「・・・・・・ルギアの言っていたとこは、正しかったようだ・・・・・・・・」 ジュエルタウンの片隅に立っていた廃ビルの上で、ホウオウは戦況を見守っていた。 “この世とあの世の狭間”で、カゲロウを蘇生進化させたホウオウが。 灰色の廃ビルとは浮くほど目立つ翼を微動だにせず。 「確かに、あのリザードンなら・・・・・・・・いや、あの少年、カイなら、千年前の決着に片をつけることが出来るかもしれ・・・・・」 唐突に、爆音が轟いた。 「!?何だ、何が起きた!」 ************  リベンジャー  第41話「小さな強敵」 ************ 「グ・・・・グオ・・・・・」 カゲロウとブラッドを中心に、円形状に多量の砂埃が取り囲んでいた。 謎の破壊光線の襲来で、カゲロウは危機一髪で後ろに飛び、破壊光線を回避した。 この砂煙は破壊光線は地面をえぐったときに発生したものだ。 「カゲロウ!無事か!?」 カイたちが小走りで砂煙内に入ってくる。 とりあえず無傷のカゲロウを見てカイたちは安堵の笑顔を浮かべる。 が。 『・・・・・・よくぞ避けたものだ・・・・・・・』 不気味な声が、カイたちが入ってきた方角とは逆の方角から聞こえてきた。 とりあえずわかることは、声の主がポケモンだということだけだ。 砂煙にシルエットが移りこんだ。 太い腕、太い足、頭にはツノが見える。 シルエットが砂煙内に進入してきた。 ドリルポケモン・ニドキングだ。 ニドキングは倒れているブラッドを見るなり、 『無様だな、ブラッド。貴様の敗因は、体力配分の無知さと、その根拠のない自信から発生した油断だ』 「テメェ・・・・・・俺を笑いに来たのか!ラダン!」 ブラッドが上半身を起こしながら叫んだ。 ラダンと呼ばれたニドキングは、平然とした顔で、 『助けられたヤツの第一声がそれか?貴様、負けたことで無知さにさらに磨きがかかったようだな』 「喧嘩売ってんのか!?」 『喧嘩という商売は存在しない』 「この・・・・・・・!」 ブラッドは眉間にしわを寄せ、立ち上がりラダンに殴りかかった。 が、ボロボロの身体で立てるわけも無く、そのまま前のめりに倒れかけた。 倒れかけたブラッドの身体をラダンが受け止める。 「テメェに・・・・・肩なんか貸されたくねぇぞ・・・・・・」 『不本意だ。普段の俺なら先ほどの時点で見殺しにしている』 「何・・・・じゃあ何故・・・・・・」 『ロットの命令だ』 ラダンがカゲロウに顔を向けた。 カゲロウの緊張感が爆発的に高まり、構える。 『貴様・・・・・確か名をカゲロウといったな・・・・・・』 『あ、ああ』 ラダンの不気味さを漂わせる言葉づかいに、カゲロウは戸惑いを隠せないでいた。 『なかなか・・・・・・腕は立つようだな』 『ま、まあな』 『ただ・・・・・』 『ただ?』 『運が悪かったな・・・・・・』 ラダンの横を、砂煙の外から高速で進入した謎の塊がカゲロウに向かって一直線に飛んでいった。 カゲロウはその塊が目の前に来てやっと確認して、反射的に目を閉じた。 刃と刃がぶつかり合う音。 カゲロウに飛び掛った物体から刃物が飛び出したのを瞬時に確認したカゼマルは、一気に飛び出し物体の斬撃を受け止めた。 塊はまさしく謎の塊だった。 茶色い。 茶色い奇妙な塊だ。いびつな円盤状の身体から、2本の鎌が飛び出し、カゼマルの2本の鎌に直撃した。 一瞬の間の後、塊がビキビキと奇妙な音を発しながら動いた、いや、変形した。 変形が終了し、2本の鎌を持った甲羅ポケモン・カブトプスが姿を現した。 そのままカゼマルとカブトプスの鎌が鍔迫り合いになる。 『・・・・・・・何のつもりだ?