・どうだった?」 ヘヴンが声を発した。 エデンと比べ、若干高い。 「・・・・・・・カイ・ランカルはデス・ゲンガーを倒し、現在、ジョウト、ウバメの森に滞在中。  今日中にでも、森を抜けるものと思われます」 「ほう・・・・・デス・ゲンガーをね・・・・・フフ・・・・まああいつは元から強かったワケじゃないからね。  僕の“力”を得てもたいして変わらないだろうね・・・・・・・」 ロットの報告に、ヘヴンは鼻で笑いながら言った。 「あと・・・・・・・気になることが・・・・・・」 「気になること・・・・・・・?」 「はい・・・・・・ウバメの森内にある神社で、カイ・ランカルがそこの巫女から奇妙な鉄の玉をもらっていたのですが・・・・・・」 「!・・・・・・ウバメの森・・・・・神社・・・・奇妙な鉄の玉・・・・・・・」 ヘヴンが顎に手をやり考え込む。 「・・・・・・!!そうか、なるほど・・・・・鋼の神か。  バカな神め、そんなことをしても何も変わらないものを・・・・・・・」 ヘヴンがブツブツと独り言を言い出した。 「へ・・・ヘヴン様・・・・・・?」 ロットがヘヴンの謎の奇行を心配する。 「あ・・・・ああ、なんでもないよ。ご苦労だったね、ロット」 「ハ、それでは失礼します」 ロットがそう言って振り返り、ドアに向かって歩き出した。 心なしか、彼は安心しているようにも見える。 が、そんな彼の安心感も、ヘヴンの言葉によってかき消される。 「・・・・・・ロット、誰も帰っていいなんて言ってないが・・・・・・?」 「・・・・・・・!!」 その言葉に反応して、ロットは振り返った。 ロットのほほを、汗が滴り落ちる。 「すまないが、また指令を出したいのだが・・・・・・・いいかな?」 ヘヴンの言葉に、ロットの表情は凍りついた。 ヘヴンは少し間を開けた後、ロットにとって最も聞きたくない言葉を言い放った。 「カイ・ランカルの抹殺指令」 「・・・・・・・!!」 「彼はエンジュシティでわれらの作戦を台無しにして経歴がある。  よって、彼は抹殺しなければならない・・・・・やってくれるね?」 「・・・・・・ハイ」 ロットの表情は、廊下を歩いていたときより暗い。 「ジュエルタウンを・・・・・・覚えているね?」 その言葉は、ロットにとっては追い討ちだった。 「・・・・・・・・・」 「そこに、ブラッドを配置するんだ」 「!ブラッドをですか!?ちょっと待ってください!  彼はブラッドを心の底から憎んでいます!ブラッドを使ったりしたら・・・・・!!」 「だからこそ、ブラッドを使うんだ」 「え・・・・・!?」 「自分の母親の命を奪ったポケモンが相手となれば、彼の潜在能力が存分に発揮されるからね・・・・・そうでなければならない」 「・・・・・・・どうゆうことですか?」 「抹殺指令と言っても、50%ほどの確率で抹殺する必要がなくなるかもしれない・・・・・・・。  彼とブラッドを戦わせてみて、もしも予想以上の実力があれば、殺す必要がない・・・・・・・・。  ジンと同じく、強くなってもらって我らの同士となってもらえばいいのだからね」 「・・・・・・一つ聞いていいですか?」 「ん?なんだい?」 「何故あの時・・・・・・ブラッドを勝手にガトウに使わせたのですか!?」 「・・・・・・・君に指令を出しても、どうせ反発するのが目に見えていたからね。  君は人を殺すのをためらっているようにしか見えなかったし・・・・・・・」 「・・・・・・・・!!」 「君の別名は・・・・・・・何かわかっているね?」 「・・・・・・・イレイザー」 「そう、イレイザー・・・・・・抹殺者だ。そこの所を忘れないようにネ・・・・・」 「ハイ・・・・・・失礼します・・・・・・・」 ロットががっくりと肩を落とし部屋を出て行った。 「どうしたの?またやたらとテンション低いわねぇ・・・・・アンタ」 「!ねぇさん・・・・・・」 ビルの一階にあるホール内にあるベンチに、ロットは腰掛けていた。 ホール内には何人も黒ローブの人間がいて、ただならぬ雰囲気をかもし出している。 ロットの目の前に、1人の女性が立っていた。 淡い赤のローブに、肩にかかるところできれいに切りそろえられた赤髪。 女性がロットの横に座る。 「また・・・・・・・抹殺指令?」 「うん・・・・・・・」 「そりゃあねぇ・・・・・・・小さな頃から殺人術を仕込まれてきたアンタだからねぇ・・・・・そんな指令がきても仕方ないわさ」 「・・・・・うん・・・・・・まぁそりゃあそうなんだけど・・・・・・」 「ま!がんばりなさいな。同じ“最高三幹部”なんだから、アタシの名を汚さないようにね!」 「・・・うん・・・・そうだね・・・・・・」 「レダの言うとうりですよ、ロット。君が作戦を失敗することは私達“最高三幹部”の汚名となるのですからね」 「!ビルさん・・・・・・」 向こうから、背丈の高い白ローブの男が歩いてくる。 肩にかかるほどの金髪をした美形の男が。 「君にはポケモンたちがついてるし・・・・・・力もあるのですから・・・・・・・。  自分の生まれた境遇を恨まないでくださいよ?」 「うん・・・・・・・ありがとう、みんな・・・・・・・」 翌日、ロットはヒワダタウンの上空から町並みをホークの上から見下ろしていた。 目的はもちろん、“ターゲット”を探し出すため。 正直、気持ちのいいものではない。 初めての“殺し”は7歳のとき。 組織から逃げ出した2人の反逆者の排除。 すでに強大な力を身につけていたブラッドを使い1人を抹殺。 残りの1人を追い詰めたとき、彼の心は何も感じなくなっていた。 そのときの彼の表情はまさしく“無”そのものだった。 無表情でその最後の反逆者を抹殺。 彼は仕事を終え、自室に戻った途端、トイレに駆け込み、嘔吐した。 その後も何度も人を殺してきた。 もうこんなことしたくない・・・・・・・!! そんな中、また抹殺指令が下された。 ターゲットは・・・・・・・組織内での唯一の2人の“友達”・・・・・・子供だった。 森の中を逃げ惑う2人を途中までホークに乗って追跡したが、途中で任務を放棄。 1ヶ月の外出禁止を言い渡された。 だが、こんなもの他から見ればかわいい罰だった。 任務を失敗したものは、1ヶ月以上の牢獄暮らし。 そんな苛酷な環境で、彼は育ってきた。 「・・・・・・ターゲット発見」 彼は1人、つぶやいた。 彼はとある建物の上空のいた。 天井がガラス張りになっている建物の中をのぞきながら。 建物内には森が茂っており、その中央にバトルフィールドが見える。 バトルフィールドで戦っている、2匹のストライク。 鍔迫り合いになっており、お互い引こうとしない。 その内の1匹に指示を出している少年・・・・・・・カイが何か叫んでいる。 もう一方の少年・・・・・・ヒワダジムリーダー、ツクシも何か叫んでいる。 「・・・・・・・ホーク、そろそろ行こう」 「ギィ」 ホークがヒワダタウンから向かって北東に向かって飛んでいく。 次第に、あの街が見えてきた。 崩壊都市、ジュエルタウンが・・・・・・・。  つづく  次回予告 ジュエルタウンで明かされる、驚愕の真実・・・・!! 第35話 偽りの組織(仮)