**********  リベンジャー  第53話「爆弾魔」 ********** 「捜して・・・・・・・た・・・・・・!?」 「そうですよ、キキお嬢様」 不敵な笑みでキキを見るビル。 その目線に脅え、また1歩後ずさりするキキ。 その腕に抱かれたイリスも、ガタガタ脅えている。 左手の出血を右手で必死に抑えるカイ。 「先ほどのバトル、拝見させていただきました。腕を上げましたね」 「・・・・・・・・・・」 「あの“破壊の遺伝子”を注入されたギャラドスを倒すとはさすが・・・・・・」 「・・・・・!オイテメェ!どうゆうことだ!」 ビルは発したその謎の言葉に、カイはいきり立った。 「どうゆうこと・・・・・・・とはどうゆうことですか?」 「まさかテメェらが・・・・・・・その“破壊の遺伝子”ってやつでギャラドスを凶暴化させたのか!?」 「そうです、どうでしたか?なかなかの暴れっぷりでしたでしょう?」 「この・・・・・・!何が目的だ!」 「まぁまぁそんなに怒鳴らないで・・・・・・・カイ・ランカル君?」 「!?何で俺の名を・・・・・・!」 「もうルーラァズの間ではあなたの名は有名ですよ?  エンジュシティでは“銀色の羽”捜索部隊を倒し・・・・・・ジュエルタウンでは“イレイザー”を退けた。  あなたはもう完全に我らルーラァズの敵と認識されています。  しかも、ブラックリストナンバー2として」 「・・・・・・・・・・・質問していいか?」 「どうぞ」 「さっきキキに迎えに来たと言ったな、ちょっとおかしくねぇか?」 「何がですか?」 「その迎えに来た当の本人を攻撃するのはお門違いだろう?」 「ああ・・・・・・・先ほどのプレゼントですか。あれはですね・・・・・・・・・試したんですよ」 「試した?」 「キキお嬢様の力が鈍っていないかということと・・・・・・・。ランカル君、君の力を見たくてね」 「俺の?」 「我らが“イレイザー”を退け・・・・・・・・さらにヘヴン様に“保留”扱いされるとは・・・・・・・・」 「保留?」 「そのことに関しては企業秘密なので・・・・・・・」 「・・・・・・・・今ごろキキを捜して、どうするんだ」 「もちろん・・・・・・・・・“能力”のためです」 「“能力”・・・・・・・・!」 「私の記憶が正しければ・・・・・・・今現在キキお嬢様は10歳・・・・あ、今年で11歳ですね。  11歳ともなれば・・・・・・・・・“能力”の特訓にはちょうどいいのですよ」 「・・・・・・・・キキ、お前がロケット団にいたとき、ヤツはお前の何だったんだ?」 「・・・・ビルは、私とお兄ちゃんの教育係だったの・・・・・・」 「!」 「ポケモンに関する知識や、ポケモンバトルも付き合ってくれた・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「だけど・・・・・・・今考えれば、それは全部私たちを将来戦わせるためだった・・・・・・・」 「・・・・・・・キキ、もういいぞ。おい、“ボマー”」 「何か?」 「知りたくねぇか?俺がお前らに敵視されるようになった理由ってヤツを・・・・・・・」 「・・・・・・・それは私も思っておりました。手合わせ願えますか?」 「ハナっからそのつもりだ・・・・・・・・!」 長い長い会話、探りあいが終わった。 「デリバード!プレゼント!」 「カゲロウ!全部炎で打ち落とせ!」 先ほどまでただの談話場だった森の中に開けた広場が、一瞬で戦場となった。 キキとイリスは森の中からその光景を見守っている。 デリバードが空を飛び、持ち合わせた袋から無数の爆弾、プレゼントを放り投げる。 