***********  リベンジャー  第56話「死亡済み」 *********** 「・・・・・・・・・キキ、もうちょっと・・・・・・離れてくれねェか?」 「・・・・・・え?あ!ご、ごめんなさい!」 遠慮がちなカイの声に、キキは赤面しながらカイの背中から顔を離した。 彼らはカゲロウの背に乗り、キキの故郷である竜の里、フスベシティに向かっていた。 もちろん、キキを彼女の家であるフスベジムに帰すためである。 彼女は親代わりでもあるフスベジムリーダーのイブキに無断で、チョウジタウン北にある怒りの湖に出かけていた。 彼女の兄である、ジンに認めてもらうために。 キキは何故か、カイの背中に顔をうずめ、さらに両手をカイの身体にまわしていた。 「私・・・・・・・高所恐怖症で・・・・・・・」 「あ・・・・・・そう・・・・・・・」 キキがまた赤面しながら言った。・・・・・・がカイも多少ながら赤面していた。 昨日知り合ったばかりの女の子に背中から抱きつかれる形になっている状況。 初めての経験だ。 もう少し長続きして欲しかったが、既に目的地であるフスベシティが見えていた。 「ここか?」 「ここです」 ドラゴンポケモン使いたちが集まるジム、フスベジム。 もちろん、ジムリーダーであるイブキもドラゴンポケモン使いである。 その実力もお墨付き。 門の上に2体の1m程のカイリューの銅像が左右に置かれている。 1mといっても、どちらも口を開け、挑戦者を威嚇している。 キキには見慣れた光景でもあり、カイはこんなことでは引かない男だ。 「やっぱり・・・・・・・・・・怒ってますよね・・・・・・」 「・・・・・このことは、ジンには伏せておいたほうがいいぞ」 「・・・・・そうですよね・・・・・・もしもお兄ちゃんにこのことが知れたら・・・・・」 「何すっかわかんねぇからな」 カイが一歩、前へ出た。 閉じられた大きな門の横のインターホンへ手を伸ばす・・・・・・が。 「あ・・・・ちょ、ちょっと待ってくださいッ!」 その手をキキが掴んで止める。 「どした?」 「えっと・・・・・・・・まだ心の準備が・・・・・・」 「お前ん家だろ?なんで自分の家を前にしてビビってんだよ。  押すぞ」 「え!?ちょっと待っ・・・・・」 キキが何とか止めようとするが、カイは構わずインターホンを押した。 ピンポーンという聞きなれた音が、門の向こうから聞こえてきた。 「どちら様ですか?」 インターホンから若い・・・・・・少年の声が聞こえてきた。 イブキの家族か・・・・・・またはジムトレーナーだろう。 「え〜と・・・・・・・・挑戦者兼宅配便です」 間違ってはいない。 ただ、相手側からすれば理解しにくいだろう。 「・・・・・・・・え?はぁ・・・・・・・・」 相手の少年は強引に理解すると、インターホンを切った。 数秒して、片方の門がぎしぎしと古そうな音をしながら少しだけ開いた。 その隙間から、10歳ほどの少年が顔を覗かせた。 少年の表情は、少しだけ警戒していた。 明らかに“挑戦者兼宅配便”では理解し切れていない様子。 「えっと、まずは・・・・・・・コレ、宅配便」 そう言って、キキを前に出した。 キキの姿を確認した瞬間、少年の双眸は見開かれた。 「え・・・・・・・!?キキさん!?え・・・・・・一体・・・・・・」 「どうしたの?」 少年の後ろから女の声が聞こえてきた。 女は門の後ろにいるため、その姿は確認できない。 だが、キキが後ずさりしているところを見ると、その声の主は容易に思いつく。 「イブキさん!実はキキさんが・・・・・・・」 「・・・・・・・え!?キキが!?」 開かれていないほうの門が、またギシギシと音を立てながら開いた。 