勝てない。そう思った。 上空にたたずむヤツは、バケモノ・・・・・・・いや、それ以上だった。 手加減は一切していない。常に全力。 なのに・・・・・・・・ヤツは傷一つ付かない。 諦めかけていた。 だが、1人の少年の行動が、私を勝利へ導いてくれるような気がした。 ***********  リベンジャー  第55話「奈落の炎」 *********** 天翔ける、炎の竜。 気体という不安定な体を持つ炎の竜は、上空に獲物を発見し、舞い上がる。 その数、計3匹。 湖から舞い上がる3匹の炎の竜は、我先に獲物を喰らおうと、そのメラメラ燃える牙を見せながら大口を開ける。 炎独特のその音は、竜たちの咆哮にも聞こえた。 獲物・・・・・・・・ヘヴンはその捕食者たちを無表情で睨みつける。 真下に左手を構え、手から衝撃波を放った。 赤黒い、禍々しい衝撃波を。 3匹の竜は、衝撃波の中に消えた。 ヘヴンは口の端で笑ったが、すぐにその笑みは中断された。 衝撃が消えた場所に頭部を失った竜の残骸があったのだが、すぐに炎は再構築され、再び頭部が復活、最初の1匹が喰らいついた。 焼け付く炎の牙。 立て続けに、第2、第3の竜が喰らいついた。 炎の中に閉じ込められるヘヴン。 全身を、焼け付くような感触が襲う。 念で吹き飛ばそうとするが、炎は予想以上に纏わりつき、ヘヴンの念を邪魔する。 唐突に、真上に気配を感じた。 見上げると、炎の隙間からその姿を確認できた。 右腕を添えた左腕をこちらに向けた、我が半身の姿を。 「終りにしよう・・・・・・・・ヘヴン」 半身・・・・・・・エデンは左腕に力を込めた。 「我が左手より放たれよ・・・・・・・・すべてを消し去る奈落の炎・・・・・!」 エデンの呪文のような言葉の後、信じがたい事態が起きた。 左腕を中心に、空に巨大な魔方陣が描かれたのだ。 「“デス・ハザード”!!!」 魔方陣の中心から現れた、巨大な炎の玉。 炎の玉はヘヴンを捉え、空中で停止した。 その場で燃え続ける巨大な炎の玉。 ヘヴンの姿は炎に包まれ、その姿は確認できない。 「どうだ?私の究極奥義は」 「へ・・・・・・・ちょっとやりすぎなんじゃねぇか?」 カイの横に降り立ったエデンは、空中で激しく燃え続ける巨大な炎の玉を見上げ、勝利を確信していた。 エデンの持つ技の中で最強の威力を誇る究極奥義、“デス・ハザード”。 魔方陣を作り上げるのに時間がかかるため、あまり実戦では多用できない技。 だが、今回はカゲロウが放った“昇竜陽炎”のおかげでヘヴンは身動きできなかったため、魔法陣を作るのに邪魔は入らず“デス・ハザード”は直撃した。 エデンは倒れているカゲロウを一瞥し、 「よくやってくれたな、カゲロウ」 エデンの言葉に、カゲロウは半目で笑った。 やはり、もう体力は残されていないようだ。 カイはその状況に気付くと、カゲロウをボールに戻した。 ボールに戻しておけば、とりあえず傷つくことはない。 「ところでカイよ」 「ん?」 「実は、私はもうシャドーボール一発打つ体力さえ残っていない」 「・・・・・・・あ!?そりゃ一体どーゆう・・・・・・・・」 「先ほどの“デス・ハザード”に全エネルギーを注ぎ込んだのだ。  もし・・・・・・・・・」 エデンは上空の巨大な炎の玉を見上げた。 「ヤツが生きていれば・・・・・・・私にはもう打つ手は無い」 「そりゃ俺も同じだ」 「何を言っている。お前にはまだ5匹のポケモンが・・・・・・・・」 「あんなデッケェ炎に包まれて死んでなかったらバケモノじゃねぇか。  俺のポケモンであの炎を超える力を持つポケモンはいねぇ。  もし生きてたら俺じゃあ力不足だ」 「・・・・・・・・妙に淡々と言い切るな」 「何言ってんだよ」 エデンはその時、カイの表情が少し強張っているのに気がついた。 「心の中じゃあ《死んでてくれ》って願いまくってんだぜ・・・・・・・!」 「そうか・・・・・・・・・・私もだ」 カイの顔を見た後、エデンは再び炎の玉を見上げた。 そして、最も見たくないものが、炎の隙間から見えた。 