************  リベンジャー  第42話「単眼の剣士」 ************ AM11時、キキョウシティポケモンセンター。 自動ドアから入ってすぐ、ホールが広がっている。 すぐにカウンターが目に入るが、誰もいない。 カウンターの左右にドアがあり、向かって左のドアの上にランプが設置されており、赤く点灯している。 センター内には人がちらほらしている。 「・・・・・・・・・」 カイは壁沿いに設置された背もたれ付きの長椅子に腰掛けていた。 背もたれに身を任せ、白い天井を見つめている。 ジーンズに隠れて見えないが、左足に包帯を巻いていた。 愛用のへアバンドを首にかけ、青い前髪が目にかかっている。 時折カウンターの横のドアの目をやり、赤いランプがまだ点灯しているのを見て、ため息をつきまた天井を見つめる。 唐突に、自動ドアが開いた。 ポケットに手を突っ込んだコウが歩いてくる。 右足と右腕に包帯を巻いている。ちなみに足はカイと同じように見えない。 右の頬にはガーゼ。 カイよりも酷い怪我を足に負っているのにもかかわらず平気で歩いてくるコウ。 たまにこいつには神経というものが無いのかと、カイは思わされる。 「よ、怪我人」 コウは入ってくるなりカイに話し掛けた。 「よ、大怪我人」 「具合はどうだ?」 「んー、ぼちぼちだ。ユウラはどうした?」 「図書館で調べ物してるらしい。“蘇生進化”について調べてるみたいだぜ」 「そうか・・・・・・行ってやらなくていいのか?」 「あ?何で?」 「アイツきっと落ち込んでるぞ。自分のせいでコウが怪我したって思ってんじゃねぇか?」 「な〜に、アイツはそんなタマじゃねぇさ。気にすることじゃねぇよ」 「ホントに・・・・・・・・行かないつもりか?」 「何だよ、しつこいな」 「お前、ユウラのこと好きなんだろ?」 「う・・・・・・・」 カイがコウの急所を突いた。コウは精神的大ダメージを受けた。 コウが言葉を詰まらせる。どうやら図星だったらしい。 「テ・・・・テメェ・・・・・いつの間に読心術を・・・・・・」 「んなもんあるか。見てりゃわかるっての・・・・・・・・。  ていうかお前、この前言ってたろ。  ゴルバットに襲われたとき、俺たちのモットーの反するよなって・・・・・。  俺たちのモットーは、大事なものを護ることだろ?  あれってユウラを指してたんだろ?」 「さ・・さすがカイ・・・・・・・たったそれだけのことで俺の心の内を暴くとは・・・・・・」 「だから丸わかりだっての・・・・・・・・」 コウがカイから視線をそらした。 コウの目線の先には、赤いランプの灯ったドア。 「・・・・・・まだ終わらねぇのか・・・・・」 「ああ・・・・1人、重体だからな」 「まぁいいや・・・・・・・じゃあ俺ァ図書館に行ってるわ」 「了解、ユウラを落ち込ませるようなこと言うなよ。あと決してる告るのはやめろよ」 「バ・・・んなことするかァ!」 コウが顔を赤面させながら出て行った。 自動ドアが閉まると同時に、ドアの赤いランプが消えた。 反射的に腰を上げるカイ。 ドアが開き、中からライラ、リング、スピンが飛び出した。 どれも怪我は完治していた。 カイに走りより、そのまま飛びつく。 カイはさすがに3匹も同時に受け止めきれず。尻もちをつく。 「ピッカ!」 「ギャララララ!」 「ギャウ!」 甘える3匹。それを笑顔で受け止めるカイ。 さらにドアから、翼を縮めて出てくるカゲロウ、そしてクーラル。 カイが3匹を降ろし、立ち上がった。 そして、クーラルの後ろから出てきたものを見て、カイはため息をついた。 (やっぱりな・・・・・・) ドアから出てきたカゼマルは、やはり、重体だった。 頭から左の頬にかけて、包帯が巻かれていた。 カゼマルの後ろから、ポケモンセンターの看護婦、通称ジョーイが出てきた。 すごい剣幕だ。カイはその理由を知っている。カゼマルの左眼だろう。 ジョーイはライラたちの横を横切り、カイの前に立ち 「あなた、ポケモントレーナー失格よ!」 と、怒鳴りつけた。 怒鳴りつけられることは、カゼマルの左目の具合から見てわかりきっていた。 「一体どうゆうバトルをしたらあんな怪我をするの!?  あなたのストライク、もう少しで失明するところだったのよ!  もし失明していたらどう責任を取るつもりだったの!?」 ジョーイはカイに怒声をぶつけ続けたが、カイはあえて黙りこくっていた。 