*****************  リベンジャー  第62話「世界最強のライチュウ」 ***************** 「うまいこと・・・・・・・皆バラバラになったな」 カイは手にした紙切れを見ながら呟いた。 本選開始当日、ホテル1階のレストラン。 その中央辺りで、カイ、コウ、ティナ、ユウラが丸いテーブルを囲んで朝食をとっている。 カイが手にしている紙切れは、ポケモンリーグ本選トーナメント用紙。 部屋のパソコンに表示されていたものをプリントアウトとしたものだ。 カイだけではなく、レストラン内にいるトレーナーの中にも、カイと同じように紙切れを眺めるものもしばしば。 カイが言う《皆バラバラ》というのは、ジンを含めた5人全員が違うブロックになったことだ。 これで5人が決勝トーナメントまで当たることはない。 「でもさ、決勝になったらあたしたちいきなり当たるってことも有り得るよね」 「まぁそん時は手加減ナシでやるけどな。  ユウラ、俺と当たったときには覚悟しとけよ」 「あたしがあんたなんかにやられるワケないでしょ?  勝つのはあたしって決まってんの」 「あァ!?んじゃすぐにでもやったろか!!?」 「軽ーく返り討ちにしてやるわよ」 「ちょっと2人とも!」 「ったく・・・・・・・朝っぱらからケンカすんな・・・・・・・・。  さてっと、俺の相手は・・・・・・・・」 カイが自分の対戦相手の名前を読もうとしたとき、カイの後ろを一人の少年が通り過ぎようとしていた。 緑色の髪をした、歳は大してカイたちと変わらない少年。 悪戯小僧のような印象を受ける。 その少年も、手に紙切れを持っている。 やはりトーナメント用紙のようだ。 「ザン・バルス」「カイ・ランカル」 カイと少年の声が重なった。 一瞬間をおいて、2人の視線が合った。 そして・・・・・・・・。 「・・・・・・・・・弱そうだな」 そう言い残し、立ち去っていく。 なんてコメントしたらいいかわからず、呆然とする4人。 「・・・・・・・・・・今のが?」 「・・・・・・・・そうらしい」 カイはバカにされたのにもかかわらず、平然とし、朝食に手をつける。 「オイカイ!何か言い返してやれよ!今思いっきりバカにされたんだぞ!?」 コウの声もむなしく、カイは去ってゆく少年に一声も浴びせない。 全く動じず、黙々と朝食に手を伸ばす。 この辺がカイとコウの違いだろう。 なかなか大人びたカイと、いつもギャーギャー叫ぶコウ。 この正反対な2人が何故親友同志なのかわからない。 「みんな」 カイが手を止め、コウたち3人を見ながら、口の端でにやっと笑い、 「今日の午後2時・・・・・・・あいてるか?」 「え・・・・・・・・・別にあいてるけど・・・・・・」 ティナの言葉に、コウとユウラも頷く。 「第1スタジアムに来いよ、面白いもの見せてやっから」 その顔は、自信に溢れていた。 カイの予告した、午後2時前、第1スタジアム。 今ここで、本選トーナメントAブロック1回戦第4試合が行われようとしている。 戦うのはもちろん、カイと今朝、カイをバカにした少年、ザン。 どうやらカイの言う《面白いもの》とはこのバトルで見せてくれるようである。 コウ達は観客席で、今か今かとバトルが始まるのを待っている。 いつのまにか彼らの横にはグローリー兄妹をいた。 カイのバトルを見に来たようだ。 一方、控え室。 控え室の椅子に座ったカイは、目の前にいるパートナーポケモン、ライチュウのライラを見つめる。 「俺はお前を決勝トーナメントまで出す気はなかった・・・・・・・・。  お前はなんてったって切り札なんだからな。  だけど何だ・・・・・・・・バカにされちゃったしなァ・・・・・・。  そこでだライラ、俺考えたんだよ」 「?」 「決勝トーナメントまでお前1匹で勝ち抜いてさ・・・・・・。  この会場内にいる奴ら全員のド肝を抜いてやろうぜ!」 「!チュウッ!!」 ライラはオウよとばかりにガッツポーズする。 どうやら、カイは今朝のことについてはだいぶ頭にきていたらしい・・・・・・・。 「これより、Aブロック1回戦第4試合を行います!」 アナウンスが流れ、入場口からカイとザンが登場する。 バトルフィールドで睨み合う2人。 「使用ポケモンは3体!先にどちらかのポケモンが3体戦闘不能となった時点で勝敗は決します!  構え!」 会場が静寂に包まれた。 「レディ・・・・・・ゴー!」 「ライラ!」 「ハガネール!」 ボールから現れたライラはすぐに構えを取る。 ハガネールを鎌首をもたげ、独特のうなり声を上げる。 その銀色に輝く身体を前にし、ライラは臆することなく対峙する。 「うわっちゃ〜・・・・・・・カイのヤツ、いきなり不利だなオイ」 「ライラが強いのはわかってるけど・・・・・・・相手がハガネールじゃねぇ・・・・・・・」 「ホントにそう思う?2人とも」 「え?