夜がきた。 漆黒の、夜。 戦いの、夜。 1人の少年と、1匹のポケモンが、己の力を駆使し、戦う。 コガネ南東の辺境。 廃工場周辺とは違い草むらではなく、剥き出しの地面だ。 敵は、情報をもっている・・・・・・・・・。 **************  リベンジャー  第46話「エデンVSジン」 ************** 「ジーテ!破壊光線!!」 「ギィヤアアアアアアア!!」 ドドドド!! 灰色の翼竜から打ち出された4つの光線は、真っ直ぐに白いポケモンに向かっていく。 「“ディフェンスウォール”」 エデンは慌てず騒がず、右腕から造りだした壁を向ける。 その透明な壁は、破壊光線を食い止め、消沈させる。 「チ・・・・・・・・やはりヘヴンと同等の力を持っているのか・・・・・・!」 ジンは灰色の翼竜・・・・・・・プテラのジーテの背中の上で、舌打ちした。 その表情は、“いつもの彼”を知っているものなら珍しい表情なのだろう。 やや、歪んでいる。 「・・・・・・・ジーテ!砂嵐!」 「ギア!!」 ジーテは地面すれすれまで降りてくると、その大きな翼を振り回した。 ジーテを中心に、砂嵐が吹き荒れる。 「小賢しい・・・・・!」 エデンは右腕で顔を隠し、目に砂嵐が入るのを防ぐ。 砂嵐が晴れた。 そこにいたのは、ジーテ“のみ”。 「!?」 ジンが、いない。 後ろから地面を突き破る音がした。 振り向くと、そこにはコブラポケモン・アーボックと、その背に乗るジンの姿があった。 「穴を掘る・・・・・・・!?」 「ジーク!毒々の牙!」 「シィア!!」 がぶりという音とともに、アーボック・・・・・・ジークの牙がエデンの右腕に突き刺さった。 噛み付かれた箇所から、鮮血が滴り落ちる。 その時、前から地面すれすれでジーテが飛んできた。 攻撃するのかと思ったら、ジーテは1mほど上昇し、エデンの頭の上で旋回し、戻っていく。 その足に掴まり、飛んでいくジンと、その手に尾を掴まれて戻っていくジーク。 ジーテが着地し、続いてジンとジークも着地する。 「・・・・・・・・・勝負あったな。  すぐに毒が体中を駆け巡り、身動きすら出来なくなる」 「・・・・・・・・その毒とやらが本当に私の身体に注入されたのならな」 「何・・・・・・・・?」 エデンは血を流している右腕に左手を添えた。 すると、左手が輝き出し、右腕の傷跡がふさがっていく。 「自己再生か・・・・・・・」 そのとき、ジンの横でドサっと物音がした。 目をやると、そこには倒れたジークの姿があった。 「!?ジーク!」 ジンがジークを助け起こすが、ジークは目を閉じ、息使いが荒かった。 すでに戦闘不能になっている。 「貴様のアーボックの牙から毒が噴出される直前に、傷と牙の間に神秘の守りを張ることにより、防がせてもらった。  さらに、アーボック本体に未来予知を打ち込み、戦闘不能にした」 「なるほど・・・・・・・・さすがだ。エデン」 ジンが立ち上がり、ジークをボールに戻した。 残りのポケモンたちを確認する。 今出ているジーテを入れて、残り5匹。 まだまだ十分いける。 「・・・・・・・・ジーキ!」 ジンの放ったボールから、怪力ポケモン・カイリキーが出現する。 「ジーキ、ジーテ、よく聞け。  ヤツは90%の確率でエスパータイプだ。  よって、ジーキが単身踏み込むのは危険だ。だから・・・・・・・・・」 そのまま、ジンたちがこそこそと作戦会議を開始する。 一方、エデンはというと・・・・・・・・・・。 目を瞑り、腕を組み、考え事をしていた。 頭の中に浮かぶのは、青い髪の笑顔の少女・・・・・・・・。 その顔が消えうせ、次に浮かんだのは、金髪のロン毛の男。 その顔が浮かんだと同時に、怒りが込み上げてくる。 手を握り締め、怒りを噛み殺す。 「いいか?」 ジンのその一言で、エデンは我に帰った。 「作戦会議は・・・・・・・・終了か?」 「ああ、終わった」 「そうか」 ジーテが飛んだ。 空高く飛び上がると、ジーテが口から岩雪崩を発射した。 ディフェンスウォールで防ぐエデン。 その時、ジーキが突っ込んできた。 4本の腕で押さえ込まれ、後ろに倒れるエデン。 異常なほど発達したその腕で押さえ込まれたら、大抵のポケモンは脱出できないだろう。 だが、エデンにはそれが出来る。 