**************  リベンジャー  第49話「チーム一の臆病者」 *************** エンジュ〜チョウジ間にある、とある森。 有名なウバメの森ほどの大きさではないが、木が茂り、自然に溢れた森。 森は3つに分かれており、進むには2つの湖を超える必要がある。 大抵の人は、3つの森の横にある、“スリバチ山”内部を通り、湖をパスする。 あまり人通りがない森の木々の葉が風に揺られ、森独特の音楽を奏でる。 が、その音楽を遮る音が、1つ、いや、2つ、いや、3つ、4つ・・・・・・・。 何かが飛ぶ音。だが、鳥の羽ばたく音ではない。 そのポケモン独特の、人間にとってはあまり聞きたくない音。 ブ〜ン・・・・・・・・。 この音が、通り行く人たちを遠ざける最大の原因。 この森には毒蜂ポケモン・スピアーが群れをなして棲み着いている。 1匹1匹は弱いものの、これまた素晴らしいほどの数で集団で襲ってくる。 そのスピアーたちが、獲物を見つけ、いつもどおり襲っていた。 獲物は、1人の少年。 青いジーンズに、紺のパーカー。 少々乱れた青い髪、その額に巻かれた白い包帯。 首には青いヘアバンドが掛けてあり、パーカーの下に首から下げた銀色のロケットがあった。 青一色の少年は、背負ったグレーのリュックを揺さぶりながら、その執拗な追っ手から走って逃げていた。 だが、少年の青い瞳は全く怖がっていない。 むしろ、獲物を見つけた捕食者の目だ。 少年が勢いよく振り返った。 靴の下から砂煙を出しながら滑っていく。 ひと時のスケートが終わると、少年が腰からモンスターボールを1つ手にとり、放った。 中から茶色い体に愛らしい瞳をを持つポケモン、サンドが出現する。 スピアーとの距離は、十分にある。 「スピン!砂嵐でかく乱!」 「ギュウ!」 スピンが身体を丸くし、その場で横回転する。 スピンを中心に砂嵐が巻き起こり、砂嵐はそのままスピアーたちを飲み込む。 スピアーたちは散々もがいた後、そのうちの1匹が何とかは這い出て、スピンを狙い飛び出した。 その大きな針状の腕をスピンに向けながら。 少年・・・・・・カイは慌てず騒がす、鋭い声でスピンに指示を出す。 「スピン!1匹1匹丁重に切り裂いてやれ!」 スピンが構え、スピアーを迎え撃つ。 そこでカイは大体予想していたが、スピンには予想だにしない出来事が起きた。 その1匹のスピアーに続いて、他のスピアーが一斉に砂煙から脱出し、襲い掛かってきたのである。 思いっきり驚くスピン。 「バカビビんな!お前になら出来る!慌てず迎え撃て!」 カイの指示もむなしく、スピンは目の前の毒蜂の軍団に腰を抜かし、その場で丸くなってしまう。 「だー!何丸くなってんだよ!しゃあねぇ!行け!リング!」 ピンチヒッター、ブラッキーのリングが飛び出し、スピアーの前に立ちはだかる。 「リング!“黒い壁”!」 「ギュラ!!」 リングがその目を怪しく光らせると、リングとスピアーの間に黒い巨大な目が現れた。 スピアーは臆することなく、“黒い壁”に向かって突進する。 “黒い壁”にスピアーの2本の針が突き刺さると、針は途中から通らなくなった。 スピアーは慌てて抜こうとするが、今度は抜けもしない。 そして、リングが怪しい笑みを浮かべているのに気がついた。 「狙い撃ちだぜ!リング!連続シャドーボール!」 「ギュラララララララ!!!!」 リングの口から発射されたシャドーボールは動けないスピアーを的確に打ち落とした。 森の中に広がる、ちょっとした広場。 そこだけ円形状に木が切り取られたような広場だ。 草むらが生い茂り、草独特の匂いが鼻をくすぐる。 その広場に端で、カイはピカチュウのライラとともに木に身を任せ眠っていた。 その隣の木にはカイと同じように眠っているゴルダックのクーラルと、リザードンのカゲロウ。 カイが寝ている木の上には、一際太めな枝の上で眠るストライクのカゼマル。 スピアーたちを退けたカイ一行は、この広場で昼寝タイムとなっていた。 が、昼寝タイム何のも関わらず、眠らないものが2匹いた。 『テメェフザけてんのか!?何なんだよ!さっきのザマは!』 『しょ、しょうがないよ・・・・・・・・怖かったんだもん・・・・・・』 広場の中央辺りで離している、リングとスピン。 かなり仲が悪いはずの2匹が話しているのには、わけがあった。 スピンはリングから話し掛けられ、仕方なく相手をしている。 一方、リングはというと、数分前、カイにこんなことを言われていた。 ―――リング、悪ィんだけど、スピンの臆病な性格を何とか直してくんねぇか?    あいつの場合、たぶん荒療治しかねぇんだ――― カイに頼まれては断りきれず、リングはその名の通り、荒療治でスピンの臆病な性格を直すことにした。 とりあえず持ち出したのは、先ほどのスピアーとの一戦の話。 『何スピアーごときにビビってんだよ!いくらレベルが低くてもよ、カイの指示に従ってりゃ勝てるんだよ!  なのにテメェはビビって丸くなっちまう始末!勝つ気あんのか!?」 『だってだって!あんな数勝てるハズないじゃんか!』 『だってじゃねぇ!ったく・・・・・・・・テメェはいつまで臆病やってんだよ!  テメェカイについてくるとき、カイに言われたよな!?カイの旅は普通のトレーナーの旅じゃねェんだ!  この前化け物級のバンギラスと戦ったろ!?  