*****************  リベンジャー  第39話「この世とあの世の狭間」 ***************** 白い。白すぎる。 彼は真っ白な空間にいた。 わからない。 自分は何故ここにいる? 海中を漂う昆布のように、この空間を漂っているような気がして・・・・・・・。 『・・・・・・・・・・・・』 気が付いたらここにいた。 この謎の空間内で、わかることはゼロだった。 『ここは・・・・・・・・・・・・』 人には到底解読不可能の言えるポケモン語で、彼はボソリと呟いた。 『何処だ・・・・・・・・・?』 彼は心の中で思ったことを素直に口にした。 いまだに自分の立場を理解しきれないリザード・・・・・・カゲロウは立ち尽くしていた。 考え慣れない頭をフル回転させ、記憶の糸を手繰る。 確か、あの時・・・・・・・・・・・・・。 記憶は自分が倒れている場面から思い出せた。 記憶が正しければ、確か身体が麻痺した上、全身を怪我していたはずである。 そして、怪我をして動けないでいる人間の姿が、目に映っていた。 その前にいる、緑色のポケモン。 口を開き、光線を発射した。 麻痺した身体を無理やり動かし、飛んだ。 そこで記憶の糸は途切れた。 身体のフル回転が終了すると同時に、カゲロウは全身を調べた。 怪我はウソのように消え、痺れも抜けていた。 カゲロウが、辺りを見渡す。見覚えのない景色を。 『俺は・・・・・・・・・死んだ・・・・・・・のか?』 そう考えれば、この謎の真っ白な空間の疑問も解決する。 『てことは、ここは天国ってヤツ・・・・・・・・か?』 「半分、正解だ」 唐突に、カゲロウの背後から声がした。 彼が振り向くと、そこに、ポケモンがいた。 虹色・・・・・・といってもほんの3,4色だが・・・・・・・・の翼を持つ大きな鳥ポケモンが、カゲロウを見下ろしていた。 翼をたたみ、それでもカゲロウよりも背の高いポケモン。 『・・・・・・?誰だ?お前は』 「ここはこの世とあの世の狭間」 『何・・・・・・・・・・?』 「我が名はホウオウ。現世の生と死を治める者」 『・・・・・・・・・・?』 「状況が理解できないか?」 『できるかっつーのっ!』 ついつい怒鳴り散らすカゲロウ。 相手・・・・・・・ホウオウと名乗った鳥ポケモン・・・・・・は、微動だにせず、こちらを見つめている。 『生と死を治める者・・・・・・・・・・・ってことはアンタ閻魔様か?』 「近い存在だ」 『・・・・・・・てことは俺・・・・・・・やっぱ死んだのか?』 「否」 『・・・・・・・・・じゃあ生きてんのか?』 「否」 『じゃあどっちなんだよ!』 再び怒鳴るカゲロウ。 「お前は今、生と死の中間点に存在している」 ホウオウの言葉に、ただただ首を傾げるカゲロウ。 『・・・・・・・・わからん』 「質問は終りか?」 『ん〜・・・・いや、ちょっと待て・・・・・・・・・・。  あ!そうだ、カイはどうなった!!?』 「カイ・・・・・・あの死にかけの少年か?」 『!?死にかけだと!?どうゆうことだ!』 「彼は今、死の淵の立たされている。あの状況なら、彼は間違いなく死ぬ」 『何・・・・・・・・・!!?』 「下を見よ」 『下・・・・・・・・・・・?』 ホウオウと名乗る謎の鳥ポケモンに言われ、カゲロウは自分の足元を覗き込んだ。 『!?うお!』 そこにあった白い床が消えうせ、代わりに透明なガラスが敷き詰められていた。 その下に、あの戦場が見えた。 そう、自分が先ほどまで戦っていた、あの戦場が。 しかし、音は聞こえなかった。どうやらこのガラスのようなものは音を遮断してしまうようだ。 