*************  リベンジャー  第64話「変態出現!?」 ************* 午後3時、第3スタジアム。 ここで、Cブロック2回戦第2試合が行われている。 観客の歓声で、スタジアムは興奮絶頂。 フィールドの真ん中で、手を組み力比べする2匹のポケモン・・・・・・・。 力比べしているのは、火山ポケモン・バクフーンと、火吹きポケモン・ブーバー。 バクフーンはまだまだ余裕が見られるが、ブーバーは汗を流し、かなり辛そうである。 「・・・・・・ボルク!」 バクフーンが主人・・・・・ティナの声で、この力比べにケリをつけることにした。 バクフーンのボルクは腕に力を込め、なんと腕を組み合ったままブーバーを持ち上げた。 格闘ポケモン並の力で持ち上げられたブーバー。 そのままひょいと、空中に投げ捨てられた。 それで終りかと思いきや、ボルクの攻撃は終わらない。 ボルクは電光石火でブーバーの目の前に一瞬で現れると、その拳に力を込める。 「ライちゃん直伝!“爆連掌”!!」 一瞬で、10発ほどの爆裂パンチがブーバーの身体のいたるところに打ち込まれた。 とどめともいえる攻撃を受け、力なく倒れたブーバー。 「ブーバー戦闘不能!バクフーンの勝利!  よってこの試合、ティナ・ラディス選手の勝利!」 「あ・・・・・・・・アイツ、早速使いやがった」 「おっしゃあああ!ティナ、ナイスファイトォォ!!」 コウの相変わらずでかい声で気がついたらしいティナが、見に来ていたカイとコウに向かって笑いながら手を振った。 同時刻、選手宿泊用ホテル7階、ユウラ&ティナの部屋。 部屋で休んでいたユウラの耳に聞こえてきた、ノック音。 ドアを開けると、そこにはジンの妹、キキが立っていた。 「あり?キキ、どうしたの?」 ユウラはジャンバーを脱いでおり、真ッさらな白Tシャツでキキを迎える。 「あの、ユウラさん・・・・・・今、1人ですか?」 「え?ああ、まぁ一応1人って言えば1人だけど・・・・・」 「相談したいことがあるんですけど・・・・・・いいですか?」 「?別にいいけど・・・・・」 とりあえずキキを部屋の中へ入れるユウラ。 キキが部屋を見渡すと、あまり散らかっていない。 部屋の隅に2人分の荷物。 テーブルの上には何枚か紙が散らかっている程度。 2人はどうやら綺麗好きなのだろうと、キキは推測した。 もっとよく見渡すと、先ほどユウラが「一応1人」といった理由がわかった。 2つあるベットの内、片方のベットの上にある黒い物体。 ユウラが持つ人語を喋る不思議なヤミカラス、クロ。 クロはベットの上でヤミカラスの身体で可能な限り大の文字状態で寝ている。 時折花ちょうちんが膨張を繰り返す。 ユウラのほうへ目をやると、ユウラは自分の荷物をガサガサとあさっている最中だった。 「あっと、そうだ」 ユウラが何か思い出したように振り返り、 「そこに冷蔵庫あるでしょ?  中にいろいろ冷やしてあるから、何でもとって飲んでいいよ」 「あ・・・・ハイ、ありがとうございます」 キキは備え付けの小さな冷蔵庫に歩み寄り、ドアを開けた。 何が入っているのかと少し物色した後、キキの目があるものに釘付けになった。 「あの・・・・・・ユウラさん」 「んー?何?」 ユウラが振り返ってみると、その手に持っていたのは・・・・・・缶ビール。 かなりキンキンに冷えている。 「ユウラさんって・・・・・・・お酒飲むんですか?」 「あー・・・・・・もしかして・・ってゆーかキキも飲まない派?」 「え・・・そうですけど」 キキはきょとんとした顔で答える。 「それねー、負けた時用のビール」 「負けた時用?」 「よーするに、負けたときに、すぐに忘れるために飲むの♪  ティナに言ったときにわかったんだけどさ、ティナも飲まないのよね。  こんな美味しいものを飲まないなんて・・・・・・」 「いや・・・・・普通私たちの年齢なら飲みませんよ・・・・。  