今度あいつが仲間を連れて襲い掛かってきたら、テメェ真っ先に殺されるぞ!  殺されそうになっても助けてやんねぇぞ!』 『うう・・・・・・・・・』 スピンは言い返すことが出来ず、うつむいてしまう。 『ったく!テメェは小せぇな!』 『!リ、リングだって小さいじゃんか!』 『バーカ!俺が言ってんのは外見じゃねぇよ!  テメェの根性が小せェっつってんだよ!』 『そりゃリングは堂々としてられるさ・・・・・・・・。強いから』 『・・・・・・・・何が言いてぇんだ?』 『僕もリングみたいに・・・・・・・進化できたら・・・・・・進化できたら僕だって・・・・・・・』 『・・・・・・・・!!』 スピンが言いかけた次の瞬間、リングがスピンに対し電光石火を放った。 吹っ飛び、尻もちを尽くスピン。 『な・・・・・・何するんだよ!』 『テメェに1つだけ教えてやる!  俺やカゲロウ!あとクーラル!ついでにライラ!  俺たちは進化したから強くなったんじゃねぇ!  俺たちが強くなったから進化できたんだ!何もせずに進化できると思ったら大間違いだ!』 『・・・・・・・・進化の石は?』 『あ・・・・・アレは例外だ!  いいか!テメェは俺が持ってねぇものをいくつも持ってんだよ!』 『え?』  『俺はよくシャドーボールや電光石火!他に“黒い力”で戦う!  どれもお前にゃできねぇが、テメェにはテメェらしさがあんだよ!』 『・・・・・・・!』 『俺にはテメェみてぇな爪はねぇから切り裂けねぇ!  砂嵐も起こせねぇ!テメェは俺には出来ないことが沢山できんだよ!』 『・・・・・・・』 『だがな!テメェのその度胸の小ささがすべてを台無しにしてやがる!  テメェはすべてに関して小せぇんだよ!特に度胸が!  ああ小せぇ小せぇ!何でカイの野郎はこんなやつをチームに加えたのかさっぱりわからねぇ!  俺たちががこれから戦っていく敵はそんな小せぇ度胸じゃ戦っていけねぇよ!!』 もはや悪口マシンガンになっているリング。 すでに彼は当初の目的である“スピンの臆病な性格を直す”ということを忘れていた。 リングに度重なる怒声で、カイは目を覚ましていた。 怒鳴り続けるリングを見て、カイは、心の中でこう呟いた。 ―――あいつ・・・・・・多分もう自分が何してるか憶えてねぇな・・・・――― 『大体テメェ・・・・・・は・・・・・・』 リングがそのことに気がついたのは、そのときだった。 スピンがうなだれ、プルプル震えていることに。 さらに、スピンに両手に光り輝く球体が灯っていた。 『小さい小さいって・・・・・・・・・・』 『バカにするなァァァァァァッッッッ!!!』 スピンが両手を振り上げ、振り下ろした。 光り輝くその両手が地面にあたると、地面が一瞬発光した。 そして――― 「!?あれは・・・・・・・・・」 『ぬわんだこりゃァァァァァァ!!!』 一瞬発光した地面が突然、割れた。 割れたというよりも、地面の下を何かが通り、地面の表面を掘り起こしながら進んでいるという具合だ。 「まさか・・・・・・“地割れ”!?」 “地割れ” 実質、《威力のみ》重視した、地面タイプの技。 威力が高すぎてコントロールが難しく、放っても見当はずれな場所へ向かっていくことが多い。 だがヒットすれば、敵を一撃で戦闘不能にする恐るべき技。 地割れが通ったところのみ、地面が抉り返り、草むらの下に隠れていた茶色い土が丸見えになってる。 その土が煙を立たせた。 目を丸くしているカイ。 突然の轟音で目を覚ましたライラたちが、口をぽかんと開け、白目を剥いている。 一番驚いているのは地割れを放った当の本人であるスピンだ。 突如自分の腕から放たれた強大な力に、腰を抜かしている。 煙が晴れた。 途中で地面のえぐられ具合が中断されており、その終点地点で倒れているリング。 体中から煙を漂わせ、白目を剥いている。 『・・・・・・・あ!リング!』 我に帰ったスピンが、リングに駆け寄った。 それに習ってカイたちも駆け寄った。 『リング!リング!』 スピンが一生懸命リングの体を揺さぶると、リングが半目を開いた。 『・・・・フ・・・・フフ・・・・・・やりゃ・・・・・・・・出来んじゃねぇ・・・・・か・・・・・・・・・』 『リング・・・・・・・・』 『もう・・・・・・・・・俺の教えることは・・・・・・何も・・・・・・・・』 そう言いかけ、リングが目を閉じた。 『わぁぁぁぁああああ!死んじゃ嫌だ!リング!』 すると、リングがカッと目を開き、こう言った。 『バカ野郎!疲れたから寝させろ!人に一撃必殺技仕掛けといて、立てってのか!?』 『あ・・・・・・・いや・・・・・・・』 チーム一の臆病者、スピンが新たな技を習得し、カイたちは旅路に着いた。 そんな中、カイは気になっていることがあった。 「結局・・・・・・・・・・スピンの臆病っぷりは直ったのだろうか・・・・・・・・・」  つづく  あとがき リング口悪いなー! ちょっといくらなんでもやりすぎたかもしれません・・・・。 スピンはスピンで地割れ習得しちゃうし・・・・・・。 次回、地割れを覚えたスピンが、早速活躍する・・・・・・・・・・かもしれない。  次回予告 スピンが覚えた地面タイプ最強の技、“地割れ”。 実はちょっとした弱点が・・・・・・・・! 第50話 使えねェ(仮)