ジュエルタウン上空を、巨大な雲が・・・・・いや、巨大な闇が覆い尽くしていた。 弱い心は、この巨大な闇に押し潰されそうになる。 そしてここにもまた1人、闇に押し潰されそうになっている少年がいる。 すでに心の中に闇が進入し、彼の心を蝕んでいた。 一体自分に何が出来る? 自分よりもはるかに超えた力を持つ相手に、自分の力が通用するのだろうか? そんな弱りきった心に対し、身体は戦っていた。 巨悪に対し、臆することなく対峙している。 彼には6匹の仲間がいる。 が、すでに3匹やられた。 自分の横にいる少女も、すでに3匹やられていた。 巨悪に、一度もダメージを与えることも出来ずに・・・・・・・。 **********  リベンジャー  第36話「力の差」 ********** 「ハーブ!キャノン!」 ユウラの悲しみ混じりに叫びが、コウに耳に突き刺さる。 ハーブポケモン・メガニウムのハーブ、そして甲羅ポケモン・カメックスのキャノンが、ブラッドの破壊光線を直にくらい、ダウンする。 「なろっ・・・・・・!ゲイル!」 コウが叫ぶと同時に、大顎ポケモン・オーダイルのゲイルが、四足歩行で倒れたハーブとキャノンを横切り、ブラッドに向かって走っていく。 「真正面からくるとは・・・・・・・バカなヤツだ」 ブラッドが先ほどハーブとキャノンを葬った技、破壊光線のエネルギーを再び口に収縮させていく。そして・・・・・・・・。 「消えろ!」 ブラッドが口から破壊光線を放つ。 「ゲイル!見切り!」 眼前に迫っていた破壊光線を、ゲイルは紙一重でかわす。 「決めろ!“アイスファング”!!」 ゲイルが顔を横にし、口を開いた。 なんとそこには、先ほどまでなかったはずの長く鋭利な氷の牙がずらりとそろっていた。 「グ!」 ガブッ! ゲイルのアイスファングは、ブラッドの豪腕に深々と突き刺さっていた。 さらに、アイスファングは次第にブラッドの豪腕を凍り付かせていく。 「な・・・・・・!?」 「よっしゃあ!!ゲイル!そのまま氷付けにしてやれェ!!」 ゲイルはさらに氷の牙を食い込ませる。すると、それに共鳴してか氷もさらに早く広がっていく。 ・・・・・・・・・刹那。 ドン! 突然、ゲイルが牙を放した。 いや、放したというのは間違いだろう。 ゲイルの氷の牙はすでに砕かれていた。 そして、顔面が真っ黒焦げになった。 砂埃を立たせ、倒れるゲイル。 「てめぇらにしちゃあ・・・・・・・まぁまぁ強かったな」 ブラッドが微笑しながら言う。 そして凍りついた腕を近くの廃ビルにたたきつけ、氷を割る。 轟音をばら撒きながら、廃ビルも崩れ去る。 「・・・・・ユウラ、あと何匹残ってる?」 コウがゲイルをボールに戻しながら言う。 「あと・・・・・コイツだけ」 ユウラが2人に間に立っているクロを指差す。 クロの目はブラッドをにらみつけていた。 いつ似なく、鋭い目で。 「俺も・・・・・・いつもの連中だけだ」 コウがかなり古びた2つのボールを取り出した。 2人が顔を見合わせ、微笑する。 それは、何かの合図のようにも見えた。 コウが最後の2匹を繰り出した。 エレクとリュウがボールから出現し、その間にクロが立つ。 「・・・・・・悪ィ、2匹とも。まだ手は出さねぇでほしいんだ」 クロの言葉に、エレクとリュウが目を丸くする。 「あいつは・・・・・・・俺のおふくろの命を奪ったんだ。  ヤツにお袋がどれだけ苦しんだか、思い知らせてやる!」 クロが、漆黒の翼をばさりと広げる。 「ユウラ!指示を出せ!」 「・・・・・わかった!クロ!電光石火でかく乱!!」 クロが電光石火でブラッドの周りを飛び回り、ブラッドをかく乱する。 「・・・・・・ヌン!」 ブラッドが尻尾を振るった。 その軌道上には、クロの飛行コースがある。 「沈んでいろ!アイアンテール!」 ブラッドのアイアンテールが、クロの眼前に迫る! 