まぁ10歳越えたら大人扱いで飲んでもいいって言ったって、所詮はまだ10代なんだし・・・・・」 「まぁその話はおいといて、相談だっけ?」 ユウラは荷物をあせるのを止め、クロが寝ているベットとは別のもう一方のベットに腰掛けた。 ユウラに手招きされ、キキも腰掛ける。 手には冷蔵庫から取り出したオレンジジュース。 ユウラもコップに注いだ水を手にしている。 「あの・・・・・・・唐突なんですけど・・・・・・・・」 「何?」 ユウラがコップに口をつけた。 「ユウラさんって・・・・好きな人とかいますか?」 ブッ!! 思いっきり水を噴出すユウラ。 「・・・・・・・ハイ?」 「いやだから・・・・・・・・好きな人とかいますか?」 「す、好きな人なんてあたしは・・・・・・・・」 「いるぞ、そいつ」 「!?クロ、あんたいつ起きたの!?」 「10秒ぐらい前から」 ベットの上でヤミカラスの体で可能な限り胡座をかき、半分閉じられた眼でこちらを見ているクロ。 半分寝ぼけているようにも見える。 「え・・・・・・・・・ユウラさん、好きな人いるんですか!?」 「あ・・・・いないいないいない!!」 ユウラは手をふり否定するが、クロは少しニヤニヤしながら、 「いや、いるぞ、コイツ。しかも結構近くに」 「え!?やっぱりいるんですか!?」 「・・・・・・・・」 ユウラは無言で立ち上がり、クロの脚を鷲づかみにした。 クロの身体はいとも簡単に逆さ釣り状態になる。 そのまま窓に歩み寄り、窓を全開にし、そして・・・・・・・・。 ポイ と投げ捨てた。 突然の出来事に、思わず目が点になるクロとキキ。 3、4秒間が空いた後、クロが窓の下から飛び出した。 「オ、オイコラァ!!いきなり投げんなバカ!  ビックリして飛ぶの忘れたじゃねぇか!」 「あ、生きてた」 「い、生きてたってお前・・・・・・・・!  殺す気だったのか!?」 「そりゃそうでしょ。  7階から落としたってことは抹殺願望があったってことでしょ?」 「自分のポケモンそう易々と殺すな!」 「どうでもいいけどさ、あたし達ちょっと話があるからどっか行ってなさい」 「恋愛相談?」 「行け」 「チ、ったく、わかったよ」 クロは渋々了解し、青い空へ吸い込まれていった。 ユウラは呆れ顔でクロを見送った後、再びベットに腰をおろした。 「・・・・・・・・で、そんな話を持ち出したってことは、キキも好きな人がいるってワケだ?」 「ハイ・・・・・・・・」 「しかもその相手がカイだと」 「え・・・・・・・・!?何でわかったんですか!?読心術!?」 「いやねー、あたしも一回惚れたからさ」 「そうなんですか!?」 「う〜ん・・・・・その後ね〜、すぐに冷めちゃって、他の人好きになっちゃってさ」 「コウさんですか?」 「な・・・・!何であたしがコウなんかに・・・・・・・・!」 「ユウラさん・・・・・・・・真っ赤な顔で否定しても逆効果ですよ?」 「う・・・・・・」 「あの、話それちゃったんですけど・・・・・・。  その、カイさんのことなんですけど・・・・・・・・・」 「あー、カイね?  カイはねー・・・・・・・・ちょっと難しいなぁ・・・・・・」 「え・・・・・・・それって、もしかして・・・・・・・・」 「カイはさ、“大切なモノは大事にする派”な人間なのよ。  人であれ、物であれ、大切モノを汚されたり怪我されたりするのが大嫌いなの。  それで・・・・・・・・・カイって、ヘアバンドしてるでしょ?」 「ハイ」 「あのヘアバンドね・・・・・・・どうやら、旅立つときに、幼馴染の女の子からもらったらしいの。  あと、その時ロケットももらったらしくて・・・・・・・。  ずっと前に、カイが持ってたロケットふんだくって中身見ようとしたらさ・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「殺されかけた」 「え!?殺されかけた!?」 「後一歩って時に、カイにすごい形相で睨まれてさ、殺すぞって脅されちゃって」 「カイさんって・・・・・・・・そんな恐い人だったんですか?」 