******************  リベンジャー  第59話「2つの感情しかない少年」 ****************** 「上!」 「シャッ!」 ズバン! 紅のメタリックボディを持つポケモン、ハッサムが、主人の言葉に素早く反応した。 頭上から迫る巨大な岩を、一太刀で真っ二つにする。 風の如く、いや、風以上のスピードで。 「ふぅ・・・・・いいカンジだな、カゼマル」 「シャア・・・・」 主人・・・・・・カイは自分のハッサム、カゼマルの動きに感心する。 カゼマルも自分の新しい身体の動きに満足しているようだ。 あの時、もし技を放つ直前に進化していなかったら、今の自分はいなかったかもしれない。 あの技は、己の刃と“羽”をも使う技。 ストライクの羽は飛行のためにあるため、決して頑丈というわけではない。 だが、ハッサムに進化していれば、身体が鋼になると同時に羽も鋼になるため、技を放っても今後の戦闘に支障は無い。 ストライクの身体で使えば、1発は放てるものの、羽はボロボロになり使い物にならなくなってしまうのである。 『・・・・・?』 カゼマルは自分を見つめる謎の視線の存在に気がついた。 さらにカイも何かに見つめられている。 「・・・・・何だ・・・・?」 カイも気がついたのか、しきりに辺りを見渡している。 ・・・・・・刹那。 「とげキャノン!」 どこかで聞いたことがあるその女の声と共に、何処からかとげキャノンが飛来した。 全長50センチほどの大きなとげが3つほど。 とげはカゼマルに向かって飛来する。 「!カゼマル!!」 「シャアッ!!」 カゼマルが刃を3度ほど振ると、とげに向かって3発のかまいたちが放たれた。 かまいたちがそれぞれとげを真っ二つにすると、とげは勢いを失い墜落する。 カイとカゼマルはすぐに攻撃者の位置を確認するため辺りを見渡す。 「さすがは私が認めた男・・・・・・こんな攻撃じゃあやられないか」 またも、その声は聞こえてきた。 カゼマルも何処かで聞いたことがあるようだが、思い出せずに首をかしげる。 だが、カイにとっては最も聞きなれた声だった。 「まさか・・・・・な・・・・・」 地面を蹴る音がした。 カイの後ろに巨大な岩山がそびえ立っていたのだが、音はその岩山の頂上から聞こえてきた。 カイが反射的に振り返る。 その人物はなんと岩山の上から飛び降りてきた。 カイに向かって飛び降りた謎の人物は、太陽の逆光で姿を確認できない。 ギリギリまで近づいてきたとき、その人物の顔がはっきり見えた。 「カーーーーーーイーーーーーーー!!」 「ティ・・・・・ティナ!!?」 ボグ ティナの肘によるエルボーは、カイの頬にクリーンヒットした。 「いったーい!ちゃんと受け止めてよカイ!」 「痛ェのはこっちだアホォ!!」 「で?何しに来た?」 「うわっ、友好的感情まるで無いね、アンタ」 ティナの服装は、最後にあった日に比べ随分変わっていた。 黒い長袖のTシャツの上から半そでの赤いTシャツを重ね着している。 クリーム色のだぼだぼな大きいズボンは、すねの辺りで断ち切られている。 動きやすそうな運動靴。 腰まで伸びた長い茶髪はいつもとめたりしていないのだが、今日は1本にまとめている。 相変わらず淀みの無い茶色の瞳。 その腕に抱いているのはエーフィ。 傍らにはとげキャノンを放ったと思われる鉄壁の防御力を誇るポケモン、パルシェン。 「いきなり人の頬にエルボーかましといてその態度かよお前は・・・・・・」 カイは頬を摩りながら苦い顔で言うが、ティナはそんなことお構いなしというカンジの顔で、 「まぁまぁいいじゃんそんなこと」 「よかねぇよ・・・・・。  で?結局何しに来たんだ?」 「何?自分の幼馴染の様子見に来ちゃ駄目なワケ?」 「誰もんなこと言ってねぇだろ・・・・・・。  そういやお前、バッジはどうなった?」 「ヘッヘーッ!全部そろいました♪」 ティナが得意げに8つのバッジを見せ付けるが、カイはやる気なさそうな顔で、 「へー、そう」 「・・・・・ってちょっと!アンタが聞いてきたんじゃないの!」 「まぁバッジはいいとして・・・・・ポケモン達のほうはどうだ。強くなったか?」 「もうバッチリ♪だよねー!フィル!」 