どうゆうこと?ティナ」 「少しの間だけど・・・・・・・・カイと修行してたのよ。  その時にね・・・・・・・見せてもらったの」 「?何をだよ」 「ライラはね・・・・・・・まさしく、最強のライチュウだってこと!」 「大丈夫かな・・・・・・・・カイさん」 「何・・・・・・・ヤツは強い。  相手がハガネールだとわかって交代しないのも、何か秘策があるんだろう」 「やっほう!いきなり勝ったぜ!ハガネール!地震攻撃!」 ザンの声で、ハガネールが巨大な尻尾を振り上げ、地面に向けて叩き落した。 尻尾を中心に巨大な衝撃波が伝う。 が、衝撃は何者も捕らえなかった。 ライラの姿が、消えていた。 現れたのは、ハガネールの目の前。 「ライラ!“爆裂キック”!!」 巨大な鈍い音。 「!!?」 その場にいた全員の目が、点になった。 1匹の小さなライチュウが、その10倍ほどの巨大さを誇るハガネールの顎を蹴り上げたのである。 数回回転し、見事に着地するライラ。 顎がのけぞったまま動かないハガネール。 観客も選手も、開いた口が塞がらない。 ただ、ライラの蹴りの轟音だけがスタジアムに響いた。 ハガネールがのけぞった顎を戻した。 同時に、厳しい顔でライラを睨みつける。 ハガネールが動いた。 主人の指示を待たずして、ハガネールはその巨大な口を開ける。 どうやら噛み砕こうとしているらしい。 迫り来る巨大な鉄蛇を相手に、ライラは自信たっぷりな顔で睨みつける。 ハガネールの顎が地面をえぐった。 先ほどと同じように、ライラの姿はない。 再び鈍い音。 今度は頭から数えて3つ目の鉄岩に蹴りが炸裂した。 どうやらハガネールの腹のあたりだったらしい。身体がくの字になるハガネール。 さらに脳天に再び蹴りをくらい、うずくまる。 速すぎるライラの動きに、皆、目がついていけていない。 その中でただ1人、ライラの動きを知る者、カイは腕組をしたまま戦況を見据える。 ハガネールはダメージは大きいものの、まだ動けるようだ。 「・・・・・・・・・ライラ!そろそろ決めるぞ」 カイがキッとハガネールを睨みつけ、 「ライラ!“爆裂連撃弾”!!」 激しい轟音が、連続で聞こえた。 一瞬にうちにハガネールの顔面に爆裂パンチ、キックを打ち込むライラ。 ハガネールの巨大な身体が倒れこんだ。 やっと目が覚めたような観客達が、一斉に歓声を上げる。 「ウ・・・・・・・・ウソだろ・・・・・・・?アレがあの・・・・・・ライラなのか!?」 「メチャクチャ強い・・・・・・・・!」 「ね?だから言ったでしょ?」 コウとユウラも、流石にライラの成長振りには驚いたらしい。 「すごい・・・・・・・・すごいよ!  カイさんのライチュウ・・・・・・・強すぎる・・・・・・・・!!」 「・・・・・・・・・・異常だな」 「え?」 観客のほとんどが驚いている中、ジンだけはあまり騒がず、じっとライラを見つめている。 「キキ、さっきライチュウが使ったフィニッシュの技・・・・・・・・・何回攻撃したかわかったか?」 「え・・・・・・5回か6回ぐらいだと思うけど・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・30」 「・・・・・・・・・え?」 「先ほどの“爆裂連撃弾”という技・・・・・・・・・ライチュウはハガネールの顔面に30発以上拳と蹴りを入れていた」 「え!?ホント!?」 「ああ・・・・しかもだ。  爆裂パンチと同じ要領で足にエネルギーを込め、攻撃していた・・・・・・・・・。  本来、爆裂パンチは一回ためたエネルギーで何度も打てるような技ではない。  一度使えば、再びエネルギーチャージしなければならない。  だが、ライチュウは両手両足に一回ためたエネルギーで30発以上打ち込んでいた・・・・・・・・。  大体からして、両手両足に“爆裂技”のエネルギーを同時にチャージなどできるものなのか・・・・・・・・・!?」 「・・・・・・・ハ、ハガネール戦闘不能!ライチュウの勝利!  ザン選手、残り2体!」 「ウ、ウソだろォ〜?チックショ〜・・・・・・・戻れ!ハガネール!」 ザンは渋々ハガネールをボールに戻した。 「棄権するか?腰抜け」 「あ!?なんだと〜!!」 「悔しかったら俺のライラを倒してみろ、このへっぴり腰」 「!!このヤロー!いっけェェェ!ラフレシア!」 カイの挑発に簡単に乗ったザンはすぐにボールを投げた。 中から現れたのはフラワーポケモン・ラフレシアだ。 「ラフレシア!そんなやつ眠らせれば怖くねぇぞ!眠り粉だ!」 ラフレシアが激しく回転し、その巨大な花から粉が振りまかれる。 