************  リベンジャー  第54話「実力の差」 ************ 先ほどまで何度も爆音が聞こえていた森の中で、一際大きな爆音が聞こえた。 森に棲むポケモン達は己の安全を確保するために、爆音が聞こえてきた方角とは逆方向へ走っていく。 その森の上空を、逃げるポケモンたちとは逆方向へ飛んでいくポケモンがいた。 ・・・・・・・・ポケモンとは言い難い形をしている。 2m弱の身長で、人型。 それ以外は、ポケモンが羽織っている赤いローブのせいで詳細不明。 フードをかぶったその顔からは、赤い瞳が輝いていた。 辺りを包むすさまじい量の砂煙。 視界ゼロとはこのことだ。 ビルは勝利を確信した。 大爆発の反動で転がってきたマルマインとハガネールをボールに戻す。 2匹分の大爆発。 威力数値250、2匹合わせて500。 防ぎようも無ければ、逃げようも無い。 ビルは口の端で笑うと、砂煙に背を向け、1歩歩き出した。 だが、その足は砂煙の中から感じる謎の気配で足止めさせられる。 カイはまったく痛みを感じなかった。 反射的に振り返り、キキとイリスの無事を確認する。 隣にいるカゲロウの無事も確認する。まぁ既に無事ではないが・・・・・。 目の前に広がる砂の壁。一体何が起きたのか、見当もつかない。 何かに助けられたとも思えない。 2匹分の大爆発を防ぎきる防御壁を創り出せるポケモンがいるとは考えにくい。 では、一体何が? そうこう考えているうちに、砂煙が晴れてきた。 まず目に入ったのは、白い背中。 人のものとは考えにくい、奇怪な凹凸がある背中。 カイの目が、背中からそのものの頭があると思われる上へと移動する。 あった。 白い背中から突き出た白い管のようなものが、後頭部に繋がっている。 そして、聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。 「まったく・・・・・・・“復讐者同盟”を組もうと言ってきた当の本人が、こんな所で死なれては困るな」 白い何かが、振り返った。 「エ・・・・・・・エデン!?」 「久しぶりだな、カイ」 コガネシティで出会った、遺伝子ポケモン・ミュウツーのエデン。 どうやらエデンが防御壁を張り、2人と2匹を護ってくれたようだ。 確かにエデンなら、2匹分の大爆発も防げる力がある。 「話はすべて聞かせてもらった。その後ろの娘の素性もな。・・・・・・・・・・?」 エデンの目線がキキに向けられたまま細められたのを見て、カイは振り返った。 キキは脅えていた。 自分を助けた救世主の姿を見て、脅えている。 「・・・・・・・どうやら、私をヘヴンと勘違いをしているらしい」 「!キキ、こいつはヘヴンじゃねぇ。エデンっていって、俺の仲間なんだ」 カイの言葉でキキの表情が少し和らいだが、まだ少しだけ警戒している。 「・・・・・・・・・似ている」 「え?」 「いや・・・・・・・・なんでもない」 エデンが呟いたその言葉に、キキは違和感を感じたが、とりあえずそのことについては置いておく。 エデンが振り返った。 その目線の先には・・・・・・ビル。 「お久しぶりですね、エデン」 「フン・・・・・・・よくもまぁ平然と挨拶が出来るものだ」 「!エデン、知り合いか?」 「ああ・・・・・・・・・・・・」 エデンは目を細め、こう言った。 「私にとって最も大事な人間を殺した張本人だ」 殺意に満ちた、エデンの紫の瞳。 その瞳に睨みつけられ、ビルの背筋は凍りついた。 このままでは殺される。 その言葉がビルの頭の中を走馬灯のようにぐるぐると回った。 ビルはローブの下に隠された残り1つのボールに手を掛けた。 (このまま戦って・・・・・・勝つのは難しいですね・・・・残りはクロバットのみ・・・・・・・) ビルの手が蝙蝠ポケモン・クロバット入りのボールを掴んだ。 そして、今まさに投げようとしたその時、エデンは既に左腕をビルに向けて突き出していた。 紫の炎を腕に宿して。 「・・・・・・・・!!」 「死ね、そしてあの世でヤナたちに詫びるがいい」 静かに、そう言った。 