「サイコキネシス」 エデンが目をカッと開くと、衝撃波が放たれ、ジーキの身体が飛び、さらにジーテをも巻き込み吹っ飛ぶ。 起き上がろうと上半身を起こすエデンだが、そこで身体が動かなくなった。 「残念だったな・・・・・・・」 ジンが倒れたジーテとジーキをボールに戻す。 これで3匹やられたが、もうバトルは必要無い エデンは意識はあるものの、身体が動かなかった。 体中が、寒い。 目をゆっくり開くエデン。 (!?これは・・・・・・・・!!) 凍り付け。 エデンの身体は巨大な氷で覆われており、全く身動きできなかった。 よく見れば、氷は巨大な円柱の形をしている。 その地面と接している場所のみ、円柱を中心に波が凍ったような形状をしている。 非常に刺々しい波だ。 その氷の前で、エデンを凍りづけにした張本人であろうニューラが、さもおかしそうに笑っている。 どうやら、ジーテとジーキが囮になっている間に、このニューラが後ろに回り込み凍りづけにする作戦だったのだろう。 「この円柱は・・・・・・・・・“氷結の搭”だ」 ジンが1歩1歩歩み寄ってくる。 勝ち誇った顔をしている。 ジンが“氷結の搭”の前まで来ると、ニューラが肩に飛び乗った。 「よくやったな、ジーニ」 ジンがニューラ・・・・・・・・・・ジーニの顎を撫でてやると、ジーニは気持ちよさそうな顔をする。 「その“氷結の搭”は並大抵の力では破れない。  凍らないはずの氷ポケモンをも凍りつかせるほどだ。  この状態で、俺が氷を解いてやれば、俺の勝ちだな」 ジンが言い切った、そのときだった。 「ウ・・・・・・・・・・オオオオオオオオオオオ!!!」 氷の中のエデンがうなり声を上げると同時に、氷にひびが生じた。 「!?そんなバカな!“氷結の搭”はどんなポケモンでも破ることは・・・・・・・・・・・」 「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」 氷が、割れた。 「ん?」 ポケモンセンター手前で、カイは足をとめた。 今まで歩いてきたコガネ南の道に振り返った後、顔を上げ空を見つめる。 「どうしたの?カイ」 自動ドアからセンター内に入ろうとしたティナが足をとめ、カイに問うが、カイは空を見つめたままだ。 「なぁ・・・・・・何か聞こえなかったか?」 カイが空を見つめながら言った。 夜空には少量だが、星が輝いている。 「は?」 「なんか・・・・・・デケェ声みたいな音と・・・・・・・・何かが割れるような音・・・・・・・・・」 「ううん、何も聞こえなかったよ」 「・・・・・・・・・・俺、ちょっと行ってくるわ」 「え!?ど、何処へ!?」 「さっきの・・・・・・・・・・廃工場周辺」 カイはそれだけ言うと、ボールを1つ取り出した。 中からカゲロウが出てくる。 「カゲロウ、ちょっと飛んでくれ」 「グオ」 カゲロウは低く頷くと、カイを乗せ、飛び去っていった。 「おい、どうした?」 カゲロウが羽ばたく音で気付いたのか、コウとユウラが自動ドアから顔を覗かせている。 ちなみにフィルとクロは、すでにボールの中だ。 「え〜と・・・・・・・・・カイが何か聞こえたとか言って、どっか飛んでっちゃった」 「・・・・・・・よし!俺も行こう!」 「は?」 「あいつの奇行の先にはいっつも何か面白いことがあんだよなー。  というわけで俺も行く!」 コウはボールからリュウを出すと、飛び上がった。 飛び上がった後、コウが顔を出しティナに問う。 「あいつどっちに行ったんだー?」 「えっと・・・・・・・・・さっきの工場の辺り!」 「おっし!待ってろよ〜、面白いこと!」 リュウが南東に向かって飛び去っていくのを見届けたティナとユウラは、顔を見合わせた後、走り出した。 目指すは、コガネ南東廃工場付近・・・・・・・・・・。 「“ライトニングボルト”!」 エデンの左腕から放たれた稲妻の矢が、真っ直ぐに伸び、ジンの前に立ちはだかっていたギャラドスに命中する。 苦悶の声をあげ、倒れるギャラドス。 「ジード!・・・・・ク!」 ジンがギャラドス・・・・・・・・・・ジードをボールに戻したのも束の間、すでにエデンは次のターゲットに迫っていた。 ターゲットは、ジーニ。 エデンは一瞬でジーニとの距離を詰めると、まだ電撃が残っている左腕を後ろに回し、代わりに右腕を突き出した。 右腕が、ジーニの顔面を捕らえる。 