貴様』 『そりゃあ・・・・・・自分で答えろ・・・・・!』 カブトプスとカゼマルの、刃を交わしながらの会話、なかなか奇妙な光景だ。 『そんな身体で何が出来る?特に左眼は失明にはいたっていないものの、今は使い物にならない状態だろう?』 『左眼が・・・・・・・なくたって・・・・・・戦える!  それと・・・・・・どうせだからさっきの質問の答えてやる。仲間を・・・・・護るためだ!』 『・・・・・・・・その身体では自分の身すら護れないのではないか?』 『知るか・・・・!護ると言ったら護るんだ・・・・・・!』 『・・・・・・・・死んでもか?』 『仲間を見捨てるなら・・・・・・・・死んだほうがマシだ!』 『・・・・・・・・・・』 『・・・・・・・カゲロウ!皆を連れてすぐにここから離れろ!巻き添えを食うぞ!』 『お、おう、わかった!』 『・・・・・・・・貴様、その身体で私を倒そうと言うのか?』 カブトプスの刃が少しカゼマルを押し出した。 『ク・・・・・!』 『どうした?少し力を込めただけだが』 後ろに振り返り、皆を逃がそうとしたカゲロウが、カゼマルの危機にまた振り返った。 『!カゼマル!』 『俺にかまうな!行け!』 カゲロウは歯を噛み締め、振り返ろうとしたがラダンの声で止められる。 『待て。俺の相手はどうなる?俺を退屈させるな』 『クソ・・・・・!』 カゲロウが振り返った。 ブラッドはすでに自力で立ち、後ろに下がっている。 『さぁ、いくぞ!』 『こうなりゃヤケだ!来い!』 鈍い音が響いた。 音の発信源は、カブトプスの頬と、ラダンの背中だった。 正確に言えば、カブトプスの頬と、ラダンの背中を蹴ったポケモンの足だ。 突然の攻撃に、思わず吹っ飛ぶ2匹。 2匹を蹴ったポケモンが、宙を待った後、着地した。 逆立ちポケモン・カポエラーだ。 『く・・・・・何故邪魔をする!アーリィ!』 カブトプスが抗議の言葉を発した。 『・・・・・・・・・』 アーリィと呼ばれたカポエラーは、2匹を睨みつけ黙っていた。 カブトプスの言葉から察するに、2匹の仲間のようだ。 2匹を睨みつけていた眼をラダンに絞ったアーリィ。 『・・・・・・・何か言いたげだな。ラダン』 『・・・・・・・アサシンと同じだ』 どうやらカブトプスの名前らしい。 『何故・・・・・・邪魔をした?』 『・・・・・・お前たちが命令に背いたからだ』 その言葉と同時に、ラダンとアサシンの顔が驚愕の表情になった。 が、すぐに申し訳なさそうにうつむき、 『まぁ・・・・確かにそうだが・・・・・・・』 ラダンが険しい顔を上げた。 『この場で始末しておけば、ロットの仕事も減るだろう!』 『ロットの意思に反してでもか?』 『だ・・・・だがしかし!いつかは戦うことになる!  今のうちに・・・・・・・』  「何をしている?」 『・・・・・・・・!!』 ラダンとアサシンの顔が凍りついた。 声の主は若い声だ。 カイたちには何が起きているかわからないといった顔だ。 ブラッドのみが、自分たちの後ろから聞こえてきた声の主は誰かわかっていた。 ラダンとアサシンは恐る恐る振り返る。 そこに1人の少年がいた。 140センチほどの身の丈、ストレートの短い金髪、女の子のように整った顔つき、大きな緑色の目、少し大きな紫色のローブを羽織って、下から黒ブーツが顔を覗かせている。 その横にはエアームドが立っていた。 「僕の命令を理解していなかったようなね。ラダン。アサシン」 やさしい口調だが、いくらか殺気が混じっていたのを、2匹は敏感に感じ取っていた。 「ブラッド、お前には“カイ・ランカル抹殺指令”を命じた。  