*************    リベンジャー  第65話「厄介な訪問者」 ************* 「あちゃ〜・・・・・・ぜ〜んぜん空いてないや」 昼。 メインスタジアム付近のとあるレストラン。 やはり昼時なだけあって、かなり混んでいる。 全ての席&テーブルは人で覆い尽くされている。 大賑いのレストランの入り口付近で、ティナは一人、立ち尽くしていた。 店員達もオーダーで手一杯なのか、新しい来客人のティナに見向きもしない。 実は他のレストランも行ったのだが、全て満席、仕方なく諦めてきた。 そして、このレストランもまた、満席・・・・・・・。 ・・・・・・・ん? 「あ・・・・・・」 ティナの目がある一点に釘付けになった。 レストランの一番隅にあるテーブル。 他のテーブルは3,4人の人で埋まっているが、そのテーブルだけ1人なのだ。 遠くなのでよく見えないが、金髪という特徴のみ確認できる。 そのテーブルに、ティナはつかつかと歩み寄った。 テーブルの前で足を止め、その金髪の顔を覗き込むように顔を下げた。 「あのー・・・・・・相席いいですか?」 自分と大して変わらない歳の、少年。 耳にかからないほどの、サラサラの金髪。 この辺りでは珍しい緑色の瞳。 まだまだあどけない顔つき。 そのあどけない顔だが、少し不可解な点がある。 無表情。 不気味なほどの、無表情。 その不気味な顔で、少年はゆっくりと昼食に手をつける。 紫の半そでのパーカー、黒いズボンに同色のブーツ。 少年は、ティナの質問に全く答えなかった。 あたかも、聞こえていないかのように。 「あのー・・・・・・」 恐る恐る、もう一度声をかけた。 「・・・・・・・?」 少年が初めてティナに顔を向けた。 そして・・・・・・。 「え・・・・・・・・何ですか?」 やはり、聞こえてなかったらしい。 「あ、相席いいかなー・・・・・なんて・・・・・」 やや愛想笑いを浮かべ、ティナが恐る恐る質問する。 「あ・・・・・いいですよ」 少年が作り笑いを浮かべた。 「じゃ・・・・失礼して」 ティナは少年の前に座り、メニューを眺め始めた・・・・・・。 「君も、リーグ参加者?」 運ばれてきたランチに手をつけながら、ティナは向かい合わせの少年に訊いた。 「いえ・・・・・」 少年は、ぶっきらぼうに答えた。 少年の食べるペースは・・・・・・・・・遅い。 ティナの食べるスピードを10とするなら、少年は6ほどだ。 このままいけば、確実にティナが先に完食する。 「じゃあ・・・・・・・応援?」 「いえ・・・・」 「・・・・え・・・・・じゃあ、何しに来たの?ただ単に観戦?」 「いえ・・・・」 「・・・・・私・・・・・邪魔?」 「あ・・・いえ・・・・・そんなんじゃないです。  ちょっと考え事をしてたので・・・・・・・」 「えっと・・・・・・で、結局何しに来たの?」 「・・・・・・ちょっと、知り合いに用があって、その人を捜してるんです」 「ふ〜ん・・・・・・出場者?」 「ハイ・・」 「じゃあホテルのフロントで聞けばさ、すぐに会えるんじゃない?」 「・・・・・・・・・」 少年のフォークが止まった。 「・・・・・?どうしたの?」 「外で・・・・」 「え?」 「外でしか・・・・・・会えないんです」 「?それって・・・・・・どーゆうこと?」 「それはちょっと・・・・・・話せません」 ティナのフォークが、皿をカツンと打った。 見れば、なんと皿の上にはもうランチは残っていない。 どうやら話している間に食べ終わってしまったらしい。 対して、少年はまだ残っている。 完全に追い抜いてしまった。 「ありゃりゃりゃ・・・・・・・食べ終わっちゃった」 ティナが立ち上がった。 「じゃあ私、もう行くから・・・・・」 その時だった。 「お、ティナじゃんか。相席OKか?」 ポケットに手を突っ込んだまま歩いてくる、青髪の少年。 無論、カイである。 「あ、私、もう行くからさ。この子と一緒でいい?」 「ん?ああ、別にいい・・・・・・」 テーブルの前まで来て、カイの顔が固まった。 少年の顔を見たまま、硬直している。 少年も、カイの顔を見たまま、固まった。 だがカイとは違い、すぐに顔に冷静さが戻った。 カイは、少年を穴があくほど凝視する。 「え・・・・・何?2人とも・・・・・・・知り合い?」 ティナに言われ、カイは我に帰った。 「え?あ、ああ・・・・・・まぁな」 「じゃあよかったじゃない。知り合いなら話も弾むでしょ?」 