**********  リベンジャー  第44話「俺の宝」 ********** 「・・・・・・・・・は?」 カイの超驚きの告白に、コウとユウラは口がふさがらなかった。 キキョウシティ、コガネシティ間上空。 カイはカゲロウの背中に、コウとユウラがリュウの背中に乗って、空の旅を満喫していた。 カイは手の中でキキョウジムで手に入れたバッジ、ウイングバッジを転がしている。 「よくそんなんでハヤトさんのピジョットを破ったな・・・・・・」 コウがふさがらない口を無理やりふさぎながら驚いた。 「ていうかありえないでしょ・・・・・・・お腹が鳴った音でピジョットの位置を発見するなんて・・・・・・・・・・」 話の議題は、昨日のカイとハヤトとの一戦。 「あたしの場合はさ・・・・・・・スゴかったよ〜!  クロがもう反則すれすれの方法でピジョットを倒したんだから・・・・・・・」 「反則すれすれ?」 「そ・・・・・・・・ハヤトさんがゴットバードを指示した後、ハヤトさん「行け!」って言ったのさ。  それを頼りに、クロが・・・・・・・・・・」 「クロが?」 「迫り来るピジョットに、すごい顔して動きを鈍らせて、その隙に・・・・・・・」 「「すごい顔?」」 「想像にお任せします」 同時にカイとコウはそれぞれ頭の中に、“すごい顔のクロ”が思い浮かべられた。 カイの頭には、目を飛び出させ、さらに鼻の穴を含まらせているクロの顔。 コウの頭には、口と鼻の間に割り箸を突っ込んで(?)、どこかで見たような踊りを繰り広げるクロの姿を思い浮かべる。 「そういやコウは?どうやったの?」 「ああ、俺?俺は普通にフラッシュで・・・・・・・」 「な〜んだ・・・・・。普通か・・・・・・・」 「いやなんでそんな残念そうなんだよ!?」 「だって、コウのことだからきっと面白い方法で・・・・・・・・」 「何で俺=面白いなんだ!?」 「おい、バカやってねぇで前見ろ。見えてきたぞ」 カイの言葉に、コウとユウラが前方を見た。 少しずつ見えてくる、大都会、コガネシティ。 「よっしゃあああああ!着いたァ!コガネシティィィ!!」 「あ、久しぶりにコウの叫び聞いた」 「おお、そういやそうだな」 彼らはコガネシティポケモンセンターの前に立っていた。 キキョウでバッジを手に入れた時点で、彼らはもう一緒に旅をせずに違う方角に向かうはずである。 だが、お互いに旅の支度を整えるために、ここコガネシティに立ち寄ったのだ。 「え〜と・・・・・・・・今PM1時ちょうどだから・・・・・・・・・。  そうだね、4時ぐらいにさ、駅前にあるカフェで待ち合わせしない?」 「おっし!ゲーセンへレッツゴー!!!」 コウが疾風のごとく走り去っていった。 「速・・・・・・・」 「いつものことだろ。じゃ、俺ァ食糧の調達でもしてくるわ。また後でな」 「うん、じゃあね」 カイとユウラも別方向へ歩き出した。 今日という日が、とんでもない日になることも知らず・・・・・・・・。 PM1時30分、ポケモンセンターから一人の少女が出てきた。 身長130〜140程で、細めの身体。 膝のところで断ち切られた黒のスパッツに、赤と黒で構成されたシャツ。 腰まで伸びた、さらさらで綺麗な茶髪。 髪の色と同じく、茶色の瞳。 首に、銀色のロケットが掛けてある。 肩にはクリーム色のリュック。 その傍らには、太陽ポケモン・エーフィが立っていた。 「ここも手がかりナシか・・・・・・・・・どうしよっか、フィル」 少女がエーフィのフィルを見下ろした。 フィはその視線に気付くと、にっこり笑う。 「そうだよね、諦めたらおしまいだよね。さ、聞き込みしよっか」 「キュウ!」 フィルは一声鳴くと、少女の肩に飛び乗った。 そして、コガネの街を歩き出す。 「どこにいるんだろ・・・・・・・カイのヤツ・・・・・・・・」 PM2時15分。コガネゲームセンター。 「よっしゃああああ!またスリーセブン!! コウはその声と流れ出るコインの音で集まってきたギャラリーに見向きもせず、はしゃいでいた。 PM2時30分。 「おし!これで10万!」 残金がゼロに近いことに気がついたカイは、公園で賞金バトルをしていた。 もちろん、無敗・・・・・・・・・・・。 PM3時。 「え!?ウソ!“進化の石フェア”!?」 コガネ百貨店で買い物をしていたユウラは、天井から吊るされたボードの貼り付けてあるチラシを見て、何処かへ走り出した。 少し、オバサンっぽいユウラの一面・・・・・・・・・・・。 PM3時45分。 