ラダン、お前には“ブラッドの救出”を命じた。憶えてるな?」 2匹は無言で頷いた。 「ブラッドは任務を失敗してしまったが、まぁそれは許す。  ラダン。君は命令以外の行動までしてしまった。まぁそれも許す。  アサシン、君は何をしていた?」 『う・・・・・・・・・』 アサシンは言葉を詰まらせた。 「・・・・・・・・・・・・まぁいいさ。ブラッド、ラダン、アサシン、それとアーリィ、ボールに戻るんだ  後でブラッドを通じてじっくり話を聞く」 少年がボールを取り出し、4匹をボールに戻した。 「・・・・・・・・・・・・」 少年がゆっくり歩いてくる。 カイたちが身構える。 「はじめまして、僕はルーラァズ最高三幹部の一人、ロット・バズアル。  組織内では別名“イレイザー”とも呼ばれてます」 「・・・・・・・・・・・」 カイの顔が緊張でこわばっていた。 相手は先ほどのバンギラス、ニドキング、カブトプス、カポエラーの育ての親なのだ。 どれも異常な強さを持つ相手を前にし、カイは緊張の色を隠せないでいた。 「そう硬くならないでください。僕は君と戦うつもりはない」 「何・・・・・・・・?」 「単刀直入に言います。これ以上ルーラァズに関わらないでください」 「・・・・・・・・いやだ」 「え!?」 「正直な話、いろいろ話がこんがらがってるんだ。  あの日、島を襲ったバンギラスがブラッドで、そいつを操っていたのはガトウだ。  何故トレーナーでもないガトウの命令をブラッドは素直に聞いていたんだ?」 「・・・・・・・・・ヘヴン様に命令されたからです。ヘヴン様の命令となれば、いくら僕のポケモンでも命令に背く訳にはいかない」 「・・・・・・テメェらのボスの・・・・・・・・そのヘヴンってヤツは一体何者なんだ?」 「話す訳にはいかないのです。もう一度言いますよ、カイ・ランカル、これ以上ルーラァズに関わらないでください」 「・・・・・・・カイでいいぞ。俺もロットって呼ばせてもらうけどな」 「ええ、構いません。で?どうするのですか?」 「・・・・・・・・・忠告してもらったと悪ィけど、俺はやつらに復讐しなきゃねらねぇんだ。その忠告は聞き入れない」 「・・・・わかりました。でも覚えていてください。ヘヴン様はあなたをルーラァズに勧誘するつもりです。強くなった後で」 「・・・・・・・・・・俺を戦力にしようってのか?」 「その通りです。では、僕はそろそろおいとまします。会えたら、またいつか」 ロットはエアームドに飛び乗ると、風を切りながら飛び去っていった。 そこに残されたカイは一人、こう思っていた。 (・・・・・・・・変わったやつだったな) 夜空に、三日月が不気味に光り輝いていた。 「何の用ですか?ホウオウ」 夜空をエアームドに立ち乗りしているロットの横に、あのホウオウが飛んでいた。 「・・・・・・・お前はヘヴンが何をしようとしているのかわかっているのか?あいつは・・・・・・・・・!」 「僕にとってヘヴンが何だろうと、僕には関係ない」 「?」 「ヘヴンは・・・・・・・・僕が倒す。ホウオウ、あなたは邪魔しないでくださいよ」 ロットはそう言い残すと、エアームド・・・・・・・・ホークの背中を軽く蹴った。 すると、ホークは速度を速めホウオウの前から姿を消した。 「・・・・・・・・・・・」 夜空に取り残されたホウオウは、心なしか、不安だった。 ヘヴンが世界を巻き込むある計画を、着実に進めていたことを知っていたから・・・・・・・・・・・・。  つづく  あとがき 手を抜きました!(爆) やっとカイとロットの出会いを書けてなんかうれしかったです。(?)  次回予告 第42話 単眼の剣士(仮)