************  リベンジャー  第48話「ルーラァズ」 ************ コガネポケモンセンタートレーナー用の宿泊施設。 その一室に、彼ら5人はいた。 ベットに座っているティナとユウラ。 ドアから入って横の壁に身を任せ、向かい合わせに座っているカイとコウ。 ドアが設置された壁に身を任せ、座っている新たな仲間、ジン。 「・・・・・・・・・まずは俺の素性から話そう。  そうでないと話しずらいんでな」 足を組み、腕を組んだジンが言った。 ちなみに彼のポケモン達は皆戦闘不能になっているため、診療時間ギリギリでジョーイに渡し、明日の朝、受け取ることになっている。 膝を曲げて足を立たせているカイが返す。 「てことはアレか?ジンはどっかでルーラァズと関わってんのか?」 「単刀直入に言おう。  俺の名はジン・グローリー、13歳。  昔、ロケット団にいた」 「ぬぅわぁにぃぃぃぃぃっっっ!!!??」 ジンを除いた4人が思いっきり叫んだ。 すぐにティナがすでに8時を回っていることを思い出し、口の前に人差し指を立てた。 困惑顔になりながらも3人も黙り込む。 しばしの沈黙を破ったのは、足を思いっきり伸ばして一番リラックスしているコウだった。 「ロケット団にいた・・・・てことはよ、テメェなんか前科でもあんのか!?」 「落ち着け、ロケット団にいたといっても、別に悪事に参加していたわけではない」 「ふ〜・・・・・・・なんだ、ビックリした」 4人が同時に額の汗をぬぐった。 「今から俺が言うことを黙って聞け。  お前らからすれば驚きの内容だ、いちいち騒がれたらたまったもんじゃない」 4人が唾を飲み込みながら、黙って頷いた。 俺は元ロケット団首領、サカキの息子として生まれた。 「何ぃぃぃぃっっ!!?」 「殺すぞ」 母親は俺を生んですぐに死んじまったらしい。 俺は時期ロケット団首領として、英才教育を受けた。 正直、俺はいやだった。 内容はほとんどポケモンに関することだったが、もともとポケモンは好きだったのでそれ自体はいやじゃなかった。 いやだったのは、それがすべてポケモンを悪事に使うためだってとこだ。 ほとんど大人のロケット団の中で、俺に1人だけ、友達がいた。 ちょっと気弱なヤツだったが、嫌いじゃなかった。 幹部と研究者の間に生まれたらしい。 幹部の息子ってことで、ヤツは恐ろしいまでに殺人術を教え込まれた。 今現在はどうしているか知らんがな。 ヤツはすでに1匹、ポケモンを持っていた。 そのポケモンはヨーギラス、よく2人でヨーギラスと遊んだもんだ。 そして、俺にも1匹、ポケモンが贈られた。 デルビル、名をジール。今はヘルガーだ。 唐突に、サカキが再婚した。 相手の女には1人、娘がいた。俺より3つ年下だ。 事実上、俺の妹になった。 妹にもポケモンが1匹・・・・・・・・ロコンが与えられた。 妹は喜んでいたが、そのロコンもいつかは悪事に使われると思うと、悲しくなった。 当時8歳、きっと何とかなるだろうと、気にせずにいた。 10歳の年、環境は急激に変化した。 まず、義母が死んだ。まぁ別にコレは深くは重要じゃない。 ヤツが現れたんだ。 黒い身体に赤い瞳を持つ不気味なポケモン、ヘヴンが。 ヤツはサカキを尻目に組織を操作し始めていた。 まぁそれもどうでも良かった。 ある日のことだ。 ロケット団ビルの廊下を散歩していた俺は、とある部屋の前で立ち止まった。 その部屋のドアは少しだけ開いていて、中の様子が伺えた。 中にはサカキとヘヴン、そして何人か白衣を着た研究者がいた。 驚愕の内容の話をしていたが、これはお前らには話せない。 言えることは、その話の内容が、俺たちを人体実験の材料にすることだったってことだけだ。 俺はすぐに妹の下に走り、逃げ出した。 が、すぐに捕まり、材料になった。 とある“能力”を植え付けられた俺たちは、再び逃げ出した。 今度は捕まらなかった、その“能力”を駆使したおかげでな。 