炎の中で平然としている、漆黒の身体をもつポケモンの姿を。 そして、聞こえてきた。悪魔の声が。 「これで全エネルギー・・・・・・?  ちょっと・・・・・・・いや、かなり残念だな。  君がまさかここまで弱いとは・・・・・・・・・・」 カイにも、その姿を確認できた。 同時に、圧迫感を感じた。 恐怖という名の圧迫感を。 炎の中で、悪魔は両手を広げた。 そして、目を見開き、一言、こう言った。 「ザコが」 言葉使いが妙に優しそうな雰囲気だったヘヴンの口調。 だが、今のそのセリフだけ、他人のようだった。 彼の身体のどこかに隠れている、何者かの声。 言い換えれば、それが彼の本当の“声”なのかもしれない。 静かで、冷たくて、それでいて・・・・・・・おぞましい声。 吹き飛んだ。奈落の炎が。 吹き飛んだ。エデン最強の技が。 吹き飛んだ。光の希望が。 ヘヴンが全身を赤いオーラに包み込むと同時に、“デス・ハザード”は吹き飛んだ。 辺りを炎の欠片が散らばった。 その辺りをさまよった後、無数の炎の欠片は霧散していった。 あまりの突然の出来事に、カイとエデンはしばし呆然となった。 すぐには状況を理解できなかった。 突然上空の炎の玉が破裂し、中から無傷の漆黒のポケモンが現れた。 その行為が、彼らを絶望へと突き落とした。 勝率、0%。 彼らは死を覚悟した。 よく「勝負はやってみなきゃわからない」と言うヤツがいる。 カイの親友、コウもそうである。 彼は到底勝ち目の無い敵でも、勇敢に立ち向かっていく。 まぁそれで勝利を得た機会は少ないが・・・・・・・。 状況が状況である。 今、目の前にいる敵は、そんなキレイ事が通じる相手ではない。 完全なる、バケモノなのだ。 「どうしたんだい?カイ。君はまだ戦えるだろう?」 ヘヴンの妙に親切じみた口調で、カイは我に帰った。 ―――コロサレル――― その言葉が意味無く頭の中で木霊した。 足は震え、おぼつかない。 手は震え、ボールに触れもしない。 ―――コロサレル――― また、意味無く木霊した。 「・・・・・・かなわない相手には、抵抗もしないというのかい?  資料によれば、君はもっと勇敢な少年のはずだが・・・・・・・」 ヘヴンは震え、こちらを見上げたまま動かないカイを見下ろす。 「おいカイ!しっかりしろ!」 「ああ・・・・・・・・・とりあえず意識はある・・・・・」 カイは先ほどまでとは打って変わり、震える声で言った。 ヘヴンはその光景を見下ろし、ため息をついた。 「・・・・・・・君たちはもっと強くなれる。もっと・・・・・もっと強く・・・・・・!  僕のためにもっと強くなってくれ、2人とも」 ヘヴンは少し間をおくと、 「上がって来い、僕は頂上で待っている・・・・・・・!」 そうして、さらさらと霧になって消えた。 2人は、呆然と空を見上げたまま、動かなかった。 「俺は・・・・・・・・・自信過剰だった」 カイは座って木の幹に身を任せ、そう呟いた。 エデンとキキも、その横で同じように座っている。 キキの腕の中では、イリスが気持ちよさそうに寝息をたてている。 「アイツは・・・・・・・・異常だな、いろんな意味で」 「強さか?」 「強さもだけど・・・・・・・何考えてんのかわからねぇ。  俺は将来、ルーラァズにとって最も邪魔な存在になるつもりだ。  だけど・・・・・・・ここまで実力に差があったなんてな」 「・・・・・・・・ヤツが言っていた最後のセリフ・・・・・・・《僕のためにもっと強くなってくれ》という意味ならわかるぞ」 「ああ・・・・・・・・・そんなことも言ってたな」 「もうわかっていると思うが、私は昔、ヘヴンに勧誘された」 「そんな雰囲気だったな。でも、まるで初めて遭ったような雰囲気だったぞ?」 「ヤツは私の夢に声だけ送ってきたのだ。何故かは知らんが」 「狂乱者の考えることなんてわからねぇよ」 「あ・・・・・あの、ちょっといいですか?」 「んー?なんだ?キキ」 「まだなんか・・・・・・・・話が見えないんですよ。  ヘヴンとその・・・・・・・エデンさんの関係が・・・・・・・」 「そういや俺も知らねぇな、ただ捜してるとしか聞いてねぇし。  