「ん・・・・・・・まぁそれなりにな」 「じゃあ私はもう行くからね」 「ああ・・・・・じゃあな」 ティナが去り、カイと少年、2人きり。 カイはランチが運ばれてくるのをコップの水を飲みながら待つ。 その目は片時も少年から離れない。 少年はカイの視線に気付いていないのか、ゆっくりしたペースでランチを口に放り込む。 コップの水が半分になったとき、カイはコップから口を離し、テーブルの上に置いた。 少し間を置いた後、ついにカイが口を開いた。 「・・・・何しに来た、ロット」 やや、怒っているようにも聞こえる。 「ルーラァズがこんなトコで何やってんだ・・・・・!」 「・・・・・・・・」 少年・・・・・・・ロットはカイと目を合わせない。 しばらくして、ロットはフォークを置いた、完食だ。 そして、相変わらず無表情で、 「任務・・・・・・と言ったら、どうしますか?」 試すような口調。 「・・・・・・内容による」 「・・・・・・・安心してください。任務ではありません。  ちょっと・・・・・・・・用事がありまして・・・・・・」 「・・・・・・・・ふ〜ん・・・・・・・・」 「ただ・・・・・・・・・」 「?」 「任務を背負ったルーラァズなら・・・・・・・ここに来ています」 「!」 カイがロットに任務の内容を聞こうとしたとき、ランチが運ばれてきた。 乗り出しかけた身を引き、テーブルにランチを並べる。 少し口に運んだ後、再びカイが口を開いた。 「・・・・・・・・で?」 「・・・・・・・・・・・すいませんが、これ以上は話せません。  一応・・・・・・・・同志の任務の内容なので・・・・・・・」 「この大会に・・・・・・・支障をきたす内容なのか?」 「あ・・・・・・・・・それは大丈夫だと思います」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・カイさん。頼まれて欲しいのですが・・・・・・」 「犯罪はお断りだ」 「逆です」 「逆?」 「今回、ルーラァズの任務に手を貸す者がいるんです。  その人物を・・・・・・止めてください」 「・・・・・・・・・・何者だ?」 「これ以上は・・・・・・・」 「ふ〜ん・・・・・まぁ気が向いたらやってやるよ」 「・・・・・・・・・どうも」 「・・・・・・・お前も一応、ルーラァズの一員だよな?」 「・・・・・・・?ハイ、そうですが・・・・・・・」 カイが目を鋭くした。 「だったら・・・・・・・・・・・俺がお前を倒そうと文句はないな?」 「・・・・・・・・・・」 カイの言葉に、ロットは口を閉ざした。 無言で立ち上がり、カイを見下ろす。 「あなたに・・・・・・・・・それが出来るんですか?」 「・・・・・・・・!」 限りなく、冷たい声。心が弱い者なら、何も声が出ないだろう。 だが、カイはそうではない。 「・・・・・・・・やるさ」 「・・・・・・カイさん」 「ん?」 「そういうセリフは・・・・・・・・・僕より強くなってからにしてください」 「・・・・・・・・!」 ロットはレジで会計を済ませ、店を出て行った。 レストランはだんだん人の影が少なくなってきていた。 カイは何も言えなかった。 勝てる自信は・・・・・・・なかった。 ただ、身体は強気だった。 理由は・・・・・・・・・・わからない。 メインスタジアム前に並ぶ、露店の群れ。 両脇に露店が建ち並ぶ道は、人で溢れかえっている。 ポケモンのお面を売る店、食べ物を売る店など、種類は様々だ。 その中を、帽子を被った少年が一人歩いている。 ニットの帽子を深く被り、顔がなるべく見えないようにしている。 少年は黒いズボンに手を突っ込んだまま、露店を横目に見ながら歩き続ける。 出場者にも見えるのだが、身体の何処にもモンスターボールは見当たらない。 少年はグイッと帽子の前を押し上げた。 帽子と顔の隙間から、銀髪がこぼれた。 ジン・グローリー、ただいま下手な変装中。 あの女どももそうだが、あの日からやたらと声をかけられる。 ナルシスト(ルロフェル)を倒した、あの日から。 キキの勧めで、取り合えずではあるが帽子を被り、目立つ銀髪を隠した。 効果は抜群だ。 ほとんど人は寄ってこない。 (・・・・・・・・落ち着かないな・・・・・・) ジンは腰のあたりを手探りで何かを探した。 モンスターボール。 彼の仲間達の待機場所であるモンスターボールが、ない。 実は健康診断のため、ポケモンセンターに預けてあるのだ。 「これ・・・・・・・・そこの若いの」 唐突に、声をかけられた。 