フスベシティまで逃げ切った俺たちは、そこのジムリーダーに保護された。 ジムで俺はジールとともに腕を磨き、旅に出た。 目標があった。 ジムを回り、リーグに出て好成績を残し、ヤツの耳に・・・・・サカキの耳に俺の名を轟かせることだ。 俺と妹に忌まわしい“能力”を植え付けた復讐のためにだ。 逃げ出したときにはまだ奴等と戦う力はなかったが、今ではやつらに勝てる自信が・・・・・・・・あった。 今日、エデンに負けたことで俺に自信は打ち砕かれた。 バッジを8つすべて手に入れ、たまたまコガネシティを歩いていたら、ヘヴンをそっくりなエデンを見つけてな。 すぐに挑みかかったが、あっけなくやられた。 「・・・・・・・・・その“能力”ってのが、もしかして、さっきの・・・・・・」 「ああ、そうだ。これくらいは隠さなくてもいいな」 ジンが右腕を顔の高さまで持ち上げる。 すると、右腕に黒い炎が灯った。 「うお!?」 「え!?な、何それ・・・・・・!」 「手に炎が・・・・・・・・」 はじめてみるコウ、ティナ、ユウラは今目の前に起きている非科学的な現象に目をぱちくりさせる。 「これが俺に植え付けられた“能力”のすべてというわけではない」 ジンが右腕から力を抜くと、黒い炎が消えうせた。 「なぁ・・・・・・・俺、ちょっと聞きてぇことがあんだけど・・・・・・・・」 「ん?なんだ、カイ」 「その友達が持ってたヨーギラスの名前って・・・・・・・・もしかして・・・・・・・」 「ん?ブラッドだが、それがどうかしたのか?」 カイ、コウ、ユウラが固まった。 その様子を見て「?」という顔をするティナとジン。 「カイ・・・・・・・頼むわ、なんか俺、頭痛くなってきた・・・・・・・」 「あたしも・・・・・・・頭の中なんかごちゃ混ぜに・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・俺も少々頭痛すっけど、まぁ2人に変わって説明しとくわ」 「・・・・・・・どうした?」 「いや、実は・・・・・・・・・・」 「そうか、あいつが・・・・・・・・ロットが最高三幹部に・・・・・・・」 「ロットも・・・・・・・・その“能力”ってやつを埋め込まれたのか?」 「いや、あいつはすでに殺人術をマスターしていて、何かあったら困るということで、あいつは対象外になったらしい」 「・・・・・・・てことはアレか?その人体実験ってやつは、死ぬ可能性があったってことか!?」 「・・・・・・・すでに何人か死んでいた。  成長しきった人間には向かない実験で、それで俺たち兄妹を実験材料にしたんだ」 「サカキは自分の子どもたちが死ぬかもしれねぇ実験を、止めなかったのか!?」 「だから復讐するのさ、ヤツは俺たちの命を道具のように扱っていた。  サカキは今現在、行方不明。  現在の首領であるヘヴンなら、もしかしたらサカキの居所を知っているかもしれないんでな。  だから俺は別にヘヴンを倒そうとかそうゆう考えはない。  サカキの居所がわかれば俺はもうヘヴンに用はない」 「その・・・・・・・・・・妹は、今何処に?」 ティナが言おう言おうと思っていた質問をした。 「・・・・・・・・ジムにおいてきた。  あいつまで巻き込みたくない」 「そう・・・・・・・・」 「とまぁ俺が知ってることはこれだけだ。満足か?」 「ああ、十分だ」 「そういえば、お前たちもリーグに出るか?」 「おう」 「となれば、リーグで戦うことになるかもしれんな。  もしあたっても俺は容赦しないぞ。  俺はリーグで何が何でも好成績を残さなければならないんでな」 「・・・・・・・・お前、意外とちっちぇこと言うんだな」 「何?」 カイのその言葉に、ジンは眉間にしわを寄せた。 「俺なら好成績とかは狙わねぇな」 「ほう・・・・・・・・・どうするんだ?」 「優勝したほうが手っ取り早いだろ?」 カイがそう言いきると、その場に静寂が襲った。 「・・・・・・・・優勝できると思っているのか?  