マントを羽織った、キレイな水色の髪をした女が現れた。 イブキはキキの姿を確認すると、つかつかと歩み寄ってきた。 イブキが出すその気迫に押されたのか、キキはまた後ずさりする。 そして・・・・・・。 抱擁した。 「・・・・・・え?」 てっきり頬をはたかれたり怒鳴られたりすると思っていたキキは、その意外な事態に呆然となる。 一方イブキは、その目にうっすら涙を浮かべ、 「よかった・・・・・・無事で・・・・・・・」 明らかに怒っていないことを確認したキキは、とりあえず、 「ご・・・・ごめんなさい・・・・・・」 謝っておく。 イブキは抱擁を止めると、キキの肩に手をおき、 「まぁ後で何処で何やってたか聞かせてもらうけどね」 「う・・・・・・やっぱり・・・・・・」 「それで・・・・・・君は?」 突然指名されカイは一瞬と惑ったが、 「俺は・・・・・・・・」 とだけ出てきた。 「イブキさん、この人・・・・カイさんは、私やお兄ちゃんの友達なの。  私をここまで送り届けてくれたの」 「そう・・・・礼を言うわ。キキを送り届けてくれて・・・・・・・」 「えっとまぁ・・・・・・どうってことないッスよ。  あ、あと俺、挑戦者兼宅配便ッスから」 「挑戦者兼宅配便?」 「宅配便は終了・・・・・・・んで」 カイは青い瞳をキリッとさせ、 「こっからは挑戦者だ」 「・・・・・!わかったわ、中に入って。  普段ならジムトレーナーと戦って、勝利を収めてから戦うことになってるんだけど・・・・・・。  キキを送り届けてもらったお礼に、すぐにバトルしてあげるわ」 「お、ラッキー♪」 「あ、あの、イブキさん」 「ん?何?キキ」 「バトルが終わるまで、その辺ブラブラしてきていいですか?」 「・・・・まさか、そのまままた・・・・・・」 「し、しないですよ!ホントにブラブラしてくるだけです!」 「・・・・・・とりあえず信じてあげるわ。  私を裏切らないでね」 「う、裏切るわけ無いじゃないですか!」 「・・・・・・書き置きして突然姿をくらましたのは何処の誰だっけ?」 「う・・・・・」 「フフ・・・・・・!まぁいいわ。  ちゃんと帰ってきてね」 「ハ、ハイ!」 「じゃあ、入りましょうか」 「よっし!」 カイ、イブキ、少年が門をくぐった。 また、古そうな音がして門が閉まっていった。 門が閉まると同時に、キキはボールを一つ投げた。 中から彼女のパートナーであるロコンのイリスが出てくる。 「散歩しよっか、イリス」 「こんっ!」 フスベシティ南東に位置する、小さな公園。 その公園に設置された休息用のベンチに、彼は座っていた。 蒼いジャンバーに黒いズボン。 いつもはチャックを閉じているジャンバーだが、今日は前をはだけさせ、下から灰色のシャツが顔を覗かせている。 耳を半分覆い尽くした銀髪。 鋭い黒い瞳。 少年の傍らにいるのは、ダークポケモン・ヘルガー。 ヘルガーはその場でお座り状態で座っており、少年の持っている一通の封筒を見つめている。 少年も、無表情でその封筒を見つめている。 差出人の名は無い。 封を切り、中から折りたたまれた紙切れを抜き取った。 入っていた封筒をもう用済みとばかりにゴミ箱中へ放る。 少年が紙切れにかかれた内容に目を通すと、紙切れは封筒と同じ末路を辿った。 『ヤツからか?』 ヘルガーのポケモン語の質問に、少年は無表情で、 「ああ」 とだけ言った。 『興味を引く内容だったか?』 「・・・・・・・・・死んだらしい」 『・・・・・・・死因は?』 「病死」 『他には?』 「・・・・・・・・・・」 あまりにも簡略的な質問、そして返答。 少年は口を閉ざした。 