*************  リベンジャー  第51話「認められたい」 ************* ブ〜ン・・・・・・・。 ハァ・・・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・・! 森の中を、何かが飛ぶ音が鳴り響く。 その音から逃れるべく逃げ惑う1人の少女。 少女の容姿で、まず目立つのはその青く長い髪だ。 薄い青色の髪は腰近くまで長く、ツインテールにしている。 黒のノースリーブのシャツに、白い半ズボン。 膝まで伸びた長い黒のソックス。 背中には小さな白いリュック。 手足は細く、どちらかといえば色白だ。 腰に装着されたモンスターボールからして、ポケモントレーナーだということはわかる。 顔は整った顔つきで、なかなかの美少女だ。 額や頬に汗を流し、迫り来る追っ手から逃れようとしている。 トレーナーなのに、何故戦おうとしないのか? すべて戦闘不能になっているのだろうか? はたまた新米トレーナーなのか? 少女はたまにちらちら後ろを見る。 追っ手・・・・・・スピアーの軍団は追跡する手を休めることなく追ってくる。 (ハァ〜・・・・・・・なんで私ってこんなに運悪いんだろ・・・・・・。  この前はたった一割の確率で毒になる毒針受けていきなり毒状態になるし・・・・・・・・。  その前は何もないとこで転んで周りの人に笑われたし・・・・・・・ウウ・・・・・・) 少女は半べそ状態になっていた。 せっかくの美少女顔が台無しである。 (今度はスピアーに追われるし・・・・・・・ホントついてない・・・・・・・) 前方に、カーブが見えてきた。 左に急カーブする曲がり角だ。 少女がその曲がり角を曲がろうとしたとき、地面に半分埋まっている石につまずいた。 遠心力で少女の身体は投げ出され、近くにあった木の頭からぶつかる。 頭を打ったせいでか、意識が朦朧となる。 薄れ行く意識の中、少女がスピアーたちがもうすぐそこまできていることに気がついた。 少女が諦めかけた、そのときだった。 少女に目に、あるものが映った。 少女とスピアーの間に、オレンジ色の大きい影と、その横に立つ人影。 逆光に照らせれ、その容姿はほとんど見えない。 (だ・・・・・・れ・・・・・・・?) 少女の意識はそこで途切れた。 「・・・・・・・・・・・?ここは・・・・・・・」 少女が目を覚まし、身体を起こした。。 目の前に広がっているのは、小さめな湖だ。 森の中に開けたその小さな空間。 そこだけ草むらが生い茂り、周りは森で囲まれている。 直径10mほどの円形の広場の半分を、湖が覆い尽くしている。 まず自分が置かれている状況を把握することにした。 草むらに置かれた2つの人間の子どもほどの大きさの岩。 その2つの岩が八の字状に置かれ、少女はその一片の前に寝かされていた。 岩には彼女が背負っていたリュックが立てかけられている。 後で気がついたのだが、よく見れば体の上に薄く汚れたクリーム色の毛布が掛けられていた。 今は下半身の上に乗っている。 そして、一番最初に気付くべきものが目に入った。 「・・・・・・・!?」 もう一方の岩の前に、大きなオレンジ色のポケモンが横たわり、寝息を立てていた。 「・・・・リザードン・・・・・・てことは、さっき助けてくれたのって・・・・・・」 唐突に、リザードンが目を覚ました。 少女が起きた気配を感じ取ったのだろうか。 リザードンは大きくあくびをすると、少女に目を向けた。 「グオ(あ)」 「え?」 「グオウグオ(起きたのか)」 「え、ええ、まぁ・・・・・・」 『!?お前、俺の言葉がわかるのか!?』 「えっとまぁ一応・・・・・・・・」 『・・・・・・・世の中には変わった人間がいるもんだ・・・・・・・まぁどうでもいいんだけど』 リザードンは立ち上がると、森に向かって歩き出した。 『ウチの主人探してくっから。あいつ食い物探してくるって行ったきり戻ってこねぇんだよ』 その時、リザードンが入ろうとしていた森から、少年が出てきた。 紺のパーカーに、青いジーンズ。 頭に巻かれた包帯、首に掛けられた青いヘアバンド。 乱れた青い髪に、澄んだ青い瞳。 そして、両手に抱かれた5,6個のリンゴ。 『遅ぇぞバカ』 「お、眼ぇ覚めたのか」 少年はリザードンの横を通り過ぎ、少女の元へ向かった。 リザードンが寝ていた岩に身を任せ座り、リンゴを1つ少女に手渡した。 「あ、ありがとうございます・・・・・・」 「別にいいって、礼なんかしなくても」 少年がリンゴにかじりつく。 少女の声は少年に比べたら小さめである。 