「キュウ!」 「フィル、元気にしてたか?」 「キュウ〜♪」 カイがフィルの頭の撫でてやると、フィルは気持ちよさそうに目を細める。 ティナのエーフィ、フィルは、昔っから人に頭を撫でられるのが好きなことを、カイは覚えていた。 「・・・・・・と、そうだ」 カイが振り返り、聳え立つ大きな岩山を見つめる。 「どしたの?」 「ライラがあの岩山の向こうで自主トレしてんだよ。  カゼマル、様子見てきてくれ」 「シャ」 カゼマルは一つ頷くと、岩山を軽やかに上っていった。 軽快な身のこなしで、あっという間に頂上まで上りきる。 頂上から向こう側を見た後、カイたちの方へ振り返り首を横に振った。 カイはカゼマルの動作を見ると、頭を掻きながら、 「・・・・・・・・やっぱ無理かな・・・・・・」 「何が?」 「ライラに新技の特訓させてんだが・・・・・・」 カイが岩山の脇に向かって歩き出した。それをティナが追いかける。 カイは脇から向こう側を除くと同時に、ティナを止めさせた。 「?」 「ホレ」 カイが指差そう方向へティナは目をやる。 岩山の向こう側に出来た小さな広場で、一匹のねずみポケモン・ライチュウが立っていた。 ライチュウは背を向け、自分の尻尾を持って静止している。 まるで人間が刀を持っているような体制で、ライチュウは精神統一している。 刀に見立てられた尻尾からは時折電気がほとばしる。 額から汗をかきながら、ライチュウはじっとしている。 カイは一つため息をつくと、ライチュウに歩み寄った。 ライチュウの前へ歩み寄ると、腰をおろし、ライチュウと顔の高さを合わせる。 「おいライラ」 「・・・・・・・・・・・・」 ライチュウ・・・・・・・ライラは返事をしない。 「ライラ!」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・ライラァァッッ!!!」 「!?・・・・・・!?ライ!!?」 やっと気がついたライラは驚いて放電しようとしたが、目の前にカイがいることに気づき慌てて止める。 「・・・・・全っ然ダメだろ・・・・・・お前」 「・・・・ライ・・・・・・・」 ライラはどこかしょんぼりしている。 特訓はあまりうまくいっていないようだ。 「ライちゃん!」 「!ライチュウッ!」 ライラはティナに声をかけると、先ほどの暗い表情は何処へ言ったのかとつっこまれるほど明るい表情で返事した。 「ライちゃん元気にしてた?」 「ラァイィラァイィ!!」 ライラはティナに頭を撫でられさらにご機嫌になる。 まるで親にほめられた幼子のようだ。 「ライちゃん、何の特訓してたの?」 「ん?」 カイとライラは顔を見合わせた後、少し笑いながら、 「出来上がるまで秘密♪」 時、場所は変わる。 深夜、シロガネ山。 ここらの地方で最も屈強の野性ポケモンが数多く生息する、一般トレーナー立ち入り禁止の場所。 ジムバッジ8つ持っていれば入山できるのだが、それでも危険なことは変わりない。 シロガネ山中腹辺りに、そのテントはあった。 あまり大きくない一人用のテントだ。 そのテントの前に、漆黒の体を持つポケモン、ヘルガーが座っている。 どうやらテントに近づく者がいないか見張りをしているようだ。 ヘルガーは空を見上げた。 珍しく雲がかかっていない、きれいな星が輝く夜空。 星の海を見つめるヘルガーの眼は、どこか寂しそうに見える。 何処からかホーホーやヨルノズクが鳴く声が聞こえる。 唐突に、テントの入り口のドアノブともいえるジッパーが開いた。 開いたテントからこれまた漆黒の体を持つポケモン、ニューラが顔を出した。 『リーダー・・・・・?眠れないの?』 ニューラが眠たそうに目をこすりながら、ヘルガーに問う。 『ジーニ・・・・・起こしてしまったか?』 『うんうん、ちょっと起きちゃっただけ』 ニューラは残忍な性格といわれているが、このニューラはニューラの生態の常識に反している。 テントからジーニと呼ばれたニューラが現れたということは、このテントの中で眠っているのはジンのようだ。 よくよく考えれば、こんな危険な山で夜を明かすという大胆な行動はジンぐらいにしか出来ない。 必然的に、このヘルガーはジールということになる。 