反論できなかったからだ。あの時、飛び出していくカゼマルを止められなかったのは、自分の責任だと、カイは反省していた。 その後10分ほど叱られ続けた後、ジョーイはカゼマルの左眼の状態を教えてくれた。 カゼマルは左目の瞼に擦り傷を作っており、失明ギリギリ。 無理に開ければ大量出血し、瞼は開かなくなり失明。 バトルももちろん禁止。 3日に1回包帯を替えるようにいわれた。 カイはジョーイに一礼すると、センター内の食堂で食事を済ませた。 センターを出ると、ポケモンたちを今日一日自由行動させることにした。 夕方にはポケモンセンター前に集合。 ライラとリングが近くの森の中へ走っていく。 スピンはカイと一緒にいることにしたようだ。 カゼマルは軽く跳躍し、ポケモンセンターの屋根の上に乗ると、辺りを見渡しどこかへ消えていった。 クーラルもさりげなく姿を消している。 「カゲロウ、付き合ってくれ」 カゲロウがコクリと頷いた。 カゲロウが身を低くすると、カイがその背中に飛び乗った。 スピンも飛び乗る。 翼を羽ばたかせ、飛び上がった。 キキョウシティ上空を飛び回る。 最初は振り落とされそうになったカイだが、すぐに乗りこなした。 カゲロウはしばらく飛び回ると、街のはずれにある小高い丘の上に着地した。 カイとスピンが飛び降りる。 カイは飛び降りるいなや、ごろんと寝転がった。 カゲロウも身体を横にし、軽く丸くなる。 尾の炎が草に燃え移らないように尾を翼の上に置くと、目を瞑り寝息を立て始めた。 それにつられスピンも丸くなり寝息を立て始める。 カイはその横で両手を頭の後ろにやり、足を組むと青空を見つめた。 カイのポケモンたちは比較的仲は良い。 ただ、一部のみ隙ぶる仲が悪い者たちがいた。 リングとスピン。 前向きで何事も気にしないリングに対し、臆病で引きこもりがちなスピン。 スピンは仲良くなろうと努力するのだが、リングは臆病でうじうじしたヤツが大嫌いだという。 森の中で始めて会話してから、彼らは一度も話さなくなった。 眼も合わせようとしない。 ライラは全員と仲が良い。もちろんスピンとも。 先ほどスピンがライラについていかなかったのは、先にリングがライラについていってしまったからだ。 せめてリーグまでには仲良くさせるのが、カイの目標だ。 「・・・・・・・・・・・」 カイはあの戦いの後、カゲロウの背中に半分負ぶさる形で乗り、ここ、キキョウシティまで来た。 ポケモンセンター内にはコウとユウラが待っていた。 カイは2人に2人が去った後起きたことをすべて話した。 カゲロウが一時的に死んだこと、生き返ったこと、ロットとそのポケモンたちが現れたこと・・・・・・・・。 ちなみに蘇生進化については、カゲロウはクロを通じて教えてくれた。 カゲロウは一時的に死んだとき、“この世とあの世の狭間”というところでホウオウというポケモンに会い、蘇生してくれたという。 にわかに信じられない話だったが、あの時確かにカゲロウは死んでいた。 死者が生き返ったのだから、さすがに信じることしか出来なかった。 「・・・・・・・・・・」 カイはロットの言葉が気になっていた。 ―――ルーラァズに関わらないでください――― ロケット団の生まれ変わった組織、ルーラァズ。 ヘヴンという謎のポケモンを首領とした、犯罪組織。 ブラッドの話から推測するに、ルーラァズはロケット団に比べ、かなり大規模な組織らしい。 ヘヴンはロケット団当時、すでに組織を裏で牛耳っていたという。 関わるな?冗談じゃねぇ。 するなって言われると、逆にちょっかい出したくなってきたしな。 ヘヴンってヤツの顔を・・・・・・・母さんを殺した張本人の顔を最低1回はぶん殴るまで、俺はルーラァズを追う。 ガサ・・・・・・。 いつの間にか閉じていた目が、草むらに着地した謎の音で開かれた。 カイが横を見ると、そこにカゼマルが座っていた。 「・・・・・・・・」 カゼマルはカイに眼を向けず、ただ目の前に広がる虚空を見つめていた。 カイもカゼマルから目を離した。 そして再び青空を見つめる。 「・・・・・悪かったな」 カイの言葉に、カゼマルは首を振った。 ―――お前の責任ではない――― カゼマルは心の中でカイに言うと、再び虚空を見つめた。 しばらく虚空を見つめ続けた後、おもむろに立ち上がった。 きょろきょろ辺りを見渡し、近くに立っていた木を見つけると、そこに向かって歩いていく。 