******************  リベンジャー  第57話「風の剣士VS氷の暗殺者」 ****************** 『・・・・・・・・いい風だ・・・・・・』 明朝、色気の無い岩場。 辺りを不細工な岩が囲い込むその場所で、カゼマルは目を閉じ、岩場に吹き付ける風を感じていた。 首にはいつかもらったフルメタルコートが銀色の首輪のように巻きついている。 左眼に、包帯は無い。 が、その眼の上下には、しっかり傷跡が残っている。 8つのバッジすべてを手に入れたカイは、エンジュシティを拠点とし、ここ、スリバチ山で修行を開始していた。 修行を始めてから2週間後、カゼマルの左眼はついに完治した。 他のポケモンたちへの遅れを取り戻すため、カゼマルは完治した翌日、朝早くからスリバチ山中腹にあるこの岩場地帯へと来ていた。 カゼマルは双眸を見開き、久しぶりに見る両眼の世界に感動した後、歩き出し、巨大な岩の前で足を止めた。 自分の背丈よりも3倍以上あるその岩を目の前にして、カゼマルは構えた。 一閃。 岩の上半分が、宙を舞った。 カゼマルはさらにかまいたちを両刃から放ち、上空の岩を3つに分断する。 さらに落ちてくる岩をそれぞれ2度斬り裂き、9つに斬り裂き分ける。 すべて、風のごとき速さで。 岩が地に落ち、割れる。 久しぶりの感覚。 久しぶりすぎてなまっていると心配していたが、その心配は無用だったようだ。 上半分が無い岩、辺りに散乱する岩の残骸。 カゼマルは心なしか、満足していた。 『・・・・・・・・!?』 唐突に、妙な気配を感じた。 何処からか、その気配は目線となってカゼマルを睨みつけている。 鋭くて、冷たい視線。 カゼマルは辺りを見渡すが、何処にも目線の持ち主は見当たらない。 野性ポケモンではない。 いくらなんでも、野性ポケモンではこんな目線を放てない。 恐ろしく、殺気がこもった目線。 『誰だ!』 とりあえず、聞いてみた。 予想通り返事は無い。 先ほどまでさわやかだった風が一変して、妙に冷たく感じた。 いや、冷たすぎる。 凍えそうな、冷たい風・・・・・・・。 『・・・・・・・!』 カゼマルがその風が敵の“技”だということに気付き、身体を回転させ強風を巻き起こした。 冷たい風・・・・・・・・否、凍える風は、辺りから消え去った。 凍える風の術者は姿を現さない、去ろうともしない。 カゼマルの頬を、汗が滴り落ちる。 そして・・・・・・・・。 敵は痺れを切らし、飛び出した。 カゼマルがいつか見たその敵・・・・・・茶色い円盤状の敵。 まだ記憶に新しい、その2つの鎌・・・・・・・・。 鎌を装備した茶色い歪な形をした円盤は前方の岩の陰から現れた。 激しく回転し、カゼマルを真っ二つにしようと襲い掛かる。 もちろんカゼマルもそのまま大人しく斬られるほど甘いストライクではない。 あの時と同じように、両刃で円盤の斬撃を受け止める。 あの時と同じように、円盤が変形した。 あの時と同じように、2匹は鍔迫り合いになった。 『・・・・・・久しぶりだな』 『・・・・・・お前か・・・・・!』 カゼマルを襲った円盤・・・・・・カブトプスのアサシン。 やはり、その力はすさまじい。 カゼマルをじりじりと押していく。 『私は貴様と戦えるこのときを楽しみにしていたぞ・・・・・・!』 『・・・・・・迷惑な・・・・・話だな・・・・・!』 お互いに弾き、距離をとる2匹。 アサシンが鎌を下ろしたのを見て、カゼマルも鎌を下ろす。 『・・・・・・その左眼・・・・完治したようだな』 『ああ。俺と戦えるときを楽しみに・・・・・・・とか言ってたな。どーゆう意味だ?』 『・・・・・・・・あの時、私には何の指令も下されていなかった』 『・・・・・・・・独断か?』 『貴様を一目見たとき、私は貴様の奥深くに眠る強者の匂いを嗅ぎ取った。  戦士が強者を求めるのは至極当然のことだろう?』 『まぁな』 『私はロットに命を受けることなく、飛び出した。  貴様と剣を交えたかったからだ』 『で?