「“ヘルファイア”!」 発火した。 ジーニの顔面が炎に包まれ、倒れる。 炎が晴れると、そこには顔面が真っ黒になったジーニの姿があった。 ジンが素早くジーニをボールに戻す。 互いに距離をとって、ジンとエデンは睨み合う。 「・・・・・・・・・・・これで、残り1匹だな」 「ああ・・・・・・・1匹だ」 ジンがボールを1つ手にとった。 ジンはウソをついていた。 残り1匹。 これはジンにとって使いたくない最後の1匹を除いた数だ。 情報を聞きだせるまたとないチャンス。 ジンはこの1匹がやられた場合、禁断の1匹を使うつもりでいた。 「いくぞ・・・・・相棒」 ジンが、最後のボールを投げた。 「“黒い息吹”!!」 「グルアゥ!!」 ジンの相棒、ダークポケモン・ヘルガーのジールが黒い炎を吐いた。 エデンはそれをディフェンスウォールで防ぐが、防ぎきった直後、ディフェンスウォールにひびが生じ、ガラスのような音を立てて割れた。 「噛み砕く!」 エデンが気付いたときには、ジールは目前に迫っていた。 噛み砕くをテレポートで回避したエデンは、ジールの後ろに回りこむ。 ジールは素早い瞬発力で攻撃される前に逃げ切ると、すぐに後ろに向きなおす。 「ジール!スモッグ!」 ジンの指示で、ジールが口から黒い煙を吐き出した。 黒い煙、スモッグはすぐに辺りに充満し、エデンとジールを包み込む。 「ク・・・・・・・・ヤツは何処へ・・・・!?」 エデンは使い物にならないとわかっていながらも、眼を使ってジールを探す。 「“黒炎弾”」 ジンのその静かな声で、エデンは身の危険を感じた。 すると、何処からか何かの発射音が聞こえてくる。 「・・・・・・・・・“ディフェンスボール”」 何処からか現れた5つの黒い炎の玉が、エデンの造りだした全身を包む球状のバリアにあたり、消沈する。 スモッグが晴れていく。 すでにスモッグの外へ脱出したジール。 まだ燻っているスモッグを見つめるジン。 スモッグ内には、エデンしかいないはずである。 だが。 「・・・・・・・・・!?ジール!お前の嗅覚でヤツを探し出せ!」 スモッグがかつてあった場所に、エデンの姿はなかった。 ジールの嗅覚で、エデンの位置はすぐにつかめた。 ジールの、真後ろ。 「“ジーコラプス”」 ジールが急いで振り返るが、時すでに遅し。 地面から浮かび上がった土製のプレートが、ジールに向かって突進した。 かわせず思いっきりプレートの直撃を食らうジール。 属性的弱点攻撃をモロに受け戦闘不能となる。 「・・・・・・・・・」 ジンは黙ってジールをボールに戻した。 「・・・・・・・・・・私の勝ちだな」 「・・・・・・・・・いや、まだだ」 「何・・・・・?」 ジンが右腕を顔の高さまで腕を持ち上げると、なんとその右腕が黒い炎に包まれた。 「・・・・・・・・・!!?」 「これが俺の・・・・・・・・7匹目のポケモンだ」 「おもしろい・・・・・・・・。  だが、やはり勝負あったな」 「・・・・・・・・・?」 「貴様は・・・・・・・・・私のスピードについていけてない」 ジンは初めて気がついた。 自分の眼前に、3つの紫色のシャドーボールが迫っていたことに。 「私が少し本気になれば、これくらいのこと、簡単なことだ」 「!しまっ・・・・・・・・・・・・」 ドウンドウンドウン!!! てっきり、自分に着弾したものだと思い込んでいたジンは、「?」という顔になる。 シャドーボールが飛んでいた辺りに、三つのクレーター状の穴が開いていた。 直径2mほどの穴だ。 ジンは困惑しているが、エデンは何が起きたのかわかっているようだ。 ジンの後ろの空を睨んでいる。 ジンが振り返ると、そこには・・・・・・・・。 「よぉ!久しぶりだな!ジン!」 「カイ・・・・・・・・・・!!?」 夜空に飛んでいたのは、口から炎を吐いた後と思われる煙が燻っている翼竜の上に立ち乗りしている、カイの姿があった。  つづく  あとがき エデンとジンのバトルを書いた第46話ですが、出来れば、ジールをもっと活躍させてあげたかったですね。 ちょっと時間の都合で・・・・・・・・・・・。 今回は簡単にやられちゃいましたが、ジールはホントは強いです! めちゃくちゃ強いです! ただ、相手が悪かったとしか言いようがありません。  次回予告 第47話 復讐者たち(仮)