「あー・・・・大切な物を突然覗かれかけたから怒ったんだと思うのよ。  普段は優しいし、結構男前」 「あ・・・・・・なんだ、ビックリした・・・・・・・・・・」 「もらったロケットを大事にしてるってことは・・・・・・・そのくれた本人もすごい大事にしてると思うのよ。  そのヘアバンドとロケットをくれた女の子ってゆーのが・・・・・」 「・・・・・・・(ゴク)」 「ティナなワケ」 「え・・・・・・・・・」 「カイとティナの仲を裂くのは難しいよー?」 「そ、そんな。仲を裂くなんて・・・・・・・・」 「でも、キキはカイが好きなんでしょ?」 「ハイ・・・・・・・・」 「で、カイはティナが好き・・・・・・・・。  あ!もしかしてこれって、三角カンケーってヤツ!?  わ!コレはまたおもしろそーな展開で・・・・・・」 「ちょ、ちょっとユウラさん!茶化さないでください!」 「まぁいいじゃん♪  そんな深く考えないで、気楽にやりなさいな。  ちょっとずつカイとの仲を深めてって、今だぁ!って時に奪い去るとか・・・・・・」 「う、奪い去るって・・・・・・・・」 「おお!誰もいねェ!超ラッキー!」 「お、ホントだ。誰もいねぇな」 「・・・・・・・・・・」 男3人、タオル一枚。 常人よりややがっしりした体つきのカイとコウ。 それに比べ、ジンはなかなかの筋肉。 はっきりとはしていないが、腹筋も割れている。 今日のバトルを終え、3人は風呂場へと来ていた。 なかなかな広さの大浴場だ。 ちなみに女湯とは壁1枚で繋がっており、壁と天井の間にわずかながら隙間がある。 まぁこの壁を登ってまで覗こうとする者はいないだろう。 「おっしゃあ!跳びこみぃ!!」 コウが誰もいない大浴場を真っ先に走り出し、誰もいない浴槽へ飛び込もうとしたのだが、 ツルン!ゴス! 「ふぐぅ!!」 途中でハデに滑って転倒。 後頭部を打ち、そのまま気絶した。 腰に巻いていたタオルが宙を舞い、コウの顔にかぶさった。 「・・・・・・・・とりあえず、身体洗うか」 「・・・・・・・そうだな」 カイとジンはコウの奇行にも目をくれず、椅子に座り、身体を洗い出した。 しばらくして、唐突にコウが起き上がった。 「うわっ!ペ!ペペ!  変なトコに触れてたタオルが顔面に・・・・・・・!」 その時だった。 女湯から、ティナたちの声が聞こえてきたのは。 「あ・・・・・・・・意外とキキって胸大きいね」 「え・・・・・・ちょ、ちょっとティナさん!?」 「何であたしたちより年下のくせにあたしたちよりあるのかしらね〜」 「!ユ、ユウラさん変なオーラ宿しながら睨まないでくださいよ!」 「・・・・・・」 「カイ、一つ訊いていいか?」 「な、なんだよ」 「何故に赤面している?」 「え!?ウソ、俺、赤面してる?」 「バッチリな」 「・・・・・・・・」 「後、もう一つ質問したい」 「?」 「コウの様子がおかしいのだが、あいつは何をやってるんだ?」 「へ?」 ジンに言われ、カイはコウの奇行に気付く。 見れば、なにやら辺りを見渡し、うろうろしている。 一度、壁に手をかけた。しかも、女湯と隣接している壁だ。 そして、何か思いついたように手をぽんと叩くと、コウは奇妙の行動をとり始めた。 カイは風呂桶に湯を注ぎながら、コウの奇行に目をやる。 コウは椅子を集め始めた。集めた椅子を、壁沿いに積み上げていく。 「何やってんだ・・・・?アイツ。  しかもタオル巻いてないし」 その謎の行動を、カイとジンは呆然と見守る。 椅子は次第に何かを形作っていく。 まるで、横から見たピラミッドのような・・・・・。 まさか・・・・・・・・・・。 カイは突然立ち上がった。 「ジン!コウを止めるぞ!」 「?何をだ」 その時、ジンはついに、コウのしようとしている事に気がついた。 ピラミッド型に積まれた椅子を、一番上に置かれる手筈の2つの椅子を両脇に抱え、コウは上っていく。 ビビッと、ジンの頭にある言葉がよぎった。 覗き!? カイとジンが走り出した。 