今回はその指令とかいうヤツで来たのか?』 『いや、違う。  だが今回は許可をもらってきた。これで存分に貴様と戦える』 『・・・・・・・・・・・・。  そういえば直々に名を聞いてなかったな。  俺の名は風の剣士、カゼマル。お前は?』 『・・・・・・・・我が名は氷の暗殺者、アサシン・・・・・・!!』 岩石地帯に、鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。 カゼマルとアサシンの刃がぶつかり合い、弾いてはまたぶつかる。 『・・・・・・・これが貴様の本気か・・・・・・やりがいがある・・・・!』 『お前も・・・・・・それが本気か・・・・・・!』 アサシンが距離をとり、鎌をクロスさせた。 そして、 『吹雪!』 刃を勢いよく円形に回すと、その中心から吹雪が噴出し、カゼマルに迫る。 『影分身!』 カゼマルは吹雪に対し、敵の目を欺く残像を作り出す技、影分身で対抗する。 その数、30以上。 吹雪はカゼマルの残像1匹を捕らえただけで終わる。 『さぁ・・・・・・・どうする・・・・・・!?』 『チ・・・・・・』 普通のポケモンが作り出す影分身は約10〜20。 だが、かなりの素早さを誇るカゼマルが影分身すれば、その数は30を超える。 だが。 『・・・・!そこか!』 アサシンが飛び出し、狙いを定めた1匹に斬りかかる。 命中。本体である。 カゼマルも何とか防御し、再び鍔迫り合いになる。 辺りを取り囲んでいたカゼマルの残像たちが消えた。 しばらく力比べした後、再び弾きあった。 『今度はこちらから行くぞ・・・・・』 カゼマルが刃に風エネルギーを収縮させていく。 本来その風エネルギーはかまいたちなどに使われるのだが・・・・・。 風エネルギーはカゼマルの鎌を取り囲み、鎌状になる。 まるでカゼマルの鎌を少し伸ばした形状の風の鎌。 白く、半透明な風だ。 『“風神剣”』 アゼマルが風をまとった鎌をアサシンに突きつける。 『ほう・・・・・・・面白い技だな。  実は私もそれに近い技を持っている』 今度はアサシンが鎌に氷エネルギーをためていく。 カゼマルの“風神剣”と同じように、アサシンは鎌に氷エネルギーをまとわせ、鎌状に出来るらしい。 3秒足らずで、アサシンの鎌に氷の鎌が装備される。 『“デスサイズ”』 アサシンが不気味に鎌の名を言った。 お互い元の鎌の1.5倍の鎌を装備する。 そして・・・・・。 打ち合った。 風対氷の戦い。 目にもとまらぬスピードで打ち合うこと、5分。 互いにさすがに疲れが現れたのか、弾きあい、距離をとる。 その時だった。 カゼマルの鎌を包み込んでいた風エネルギーで構成された鎌、“風神剣”が突然歪み出し、力を失い消えうせた。 『チ・・・・・・・・!』 カゼマルは再び“風神剣”を創りだそうとするが、風エネルギーはなかなかまとまらず、1度鎌状になりかけた。 が、むなしく霧散する。 『クソ・・・・・・・・』 『その“風神剣”とやら・・・・・・・・・なかなかいい技だな。  攻撃力を爆発的に上げることが出来る・・・・・・。  ・・・・・・だが・・・・』 アサシンが己の鎌に装備された氷の鎌、“デスサイズ”を持ち上げ、 『所詮は風・・・・・・・・つまり空気の流れだ。  その形状を維持するのにかなりエネルギーを消費するものと思われる。  だが、私のように氷・・・・・・・・・つまり完全なる“物体”ならば、一度造りだせばエネルギーを消費せずとも、破壊されぬ限りその場に有り続ける・・・・・・・・。  これは貴様と私の力の差ではない、生まれ持った力の差・・・・・・運命だ』 『ごちゃごちゃとよく口が回るものだ・・・・・・・・・』 『何・・・・・・・・・?』 『見せてやる・・・・・・・・・俺のとっておきを!』 カゼマルはそう言うと、腰を低くし、鎌を広げた。 一つ大きく息をすると、双眸を見開き。叫んだ。 『“風分身”!!』 『・・・・・・・・・フン』 カゼマルが発動させた技、“風分身”。 その実態は、ただ影分身の数を増やしただけのように見える。 