*************  リベンジャー  第52話「意外な実力者」 ************* “怒りの湖”南東に位置する小さな湖。 湖同士は地下にある洞窟で繋がっており、ギャラドス達はそこを自由に行き来できる。 立ちこもる膨大な量の煙。 その中へ姿を消したカイとカゲロウ。 森の中でカイの所有物であるグレーのリュックを抱えたキキは、その煙を心配そうに見つめる。 湖から半身を出し、狂った赤い眼で煙を睨む“真紅のギャラドス”。 「やっぱり・・・・・・・・・な・・・・・・」 煙が晴れ始め、まずカイの姿が現れた。 その傍らに立つ、“無傷”のカゲロウ。 カゲロウの前には大きなクレーター状の穴が開いている。 おそらく、ギャラドスが放った破壊光線の影響だろう。 煙が完全に晴れた。 カイはギャラドスのその如何わしい赤い眼を見つめる。 よく見ると、赤い眼は焦点が合っておらず、どこか可笑しな雰囲気を漂わせている。 「グゥアアア!!!」 ギャラドスが吼えた。 またも口から破壊光線を打ち出す。しかも同時に2発。 だが、2つの破壊光線はカゲロウの左右に落ちただけで終わった。 「混乱して狙いがあってない・・・・・・・」 カイが拳を握り締めた。 「コイツの混乱を覚まさせてやる!カゲロウ!竜激波!」 カゲロウが飛び上がり、口から巨大な火球、竜激波を3発打ち出した。 ギャラドスは混乱しているせいか、まったくかわす気配を見せず、そのまま立て続けに顔面に竜激波を受ける。 苦悶の雄たけびを上げ、苦しむギャラドス。 ギャラドスは苦しむのを止めると、また回りをきょろきょろと見渡した。 あたかも目の前のカゲロウが見えていないかのように。 ギャラドスの狂った目があるものを捕らえた。 カイがギャラドスの目線を追うと、そこにはキキの姿があった。 ギャラドスの全身が湖から飛び出した。 そのままキキに突進する。 「!?キキ!逃げろォ!」 「・・・・・・・・・」 キキはカイの声が聞こえていないのか、うつむいたまま動かない。 突如襲ってきたギャラドスに対し、まったく悲鳴をあげないというのもおかしい。 突然ポケモンに襲われると、パニックになってまったく駄目なはずのキキが、今はまったく騒がず、むしろ不気味なほど静かだった。 キキは抱えていたカイのリュックを右肩に掛けた。 ボールを1つ手にとり、顔をあげた。 顔をあげたキキのその目を見て、カイは驚いた。 キリッとした目つき。 その小さな目はギャラドスを怯むことなく睨みつける。 その目はまさしく、強者を見つけたポケモントレーナ―の目だった。 ギャラドスは眼前に迫っていた。 「キキ!!」 ギャラドスの顔面が森の中へ突っ込んだ。 ミシミシと音をたて、倒れる数本の木。 仕留めた。 もしギャラドスが混乱していなかったら、こう呟いただろう。 ギャラドスは背中に違和感を感じた。 その違和感の正体を、カイは目を丸くして見ていた。 三つの首を持つ飛ばない鳥ポケモン、ドードリオの背中に乗ったキキ。 ドードリオはギャラドスの背中をある程度走り、ジャンプした。 「イーグス!トライアタック!」 先ほどまでの大人しかった少女が、声を張り上げドードリオに指示を出す。 ドードリオ・・・・・・・イーグスは空中で反転すると、その3つの口がそれぞれ氷、炎、電気エネルギーをためていく。 トライアタックが放たれ、ギャラドスの背中に命中する。 だが、ギャラドスは悲鳴をあげない。 トライアタックが麻痺症状を引き起こしたようだ。悲鳴をあげることすらままならない。 ギャラドスから距離をとり、着地するイーグス。その背からおり、ギャラドスに対峙するキキ。 カイとカゲロウはその光景をただ呆然と見ていた。 大人しかったはずのキキの突然の豹変。 