***********  リベンジャー  第50話 使えねぇ *********** アシカポケモン・ジュゴンが跳んだ。 氷の上でなかなか思うように身動きが出来ないライラをオーロラビームが襲う。 紙一重でかわしたライラはすぐにジュゴンを目で追うが、すぐにジュゴンは氷の下の水の中へ姿を隠す。 チョウジタウンポケモンジム。 リーダー、ヤナギはジムリーダーの中でもジムリーダー就任歴が最も長く、いろいろなトレーナーやポケモンたちを見てきたという。 そんなヤナギの持つポケモンは氷タイプのポケモンたち。 白髪で杖をついているヤナギだが、毎朝滝にうたれ修行しているという頑丈な老人だ。 カイはチョウジタウンに着き、ポケモンセンターでポケモンたちの体力を(リングは怪我を)回復させた後、すぐにジムに向かった。 バトルはすぐに始まった。 ルールは2対2の時間無制限バトル。 バトルフィールドはほとんど氷で、ところどころ穴が開いており、下から冷たそうな水が顔をのぞかせている。 ヤナギのポケモンはジュゴン。 カイのポケモンはピカチュウのライラ。 タイプ的にはライラが有利なのだが・・・・・・・・・。 フィールドに不格好に立つライラ。 その氷の下でライラの隙を逃すまいと目を光らせるジュゴン。 頬を汗が流れるカイ。 険しい表情のヤナギ。 ライラがその場で放電すれば、氷を伝い水に達し、中にいるジュゴンにダメージを与えそうだが、ライラにはそれができなかった。 (なんとか隙を見つけねぇと・・・・・・・!) 「ライラ!10万ボルト!」 ライラが頬の電気袋に充電し始めた、次の瞬間! バシャア! ライラの後ろの氷の穴からジュゴンが飛び出した。 ジュゴンはライラが充電する一瞬の隙を突いたのだ。 「ジュゴン!冷凍ビーム!」 ヤナギのしわがれてはいるが、力強い声がジュゴンの耳に響く。 「後方約60度!電撃発射!」 カイの細かい指示。 ライラに60度という細かい角度はわからないが、だいだいの場所を予測し振り返らずに放電する。 10万ボルトと冷凍ビームは互いに相殺しあい、霧散する。 すぐに氷の下へ逃げ込むジュゴン。 それをなすすべもなく見送るライラ。 先ほどからこのような攻防が10分以上続いている。 だが、カイには秘策があった。 そのためには、ライラがジュゴンに接近する必要があったが、氷の床で細かい動きが出来ず、まだ一度もチャンスは訪れていない。 「どうした?このままではピカチュウが先に参ってしまうぞ」 ヤナギがカイに声を掛ける。 限りなく、無表情だ。 「ヘヘ・・・・・・・・・実はライラにジュゴンを倒す力はあるんだが、そのチャンスがなかなかやってこなくてさ」 「ほう・・・・・・・・」 「だから・・・・・・・・・ライラ!雷だ!」 「ピィィィカァァァッ!!!」 ライラが今までにないほどの量の電気を充電する。 「・・・・・・・・ジュゴン!」 雷のエネルギーを充電するには時間がかかる。 その隙をつき、またもジュゴンが飛び出した。 だが、冷気エネルギーをためる素振りを見せない。 「ジュゴン!頭突き!!」 ジュゴンが飛び出した反動を生かし、ライラに向かって一直線に迫る。 「!待ってました!」 「何・・・・・・!?」 カイの言葉と同時に、ライラは奇妙なことをしだした。 体中に貯まりかけていた雷用の電気エネルギー。 もうちょっとで充電完了しそうなのだが、ライラは充電を中断した。 このエネルギーではショボイ雷しか放てない。 ライラはそんなことを気にせず、体中の電気エネルギーを両腕に移動させた。 両腕が光り輝く。 「ライラ“電連掌”!!」 目前にまで迫っていたジュゴンの頭。 その頭に向かって、ライラが雷パンチを繰り出した。 鈍い音と何かが弾ける音とともに、のけぞるジュゴン。 その隙を、ライラは見逃さない。 ジャンプし、さらに強力な雷パンチを打ち込みまくる。 「な・・・・・・・・!!?」 10発以上打ち込み、ライラが着地した・・・・・・・と同時に氷に足を取られ転んだ。 ちょうど開いた氷の穴へすっぽり落ち、水しぶきをあげるジュゴン。 「ジュ、ジュゴン!」 ジュゴンを心配して、穴の中を覗き込むヤナギ。 そこには、何とか戦闘不能を免れ、弱弱しく泳ぐジュゴンの姿があった。 ヤナギの顔に、安堵の笑みが浮かぶ。 だがすぐに表情を険しくすると、ヤナギは穴に向かって何かぼそぼそと呟き、立ち上がり、カイを見る。 「なるほど・・・・・・・・わざと隙の大きい雷を指示し、隙を見せ接近戦に持ち込ませたな。  まだ一応戦えるが・・・・・・・・私はポケモンに無理はさせない」 「!・・・・・・・てことはジュゴンの負け?」 「そうなるな」 「よっし!まずは一勝・・・・・・ん?」 