ユウラは待ち合わせのカフェの店頭にあるテーブルで、1人コーヒーを飲んでいた。 少し早く用事が終わりいち早くこのカフェに到着したのだ。 おそらく時間いっぱいまでゲーセンで遊びまくるコウのために、コウの分の食料も買っておいていた。 2人とも、高い確率で時間いっぱいまで来ないだろう。 進化の石フェアで何とか手に入れた“炎の石”を見つめながら、ユウラは辺りを見渡した。 活気溢れるコガネの街。 何処からかコガネ弁で話す声が聞こえてくる。 ジュエルタウンも、ここまで都会じゃなかったが、活気では負けてなかった。 それと同時に、なにやら悲しくなってくる。 不意に・・・・・・・・。 「おいコラクソガキ!ぶつかっておいて詫びの1つもナシか!?あぁ!?」 ユウラの視界に入ってきた、とある光景。 明らかに不良っぽい男2人組みが、小さな男の子に向かって怒鳴っている。 男の子はうつむいたまま、今にも泣き出しそうな顔だ。 眉間にしわを寄せて怒鳴り散らす2人組みを見て、ユウラは立ち上がった。 「ちょっとやめなさいよ!そんな小さな男の子相手に大の男が大人気ない!」 大人でもビビりそうな男2人を相手に声を張り上げるユウラ。 周りの大人達も見習って欲しいものである。 「あ?ンだクソガキ」 「人がこーんなに見てる中で小さな子いじめて楽しい!?  見てるこっちがハラ立ってくるわよ!」 気がつけば、半泣きの男の子がユウラの後ろに逃げ込んでいた。 男の子を小さな声で促し、逃がす。 そして再び不良たちに向き直った、その時。 「よぉー!ユウラ!待ったか!?」 「いちいちでかい声張り上げんな・・・・・・人の目線を感じたいのか?」 不良2人組みの後ろから、カイとコウが歩いてくる。 スーパーの袋を持っているカイに対し、ゲームセンターの景品袋を持っているコウ。 不良2人は眉間にさらにしわを寄せ、 「あんだお前ら、お呼びじゃねぇんだよ!とっとと消えろ!」 不良の1人がすごい剣幕で2人を怒鳴りつけた。 2人は顔を見合わせた後、 「ユウラ、知り合い?」 コウがユウラに問う。 「こんなの知り合いじゃないわよ!」 「こ、こんなのって・・・・・」 カイが1歩前へ出た。 「そんな奴等かまってねぇで、ホレ、行くぞ」 カイがユウラの元へ行こうとするが、不良がそれを遮る。 「オイコラちょっと待てよ、クソガキ。  年上に対する態度がなってねぇんじゃねぇか?ア?」 「・・・・・・・・・・・ユウラ、お前、とりあえず会計済ませて来いよ。まだなんだろ?」 「え、あ、うん・・・」 コウの言葉に、ユウラは店先に入っていった。 「オイ!無視すんじゃねぇ!最近のガキはホント・・・・・・・」 「簡単に言えば、あんたらは俺たちが目障りなんだろ?」 カイが左足を前に出し、右足を後ろにやり、身構えた。 「実力行使でもすりゃあいいじゃねぇか」 「お!?カイ!ケンカ!?ケンカなのか!?俺も混ぜろ!」 「ハナっからそのつもりだ」 不良たちが怒声を上げていたためか、だんだん野次馬が増えてきた。 彼らを中心に、円を作り成り行きを見守っている。 仲にはケンカを強制する声も。 「おいおいおいおい・・・・・・・クソガキが俺たちにケンカ売るってのか?  おもしれぇ!やってやろうじゃんか!」 「俺たちゃあな・・・・・・・・・何事にも負けるわけにはいかねぇんだ。  背負ってるモンが違うんだよ!」 「そのとーり!ボッコボコにしてやらァ!!」 それと同時に、不良が何か投げた。 不意を突かれたカイは額にそれが直撃した。 ガシャン! 「うわ!いって・・・・・・・・何すんだ!」 額に当たった瞬間、ガラスが割れる音が聞こえた。 視界にガラスの破片が落ちてくる。 それと同時に、なにやら冷たいものが流れてきた。 水だ。 どうやらユウラが座っていたテーブルにあった水の入ったコップを投げたらしい。 それだけならよかった。 水のほかに、生暖かい物が流れて来るまでは。 「あ・・・・・・・・」 コウが唐突に声をあげた。 それと同時に、ユウラが店から出てきた。 先ほどと同じ不良と野次馬に対し、カイとコウの様子がおかしい。 特に、カイの様子が。 カイは自身の手を見ていた。 その手のひらに乗っていたのは・・・・・・・・・・・血。 額にぶち当たったガラスが、カイの額を傷つけたのだ。 それだけならいいだろう。 その鮮血が、彼の宝・・・・・・・・ヘアバンドを赤く染めるまでは。 「駅前でケンカ?」 「!」 少女の耳に、その噂が流れてきたのはPM4時のことだった。 少女の傍らにいたエーフィの姿はない。