眠り粉は風に乗り、ライラに向かって飛んでいく。 ・・・・・・・・・だが。 「あ!?アレ!?ライチュウは!?」 「!?」 先ほどのハガネール戦と同じように、ライラは再び姿を消した。 「!ラフレシア!上だ!」 ラフレシアが見上げると、そこにはライラの姿があった。 「格好の餌食だぜ!ラフレシア!ソーラービームだ!」 「おいまずいぞ!空中じゃあ身動きが出来ねェ!あのままじゃソーラービームをまともに・・・・・・・・」 「騒ぐなコウ。貴様、かなり鈍感らしいな」 「あ!?テメェ殺されてぇのかジン!」 「よく見てみろ、あの状況だとラフレシアはソーラービームは打てない」 「え・・・・・どうゆうこと?お兄ちゃん」 「ライチュウとラフレシアの位置関係をよく考えてみろ」 「!?ラフレシア!何でエネルギーを溜めねぇんだ!?」 ラフレシアは花に太陽エネルギーをためるどころか、その場でおろおろするばかり。 ライラは勢いよく落ちてくる。 「ライラ!アイアンテール!!」 「!?ラフレシア!ヘドロ爆だ・・・・・・・・」 ハガネールの時と同じような、鈍い音が響いた。 「ラフレシア戦闘不能!ライチュウの勝利!  ザン選手、残り1体!」 「クッソォ!ラフレシアのバカ野郎!何で早くソーラービームを・・・・・・・・」 「バカはテメェだ」 「あ!?」 「ライラは太陽を背に落ちてきた。  ソーラービームは太陽エネルギーを得なくては成立しない技だ」 「・・・・・・・・・・・?」 「よーするに、ライラがラフレシアの日陰の役割を果たして、ラフレシアに太陽エネルギーが行き届かなかったんだよ」 「な・・・何ィィィィィィィィィィ!!!!???」 「お前、相当のバカだな・・・・・・・・」 「ク・・・・・・人をバカ呼ばわりしやがって・・・・・・・・行け!サワムラー!」 ザンが苦し紛れに放ったボール。 中からキックポケモン・サワムラーが姿を現す。 脚が伸び縮みする、特殊な能力を持つポケモン。 「サワムラー!跳び蹴りだァ!!」 サワムラーは軽く跳躍すると、その自慢の脚を伸ばした跳び蹴りを放つ。 「ライラ、10万ボルト!」 伸びる脚に対し、ライラは10万ボルトで対抗する。 結果的に、遠距離攻撃である10万ボルトがサワムラーに炸裂した。 「クソ・・・・・・!サワムラー!跳び膝蹴りィ!!」 「ライラ、見切って雷パンチ」 「心の目!そんでもってメガトンキック!」 「キックに直接爆裂パンチ」 ばたりという音と共に、ボコボコになったサワムラーが倒れた。 前には傷1つないライラが立っている。 「サワムラー戦闘不能!ライチュウの勝利!  よってこの試合、勝者、カイ・ランカル選手!」 歓声を上げるスタジアム。 そんな中、この試合を見ていた選手たちは見といてよかったと思った。 バケモノの存在に、いち早く気付くことが出来たから・・・・・・。 あのライチュウは強い・・・・・・・・・いや、恐い・・・・・・・・!! 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ザンはうつむき、拳を握り締めたまま震えていた。 今朝、対戦相手を見たときは勝てる相手だと思い込んでいたのに、結果、完封されてしまった。 抑えていた悔し涙が目の端からこぼれてくる。 「俺さ」 「・・・・・・・?」 肩にライラを乗せたカイが、ポケットに手を突っ込んだまま歩いてくる。 膳の前に立つと、カイはニコッと笑い、 「お前嫌いだな」 「・・・・・・・は?」 「人の外見で判断するヤツってさ、そーゆーヤツに限って弱いんだよなァ」 「・・・・・・・」 「俺の知り合いの女の子にさ、一見スゲーひ弱そうなヤツがいんだけど・・・・・・・」 「・・・・・・・・なんだよ」 「その女の子とお前が戦ったら・・・・・・・・お前負けるぞ?  人は外見じゃ判断できないってよくゆーだろ」 「・・・・・・・さっきから何が言いたいんだよ!」 「あー・・・・・・簡単に言やァなァ・・・・・・。  お前、考え方変えなきゃな、また負けるって言ってんだよ」 「う・・・・・・・」 「俺さ」 カイがくるっと振り返り、歩き出した。 自分が入ってきた入場口に向かって歩いていく。 そして、ザンに背を向けたまま、こう言った。 「お前みたいなヤツに・・・・・・・・・・負ける気微塵もねぇから」 「・・・・・・・・・・・!」 カイ・ランカル、1回戦突破。 コウたち3人も1回戦突破し、好調なスタートといえる。 ジンはトーナメントの都合上、明日1回戦が行われる。 その1回戦が、ジンのこの大会の運命を握るとも知らず・・・・・・・・・・。  つづく  あとがき 本選トーナメントが開始されました! ライラ、ホント強くしすぎました・・・・・・・・・・。 次回はジンのバトルです!