そのまま空に広がる青い空を見つめる。 ヘルガーも視線をそらし、青い空を見つめる。 「・・・・・・・ヤツではなかったらしい」 『何が?』 「俺とキキに“能力”を植え付ける提案をし、指示をしたのはヤツではなかった」 『・・・・・・・・・!では・・・・・誰が?』 「ヘヴン」 『・・・・!・・・・これからどうする?ジン』 「お前はどうしたい?ジール」 『俺はお前についていく』 少年・・・・・・・・ジンはすぐに答えを出した。 「ヘヴンを追う」 ジンの言葉に、ヘルガー・・・・・・・・ジールは何も答えなかった。 無言でジンの顔を見つめる。 その行動が、ジンに対する忠誠の証だったのかもしれない。 ジンは腰を上げた。そして公園の入り口に向かって歩き出す。 その横をジールは付き添うように歩き出す。 唐突に、ジールが立ち止まった。 『ジン』 「?」 ジンもつられて足を止めた。 ジールを見下ろすと、ジールは顎で前方を指した。 ジンが前を見ると、そこに公園の前を横切ろうとしている自分の妹の姿があった。 「・・・キキ?」 目線に気付いたのか、キキは横を顔を向けた。 そして、一瞬たじろぐ。 「あ・・・・・・お兄ちゃん・・・・・!?」 「お前に報告しておくことがある」 「な、何?」 ジンとキキは先ほどまでジンが座っていたベンチに腰掛けていた。 2人の前で、ジールとイリスは何か話している。 イリスにとって、ジールは兄のような存在らしい。 「サカキが死んだ」 「・・・・・・・・!?」 あまりにも突然の報告に、キキは言葉が見つからなかった。 突然自分の父親が死んだとなれば、誰だって言葉を失う。 「病死らしい。  あともう1つ、俺たちに“能力”を植え付ける実験を提案したのはサカキではない」 「え・・・・・じゃあ・・・・・・・・・」 「ヘヴンだ」 「・・・・・・・・!ヘヴンが・・・・・・・・」 「さらに言えば、サカキは俺たちを実験台にするどころか、それ自体に反対したらしい」 「・・・・・・それって、一体何処で・・・・・・・」 「ジムのポストに入っていた郵便物の中から俺宛の封筒を発見してな。  そのまま勝手に拝借させてもらった」 「誰からだったの?」 「サカキ自身からだ。言うなれば、あの手紙は遺書といったところか。  病魔に冒された後に書いたとか書いてあったからな」 「・・・・・・・・・」 「そっちはどうだ?何か変わったことは?  ヘヴンの情報とかは無いか?」 「・・・・・・・・・あ!私、ヘヴンを見た!」 キキの言葉に、ジンはキキの肩を掴んだ。 「何処でだ!ヤツは何処にいた!」 「い、怒りの湖にって言っても、昨日のことだし、どこかへ消えてったとこも見たし・・・・・・・」 「ク・・・・・・そうか・・・・・・・。  ・・・・・・・・・・・・・・・ん?」 ジンはその時、キキの言葉に少し、奇妙な単語があったことに気がついた。 それにいち早く気が付いたキキは慌てて自らの口をふさぐが、時既に遅し。 「いまお前・・・・・・・・怒りの湖・・・・・・と言ったのか?」 「あ・・・・・・・・・えっと・・・・・・・・」 キキの様子がおかしい。かなり動揺している。 「何でお前が・・・・・・・・・怒りの湖に?」 「う・・・・・・・・・」 「答えろキキ。何故怒りの湖にいた?」 「・・・・・・・・・認めて欲しかったから・・・・・」 「?」 「お兄ちゃん、旅立つときに私がついて行こうとして、《足手まといになるから駄目だ》って言ったでしょう?」 「あ・・・・・・ああ」 「だから・・・・・・・・足手まといになりたくなかったから・・・・・・。  結構強いって評判の、怒りの湖のギャラドスを倒しに・・・・・・。  