その原因を述べてくれるものはここにはいない。 ギャラドスが痺れる身体を無理やり起こし、キキを睨む。 「かわいそう・・・・・・・苦しかったんだね、でも安心して。今すぐあなたを助けてあげる」 ドードリオを戻し、キキがボールを投げると、中からサンダースが現れた。 ボールから出て一声も鳴き声をあげないことから、かなりの無口のようだ。 「スパイア!高速移動!」 サンダース・・・・・・・スパイアが消えた。 次に現れたのは、ギャラドスの真上。 「スパイア!“稲妻の矢”!!」 スパイアがその自慢のトゲをギャラドスに向ける。 そのトゲすべてに電気をまとわせると、スパイアが“稲妻の矢”を発射した。 無数の矢はギャラドスを襲うと同時に、己の身にまとわりついた電気をギャラドスに流し込む。 一度は倒れたギャラドスだが、まるで痛みを感じていないかのように立ち上がる。 「イリス!」 キキは素早くポケモンを交代する。 その姿は一流のポケモントレーナーのようだ。 次に現れたのはなんとロコンだった。 ロコン・・・・・・イリスは巨大なギャラドスに臆することなく対峙する。 「イリス!“六つの流れ星”!」 イリスが6つの尻尾にスピードスターの星を1つ1つ装着していく。 さらにその星が炎に包まれ、打ち出された。 炎に包まれたスピードスターは的確にギャラドスを射抜いた。 苦痛の声をあげ、倒れるギャラドス。 そしてそのまま動かなくなる。 傷だらけのギャラドスに歩み寄るキキとイリス。 いつの間にか鋭い目つきは美少女の瞳に変わっていた。 キキは優しくギャラドスの顔を撫でてやる。 すると、ギャラドスが目を覚ました。 その眼は、黒かった。混乱症状が消えたようだ。 ギャラドスは身体を起こし、また辺りをきょろきょろ見渡す。 なぎ倒された数本の木。 地面に出来たクレーター。 ギャラドスは目を丸くする。 「大丈夫?」 キキの声で、ギャラドスは顔を低くした。 凶悪ポケモンと称されたギャラドスだが、それは外見だけを言っている。 今のギャラドスは先ほどの凶悪な顔ではなく、「?」というカンジの表情をしている。 「ねぇギャラドス、あなた、最近何かされなかった?」 ギャラドスは何か小声で喋る。 「そう・・・・・・・・ごめんね、痛い思いをさせて・・・・・」 ギャラドスは首をかしげた後、湖の中へ潜っていった。 キキは一息つくと、カイの元へ歩み寄った。 「あのギャラドス、何も知らなかったみたいです。何も覚えていなかったみたいで・・・・あ、これ」 キキが差し出したリュックをカイは無言で受け取り、背負う。 キキはイリスを両手で抱え、その頭を撫でてやる。 イリスは目を細めながら、気持ちよさそうに鳴く。 カイはキキの顔を見つめ、何も言わなかった。 カゲロウもキキの顔を見つめている。 キキは少し頬を赤らめながら、 「あ・・・・・あの、私の顔に何かついてますか?」 「・・・・・・・・・えっと、さっきの、何?」 「え?」 「キキって・・・・・・・・実はメチャクチャ強かったりする?」 「あ・・・・・・私、あまりにパニック状態になると開き直っちゃって、急に強くなったりするんですよ。いつもそうならいいんですけど・・・・・」 「はぁ・・・・・」 カイとカゲロウはお互いに顔を見合わせた。 未だに、先ほどギャラドスと勇敢に戦っていた少女がキキだと信じられないでいた。 「・・・・・・・・・そういやさ、さっきギャラドスと話してたよな。キキってポケモンの言葉がわかるのか?」 「ハイ。これも一応・・・・・・・“能力”の1つなんですよ」 「・・・・・・・・・なぁ、やっぱ聞いちゃ駄目か?“能力”の内容・・・・・・」 「・・・・・・・・駄目です。“能力”をフルに使うと・・・・・・」 「使うと?」 