先ほどは30体ほどだったが、今の分身の数は60体近く作り出していた。 ある者は岩の上から、ある者はアサシンのすぐ近くから、それぞれ睨みつけている。 アサシンは慌てず騒がず、 『・・・・・・・・・・吹雪!』 再び、吹雪を放った。 大量の分身は役立たずに終り、カゼマルは吹雪の直撃を受けた。 同時に、大量の分身が消えた。 凍りついたカゼマル。 鎌を開き、アサシンを睨みつけたまま動かない。 『・・・・・・・・呆気ないものだ・・・・・・・・』 アサシンは凍りつき、身動きできないカゼマルに近づき、“デスサイズ”を振り上げた。 そして、今まさに振り下ろそうとした、その時! 気配。 それも、背後から。 アサシンが振り返ると、そこには――――――――カゼマル。 鎌を振り上げ、今まさに斬りかからんとするカゼマルの姿。 目の前から飛び掛ってくるのはカゼマル。 後ろで凍りついているのもカゼマル。 理解不能。 その一瞬の迷いが、カゼマルに転機を与えた。 『“風車輪”!』 身体を勢いよく縦に回転させ、そのままカゼマルが斬りかかった。 ズガガガガガと鈍い音。 全身に斬撃を受け、よろけるアサシン。 岩タイプのためあまりダメージは無いものの、かなりの威力である。 そのままアサシンの横を通り過ぎ、凍りついたカゼマルの横に着地するカゼマル。 アサシンは振り返りその光景を見つめるが、実に奇怪な光景である。 目の前にいる2匹のストライク。 どちらにも左眼に傷跡があり、首に銀色の首がある。 ―――これはどうゆうことだ・・・・・・・・!?    ヤツは一体・・・・・・・・・・何をしたんだ・・・・・・・・!!?――― アサシンは頭をフル回転させるが、この光景の理由を解決させる糸口は見つからない。 カゼマルが凍りついたカゼマルの氷を斬り裂いた。 自由になったカゼマルが、助けてくれたカゼマルの横へ立つ。 やはり、アサシンには理解できない。 困惑し、2匹のカゼマルを凝視する。 『わからないか?』 アサシンを“風車輪”で斬り裂いたカゼマルが言った。 『戦ったらわかるぞ』 今度はもう一方のカゼマルが言った。 さらにアサシンの頭は困惑する。 そして・・・・・。 『『行くぞッ!!』』 2匹のカゼマルが、跳んだ。 2匹の風のごとく速さの攻撃に、アサシンは防戦一方である。 『どうしたどうしたァ!!』 『呆気ないとか言ってなかったかァ!!?』 2匹のカゼマルはさらに斬りかかる。 アサシンは何とか2匹分の斬撃を受けとける。 『ク・・・・・・・・・』 アサシンは眉間を歪ませながらも、2匹をよく観察する。 そして・・・・・・・・・・。 そのうちの1匹を、勢いよく斬り裂いた。 腹を真っ二つにされたカゼマルの身体が、突然歪み出す。 無事なほうのカゼマルが目を張る。 『な・・・・・・・・!!?』 『ヌン!!』 アサシンが、斬りかかった。 受けたものの、力負けしてカゼマルの身体を後ろに勢いよく吹っ飛ばされた。 砂煙を起こしながらカゼマルが着地する。 歪んでいたカゼマルの身体が、唐突に消失した。 『・・・・・・・・・身代わりか』 『!気付いていたのか?』 『いや・・・・・・最初はわからなかった。  お前が同時に斬りかかってきたとき、一方のほうが動きが悪いことを発見してな』 『チ・・・・・・・・・・ぶっつけ本番でやるんじゃなかったな』 『まったくだ』 そう言い終えたアサシンの身体が、唐突に消えた。 すぐに、声が聞こえた。 『もう終わりだ・・・・・・・』 足元からアサシンの声が聞こえたかと思うと、すぐに腹に激痛が響いた。 口の端から鮮血が流れる。 右肩から左の腰にかけて斜めに切り裂かれたカゼマルの身体。 仰向けに倒れこむカゼマルの眼に、円盤状になったアサシンが元の体型に戻るところがチラッと見えた。 意識が、途切れた。  つづく  あとがき いつもよりちょっと短めでした。 わかりにくいところもあったでしょうが、ご理解を・・・・(無理言うな)。 次回、カゼマル対アサシン、決着!