「クロ!オウム返し!」 ユウラの指示が飛んだ。 クロが目の前に、反射の壁を作り出す! アイアンテールはオウム返しに跳ね返された。 「!?ク・・・・・・!」 ブラッドはアイアンテールを跳ね返された勢いで体制を崩すが、足を踏みとどませ体制を立て直す。 が、クロはそんなブラッドの隙を見逃さなかった。 クロはブラッドの前に回ると、電光石火でブラッドの懐に飛び込んだ。 「くらえ!ドリルくちばし!」 ズガン! クロのドリルくちばしは、確実にブラッドの腹に命中した・・・・・・が。 「フン・・・・・・」 「!?おわ!」 「!クロ!!」 クロのドリルくちばしはブラッドにダメージを与えていなかった。 それどころか、ブラッドに足を掴まれ、逆さずり状態になってしまった。 「弱さが何を示すか・・・・・・教えてやろうか?」 「・・・・・・・・!?」 ブラッドが、クロを掴んでいる腕を振り上げる。 「弱さは・・・・・・・・愚かさだ!!」 「!!?」 バゴオォォン!! クロはそのまま地面に叩きつけられた。 コンクリートが割れるほどの力でたたきつけられたクロは、まったく動かなくなった。 「・・・・・オイ女、おもしれぇことを教えてやろうか?」 「・・・・・?」 ブラッドが気絶したクロを踏みつける。 「この街の名所とも言える鉱山から取れる金はな・・・・・・・ルーラァズの資金に回させてもらったぜ。  この街を襲う計画を聞いたとき、一体何の価値があるか迷ったが・・・・・・なかなかいい額になったぜ?  この街も捨てたモンじゃなかったなァ・・・・・・・。ま、今は捨てることしか出来ねぇがな」 「・・・・・・!!」 ユウラの心が怒りと憎しみで煮えたぎる。 歯軋りさせ、ブラッドを睨みつける。 が、その時だった。 突然、ブラッドの身体が後方に飛んだ。 いや、飛ばされたと言ったほうが正しいだろう。 ブラッドが受身を取り、自分を殴り飛ばしたポケモン、エレキッドのエレクを睨みつける。 「小せぇなりにしちゃあ・・・・・いいパンチ持ってんじゃねぇか」 「エレク!10万ボルトォ!!」 コウの指示が飛ぶ。 エレクが体中に電気エネルギーを充電する。 10万ボルトが放たれた。 黄色い閃光はまっすぐに伸び、ブラッドに迫る。 「フン・・・・・・・!」 ブラッドはまったく慌てず、地面を腕でたたきつける。 コンクリートが割れ、下から岩山が飛び出し10万ボルトをさえぎる。 「まだまだぁ!リュウ!破壊光線!」 コウの声とともに、上空から破壊光線の発射音が聞こえた。 ブラッドが見上げると、そこには発射された破壊光線、そしてその奥に空中浮遊するハクリューのリュウの姿があった。 「無駄な事を・・・・・・・」 ブラッドがまたしても破壊光線を発射した。 ブラッドの破壊光線はリュウの破壊光線を軽く貫き、リュウに直撃する。 「次はてめぇだ!」 ブラッドは次にエレクに向かって破壊光線を発射した。 自ら作り出した岩山を貫き、あっけに取られていたエレクにぶち当たる。 2つの着弾音。 プスプスと黒い煙を立たせ、倒れる2匹。 エレクは破壊光線を受けた勢いで、リュウは空中から落ちた勢いで、それぞれ瓦礫に突っ込んだ。 「フン・・・・・・・」 ブラッドが半分埋もれかけていたクロを蹴り飛ばした、 クロはなすすべもなく蹴り飛ばされ、ボロくずのようにコンクリートの上に落ち、数回転がる。 「ク、クロ!大丈夫!?」 ユウラが駆け寄り、クロを抱き上げる、 クロの身体は、気のせい軽く感じた。 「悪ィ・・・・・・・・ユウラ。あいつ強ぇわ・・・・・・・」 「くそ・・・・エレク、リュウ・・・・・・・・・!」 2人があきらめかけた、その時だった。 突然、エレクとリュウが埋もれたあたりから光が差し出したかと思うと、2匹が瓦礫を吹き飛ばした。 2つの咆哮と共に現れた、2匹のポケモン・・・・・・・。 