エデンが左腕の紫の炎を掌に集める。 炎は集まると球状に変化し、紫色のシャドーボールに変化した。 そして、今まさに打ち出そうとした、そのときだった。 上空から、その発射音は聞こえてきた。 その場にいた全員が空を見上げる。 見れば、上空から赤いシャドーボールが飛来していた。 黒いエネルギー色を帯びた、禍々しいシャドーボールだ。 スピードはかなりのもので、真っ直ぐエデンに向かって飛来する。 エデンはビルに向けていた左腕を急遽変更、赤いシャドーボールに向けて打ち出した。 紫色のシャドーボールが赤いシャドーボールに向かっていく。 そこで思いがけない事態が起きた。 「な!?」 赤いシャドーボールが紫色のシャド―ボールを軽く貫いたのだ。 さらに赤いシャドーボールは球威を失うことなく、エデンに迫る。 「ク・・・・・・・・ディフェンスウォール!」 エデンが左腕と入れ替えに右腕を突き出し、防御壁、ディフェンスウォールを張る。 赤いシャドーボールはディフェンスウォールに突き当たると、めり込まんとするようにディフェンスウォールを押していく。 エデンの身体も連動し、足が少しずつ草の上を滑っていく。 「ク・・・・・」 「おいエデン!」 「なに・・・・・・・心配するな・・・・・・!」 カイの心配をよそに、エデンが右腕に力を込める。 1分以上苦戦した後、シャドーボールは勢いを失い、爆発を起こし霧散した。 ディフェンスウォールを解き、ぜいぜいと全身で息をするエデン。 エデンが空を見上げると、そこにシャドーボールを発射した張本人がいた。 赤い。 真っ赤なローブを羽織った、宙を浮く謎のポケモン。 フードを被ったせいで出来た影で顔は見えない。 だが、その赤い瞳は確実にエデンを見つめていた。 そして・・・・・・・・・。 「ちょっと残念だなぁ・・・・・・止めるのに時間がかかりすぎだ・・・・・・・・」 エデンより少し高めな声。 だが、どこか似ている声だ。 その謎のポケモンは、ゆっくり、降りてくる。 しばらくして、ビルの横に着地した。 森の広場に緊張が走る。 謎のポケモンが、フードを取り去った。 その下から出てきた顔を見て、その場にいた全員が驚愕の表情となる。 黒い顔に、赤い瞳。 色は違うが、エデンと瓜二つの顔。 「!!貴様は・・・・・・・!」 「こうやって直に話すのは初めてだね、エデン。と・・・・・・・・話すらするのは初めてかな?カイ」 「おいエデン、まさかコイツ・・・・・・・・・!」 カイがその名を口にしようとしたが、先にビルがその名を口にした。 「ヘ、ヘヴン様!何故このようなところへ・・・・・・・・・!?」 「なに・・・・・・・・大した理由じゃないさ」 謎のポケモン・・・・・・・・・ヘヴンはエデンを見つめ、 「ちょっと・・・・・・・エデンと直に話したくなってね」 「貴様が・・・・・・・ヘヴンだな」 「別に確かめなくても姿を見ればわかるんじゃないかな?エデン。  それで・・・・・・・・・・考えてくれたかな?僕の誘いを」 「聞かなくてもわかるだろう。答えはノーだ」 「フフ・・・・・・・・・やっぱり君は思ったとおりだなぁ・・・・・・」 エデンとヘヴンが静かな、それでいて奇怪な会話をしている中を、カイが1歩歩みでた。 その顔は、まさしく【鬼】。 今目の前に自分の母親の仇がいる。その光景がカイを奮い立たせた。 また1歩前へ出ようとしたとき、その進路をエデンの腕が遮った。 「・・・・・・・・どけ、俺はあいつに用がある」 その声も、いつものカイの声ではなかった。 「・・・・・私もヤツに用がある」 「いや・・・・・・・・・・僕はどちらにも用があるよ」 「何?」「あ?」 「カイ・ランカル現在11歳・・・・・・・・・今年で12歳だね。  3年前にガトウが操るバンギラスに母親を殺され、その後ルーラァズをロケット団と勘違いし・・・・・・・・・・」 「黙れ・・・・・・・・」 カイの声は、震えていた。 怒りを噛み殺した、悲しい声。 「母さんはバンギラスに殺されたんじゃねぇ・・・・・・・・」 「じゃあ・・・・・・・・・・誰に?」 