キキが表情を暗くし、そして、 「人間じゃ・・・・・・なくなるような気がして・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 カイはキキの言葉を聞き、黙り込んだ。 俺はバカだ。 何でそんなこと知りたがるんだ? 本人が嫌がってんだから聞かなくていいじゃねぇか。 その時、カイは何かの気配を感じ取った。 先ほどとは違い、今度は森の中から感じる。 気配を感じる森の上から、何かが飛来した。 その何かは太陽を背負い、逆光で黒い塊のように見える。 森の中の気配は消えていない。“気配”と“何か”は別のようだ。 黒い塊のシルエットがだんだん明らかになっていく。 モンスターボールの2倍ほどの大きさの、謎の球体だ。 その謎のボールが七色に光り輝いているのを確認すると、カイはそのボールがキキに向かっているのに気がついた。 そして――― 爆発した。 「・・・・・・・・・・!?カイさん!」 「いっつ・・・・・クソ・・・・・・」 謎のボールが引き起こした爆発は、キキの目の前でカイの左の掌に遮られた。 掌は黒くこげ、火傷状態となる。 カイはその場で膝をつき、右手で左手を強く握り締めた。 握り締めた痛みで火傷の痛みを消し去ろうとする。 「カイさん!大丈夫ですか!?」 「・・・・・・・・プレゼントだ」 「え?」 「デリバードのみが使える技・・・・・・しかもかなりの威力だ・・・・・・。けったいな贈り物だぜ・・・・・・!」 「ほう・・・・・・・・一瞬見えただけで今のがプレゼントだとわかるとは・・・・・・・なかなかやりますね」 その声とともに、森の中から1人の男が姿を現した。 20代後半、長身、白ローブを羽織った男。 ロン毛の金髪、そして美形の顔。 その傍らには、運び屋ポケモン・デリバードが立っていた。 「誰だ・・・・・・・・・!」 カイが嫌がる身体を無理やり言うことを聞かせ、立ち上がる。 左手はいつの間にか出血しており、鮮血が滴り落ちる。 カゲロウはすでにいつでも竜激波を打てるようスタンバイしていた。 「私の名はビル・ハースト。以後お見知りおきを」 そう言って、丁寧に左腕を胸の前に添えながら礼をするビルという名の男。 「・・・・・・・・・ルーラァズ・・・・・・・・・だな・・・!?」 カイがそう言った直後、後ろから物音がする。 振り返ると、脅えた顔で後ずさりするキキの姿があった。 「キキ・・・・・・・・?そうした?」 「・・・・・・・ビル・・・・・・・なんでこんなトコに・・・・!?」 キキは震える声でそう言った。 歯が噛み合っていない。 「キキお嬢様・・・・・・・・・お迎えにあがりました」 ビルのその一言。 かなり意味ありげなセリフだが、カイにはそのセリフの真意をすでに理解していた。 キキはルーラァズの旧組織、ロケット団の首領、サカキ・グローリーの義娘なのだ。 キキと顔見知りということは、この男がロケット団当時、キキと接触していたことがわかる。 問題は、首領の娘と接触できるこの男の階級だ。 「テメェ・・・・・・・・・・ただのルーラァズじゃねぇな・・・・・・・!?」 「フフ・・・・・・・・・すでに感じ取っているようですね」 「何者だ・・・・・・・・・・!」 「では改めて自己紹介を・・・・・・・・。  私はルーラァズ最高三幹部、“ボマー”、ビル・ハーストと申します」 「最高三幹部・・・・・・・!」 その言葉が、カイを駆り立てた。 怪我をしている左手を無視し、腰のボールに手を掛ける。 だが、ビルの目線はカイではなく、キキに向けられていた。 「・・・・・・・・・!?」 「捜しましたよ、キキお嬢様・・・・・・・・・」 そのビルの顔は、かすかに笑っていた。  つづく  つづく  次回予告 第53話 爆弾魔(仮)