瓦礫から出てきた2匹は、もうエレキッドとハクリューではなかった。 姿を変えた2匹が飛んだ。 姿を変えたエレク・・・・・電撃ポケモン・エレブーが、空中から電撃を放つ。 姿を変えたリュウ・・・・・ドラゴンポケモン・カイリューが、空中から破壊光線を放つ。 電撃と破壊光線は確実にブラッドを捕らえたが、やはりブラッドには効いていなかった。 地面に着地したエレクに、コウの次の指示が飛ぶ。 「エレク!“100万ボルトォ”!!」 エレキッドの時には無理難題だった指示を、進化したエレクに出した。 エレクはいつもの10倍近くのエネルギーをため、ブラッドの放つ。 「無駄だ無駄だ無駄だァ!!」 ブラッドはもはや定番となった破壊光線を放った。 破壊光線は100万ボルトを2つに切り裂き、エレクに命中する。 エレクは今日2回目の破壊光線をくらい、たまらずダウンする。 「エレク!・・・・くっそォ、リュウ!“竜の・・・・・・”」 空中を飛ぶリュウが、口にエネルギーをため出す。 「竜の怒り・・・・・・放出型か。そんなモン俺の破壊光線で打ち抜いてくれる!」 ブラッドが今日何回目かもう覚えていないほど撃ってきた破壊光線のエネルギーをため出す。 「“激怒”だァァァァァ!!」 コウがはちきれんばかりの声で叫ぶ。 リュウの口から放たれた巨大な豪火球は、ブラッドとの距離をぐんぐん縮める! 「エネルギーを高めたところで・・・・・・・・」 ブラッドが竜の激怒に向かって口を開く! 「俺の破壊光線の前では何も変わらねぇ!」 もう見慣れた破壊光線は、竜の激怒と激しくぶつかり合う。 が、しばらくすると竜の激怒は破壊光線に貫かれ、リュウに直撃する。 進化もむなしく、リュウは墜落する。 「エレク・・・・・リュウ・・・・・・」 コウが無残に倒れた2匹の名を呼ぶ。 返事は、返ってこない。 コウが無言で、2匹をボールに戻した。 (もう・・・・・・闘えない・・・・・・!  最初から・・・・・・・無理だったんだ・・・・・・・!) そんな言葉が、コウとユウラの頭の中でこだまする。 その時だった。 「さてと・・・・・・・」 彼らにとって予想し得ないことが起きた。 もう自分たちは闘えないことをわかっているはずなのにもかかわらず、ブラッドがまた口に破壊光線のエネルギーをためだしていたのである。 「てめぇら邪魔だ・・・・・・・消えろ」 標的は・・・・・・・ユウラ。 「!?ユウラ!あぶねぇ!!」 辺りを、光が包み込んだ。 「ユ・・・・ウラ・・・・・・怪我・・・・・は?」 2人は瓦礫に突っ込んでいた。 破壊光線がユウラを包み込もうとしたとき、コウが飛び、ユウラとともに瓦礫に突っ込んだ。 「!?ちょ・・・・・あんたその腕・・・・・・!」 コウはユウラをかばったためか、先に瓦礫に突っ込んで右腕を瓦礫にやられ出血していた。 「あ・・・・ああ、これか。だ、大丈夫だ。これくらい・・・・・・」 「だ、大丈夫じゃないよ!すごい出血・・・・!!」 「・・・・・・チ・・・・・外したか」 ブラッドが舌打ちした。 そして、1歩1歩歩いてくる。 (クソ・・・・・・・脚もやられたか・・・・・!ヤバイな・・・・・歩けそうにない・・・・!) コウが右足を怪我していない左腕で押さえつける。 「しぶとい連中だ・・・・・・・大人しく死んでいればいいものを・・・・・・」 ・・・・・・・刹那。 「待て」 「!」 今まで一寸たりとも動かなかったカイが、ブラッドを進路をさえぎる形で立つ。 「お前の目的は・・・・・・・俺だろう?」 「・・・・・・・・」 ブラッドが無言でカイを睨みつける。 「・・・・ユウラ、歩けるか?」 「え!?」 カイがユウラに背を向けながら質問する。 「えっとまぁ・・・・・歩けるけど」 「コウは・・・・・・・・歩けねぇな。足怪我してんだからよ」 「!