バレたか。そう思ったが、そうではないようだ。 声は、老人のようにしわがれた声。 口調からして本当に老人のようだ。 声は左から聞こえてきた。 そこに、その老婆はいた。 露店と露店の間に赤い布で覆ったテーブルが置かれており、そのテーブルの上に小さなクッションが置かれ、さらにその上に水晶球が置かれている。 その奥にいる、奇怪な紫のローブを着た背の低い人物。 椅子に座っているようで、さらに低く見える。 ローブからはみ出たしわの多い細い両腕からして、やはり老婆だ。 顔はフードに隠れて見えない。 細い腕は水晶球の上を行ったりきたりしている。 見た感じ、一発でこの老婆が何をしているか丸わかりだ。 俗に言う、占い師というヤツだろう。 ジンは人と人の間をすり抜け、テーブルの前で脚を止めた。 「・・・・・・・俺に、何か用か?」 ジンはその怪しい占い師を見下ろしながら言った。 老婆の目は水晶球に釘付けで、こちらに目を向けようとしない。 その状態で、会話が始まった。 「・・・・・・・お前さん、少し変わった生き方をしとるのう・・・」 「・・・・・・?」 「ワシにはお前さんの未来が少しだけだが見えるのだが・・・・聞いていくかの?」 「後で金を取るなら聞かん」 「いや・・・・・・・・コレはワシが勝手に言うだけだから、金は取らん」 「・・・・・・・・・聞こう」 「・・・・・・お前さん、人には言えない秘密を持っているな?」 「・・・・・・・」 「その秘密・・・・・・・・・近々バレるの・・・・・・・」 「・・・・・・・・何?」 ジンが片眉を上げた。 「・・・・・・・お前さんには、友はいるか?」 「・・・・・・・ああ」 「バレることを恐れてはならん。  万が一バレても、お前さんの友は素直に受け入れてくれるだろう」 「・・・・・・・・・・・・・・」 その時だった。 ・・・・・・・・・・・・!!? ジンはその謎の気配を感じ取り、後ろへ振り返った。 たまたまそこにいた少年が驚きの声を上げる。 「・・・・・・・どうかしたかの?」 「・・・・・・・・婆さん」 「ん?」 「アンタが話したその未来・・・・・・・・・合ってるかもしれないな」 その言葉を残し、ジンは向かい側の露店と露店の隙間を走りぬけ、消え去った。 走り、走り、走りぬいた。 露店通りから一変、草原地帯。 セキエイ高原の北に位置する草むらに、先ほどの気配の主は立っていた。 金髪の、無表情の少年・・・・・・・・・・・。 「・・・・・・・久しぶりですね、ジン」 「・・・・・・・・・・・」 少年の言葉に、ジンは眉一つ動かさない。 「君なら僕の気配を感じ取ってくれるものだと信じていました」 「・・・・・・・・・・できれば、お前の気配など感じたくなかったがな・・・・・・・・・ロット。  ・・・・・・・・・バーサー兄妹はどうしてる?」 「・・・・・死にました」 「・・・・・・・!?何・・・・・・・!」 「あなた達が逃げた2,3日した後、彼らは逃げ出してしまった。  おそらく・・・・・・・・・・自分達も実験台にされることに恐れをなしたのでしょう」 「・・・・・・・・・・お前が・・・・・・・やったのか?」 「いえ・・・・・・・・確かの僕に抹殺命令が出ましたが、流石にやれまなかった・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・そうそう、あなたに伝えなければならないことがあります」 「・・・・・・・・何の用ですか」 「アラ、冷たいのね。久しぶりに会ったのに」 ジンとロットがいる草むらとは違う、セキエイ高原西の岩石地帯。 この岩石地帯は、セキエイ高原東南に位置するシロガネ山の最北端。 その岩石地帯に、キキは立っていた。 対峙している女を睨みつける。 赤いローブを羽織った、赤毛の女・・・・・・・・。 ルーラァズ最高三幹部、“マジシャン”レダ・バズアル。 「そうそう、本題に入る前、あなたに伝えなければならないことがあるの」 「・・・・・・・・・・・・?」 「ここからそう遠く離れた場所じゃないんだけど、セキエイ高原北の草むらに、ある2人の人物が会う手筈になってるの。わかる?」 「・・・・・・・・・!まさか・・・・!!」 「そう・・・・・・・・・私の弟のロットと、あなたの兄であるジンよ」 「それは・・・・・・・・どーゆう意味だッ!」 「・・・・・・・僕は実際のところ、任務を請け負ったわけではありません。  