さっきビルとの会話のときも、ヤナとかいう名前出してたし」 「そうだな・・・・・・・・・話しておこうか。  ヤツと私の関係を・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・それでか、キキを見たとき、似ているとか言ったのは」 「ああ・・・・・・・・私にとって最も大切な人間、ヤナ・・・・・・・。  キキにあまりに似すぎていたものでな、ビルに遭ったとき、ヤツにヘヴンの居場所を聞く前に攻撃しようとしていた・・・・・」 「そうだったんですか・・・・・・・」 「・・・・・・・・まぁ誰だってそうだろ。  目の前に大切な人の仇がいたらいてもたっていられねぇよ、俺は。  ミュウのまつげから生まれたポケモン、ミュウツーか・・・・・・・。  何でそれだけであいつはあんな考えを持ったんだ?ヘヴンの野郎は」 「実は・・・・・・聞かされていないのだ。  ジェド博士は、ヘヴンの出生について、何も教えてくれなかった」 「・・・・・・で、教わる前に、あんなことになっちまったと」 「ああ・・・・・・」 「・・・・・・・」 カイは立ち上がった。 「キキ、お前をフスベまで送り届ける」 「・・・・・・え!?」 「イブキさんも心配してるだろ。  一度チョウジまで行った後、カゲロウを回復させて、フスベまで飛んでやるよ」 「・・・・・・・やっぱり、イブキさん・・・・怒ってるかなぁ・・・・・・」 「そりゃ怒ってんだろ、黙って出て行きゃ誰だって怒るわ」 「うう・・・・・」 「エデン、お前1度俺のボールに入れよ。  ポケセン連れてってやっから」 「いや・・・・・・・いい」 「は?何で。怪我してんだろ?」 「こうやって身体を休めていれば体力は回復し、同時にエネルギーも戻る。  エネルギーが戻れば、自己再生が使える」 「そうか・・・・・・・・」 キキも立ち上がった。 腕の中でイリスがその振動で起き、眠たそうに前足で目をこすっている。 「じゃあな、俺たちはもう行くぜ。またどっかで会おうや」 「失礼します」 「カイ、気をつけろよ。  強くなればなるほど、ヤツが勧誘してくる時期が早まるという事だからな」 「ああ、まぁそん時ゃ速攻でケるけどな」 「私は・・・・・・・弱いな・・・・・・・」 カイとキキが去った後、エデンは1人、呟いた。 「ヤツの足元にも・・・・・・・・及ばなかった・・・・・・」 エデンは苦笑した。自分の不甲斐無さに。 エデンの頭の中に、ヘヴンの顔が映りこんだ。 漆黒の顔に、赤い瞳・・・・・・・。 「・・・・・・?」 エデンはその時、あることに気がついた。 あまり重要とも思えないが、もしかしたら重要かもしれないことを。 「ヤツの体色は黒・・・・・瞳、尾、エネルギー色は赤・・・・・・・」 エデンは自分の身体をよく観察した。 「私の体色は白・・・・・・瞳、尾、エネルギー色は紫・・・・・・・」 エデンはさらに深く考え込んだ。 「私は生まれた当時、瞳、そしてエネルギー色は青・・・・・・だが・・・・・」 エデンは己の尾を見つめた。 「尾だけは既に・・・・・・・・紫だった・・・・・・。  そして、あの日、“怒り”という感情を覚えたとき・・・・・・瞳とエネルギー色は青から紫に変化した・・・・・・・」 エデンは顎に手を当て、さらに深く考え込んだ・・・・・・・が。 「まぁ・・・・・・そんな重要でもないだろう」 エデンは立ち上がった。 回復したエネルギーで自己再生を行い、傷を治す。 完治すると、エデンは浮かび上がった。 そこらの木よりも高く浮かぶと、とりあえず東に向かって飛んでいった・・・・・・。 紫、それは、赤と青の中間色・・・・・・・。  つづく  あとがき 最後、ちょっと意味不明でした・・・・・・。まぁそれなりに重要です。 ヘヴンはホント強すぎですね・・・・・・・・・・設定した自分で言うのもなんですが・・・・・・。 次回は正直、あんまり面白くないと思います。(爆)  次回予告 第56話 死亡済み(仮)