へへ・・・・・・何だバレてたのか、隠しとおせる思ったんだけどな・・・・・・・」 「!え!?あんた足も怪我してんの!?」 「・・・・・・・・・」 コウが無言でズボンのすそを捲り上げる。 すると、右足に足首ののあたりから出血していた。 「・・・・・・・ユウラ、コウを担いで今すぐこの街を出ろ」 「え!?」 「・・・・・・・?」 「街を出たらすぐにキキョウシティに向かえ。  そこでポケモンの治療、んでもってコウの腕と足首の治療を頼む」 「でも・・・・・・・カイはどうするの!?」 「俺か?俺は・・・・・・・」 カイがブラッドを睨みつける。 ブラッドもカイを睨みつける。 「コイツに用がある」 「・・・・・・・わかった。でもカイ!無茶しちゃ駄目だからね!」 「ああ・・・・・・肝に銘じておくわ・・・・・・あっと、そうだ」 カイが突然腰をおろすと、背負っていたリュックをおろし、ジッパーを開けた。 中から何か黒い小さなものを取り出すと、脇に置いた。 次にカイは愛用のパーカーを脱ぐと、リュックの中に突っ込み、さらに首から下げていたロケットもリュックに突っ込み、ジッパーを閉めた。 そして立ち上がり、リュックをユウラに放る。 「そいつも持っててくれ・・・・・・必ず、取りに行く」 ユウラは小さく頷き、コウを何とか担ぎ上げると、ふらふらしながら街を出ていった。 廃墟となった街に、1人の人間と、1匹のポケモンが残った。 お互いに、鋭い目で睨みつける。 カイは着ている黒いTシャツをジーンズから引き抜き、ラフな格好になる。 さらに黒い物体・・・・・・指ナシで皮製の手袋を装着する。 「俺さ・・・・・・ずっと考えてたんだ。コウたちとてめぇが戦っている間」 「何・・・・・・・?」 「自分は何でここにいるのか・・・・・・なんで旅をしているのか・・・・・・。  何で戦っているか・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「でよ、よく考えたら俺・・・・・・存在すらしない組織を追い続けてたんだよな・・・・・・へへ・・・・・」 カイが、わずかながら微笑する。 「そうゆうことになるな・・・・・・・・・てめぇでてめぇがおかしいか?」 「ああ・・・・・・笑っちまうぜ。  エンジュシティでのガトウの言葉の意味が、やっと理解できたんだ。  “勘違い”・・・・・・つまりルーラァズをロケット団と“勘違い”してたってワケだ」 「・・・・・・・・」 「で、さっき言ってたなんで戦っているのかってヤツ・・・・・・アレも良く考えたら簡単だった」 「・・・・・・ほう、で?答えはなんだったんだ?」 「・・・・・・・コウみたいにさ、ルーラァズに復讐したくてたまんねぇヤツは沢山いると思うんだ。  力があってもなくても・・・・・・・そいつらはお前らに立ち向かっていく。  だけど・・・・・・・やられちまう。  お前らがいる限り、そうゆう無謀なやつが増えていく。だからこう考えたんだ」 「・・・・・・・・」 「俺1人でテメェらを倒せば・・・・・・・被害は一番少ねぇからな」 「ほう・・・・・・?倒せば・・・・・か。テメェにその自信が?」 「おおありだ」 カイが、彼の宝ともいえるヘアバンドを締めなおす。 「今からテメェを・・・・・・ぶっ倒す!!」 「やってみろ・・・・・・!」 ジュエルタウンを、異様な空気が包み込んでいた・・・・・・・。 戦いのゴングは・・・・・・・なった。  つづく  あとがき えー、今回のあとがきはクロがノックアウトされてしまったため、1人で語りマス。 なんかもうスッゴイメチャクチャになってきましたねハイ・・・・・・。 コウ怪我するわブラッド暴れるわで・・・・・・。 次回はカイVSブラッドというわけでですね、出来るだけ手抜きしないようにガンバリマス。  次回予告 第37話 カイVSブラッド(仮)