それに少しもじもじしているようにも見える。 どうやら内気な性格らしい。 少年の横にリザードンがいるのを確認すると、リンゴを2つ、手渡した。 少年が身を任せている岩の反対側に座り、リンゴを食べ出した。 「食べなよ」 「え?あ、ハイ」 少年に言われ、少女もその小さな口でりんごをかじる。 「俺はカイ・ランカル。んで、後ろでリンゴかじってるのがカゲロウ。君は?」 少年・・・・・・カイはりんごをほおばりながら自己紹介する。 「私は、キキ・グローリーです。あ、キキでいいですよ」 「・・・・・・・・・・・?」 カイが少女・・・・・・キキの自己紹介を聞いた瞬間、固まった。 「・・・え!?私、何か変なこといいましたか?」 「・・・・・・え〜と・・・・・・・ちょっと質問していいかな?」 「え、いいですけど・・・・」 「キキって、もしかして兄貴いる?」 「いますけど」 「銀髪で、何かちょっと目つき悪くて、んでもってプテラと、ギャラドスと、ゴーリキー・・・・・・・・・あとヘルガー持ってる?」 「ハイ・・・・・・全部あってますけど・・・・・・・・」 カイは確信した。 「・・・・・・・・・・名前って、もしかしてジン・グローリー?」 「え!?何でお兄ちゃんの名前を知ってるんですか!?」 「いや、実はちょっと知り合いでな、まぁ知り合いっていうか仲間なんだけど」 「・・・・・・・!お兄ちゃんって、友達いたんですか!?」 「・・・・・・・いや、いたんですかって、かなりジンに失礼だと思うんだけど・・・・・・。  ジンの妹ってことは、ヘヴンって知ってるよな?」 その言葉を聞いた瞬間、キキの表情が険しくなった。 険しくなったというよりも、何かに脅え、あえて強く見せようとしているようにも見える。 「実は俺もヘヴンを追ってるんだ。で、旅先でちょっとジンを共同戦線張ることになって・・・・・・・。  それからまた会って、そのときに正式に仲間ってことになったさ。  俺以外にもジンには仲間はいるぜ、うるさいやつが多いけど。  で、ジンにはいろいろ聞いた。“当時”のことを重点的に」 「!その“当時”のことって、どこまで聞いたんですか?」 「!ああ、心配すんな、ジンには“能力”ってヤツに関しては何も教えられちゃいねぇから。  キキも、“能力”に関して知られたくねぇんだろ?」 「!そ、そうです。よかった・・・・・・」 “能力”に関して何も知られていないとわかると、キキは安堵の表情を浮かべる。 一方、カイはというと、あのクールに構えたジンが“お兄ちゃん”と呼ばれているところを思い浮かべると、あまりの似合わなさに吹きだしてしまう所だった。 「カイさんは、何故ヘヴンを探してるんですか?」 「!俺が、ヘヴンを探す理由・・・・・・・・・・」 カイの表情が、険しくなった。 「!あ、ごめんなさい・・・・・・。私、聞いちゃいけないこと聞いちゃいましたか?」 キキはカイの様子を見るなり頭を下げた。 カイのその表情は、キキから見れば正直な話し、怖かった。 「別にいいよ・・・・・・・・・。  俺がヘヴンを探してる理由は、ヘヴンが俺の母さんの仇だからさ」 「お母さんの仇?」 「ああ。俺の見てる目の前で、母さんは死んだ。最初はそれがヘヴンの仕業って知らなかったけどな」 「そうなんですか・・・・・・・・・・・あ!」 「ん?」 「ごめんなさい!私、助けられたお礼もしないで・・・・・・・・・・・・」 と、頭を下げながらまた謝った。 どうやらすぐに謝ってしまうのがクセらしい。 キキの目がカイの頭に巻かれた包帯にいった。 「もしかして、その怪我、私を助けたときに・・・・・・・・・・・・」 「あ、これ?違う違う、これは前からさ」 と、手を胸の前で降りながらカイは言った。 「そういやこの包帯全然替えてねぇな、そろそろ替えるか」 と言って、カイは頭に巻かれた包帯を外したした。 カゼマルの包帯はきちんと替えていたが、自分の包帯はめんどくさいといって、まだ一度も替えたことがなかったのだ。 カイが包帯を取り終えると、そこにはまったく傷跡1つ残っていなかった。 綺麗さっぱり消えてしまっている。 「お、なんだ、もう治ってたのか」 カイが首に掛けてあったヘアバンドを額に移した。 久々の感触が、額を通じて全身に伝わる。 「やっぱこれがなきゃ俺じゃねぇな。  と、そうだ。キキ、俺、他にも聞きたいことがあんだけど、いいか?」 「・・・・・・・・え?あ、ああ、いいですよ」 キキはしばしの間、ヘアバンドを装着したカイに魅入っていた。 ほんの少しだけ、頬が紅潮していた。 