何処からかすかに聞こえてる、何かの鳴き声のような声。 よくよく聞けば、歌のようにも聞こえる。 奇妙で、悲しそうな歌声。 ライラもその歌を聞き取ったのか、きょろきょろしている。 だが、その歌もすぐに消えうせた。 その歌が終わると同時に、ヤナギが穴に向かってボールを向け、ジュゴンを戻した。 「・・・・・・あの、今、歌みたいの聞こえなかったッスか?」 「歌?はて、聞こえなかったが」 ヤナギは聞こえなかったといったが、カイにはヤナギが何か隠しているようにも見えた。 ヤナギがボールを放った。 中から現れたのは、ふさふさの体毛を持つ猪ポケモン・イノムーだ。 「イノムーか・・・・・・・・得意の電気技は効かねぇ・・・・・・・。 だが俺のライラには爆裂パンチがある!行け!ライラ!」 だが、動かない。 カイの指示もむなしく、ライラは動かない。 「!?オイ、どうしたライ・・・・・・!!?」 その場に、ライラは倒れ伏せた。 突然の出来事だった。 「・・・・・・・!さっきの歌・・・・・・・・・まさか・・・・!」 そう言って、ヤナギの顔を見た。 少しだけ、笑っていた。 「滅びの歌・・・・・・・!?」 「そのとおり、ジュゴンをボールに戻す前に、歌わせておいた。これで振り出しだな」 「へ・・・・・・!やってくれるぜ・・・・・・・!」 倒れたライラをボールに戻したカイは、次に出すべきポケモンをどうしようか迷っていた。 手にとった5つのボールとにらめっこし、そして選び出したのはカゲロウのボールだ。 相手がイノムーなら、カゲロウはかなり優位に戦える。 さらに氷のフィールドも関係ない。 だが・・・・・・・。 そいつは暴れていた。狭いボールの中で。 自分を出せといわんばかりに、暴れ続ける。 カイは意を決した。 そして、投げた。 チーム一の臆病者のボールを・・・・・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・本気か?」 「本気だ」 ヤナギの問いに、カイは一瞬も迷わずに答えた。 氷のフィールドで、相手は氷タイプにイノムー。 そんな状況で、地面タイプであるサンドは明らかに不利である。 「勝負を捨てたのか・・・・・・・・・それとも、そのサンドで私のイノムーに勝てるとでも?」 「勝つ気マンマンだ」 一瞬の静寂。 先に動いたのはカイだ。 「スピン!一撃で決めるぞ!」 「ギャウッ!!!」 カイの指示で、スピンは両手を振りかざした。 「何を・・・・・・・・!?」 ヤナギとイノムーはスピンの奇行に目をやる。 「やれ!“地割れ”だァ!!」 その言葉を聞いて、ヤナギとイノムー顔が真っ青になった。 この氷のフィールドに地割れなんて叩き込まれたら、氷は割れ、イノムーは冷たい水に落ちてしまう。 氷タイプであるイノムーだが、同時に地面タイプをも持ち合わせているため、この水に落ちたら一瞬で戦闘不能となってしまう。 そんなことを考えている間に、スピンが両手を振り下ろした。 ヤナギとイノムーが反射的に目を瞑る――― ポコ。 その小さな音だけが、フィールドに木霊した。 ヤナギとイノムーが恐る恐る目をあける。 何も変わっていない。 氷は割れるどころかひびすら入っていない。 これはどうゆうことだ? そんなことを考えながら、ヤナギはカイに目をやる。 カイは口をぽかんと開け、目の前の期待はずれな現状に落胆していた。 「・・・・・・・・・・スピン?」 スピンも自分が一瞬何をしたか忘れていたが、すぐに思い出した。 そうだ、地割れだ。地割れを起こすんだった。 そう自分に言い聞かせながら、スピンはまた両手を振り上げ、振り下ろした。 だが、地割れは起きない。 その後も何度も氷の地面をたたくが、聞こえてくるのはスピンの小さな両手が氷をたたくポコポコとかわいい音のみ。 「使えねぇ・・・・・・・・・」 カイがそう呟くと、 「・・・・・・イノムー!吹雪!」 唐突に、イノムーが吹雪を放った。 冷たく、それでいて厳しい風が、スピンを襲う。 「げ!スピン!何とかかわせ!」 スピンは時には走り、時にはジャンプし、時には転がりながら、何とか吹雪を避ける。 だが、思いっきり転んだ。 ジャンプした後の着地の際に、氷に足をとられたのだ。 そのままツツーッと氷の上を滑っていくスピン。 そして・・・・・・・。 ボチャン! 落ちた。 地面タイプのポケモンが、水どころか水気すら嫌うサンドが、チーム一の臆病者のスピンが、氷の下に張られた冷たい水の中へ尻からダイブした。 「・・・・・・・・・・・」 一瞬、止まる2人と1匹。 「・・・・・・・・スピン?」 カイが呆然と呟いた。 「・・・・・・これは確実に、私の勝ちだな。  