リーグにはカントー、ジョウト地方からバッジを8つ集めきったトレーナーたちがやってくるのだぞ?  お前にはそいつらに勝てる自信が?」 「大ありだ。それぐらい出来なきゃヘヴンは倒せねぇだろ?」 「・・・・・・・・・確かに」 「俺もあたっても絶対容赦しねぇからな!覚悟しとけよ!ジン!カイ!」 「・・・・・・・いや、コウに勝てる自信はあるな、なんとなく」 「同感だ」 「ああ!?ンだとゴラァ!!」 コウが怒鳴りながら勢いよく立ち上がった。 「ちょっとコウ!もう遅いんだから騒がないでよ!」 「うるせぇユウラ!俺は正直な話、ジンのこのいけ好かねぇ性格が気にいらねぇ!  ジン!テメェ一発殴らせろ!」 「出来るものならやってみろ」 「やったらァァァァッッッ!!!!」 「わ!バカ暴れんな!誰か止めろォ!!」 「フォーグ!催眠術!」 「コォォォ!!」 「うお!?卑怯だ・・・・・・・・ぞ・・・・・・・・・・・・」 コウのむなしい声が響き渡りながら、長い夜がふけていく・・・・・・・・・。 翌朝。 ジンを除いたメンバーが、ポケモンセンターの前で、ジンが出てくるのを待っていた。 自動ドアが開き、ポケモンたちを受け取ったジンが出てくる。 「ジンはこれから何処行くんだ?」 「もうジムバッジを集めきっているからな。  これからジョウト東、シロガネ山へ向かう」 「シロガネ山?」 「ジムバッジ8つ以上手に入れたものが入ることを許される、危険な山だ。  屈強なポケモンたちが住み着いていて、半端な実力ではすぐに逃げ帰ってくるのがオチだ」 「ふーん・・・・・・・」 「俺はそこで修行する。カイ、8つすべて集めたらシロガネ山へ来い。  修行にはうってつけの場所だぞ」 「う〜ん・・・・・。ヤダ」 「何?」 「ライバルと一緒に修行してたら、お互いに手の内丸わかりで面白くないだろ?」 「そうか・・・・・・・・ジーテ!」 ジンがボールを1つ手にとり、放った。 中からプテラのジーテが出てくる。 ジンがジーテの背に飛び乗る。 「リーグ会場で会おう」 「おう」 「ジーテ!シロガネ山へ!」 「ギアァァァァ!」 ジーテが一声鳴くと、飛び上がり東へ飛んでいった。 「・・・・・・・・で?コウはどうすんだっけ?」 「俺はこれからエンジュへ向かって、その後西へ向かうわ。  取り残しのバッジを手に入れなきゃな」 「取り残しって・・・・・・・・ただ単に波にさらわれただけだろ?」 「う、うるせぇ!!」 「ユウラは?」 「あたしは今のとこ行くとこないし、コウについていくよ。  コウをほっといたら今度は何処に行くか心配だからね」 「そっか・・・・・コウ!」 「ん?」 「“そっち”の方もがんばれよ!」 「どうゆう意味だ!?」 コウがリュウを出すと、コウとユウラが乗り、飛び上がって北上していった。 「・・・・・・・ティナは?」 「私は南に向かうよ。カイと同じ経路でバッジ集まるつもりだから」 「そうか・・・・・・・がんばれよ」 「うん!あ、そうだ、これ渡しとくね」 ティナがリュックを下ろし、中をあさり出した。 しばらくして、中から黄色に輝く石を取り出した。 「お前・・・・・それって・・・・・・・・・」 「“雷の石”だよ。良かったら、使って」 「おお、サンキュな」 「じゃ、私もう行くから。カイもがんばってね!」 「おう!お前もな!」 ティナがボールを取り出し、中からピジョットのジットが出てきた。 コウたち同様、背に乗り南下していった。 1人取り残されたカイ。 ティナから手渡された“雷の石”を眺めた後、リュックにしまいこみ、ボールを1つ取り出した。 放ると、中からカゲロウが出てくる。 「行くぜカゲロウ、北上してくれ」 「グオ」 カゲロウが羽ばたき、飛び上がる。 そして、北の青い空に向かって吸い込まれていった。 5人が、目的は同じだが、違う道へ、飛び立っていった。    あとがき  あとがき ジンの昔話でした。 次回から、久しぶりにカイの1人旅です!  次回予告 第49話 チーム一の臆病者(仮)