「テメェ以外に誰がいんだよ・・・・・・・・!」 「・・・・・・・まぁ結果的には僕だろうね、僕がガトウに指示したのだから」 「この野郎・・・・・!!」 カイが怒り、飛び出そうとしたがまたもエデンに止められる。 カイは何かエデンに抗議しようとしたが、言葉を無くし黙り込む。 ヘヴンの目線がゆっくりキキに向けられた。 目線を感じ、ビクッと震えるキキ。 イリスも、心なしか震えている。 「やれやれ・・・・・・・・・嫌われたらしいね・・・・・」 ヘヴンがエデンに目線を戻した。 「と・・・・・僕はこんな雑談をしに来たんじゃなかったよ」 ヘヴンが羽織っていた赤いローブを脱ぎ去った。 下から黒い体と、赤い尻尾が現れる。 そのローブをビルが受け取る。 ヘヴンが指をパチンと鳴らした。 すると、ヘヴンの横の何も無い空間から1人の女が現れた。 ヘヴンのローブより少し濃い赤のローブを羽織った、20代前半の女。 綺麗に切りそろえられた肩まで伸びた赤い髪、不敵な笑み。 さらにその横には、彼女をここにテレポートさせたと思われるフーディンが立っていた。 「レダ、ビルを連れてここから離れてくれないか?」 「承知しました・・・・・・・が、少し、あの少年と話をさせていただけませんか?」 女・・・・・レダの言葉に、ヘヴンを少し考えた後、コクリと頷いた。 「はじめまして、カイ」 「・・・・・・・・」 レダの言葉に、カイは無反応だった。 それでも構わないというように、レダは話し続ける。 「私は最高三幹部、“マジシャン”レダ・バズアル。この苗字に聞き覚えは無いかしら?」 「・・・・・!バズアルって・・・・・・・・・まさか!」 「この前は弟が世話になったわね。その実力をここで確かめてあげたいけれど、またにしておくわ」 レダはヘヴンに一礼すると、ビルと共にフーディンのテレポートで姿を消した。 「さて、始めようか、エデン。君が最も望んでいたことを」 「・・・・・・・・・!!」 またも、森の中を爆音が轟いた。 今度は連続だ。 エデンは身体を少し浮かせ、森の木々の間をすり抜けながら疾走する。 エデンが通り過ぎた場所を、あの禍々しいシャドーボールが爆撃する。 「いつまで逃げる気だい?エデン」 上空からシャドーボールを連射するヘヴン。 右腕1本で放っているのにもかかわらず、素晴らしい連射力だ。 そのシャドーボール1発が、1度に木を3,4本吹き飛ばす。 もはやポケモンの技ではない、まるで大砲のような破壊力である。 カイはエデンに手を出すなと言われ、その光景を見守るしかなかった。 エデンが意を決し、森から飛び出した。 広場で足を踏ん張り、両手でシャドーボールを放つ。 「“魔力消沈壁”」 ヘヴンが左腕から創り出した分厚い壁に、エデンの5,6発のシャドーボールは簡単に打ち消される。 だが、壁を張っているおかげでシャドーボールの雨がやんだ。 その隙を突いて、エデンが飛んだ。 その両手に紫の炎を宿して。 シャドーボールが爆発する際に出来た煙で、ヘヴンはエデンが迫っているのに気付いていない。 エデンは一気に迫り、煙を貫いてヘヴンの顔面に迫る。 「“シャドーブラスト”!!」 エデンが繰り出した、紫の炎を敵にたたきつける掌底、“シャドーブラスト”。 その強力な掌底は、ヘヴンに到達する前に止まってしまった。 まるで、ヘヴンの前に見えない壁があるかのように。 「これは“守護壁”。僕に迫る打撃攻撃を自動的に受け止めてくれる、便利な壁さ」 「まだ・・・・・・・・まだ!」 ヘヴンがそのままシャドーボールを発射した。 だが、ヘヴンが創り出した“魔力消沈壁”の前では無力だった。 「ところで・・・・・・・・さっきのは本気かい?」 「!?」 ヘヴンが左腕をひいた。 すると、その腕に赤い炎が灯った。 「だとしたら・・・・・・・残念だ」 ヘヴンが繰り出した片手の掌底を、エデンは胸に受けた。 鈍い音がしたかと思うと、エデンの身体が吹き飛んだ。 そのまま急降下し、地面に叩きつけられるエデン。 「お、おい大丈夫か!?」 カイが駆け寄ろうとするが、エデンはそれを手を突き出して止めさせる。 