地面タイプのサンドが水の中に落ちたら、いくらなんでも自動的に戦闘不能になる」 「・・・・・・・いや」 「いや?」 「俺のスピンは・・・・・・・まだ負けてない」 「何を言う?地面タイプのサンドが水に落ちたのだぞ?」 「俺は・・・・・・・・・」 カイが言葉を途中で切ったが、すぐに口を開いた。 「仲間を信じてる!」 カイがそう言いきった、次の瞬間。 バキバキバキバキ!!! 突然、氷にひびが生じた。 しかも、スピンが落ちた氷の穴付近から。 ひびは真っ直ぐにイノムーの真下を通り過ぎた。 そして―――割れた。 ひびを中心に氷がすごい勢いで割れ始めた。 そう、これこそ“地割れ”である。 なすすべもなく、氷の割れ目に落ちるイノムー。 「!?イノムー!」 氷の地割れがやみ、辺りに静寂が襲った。 水の上に散らばる、割れた氷の残骸。 水の上にぷかぷかと浮き、戦闘不能となったイノムー。 唐突に、水の中から何かが飛び出した。 飛び出したそれは空中で回転し、大き目の氷の破片の上に着地した。 「いい地割れだったぜ、スピン」 「ヂィ・・・・・・・・・」 氷の破片の上に立つねずみポケモン・サンドパンは静かに笑った。 カイは町を出て、北へ向かうことにした。 本来なら東へ向かい、最後のバッジがあるフスベシティに向かうのが普通だが、カイは北へ向かった。 カイは、実はヤナギに頼み事をされていた。 背負ったグレーのリュックの中には、ヤナギから受け取ったアイスバッジがしまわれていた。 「この町から北へ向かうと、“怒りの湖”というギャラドスとコイキングのみが生息する湖がある」 「怒りの湖・・・・・・・・?」 「そう。実はそこに棲む変色ポケモン・・・・・・・・・赤いギャラドスに問題があってな。  数年前、ロケット団の実験台にされ、変色ポケモンとなったギャラドスで、凶暴化し、怒りの湖に現れる人間を見境なく襲っていた  だが、旅のトレーナーのおかげで沈静し、さらにロケット団も壊滅し、ただの色違いのギャラドスになったのだが・・・・・・・・・」 「何か・・・・・・・・・問題でもあるんスか?」 「そのギャラドスが、最近、輪を掛けたように凶暴化してな。  何故か、攻撃力が増大し、身体だけでなく眼までもが赤くなってしまって・・・・・・・・・。  私も以前、沈静を試みたのだが、そのすさまじい力に負けてしまい・・・・・・・・。  君になら出来そうだ、どうだ、あのギャラドスを何とか大人しく出来ないか?」 「凶暴化・・・・・・・・・眼が赤に変色・・・・・・・・・・・・攻撃力増強・・・・・・・・・・」 この3つのキーワードが、頭の中を走馬灯に様に巡った。 カイが何故この3つのキーワードのこだわるのかは、理由があった。 ウバメの森で出会った、凶暴化したゲンガー。 凶暴化、これは言い直せば怪しい光や超音波が起こす“混乱”。 攻撃力増強、あのゲンガーも攻撃力が爆発的に上がっていた。 そして赤い眼、ゲンガーの眼は、人間の眼でいう白目にあたる部分が赤。 もしあのゲンガーも瞳が赤に変色していたのなら、瞳が消えたのではなく、周りの赤と同化していたのである。 これで合点が着いた。 今回のギャラドスと、あのときのゲンガーは同じ症状である。 カイは非常に気になっていた。 ゲンガー、そしてギャラドスの凶暴化。 明らかに人為的なものである。 同一犯。 しかも、かなりのヤバイやつの犯行。 カイはすでに“怒りの湖”に続く森の中を歩いていた。 エンジュ〜チョウジ間の森と非常に良く似ている。 「あのギャラドスは、以前は“赤いギャラドス”と呼ばれていたが、今では眼まで赤くなってしまったことから“真紅のギャラドス”と呼ばれているよ」 ヤナギの言葉が、ふとカイの心に蘇った。 「真紅のギャラドス・・・・・・・・・か・・・・・・・・・・」 カイが辺りに目をやる。 よく茂った、緑豊かな森だ。 「そういやこの森と前通った森って、実はどっかで繋がってるって聞いたな。  またあのスピアーたちに会ったらめんどくせぇな・・・・・・・。ま、倒せばいいんだけど」 そうぼやいていたカイの耳に、またもあの音が聞こえてきた。 カイがぴたりと足を止める。 スピアーの羽音。 だが、前とは違い、どんどん離れていくのがよくわかる。 羽音が重なっていることから集団で移動している。 スピアーは餌を探すときなどは単独行動が多い。 集団で移動しているということは・・・・・・・・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・!!」 カイの足が無意識のうちに走り出した。 この森のどこかで、誰かが襲われてる・・・・・・・・・・・!  次回予告 第51話 性格正反対(仮)