まず目に付いたのは、あの忌まわしきバンギラス、ブラッドだった。 ブラッドは傷ついた身体をおしてまで戦おうとする仲間たちを、赤子の手をひねるようになぎ倒していく。 そして、あざ笑う。 その顔を見ていると、怒りが込み上げてくる。 一方、カイはというと、オレンジ色の物体の前で膝をつき、がっくりとうなだれていた。 次に、カゲロウはそのオレンジ色の物体を見て愕然となった。 自分の死体。 認めたくなかった。自分が死んだなんて。 カゲロウが歯軋りさせながら、顔をあげた。 『オイ閻魔』 「ホウオウだ」 『何でもいいさ。俺はこのまま死ぬしかないんだろ?  だったらとっとと天国でも地獄でも案内しやがれ』 「誰が死ぬしかないといったんだ?」 『へ・・・・・・・・・?』 「お前には名誉と言う名のチャンスがある」 『・・・・・・・言ってることがよくわかんねぇんだけど・・・・・・・・・』 「言ったとおりだ。お前は自分の死と引き換えに、一つの命を救った。それが名誉だ」 『だからどうゆう意味なんだよ!』 「お前は蘇生が可能だ」 ・・・・・・・・・・・・!!? 『!?』 突然のホウオウの言葉に、カゲロウは目を丸くした。 『蘇生・・・・・・・・そう言ったのか?』 「ああ」 『・・・・・・・・てことは、俺、生き返れるのか?』 「そのとおりだ」 『ちょっと待てよ。俺はカイの命を救ったからその名誉を使って、生き返れるのか?』 「そのとおりだ」 『じゃあよ、他にもさ、人の命を救って死んだやつなんていっぱいいるんじゃねぇか?  そうゆう奴全員生き返らせてるのか?』 「否。お前は特別だ」 『特別?』 「それで、どうするのだ?蘇生を受けるのか?」 『あ、テメェ話すりかえやがったな』 「ここで蘇生を受けなければお前の魂はこのまま天に召されるだろう。  そして、あの少年はこのままバンギラスに殺される」 『な・・・・・・・・・!受ける受ける!頼む!蘇生してくれ!  俺はこんなところで死んでる場合じゃねぇんだ!カイを護らなればならないんだ!』 「ならば我が質問に答えよ。その答えがお前の魂の行き先を決める」 『オウ!質問でもなんでもしやがれ!』 「そなたにとって、あの少年、カイは何だ?何故そこまでして護る必要がある?」 『あ・・・・・・・・・?』 そんなこと、一度も考えたことは無かった。 答えが、ハッキリしていたから。 『・・・・・・・あいつは、家族みてぇなヤツなんだ』 「家族?」 『俺が生まれたとき、はじめて見たのがヤツだった。  俺は“すりこみ”ってヤツで、そのままカイを親だと思い込んでたよ。  だが、やつはあくまで俺たちを友達として、ポケモンとして、俺たちを育ててくれた。  まだ幼く、不器用だったアイツのことだ。そうでもしねぇと俺たちと付き合えなかったんだろ。あいつは・・・・・・・・・・・・・』 「・・・・・・・・・・・」 『友達だ』 「・・・・・・・・・・よかろう。お前をこれから“蘇生進化”させる」 『・・・・・・?そせいしんか?』 「後にわかる」 ホウオウが言葉を発してからしばらくだんまりが続いた。 カゲロウが、突然口を開いた。 『!?うお!なんだなんだなんだ!!?』 カゲロウの身体が、足元から消え始めていた。 消失はどんどん身体を侵食してくる。 ついに、カゲロウが首だけになったとき、 「行け。若き炎の竜よ」 その言葉が、最後までカゲロウの耳に突き刺さっていた。 「ピ・・・・カ・・・・・チュ・・・・・・・・・・」 ライラが身体を起こした。 何とか歩き、ブラッドの前に立ちふさがる。 「・・・・・・・・死にぞこないが、まだやる気か?」 