その危ない贈り物を、カゲロウはすべて火炎放射で打ち落とす。 だが、唐突にカゲロウが後ろから謎の攻撃を受け、前のめりに倒れそうになる。 その隙をデリバードは見逃さない。 手にとった爆発物をカゲロウに3個放る。 爆発。 口から煙を吐くほどの爆撃を受けたカゲロウが、そのままうつぶせに倒れる。 「な・・・・・・!?カゲロウ!?」 駆け寄り、カゲロウを助け起こすカイ。 カゲロウは白目を剥いて、明らかに戦闘不能となっていた。 「・・・・・・・・・あなたは少し、勉強不足ですね」 ビルの言葉に、カイはカチンと来た。 いきなり勉強不足なんて言われたら、誰だって頭にくる。 「あなたはデリバードが未来予知が使えることを知ってましたか?」 「デリバードが・・・・・・未来予知!?」 「やはり知りませんでしたか・・・・・・・」 ビルがボールを2つ手にとり、放った。 中からヤシの実ポケモン・ナッシーと、ヘドロポケモン・ベトベトンが現れる。 「ではここで問題です。私かこれからこのポケモンたちに何を指示すると思いますか?」 「知るか!」 「ヒントは・・・・・・・・・・・・・“ボマー”です」 「・・・・・・・?」 ビルが問いかけた問題に、ヒントを照らし合わせる。 「・・・・・・?」 「時間切れです。“サードボム”!!」 それは、悪夢の始まりだった。 デリバードが降り注ぐ、危険な贈り物、プレゼント。 ナッシーから打ち出された、危険な卵、タマゴ爆弾。 ベトベトンが吐き出した、危険なヘドロ、ヘドロ爆弾。 その数、まさしく星の数。 カイはその光景が、妙に遅く見えた。 スロ−モーションとはこのことだ。 無理だ。 そう思った。 この無数の爆弾の流星群をここで止めなければ、キキにまで被害が及ぶ。 隣には倒れたまま動かないカゲロウ。 どのボールを投げても、この爆弾をすべて防ぎきれない。 “1匹”を除いて。 彼なら、この爆弾を一瞬で排除できる。 だが、彼は今現在、療養中である。 だが・・・・・・・。 俺を出せ! その声が、頭の中に響いた気がした。 だが、出すことは出来ない。 何をしている!このままお前が死んでは元も子もないぞ! 出すことは・・・・・・・・・。 ここで死んだら・・・・・・・・・悲しむヤツがいるのだろう!? 無数の爆弾が、目標に達する前に、爆発した。 予想外の光景に、ビルとそのポケモン達は目を丸くする。 巻き起こる砂煙に、キキは目を閉じた。 イリスの目にも砂が入らないように目の前に手を添える。 少しずつ、少しずつ煙が晴れていく。 煙の中から姿を現したのは・・・・・・・・・。 「何・・・・・・・・!?」 ビルが目をはった。 煙の中・・・・・・・爆心地の中に立っていたのは、左目に包帯を巻いた、1匹のストライクだった。 「悪ィな・・・・・・・カゼマル」 カゼマルはカイに背を向けたまま、カイの言葉に耳を傾ける。 「バトル禁止とか言っときながら・・・・・・俺がそれを破っちまったな」 カゼマルは顔だけこちらに向け、少し、笑った。 視線を前に戻し、ビルを睨みつける。 「・・・・・・・・!“サードボム”!」 爆弾が、雨あられのように降り注ぐ。 ビルがこういう攻撃を扱いなれていることから“ボマー”と呼ばれるのも頷ける。 カゼマルが走り出した。 爆弾の間を風のごとく走り抜ける。 最小限の動きで爆弾を避け、避けきらないものは刃で切り裂き、前進する。 「ク・・・・・・・!もっと爆弾の数を増やすのだ!」 ビルの声でデリバード達はさらに爆弾の数を増やすが、カゼマルにはそんなものは関係ない。 増えたら増えた分だけ刃を振り回し、爆弾を排除する。 カゼマルが跳躍した。 