よく葉の茂った木だ。 カゼマルはその木の前に立つと、突然蹴りつけた。 ドン! その音に、カゲロウとスピンが何事かと起き上がる。 カゼマルの前に、5枚の葉が落ちてきた。 目を閉じ、神経を集中させるカゼマル。 そして、動いた。 一閃。 カゼマルがあたりに落ちた葉の数を数えた。 7枚だ。 完全な形の葉が3枚、そして、半分に切れた葉が4枚。 カゼマルが顔をゆがませた。 落ちてきたときには5枚、そして今あるのは7枚。 これはカゼマルが5枚のうち2枚しか斬れなかったことを意味する。 カゼマルが再び木を蹴りつけた。 ドゴンッ! 今度は10枚以上落ちてきた。 先ほどよりさらに増して神経を集中させるカゼマル。 刀の煌き。 カゼマルは地に落ちた葉を見て落胆した。 斬れたのは半分に満たなかった。 ヤケになってか、木、本体をぶった斬ろうとカゼマルが振りかぶった。 「カゼマル!」 カイに怒鳴られ、カゼマルは刀を下ろした。 振り返ってみれば、カイが上半身を起こし、カゼマルを睨んでいた。 「お前のやっていることは・・・・・・・・ほとんど意味のない行動だぞ?カゼマル」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「聞いてたんだろ?さっきの話。  お前は傷が完治するまでバトルは禁止だ。特訓も禁止する。  まぁ、移動系の特訓は許可しよう。  だが、回避系は禁止だ。攻撃があたったら元も子もないからな」 「・・・・・・・・・・・・・」 「それに、左眼のつかえない状態で刀を使った特訓をすれば、その内左眼を使わないで攻撃可能になるだろう。  だがな、左目ナシのバトルに慣れれば左眼が完治したときにはどうする?  完治したとき、お前が逆に弱くなる。わかるな?」 「・・・・・・・・・・・・・」 カゼマルは最後まで、黙ったままだった。 「お、来た」 夕方、カイはポケモンセンターの前で待ち人を待っていた。 夕焼けをバックに、コウとユウラが歩いてくる。 なにやら楽しそうに話している。まさか告白したのだろうか。 「よう、妙に楽しそうだったな」 「ま、まぁな」 「カイ、ごめんね、蘇生進化のこと・・・・・・・・・・・何もわからなかった」 「いや、ユウラのせいじゃねぇさ。さ、メシ食いに行こうぜ」 カイがそう言うと、ユウラがやけに笑顔でポケモンセンターに入っていった。 カイとコウがその後に続く。 カイがコウに小さな声で耳打ちした。 「なんか・・・・・・・・・・・不気味なぐらい笑顔だな。ユウラのヤツ」 「ああ・・・・・・・・・・脳みそフル回転させて励ましの言葉送りまくったからな」 「告ったのか?」 「するかアホォ!!」 カイがからかい半分で言うと、コウがつい大声で否定してしまった。 「ん?どうしたの?」 ユウラが振り返り、不思議そうな顔で訪ねてきた。 「あ、い、いや、何でもねぇよ」 「ふ〜ん・・・・・・・・・・・・・」 ユウラが再び前を向き、食堂に向かって歩き出す。 「ふ〜、あぶねぇな。おいカイ、変なこと言うんじゃねぇよ」 「いやだってよ、内容的には事実だろ?」 「まぁ・・・・・・・・・確かにそうだけど・・・・・・・」 「ま、寝るときゆっくり聞かせてくれや」 「だからしてねぇっての!!」 コウの周りに迷惑がかかるほどの声で叫ぶと、ユウラが口に人差し指に手をやり、シーっと言った。 反射的に口を手でふさぐコウ。 それを見て横で苦笑いするカイ。 キキョウシティの夜はふけていく。 明日、カイの予定。 朝食後、しばし休憩、そして、ジム戦へ・・・・・・・・・・。  つづく  あとがき クロ「・・・・・・・・・・」 YAN「うお!?クロ、お前いつの間に!?」 クロ「・・・・・・・・・疲れた」 YAN「は?」 クロ「もうこのあとがき出るの疲れたからさ・・・・・・俺もうやめるわ。    今度代わりのヤツ出すからさ、それまで1人でがんばれや、じゃな」 YAN「な!?オイクロ!・・・・・・あー・・・・行っちゃったよ・・・・・・・。    突然クロが人生に疲れちゃったので(?)しばらく1人で寂しくあとがきします。    なんか急展開ですね・・・・・・リベンジャー初のカップルの誕生の兆しが見えてまいりました。    まぁもしカップルになってもバカップルになる可能性が・・・・・・(爆)」  次回予告 第43話 天空の王者VS不死身の竜(仮)