おそらくボールの中だろう。 ポケモンセンターで聞き込みしていた少女は、入り口付近で話をしている男の子2人組みの話している噂に内容に耳を傾ける。 「マジで?」 「ああ、でも、ケンカっぽくねぇらしいぞ」 「は?」 「背の低いほうが・・・・・・・・・11歳ぐらいかな。14,5歳のやつの首を掴んで、さらにそのまま持ち上げたんだってよ」 「うお!マジで!?」 「しかも、その小さいほうはさ、額から血を出してんだぜ。  その血が顔を流れて、それはもうおぞましい顔に・・・・・・・・・・」 「ね、ねぇちょっと!」 少女が、少年たちに話し掛けた。 「ん?何?」 「その駅前って・・・・・・・・・・どっち!?」 「え?こっからだいだい北西かなぁ・・・・・・・・・」 「ありがと!」 少女が走ってポケモンセンターを出た。 そして、おもむろにこしのボールに手をやり、地面に投げつけた。 中から、甲高い声を出しながらピジョットが出現する。 「ヒュオオオオオオオ!」 周囲に人たちが、突然のピジョットの出現に驚きの声を上げる。 少女がピジョットの背中に飛び乗った。 「ここから北西!多分人垣が出来てるからそこを目印にして!  ジット!高速移動!」 「ヒュオ!」 ジットと呼ばれたピジョットが羽ばたくと、青い空に吸い込まれていった。 「あ・・・・・・・・・あ・・・・・・・」 「うあ・・・・あ・・・・・わ・・・・・・あ・・・・・・・・!!」 それは一瞬だった。 カイが不良の1人に一瞬で近づくと、首を掴みそのまま持ち上げた。 そう、水入りコップを投げたほうの不良だ。 ミシミシと異様な音を出す不良の首・・・・・・・の骨。 腰が抜けて動けない、もう1人の不良。 「なぁ・・・・・・・・・」 カイがその状態で不良に話し掛ける。 聞かないとこのまま首を折られてしまいそうなので、何とか顔を向ける。 その顔は、鮮血に染まり、鬼のようだった。 「お前・・・・・・・・・・・自分にとって大切なものを傷つけられたときとか・・・・・・・・・・自分にとって大切なものを汚されたときとか・・・・・・・・。  どんな気持ちになるか、わかってんのか・・・・・・・・?」 「・・・・・・・・!!?」 「お前はよ・・・・・・・・・・俺にとって大切なものを汚したんだよ・・・・・・・・・・。  その落とし前、お前の死で償ってもらえるとうれしいんだがな・・・・・・・」 「ヒ・・・・・・・・・・・・!」 「ど、どうなってんの!?」 「やばいな・・・・・・・・前にも話したことあるよな?  あいつは自分にとって大切なものを傷つけようとするもの、汚そうとするもの、その全員を半殺しにしてきたって・・・・・・・・」 「え・・・・・・・・でも、あいつ、完全に殺す気だよ!?」 「それは、島にいるときは、あいつを止められるやつがいたからさ。  だが、ここにあいつを止められるやつはいない・・・・・・・・・・・・」 「お前たち、何をやっている!?」 若い男の声が聞こえてきた。 それと同時に、バイクの音が聞こえてきた。 バイクの音が消え、男は人垣を掻き分け中に入ってきた。 青い制服を着ている。 つまり、警察だ。 警察官はつかつかとカイに歩み寄り、不良を持ち上げている手に手を置いた。 「君何やってるんだ?ちょっと、一緒にきてもらおうか?」 男はカイの手を離させようとするが、全く動かない。 何とか止めさせようとするが、カイの手は動かない。 悪戦苦闘する男に、カイは一瞥し、こう言った。 「あんたも・・・・・・・・・死ぬか?」 「・・・・・・・・!!」 血で染まった【鬼】となったカイのそのセリフを聞いた瞬間、男は震え上がった。 2,3歩後ろに下がった後、バイクに向かって走り出した。 備え付けの無線を手に取り、何か喋り出した。 応援を呼んでいるのだろうか? 一同がざわめき出した、その時だった。 「カイ!!!」 人垣を掻き分けて入ってきた、1人の少女。 カイは後方より聞こえた声を聞いた瞬間、手を離した。 崩れ落ち、首を押さえながら悶絶する不良。 口が開いたまま、顔が固まって動かないコウ。 何が起きているのかいまいちわからないユウラ+腰が抜けて動けない被害ゼロの不良。 カイは手を下ろした。 そして、ゆっくり振り返った。 静かに、こう言った。 「ティナ・・・・・・・・?」  つづく  あとがき ティナ再登場だァァァァ!!! やっとヒロインらしくなってきたよ・・・・・・・・。 44話目でやっと・・・・・・・(遅!)  次回予告 第45話 戦いの予感(仮)