姉さんの・・・・・・・・手伝いをしているだけです。  そして・・・・・・・・・・・僕のすべき仕事の内容は・・・・・」 「俺を引き入れるか、殺すか・・・・・・・。  俺をお前が担当し・・・・・さっきの話が本当ならば、レダがキキを担当しているということか」 「察しがいいですね。・・・・・・・僕があなたに望むことは・・・・・・・2つ」 「2つ?」 「今後、ルーラァズとの関与を一切やめるか・・・・・・・。  または・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・?」 「死ぬか」 「・・・・・・・・・!上等だ」 ジンがロットをギロリと睨む。 「俺はどちらの要求もきけないな」 「・・・・・・・・・そうですか・・・・・・・・・。  ・・・・・・・・ん?」 ロットがついにその事態に気がついた。 ジンの腰についているはずである、モンスターボールがない。 「・・・・・・・ボールはどうしたんですか?」 「あいにく健康診断中でな。今は皆ポケモンセンターだ」 「・・・・・・ではどうやって戦う気で?」 「・・・・・・・・・」 ジンが帽子を取り去った。 さらにジャンバーを脱ぎ去り、下から灰色の半そでのTシャツが現れた。。 「俺には7匹目のポケモンがいる」 「・・・・・・・・・!まさか・・・・。  “能力”・・・・・・・・・・・“偽獣”(ぎじゅう)を・・・・・・・・・・!!?」 ロットが目を丸くする。 “能力”・・・・・・・・・“偽獣”こそ、ジンとキキに植え付けられた力の正体なのだ。 「俺は組織から逃げ出しだした4年間・・・・・・・・遊んでいたわけではない。  “偽獣”の力を鍛え上げ、研ぎ澄ませてきた・・・・・!  お前達ルーラァズを潰すために!!」 ジンが腰をおろした。 拳を握り締め、目を閉じた。 そして・・・・・・・・。 「ハァァァァァァァァァァァァ!!!」 ジンがかすれた声を出しながら、全身に力を込める。 その行為を見た瞬間、ロットの背筋が凍りついた。 もし、本当に“偽獣”の力を鍛え上げてきたのなら、自分の手では負えない力を身に付けている場合がある。 ロットの手が素早く反応した。 腰のボールはひったくるように手にとり、サイドスローで投げた。 勢いよく放たれたボールから現れたのは、ニドキング。 「ラダン!」 ラダンはニドキングとは思えないほどのスピードでにジンに迫る。 右腕を振り上げた。 その腕でジンを殴り倒すつもりだろう。 スピードに乗った豪腕が、ジンに向けて振り下ろされた・・・・・。 突如、ジンの身体から光が発せられた。 そのあまりの神々しい光にに、ラダンが1歩退いた。 「ラダン!恐れるな!一気に討て!) ロットがあせりながらラダンに喝を入れる。 ラダンは退いた身体を無理やり前へ押し出し、ジンに向かって右腕を振り下ろした。 が。 ジンの身体から発せられた光にラダンの腕が侵入した瞬間、ラダンの豪腕の動きが止まった。 ロットの顔が顔面蒼白になった。 既に、“偽獣”は完了しているらしい。 光がだんだん晴れてきた。 ラダンの右腕を止めた、謎の防御の正体が着々と見えてきた。 黒い、腕。 人間の腕の形をした黒い腕。 きめ細かな黒い毛が生えた、人間型の左腕。 その黒い腕の手の甲が、ラダンの攻撃を受け止めていた。 光が、消え去った。 「・・・・・・・!?」 「あ・・・・・・・あれが・・・・・・・・・・・・ジン!!?」 光の中心部にいたのは、人間ではなかった。 黒い両腕、そして、黒い顔。 身体は人間型なのだが、顔は人間ではなかった。 突き出た鼻、牙がそろった口、頭から生えた、曲がりくねった2本のツノ・・・・・・・・・。 そして、殺気だった黒い瞳。 牙がそろった口から、グルグルと野生のうなり声が聞こえてきた。 その姿は、まさしく・・・・・・・・・・・。 ダークポケモン・ヘルガー。 2本足で立ち、人間の服を着、人間型の腕と拳を持ったその謎の生命体は、ギロリとラダンを睨みつける。 凶悪な口が、口をきいた。 「俺は・・・・・・・・何も恐れはしない!」 ジンよりも若干低めの声を発した直後、ラダンは己の顎に違和感を発した。 気がつけば、謎の生命体の右手が放った掌底が、ラダンの顎に炸裂していた・・・・・・。 ジン・グローリー。14歳。 この日、彼は自分は人間ではないと確信した。  つづく  あとがき おおー!ついに“能力”が明らかになりましたァ! 次回は“偽獣”したジンが暴れまくります!