ニューラ・・・・・・・ジーニは器用にジッパーを上げ閉めると、ジールの横へ座った。 『星が綺麗でな・・・・・・・眠るのが惜しいくらいだ』 ジールの言葉でジーニは夜空を見上げ、 『あ!ホントだ、きれい・・・・・・・・・』 感動する。 『・・・・・・・ねぇリーダー』 『ん?』 どうやらジールはチーム内ではリーダーと呼ばれているらしい。 『リーダーは・・・・・・・・・ジン兄とずっと昔から一緒にいるんだよね』 『・・・・・・・そうだが、それがどうかしたか?』 『うん・・・・・・・』 ジーニは少し夜空を見上げた後、ジールの顔を見つめ、 『ジン兄って・・・・・・・・・・・わら・・・』 『笑わない、泣かない。その事についてか?』 ジールはジーニの言葉を先読みし、言い切るとジーニは驚いて、 『!?どうしてわかったの!?』 『勘だ』 『・・・・・・・・・え?』 『と言ってもな・・・・・・・これはクセだ』 『クセ?』 『≪戦闘において、敵の行動を先読みできれば、それはこの上ない戦力となるだろう≫・・・・・・そう教えられてきた。  デルビルのころからな・・・・・・。   すまんな、ついついお前の言おうとしていた事も先読みしてしまった』 『いや、別にいいけど・・・・・・・』 『教えて欲しいか?何故ジンが・・・・・・・一瞬足りとも笑わず・・・・・一滴も涙をこぼさないのか・・・・・・』 『う・・うん』 『俺がヤツが泣くところを最後に見たのは・・・・・・・組織から逃げ出した、その日のみだった・・・・・・・・』 ヤツは“能力”を使い、雨の中、逃げていた。 背にキキ嬢を乗せているのにも関わらず、目を張るスピードだった。 俺はその横で走りながら涙を流すヤツの顔を見た。 人間として、あの年齢なら泣くのも当然だったろう。 後ろから迫る複数の追っ手から時には身を隠し、時には全力で走り・・・・・俺から見ても酷だった。 追っ手を振り切り、行き着いたフスベシティで俺達は拾われた。 当初、ジム内でヤツとキキ嬢はまったく喋らなかった。 イブキさんの困り果てている姿もまだ鮮明に憶えている。  そして、俺にだけ、こっそりとこう言った。 「俺は・・・・もう・・・・・・・・泣かない・・・・・・!」 泣くことと決別したその日から、ヤツは泣くことと同時に笑うのも止めた。 俺は辛かった。 辛すぎた。 ヤツは密かに・・・・・・・・・・“能力”の特訓をしていた。 キキ嬢は今後一切“能力”は使用しないと、断言した。 「使うと人間じゃなくなるような気がするから・・・・・・・」 誰に聞かれてもキキ嬢はそう答えた。 ただ、ジンだけは、決して“能力”と決別しなかった・・・・・・。 『それって、やっぱりヘヴンとの戦いのためにかな・・・・・・?』 『だろうな・・・・・・・・・。  ジンは“無”と、“怒り”の表情しか表さない・・・・・・・。  きっとジンはヘヴンを倒す日まで、決して笑おうとしないだろうな』 『・・・・・・・辛いだろうね・・・・・・・』 『・・・・・・・・俺には目標がある』 『目標?』 『ジンに顔に・・・・・・・笑顔を取り戻すことだ。  ヘヴンはジンから笑顔を奪った・・・・・。  俺はいつか必ず、ヘヴンを倒す・・・・・・・・・いや、殺す』 『・・・・・・・・・・!』 『・・・・・・・ポケモンリーグ・・・・・・・・』 『え?』 『俺達が腕を上げ、名を上げるのに最も最高の舞台だ。  さぁもう寝ろ。明日からまた修行尽くしだぞ』 『うん・・・・・・・・・・わかった』 ジーニは再びテントの中は入っていった。 ジールは夜空を見上げ、数え切れないほどの星を相手ににらめっこする。 『・・・・・・・・』 ジールは顔を降ろし、そのまま寝息を立て始めた。 俺は戦う・・・・・・・・ジンのために・・・・・・・・!!  つづく  あとがき ジンとキキの過去って暗くなる一方ですね・・・・・・・・。 さぁ!次回からポケモンリーグに突入します! ちょっとご無沙汰してたハイテンション男も再び登場します!(笑) ポケモンリーグに突入する次回から、カイ、コウ、ティナ、ユウラは12歳となります。 ジンは14歳、キキは11歳となります。 ちなみに深い意味はありません。(爆)