ライラが、風になり、消えた。 ブラッドは勘を頼りに、後ろに振り向こうとした。 が、その勘は見事に外れる。 ライラはただ正面に飛び込んだけだった。 『“電連拳”!!』 ボグゥッ!! ライラが放った雷パンチが、ブラッドの顎にヒットした。 のけぞるブラッド。 『まだまだぁ!』 ライラはすぐに後ろに回り込み、雷パンチを入れる。 ライラはその後も連続で雷パンチを入れ続けた。 『これで終りだァ!“爆連拳”!!』 電気エネルギーがたまっていた拳が、光り輝く拳になった。 「ったく・・・・・・・・チョロチョロうるせェヤツだったぜ・・・・・・・・・・・・」 ブラッドは再び歩き出した。 1歩1歩、カイの元へ。 近くの瓦礫から煙が立っており、その中には昏倒しているライラの姿があった。 「さぁてっと・・・・・・・・・・・・・・そろそろ死んでもらうぜ。カイ・ランカル」 ブラッドは十分狙える距離まで近づくと、カイに破壊光線の大砲を向けた。 カイがゆっくり顔をあげた。 その顔は、絶望。 もはや逃げる事すらままならない血を流した脚。 倒れた仲間。 死んだ仲間。 カイは心の中で死を受け入れていた。 ブラッドが大砲の導火線に点火した。 たまっていくエネルギーが、導火線を火がたどっていく音に、カイは聞こえた。 ・・・・・・・・刹那。 爆音と共に、爆風が彼らを襲った。 すさまじい轟音を轟かせながら、それは姿を現した。 炎。 ブラッドとカイの間に倒れていたカゲロウの周りから、火の手が上がった。 炎はカゲロウを包み込むと同時に、カイを護っている様にも見えた。 「な・・・・・・!?これは・・・・・・・!」 「・・・・・カゲ・・・・・・・・ロウ・・・・・・?」 ブラッドの驚愕の声と、カイの気が抜けた声。 その時、ブラッドは見てしまった。 炎の隙間から、こちらを覗いている“化け物”の姿を。 長い首。 大きな翼。 尻尾に灯った、活気溢れる炎・・・・・・・。 そして、鋭い眼・・・・・・・・。 ブラッドは気が付かなかった。 その一瞬の隙をつかれ、炎の中から強大な火球が現れ自分を吹き飛ばしたことに。 「!!!???」 ブラッドは地に一度も身体をつけることなく吹っ飛び、道の突き当たりにあった廃ビルに突っ込んだ。 その衝撃で崩れ落ちる廃ビル。 その信じがたい光景をぽかんと口を開けたまま見ていたカイとその仲間たち。 カゲロウを包み込んでいた炎がゆっくりと消えていった。 その中から姿をあらわしたポケモンを見て、カイたちの顔は歓喜に見舞われた。 『・・・・・・よぉ!待たせたな!』 そこに、リザードの姿はなかった。 たくましい翼、がっしり地を踏みしめた脚、尾に灯った炎・・・・・・・。 火炎ポケモン・リザードンが、笑顔で笑った。 『キャ・・・・・・キャゲロ〜!!(カゲロウ〜!!)』 と、ライラとリングが鼻水と涙を流しながら叫んだ。 『あれが・・・・・・・・・カゲロウなのか!?』 と、クーラル。 『すごい・・・・・・・・!』 と、スピン。 『フン・・・・・・・出会ったときから只者ではないと思っていたが、まさか生き返るとはな』 と、カゼマル。 「カゲロウ・・・・・・・お前・・・・・・・・!」 と、カイ。 カゲロウが振り返り、カイを見下ろしながら、こう言った。 『俺は・・・・・・・・・・不死身だ』 炎が、ゆっくりと、燃え上がる・・・・・・・・・・・・・・!!  つづく  あとがき カゲロウふっかぁー――――ツ! 次回はカゲロウとブラッドの無制限デスマッチ(?)だァァァ!!  次回予告 カゲロウがホウオウから受け継いだ力が、ブラッドを襲う・・・・・・・! 第40話 不死身の竜(仮)