その先には、デリバード。 「!デリバード!オーロラ・・・・・」 「疾風撃!!」 ビルの声を、カイが掻き消した。 一瞬で距離を詰め、デリバードを斬り裂く。 風のごとく速さで切り裂かれ、空中で跳ね上がるデリバード。 その下で事の成り行きを見守っていたナッシーとベトベトンだが、すぐに自分たちにも災いが降りかかろうとしていることに気がつく。 デリバードを倒したカゼマルが、そのまま急降下してくるのである。 その刃に風を宿して。 その瞳に殺意を宿して。 「・・・・・・・・・・!」 ナッシーたちが慌てて攻撃態勢をとろうとするが、間に合わない。 「カゼマル!風牙!!」 カゼマルの必殺技、“風牙”。 下からかまいたちを放ち、そのまま振り上げた刃を振り下ろす技。 下から迫るかまいたちと、上から迫る刃が獣の牙に似てることから命名。 ナッシー達は震え上がった。 カゼマルの後ろに、口を開いて今まさに獲物を襲おうとする獣のシルエットが見えたのだ。 牙が、襲い掛かった。 それぞれ2つの牙が上下に襲い、倒れるナッシー。 だが、その横ではベトベトンが切り裂かれた箇所に他のヘドロを移し、再生していた。 「フフフ・・・・・・・・・ベトベトンは不定形ポケモン!そのような斬撃は・・・・・・・・」 「風斬核!」 「シャア!!」 ビルの言葉を無視し、カゼマルが斬りかかった。 相手の急所・・・・・・・・不定形ポケモンの場合、その身体を構成する“核”を切り裂く“風斬核”。 ベトベトンは身体を構成するものがなくなり、その場でただのヘドロと化した。 ヘドロの中心で、ベトベトンが目をバツの字にして気絶した。 ビルの横に今ごろ落ちてきたデリバード。 「・・・・・・・・・」 ビルは無言で3匹を戻した。 「す・・すごい・・・・・・・!」 キキは森の中で、目を丸くしていた。 爆弾の雨を走り抜け、デリバードたちを一瞬で倒したカゼマル。 そのカゼマルの育てたカイ。 「・・・・・・・お兄ちゃんが、カイさんを仲間として認めた理由がわかった気がする・・・・・・・・・・・・!」 「どうする?」 「・・・・・・・・・」 ビルが新たにボールを放った。 今度はボールポケモン・マルマインと、鉄蛇ポケモン・ハガネールだ。 「何が来ようと同じだぜ!カゼマル!」 カゼマルが再び跳んだ。 マルマインの電撃をかわし、一撃を入れる。 一撃で瀕死間近となるマルマイン。 ハガネールが吐き出した岩を斬り裂き、鉄のように固い岩同士の間に一撃を入れた。 関節ともいえる岩の隙間を攻撃され、もがき苦しむハガネール。 「・・・・・・・・もう終りだな。  そのマルマインもハガネールも、もうこれ以上戦っても無理だ」 カイはカゼマルをボールに戻した。 勝利を確信したから出来る行動だ。 「・・・・・・・・そう思いますか?」 「何?」 3匹やられ、さらに2匹戦闘不能になりかけているにもかかわらず、ビルは余裕の表情だった。 むしろ、笑っていた。 「マルマイン!ハガネール!」 ビルが右手を上げ、2匹の名を呼んだ。 すると、2匹は怪我をものともせず突進してくる。 2匹は苦悶の表情を浮かべている。決して怪我が平気というわけではないようだ。 「チ・・・・・・・!」 カイが腰のボールに手を掛けたが、次のビルの言葉でその手を止めてしまう。 「大爆発!」 「は!?」 目の前にいるのは、マルマインとハガネール。 どちらも、一応大爆発は使用可能である。 カイの予想は的中した。 迫っていた2匹が、カイの目の前で光り輝き出したのだ。 「な・・・・・・・・・」 カイがボールを手にとる前に、辺りは光に包まれた。  つづく  次回予告 第54話 我は復讐者(仮)