手を出すなという意味だろう。 エデンは立ち上がり、ヘヴンを睨みつける。 ヘヴンはいたって動こうとしない。逆に、余裕を見せ付けている。 エデンの姿がその場で消失した。 次に現れた場所は・・・・・・・・・・ヘヴンの真後ろ。 またも“シャドーブラスト”を打つ体制をとる。 「ノーモーションのテレポート・・・・・・・・・・なかなかいいテレポートだ」 ヘヴンは振り返らずに、エデンに呟いた。 まるで後ろに回りこまれることがわかっていたかのように。 エデンは構わず“シャドーブラスト”を打つ。 またも“守護壁”に邪魔されると思いきや、なんと“シャドーブラスト”は“守護壁”に邪魔されること無くヘヴンの身体を捕らえた。 いや、捕らえられなかった。 “シャドーブラスト”は、なんとヘヴンに身体を貫いたのだ。 有りえない自体に、ヘヴンの身体を凝視するエデン。 さらに予想しがたい事態が起きた。 ヘヴンの身体が、まるで霧のようにさらさらと消え出したのだ。 頭から霧状になり、そのまま脚まで綺麗さっぱり消えてなくなる。 エデンは急いで辺りを見渡しヘヴンを捜すが、どこにもいない。 そして・・・・・・・・・。 「これが僕のテレポート、霧隠れ。  そしてこれが僕のシャドーボール、影球」 エデンの真上に現れたヘヴンは、至近距離で赤いシャドーボール・・・・・・影球を発射した。 爆発を引き起こし、エデンを煙が包み込んだ。 その煙の下から現れ、力なく落下するエデン。 ドタンといかにも痛そうな音を出し、エデンは地面に落下した。 いても立ってもいられず、駆け寄るカイ。 「エデン・・・・・・・」 「手を・・・・・・出すな・・・・・・・」 何とか立ち上がり、弱弱しくカイの手助けを拒否するエデン。 何気なく、カイの顔を見た。 が、どこか変だった。 なにやら気まずそうな顔をしている。 「どうした・・・・・・・・・・?」 「いや実はよ・・・・・・・・・手ェ出すなって言われる前から・・・・・・・」 そう言って、カイが目をそらした。 エデンがカイの目線を追うと、そこには倒れたカゲロウの姿があった。 「もう手遅れなんだよな・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・?」 エデンはカイの言葉に意味がわからなかった。 エデンはカゲロウの姿をよく観察する。 すると、端から血を流しているカゲロウの口のすぐそばの草が、焦げていた。 その焦げは真っ直ぐ伸び、湖まで続いていた。 「どうしたエデン。もうかかってこないのかい?」 上空からヘヴンの余裕まみれな声が聞こえてくる。 エデンはそんなヘヴンを歯軋りさせながら睨むことしか出来なかった。 実力の差ははっきりしていた。 このまま戦っても、勝てる見込みは1%に満たない。 “1人”で戦えば。 「ク・・・・・・・・ヤツの動きを止めることが出来れば・・・・・・・・・・」 エデンには秘策があった。 ヒットすれば、運がよければ一撃で倒せるかもしれないエデン最強の技。 だが、身体を“守護壁”で包み込み、さらに“魔力消沈壁”で壁を張ることが出来るヘヴンには到底あたらない技だった。 「エデン・・・・・・・・悪ィ」 「?何がだ」 「カゲロウのヤツ・・・・・・・戦うみてぇだ」 「何?」 唐突に、湖に変化がおきた。 湖の上を、真っ赤な炎が揺らいでいたのだ。 「リザードンに進化してから初の・・・・・・・」 揺らいでいた炎が、突然舞い上がった。 炎は次第に何かを形作っていく・・・・・・・・。 「陽炎・・・・・・・・否、“昇竜陽炎”ってトコか」 炎で構成された巨大な竜は、ヘヴンに向かって舞い上がった。 “昇竜陽炎”の術者は、ひそかに笑っていた・・・・・・。  つづく  あとがき 正直な話、最近あとがきサボってました。(笑) もうお気づきの人もいると思いますが・・・・・・この小説「リベンジャー」では某RPGの技を多少パクっております・・・・・・・・(爆)。 これ以上は出さないつもりですが、技名に詰まったら出すかもしれません。(オイオイ)  次回予告 第55話 奈落の炎(仮)