ピラミッドの中腹辺りまで登ったコウを追いかけ、2人もピラミッドを登る。 「やめろコウ!お前その行動は思いっきり警察沙汰な行為だぞ!」 カイが上まで上り、残り2つの椅子を設置しているコウの足を掴んだ。 そして、ついにコウが危ない言葉を口走った。 「女湯が・・・・・・・・」 「?」 「女湯が俺を呼んでいるゥゥゥゥゥゥゥ!!!」 「!!?(壊れた!?)」 ジンもコウの足を掴んだ。 絶対に放すかとばかりに、すごい握力で掴んでいる。 「コウやめろって!バレたら半殺しじゃすまねぇぞ!」 「貴様!キキの裸体を一瞬でも直視したら、半殺しじゃさまないぞ!」 「何やってんの・・・・・・・?アイツら・・・・・・」 「コウ!あんたねちょっとでも覗いたらどうなるかわかってんでしょうね!  もし覗いたらあんたの(ピー)を(バキュン!)してやるから覚悟しときなさいよ!」 「ユ、ユウラ。あんたちょっと下品すぎ・・・・・・」 「お兄ちゃん・・・・・・・(赤面)。  うぅ・・・・・・他に誰もいなくてよかった・・・・・・・」 「誰もいなくてホントよかった」 「地獄に仏とはこの事だ」 何事もなかったように湯船につかる3人。 が、明らかに1人だけ、可笑しなつかり方をしている。 湯船から出ている部分、それは、後頭部、背中、尻の3つ。 コウ、昏倒中。 「・・・・・・カイ」 「ン?何だよ」 「お前・・・本選はライチュウだけで戦ってたな。作戦か?」 「まぁな」 「ライチュウ以外は決勝トーナメントまで明かさないつもりか?」 「ああ。だがまぁ、そろそろ他の連中も出してやんねぇと、欲求不満で暴徒になりそうだけどな」 「戦いの欲求不満か」 「まぁそんなトコだ」 突如、カイとジンに湯がかぶりかかった。 顔を拭きながら見れば、コウがいつの間にか復活している。 「オイコラお前ら!  いきなり殴んな!人が後一歩で至福のときに浸ろうとしてたのに・・・・・」 「いや、ありゃ犯罪だって」 「ジンも結構楽勝モード続いてるよな」 「まぁな」 脱衣所。 パンツ一丁で頭を拭くカイ。 ズボンを穿き、上半身裸で水を飲むジン。 全裸で扇風機の風を堪能するコウ。 「コウ・・・・・・・・お前、せめてパンツ穿けよ」 コウは扇風機と向き合ったまま、 「いや、コレは全裸だから意味がある」 「どーゆうの意味だよ・・・・・・。  風邪ひかねぇ程度にしろよ」 さりげなく着替え終えたカイ。 ヘアバンドを首にかけ、出口に消えていった・・・・・・・と思ったら、すぐに帰ってきた。 無言でジンの横を通り過ぎ、全裸のコウに耳打ちする。 すると、最初はのほほんとした顔でいたコウだったが、すぐに真剣な顔に豹変した。 そして、全速力で着替えを始めた。 ジンが着替え終えたときには、コウも着替え終えてた。 すると、どうしたものか。 2人はジンの両腕を掴み取り、出口に向かって歩き出した。 「オ、オイ。何のつもりだ」 「生贄」 「何?」 出口付近まで来たとき、ジンの目にそれは入り込んできた。 女、女、女。 出口付近に出来た、女の群れ。 よくよく見れば、いつか、あのナルシスト(ルロフェル)と一緒にいた女達だ。 他にも数人、そのときには見なかった女もいる。 そして、先ほど2人が言っていた「生贄」という意味がハッキリした。 同時に、顔面蒼白になるジン。 気付いたときには、2人の手によってジンの身体は出口へと押しやられていた。 歓喜の声と共に、囲まれるジン。 その隙を、カイとコウは見逃さなかった。 出口の壁と女の群れの間に出来た隙間へと滑り込み、脱走。 「!な!オイお前ら!俺を見捨てるな!」 振り向きざまに、カイが一言。 「御免!」 右腕をシュビッと立て、2人の生贄作戦は成功した。 2人の耳に、女達の歓喜の声に紛れてジンの悲鳴が聞こえたような気がした。  つづく  あとがき ジンに合掌(笑)。 やっぱねー、前回優勝者を倒したんだからこれくらい人気ないとね。 ジン、もうホント大変そうです。 ・・・・・・・・・合掌(笑)。