カイに呼ばれ、我に帰ったキキはカイを改めて見る。 「ジンがさ、「妹はジムに残してきた」みたいなこと言ってたんだけど、ジムってフスベだよな?何でこんなトコにいんだ?」 「う・・・・・・・・・・・・・・・・・」 キキがビクっと身体を震わせた。 どうやら聞かれたくなかった質問らしい。 散々押し黙った後、キキが口を開いた。 「・・・・・・・・・・・・実は私・・・・・・・・・ちょっと家出みたいな形でジムを出てきてしまって・・・・・・・・・」 「家出?」 「ハイ・・・・・・お兄ちゃんが旅に出るとき、私もついていこうとしたんですよ。そしたら・・・・・・・・・」 ―――お前はここに残れ、足手まといだ――― 「・・・・・・・・・て言われて、結局残ることにしたんです。  でも、やっぱり諦め切れなくて、親代わりのイブキさんの目を盗んで、飛び出したんです。  やっぱり私も修行して強くなったことを証明したくて、そこで考えたんです。  “怒りの湖”に棲んでる赤いギャラドスが結構強いって事を聞いてたんで、そのギャラドスを倒してお兄ちゃんに認めてもらおうと思って・・・・・・・」 「ここまで来たってか・・・・・・・・・。  その親代わりの・・・・・・イブキだっけ?心配してんじゃねぇか?」 「多分・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・!そういや、キキってジムで修行したんだよな?」 「え?ハイ」 「じゃあ・・・・・・・・・・・なんでさっきスピアーに追われたとき、立ち向かわなかったんだ?  一端のトレーナーならあれくらいどうってことねぇだろ」 「・・・・・・・あ、そういえば・・・・・・・・。  私、いきなりポケモンに襲われると、パニックになっちゃって全然駄目なんですよ・・・・・・・・・・・・」 カイは、キキの話を聞いて、こいつはトレーナー修行よりも己を修行したほうがいいんじゃないか?と考えたが、言ったら傷つきそうなのでとりあえずやめておく。 末に食べ終えたリンゴの芯をゴミ袋に入れたカイは立ち上がり、大きく伸びをした。 それに続いてキキもリンゴの芯をゴミ袋に入れる。 カイはいつの間にか立ち上がり、小さな湖を見つめている・・・・・・いや、睨みつけているカゲロウの存在に気がついた。 「どうした?カゲロウ」 カイの声が聞こえていないのか、カゲロウはまったくカイの言葉に反応せず、細目で湖を睨んでいた。 「・・・・・・・・・!」 カイもその謎の気配を感じ取り、湖を睨みつけた。 鋭い目で、何の変哲もない湖を睨み続ける。 キキは何事かと思い立ち上がる。 「あ・・・・・・あの、カイさん。どうしたんですか・・・・・・・・・?」 カイは湖を睨む目をまったく移さずに 「キキ、この辺りの地図持ってるか?出来るだけ詳しいやつ」 「え、持ってますけど・・・・・・出しますか?」 「ああ、頼む」 キキはリュックを探り、中から地図を取り出し、カイに手渡した。 カイはそれを無言で受け取り、地図に目を通す。 地図は“怒りの湖”周辺を描いた地図で、湖が他の場所に繋がっていることまで詳しく書いてある。 さすがは“怒りの湖”にいる赤いギャラドスを倒しに来たキキの持つ地図だ。 カイの目が地図の左下・・・・・・・南西を見たとき、カイの目がさらに鋭くなった。 「やっぱりな・・・・・・・・・この湖は“怒りの湖”自体に繋がっていた・・・・・・・!てことはこの殺気たっぷりの気配は・・・・・・・」 カイはキキに聞こえる聞こえないかというほどの音量で呟く。 キキに地図を渡すと同時に、カイは鬼気迫る声で 「キキ、森の中に隠れてろ」 「え?どうしてですか?」 「!早く隠れろ!早く!」 「え?・・・!わ!」 カイは突然叫ぶと、キキを突き飛ばし、無理やり森の中へ隠れさせた。 「!来るぞ!カゲロウ!気ィ抜くんじゃねぇぞ!」 「グオウ!」 突然、湖の中心が膨れ上がった。 謎の膨らみはすぐぬ破裂し、中から謎の気配の主が現れた。 赤いギャラドス、もとい、眼全体まで赤くなり、凶暴化した“真紅のギャラドス”だった。 「出たな・・・・・・・・・・“真紅のギャラドス”!」 「真紅の・・・・・・ギャラドス・・・・・・・・・・・!?」 ギャラドスは狂った赤い眼で、辺りを見渡すと、自分の目の前にいるカゲロウに眼をつけた。 ギャラドスは戦いの飢えを満たすべく、牙がギラリとそろった口に光をためていく。 そして、ギャラドスの十八番、破壊光線を発射した。 カゲロウを、光と煙が襲った。  つづく  次回予告 第52話 意外な実力者(仮)