そうすれば、お兄ちゃんも認めてくれると思って・・・・・・・」 「・・・・・・・・・俺はお前が弱いからそんなこと言ったんじゃない」 「え?」 「お前を・・・・・・・・危険な目にあわせたくなかったから・・・・・そう言ったんだ」 「・・・・・・・・!」 「それで、ヘヴンは何か言っていたか?」 「い、いや・・・・・・・・・実際に話をしたのはカイさんとエデンさんだから・・・・・・」 「・・・・・・・!カイと・・・・・エデンが?」 「・・・・・・・アレ?カイさんとお兄ちゃんが知り合いなのは知ってたけど・・・・・。  エデンさんとも知り合いだったの?」 「ああ・・・・・・・まぁな」 まさか一戦やからしたとは言えない。 「カイさんは私が森の中で襲われているところを助けてくれて・・・・・。  エデンさんも助けてくれたの」 「それで?」 「エデンさんとヘヴンがちょっと戦った後、その後は何もしないで消えちゃったよ」 「・・・・・・・・・・カイとエデンはその後どうした?」 「エデンさんはその場に残って・・・・・・・カイさんは私をフスベまで送り届けてくれたの」 「・・・・・・・・・カイは、今何処に?」 「ジムで、イブキさんとバトルしてる」 疲れきったカイが門をあけると、そこにジンとキキ、キキの腕に抱かれたイリス、そしてジールの姿があった。 「!ジンにキキ」 「久しぶり・・・・・・・・でもないな。どうだった?ジム戦は」 「へへ・・・・・・・」 カイが懐からフスベジム勝利者の証、ライジングバッジを見せ付けた。 満面の笑みを顔いっぱいに広げながら。 「最後のカイリューがスゲェ強くて苦戦したけどな」 「だろうな」 「んで、お前なんでここに?  シロガネ山で修行すんじゃなかったのか?」 「近くを通りかかったから寄っただけだ。  ・・・・・・・・・礼を言う」 「へ?」 ライジングバッジを懐にしまいながら、カイは驚いた。 あのいつも無愛想なジンに礼を言われることなどした覚えは無い。 「キキを助けてくれたそうだな」 「・・・・・・・・あ!あれか、別にいいよ、そんな大した事じゃねぇし」 「・・・・・・・・ヘヴンに、遭ったそうだな」 「・・・・・・!あ、ああ」 「まぁそのことに関してはこれからキキにじっくり聞かせてもらうつもりだ。  異存は無いな?キキ」 「うん」 キキは一歩前へ出ると、カイに頭を下げた。 「ありがとうございました。ここまで送り届けてもらって・・・・・・・」 「気にすんなって!ついでだったからよ」 「・・・・・・・・・カイ、お前やはりシロガネ山には来ないのか?  リーグまで3ヶ月はある・・・・・・・・。  その期間の間、お前は何処で修行するつもりだ?」 「う〜ん・・・・・・・・・」 カイは顎に手を添えて考えた後、真顔で、 「まだまったく決めてねぇ。候補もねぇ。  そんなもんこれから決めりゃあいいさ」 「そうか・・・・・・・・」 ジンはカイに向かって歩き出した。 その後ろからキキ、ジールもついてくる。 カイの横をジンとジールは無言で通り過ぎた。 キキはカイの横を通り過ぎる際に、頭を下げる。 カイも歩き出した。 門を出て一歩進んだとき、後ろからジンの声が聞こえてきた。 「俺を楽しませろよ、カイ」 「・・・・・・・楽しませるどころか、ヒーヒー言わせてやるよ」 2人はお互いの顔を見ずに、誓いを交わした・・・・・・・。  つづく  あとがき 手抜きですっ!(爆) ほとんど会話で終了しちゃいました・・・・・・・・。 サカキ死んじゃうし・・・・・・ジムバトルの内容まったく書かないし・・・・・(オイオイ) 次回は緊迫感たっぷりのバトルシーンばかりです!!