『・・・・・・・?』 『?どうしたの?リーダー』 セキエイ高原ポケモンセンター。 そこのロビーに、既に健康診断を終えた2匹の黒いポケモン。 ヘルガーのジールと、ニューラのジーニ。 先ほどから顔を上げ、天井ばかり見つめているジールのただならぬ様子に、ジーニは疑問を抱いていた。 『・・・・・・・何だ・・・・?この感覚は・・・・・・』 『・・・・・?リーダー?」 『・・・・ん?あ、いや・・・・・なんでもない』 『リーダー・・・・・なんか、さっきから変だよ?どうかした?』 『いや・・・・・・・・なんでもない・・・・・・』 この感覚・・・・・・・まさか・・・・な・・・・・・・。 *********  リベンジャー  第66話「偽獣」 ********* 草むらに、紫色の巨体が倒れこんだ。 ニドキングのラダン。 ラダンは何とか身体を起こそうとするが、頭がグラッとして、身体が言うことをきかない。 彼をこの奇妙な感覚に陥れた、謎の未確認生命体。 二足歩行をする、奇怪なヘルガー。 その右腕から放たれた掌底は、ラダンを一撃で打ち倒した。 再び身体を起こそうとチャレンジするラダンを、未確認生命体はギロリと睨む。 「やめておけ・・・・・掌底の衝撃で脳が揺さぶられ、身動きできないはずだ。  何度試しても無駄だ」 「・・・・・・・!戻れ、ラダン」 ラダンのトレーナー、ロットは仕方なくラダンをボールに戻す。 ロットはショックだった。 ラダンは自分の持つポケモンたちの中でも、身体能力がかなりバランス派で、まさか一撃で倒されるとは思ってもいなかった。 「ロットよ」 未確認生命体が、低く、それでいて渋い声を発した。 「な、なんですか?」 と、ロット。 「俺とお前は・・・・・・なんだ?」 「え?」 「俺にとってお前はいったい何者で、お前にとって俺はいったい何者だ?」 「友達・・・・・・と言いたいところですが・・・・」 「・・・・・・・?」 「憶えていますか?僕達が出会い、そして“友達”になったときのことを」 「ああ・・・・・・憶えてる」 「そして、友達になってたった3ヶ月でめったに会えなくなってしまったこと・・・・・」 「鮮明に憶えている。  俺とお前、そしてキキとイリス、ブラッドとジールとともにロケット団ビルを駆け回って遊んだあの日を境に・・・・・。  お前は全く俺に会いに来なくなった」 「・・・・父さんに、止められてたんですよ」 「何?」 「あの兄妹に関わるな。何かあればそれはお前の責任となり、私に伝わってくる・・・・・。  そう言われました」 「随分と人付き合いが悪い親だな」 「あなたが元首領、サカキの息子だったからでしょう。  もしあなたが怪我でもすれば、父さんは幹部の名を奪われてしまいますからね」 「・・・・・・・そうか・・・・・・」 「・・・・・お喋りが過ぎましたね」 「ああ・・・・・悪かったな。ちょっと、気にかかっていたモンでな」 未確認生命体・・・・・・偽獣したジンが構えると同時に、ロットは新たなボールを投げた。 ボールから現れたのは、カポエラーのアーリィ。 アーリィは頭の突起物を地につき、身体を激しく回転させてジンに迫る。 ジンは慌てずにアーリィの動きを監察する。 両手を地に付き、ヘルガーと同じ体制となる。 「“獣闘”!」 アーリィのトリプルキックをヒットする瞬間、一瞬で、その場からジンの姿が消え去った。 ヘルガーの、獣のごとき速さ。 アーリィがジンの姿がたいして遠くない場所に出現したことにすぐに気がつき、軌道を変えて襲い掛かる。 ジンは両手を地についた、獣の構え“獣闘”の状態で、アーリィを迎え撃つ。 アーリィとジンの距離が、10m、9m、8m・・・と、短くなっていく。 距離が残り1mを切ったとき、ジンが動いた。 両手・・・・・前足と後ろ足を大きく開き、身体を出来るだけ低くする。 その高さは、アーリィの脚よりも低い。 ジンはアーリィの蹴りの下にもぐりこむと、前足と化した右腕でアーリィを支える突起物を払った。 己の身体を支えるものが無くなり、無防備な状態となるアーリィ。 すぐにジンは“獣闘”の構えを解き、元の人の形となる。 「“人闘”!そして・・・・・・・」 ジンの左手に、いつかの黒い炎が灯った。 「“黒炎拳”!」 “黒炎拳”こと、黒い炎のパンチをモロに食らったアーリィは呆気なく吹っ飛び、地面を数回転がりダウンした。 「ク・・・・・!戻れ!アーリィ!」 強い・・・・・・! ・・・・・どうする・・・・・・!? 脳内で行われた作戦会議を無視して、身体がボールを投げていた。 そのボールは、彼が初めて触ったモンスターボールだった。 ボールは弧を描き、地について光とともにポケモンが出現した。 中から現れたのは、ロットのパートナーポケモン・・・・・・。 バンギラス。名を、ブラッド。 ブラッドは目の前の敵を凝視した後、ロットに振り向く。 「・・オイ・・・・・いいのか?」 ロットは脳の決断よりも、戦い慣れた身体の意思を優先させた。 「いいんだ・・・・・・」 「でもよ・・・・・・ホントにいいのか?  だってお前らは昔っからの・・・・・」 「わかってるよ!そんなこと!」 ロットが柄にもなく、声を張り上げた。 思わず目が点になるジンとブラッド。 「でも・・・・・」 ロットの目の端から、 「こうするしか・・・・・・ないんだ・・・・・・!」 一滴の涙がこぼれた。 「ジン・・・・・・後悔すんじゃねぇぞ!ホットサンドブレス!!」 ブラッドが口から高熱を含んだ砂、ホットサンドブレスを吐き出した。 「“獣闘”!!」 ジンは両手を地について四足となり、空高くジャンプした。 偽獣能力の心得 その一       獣の力は人知を超えた力と知れ 「ブラッド!破壊光線!」 「オオッ!くらえ!」 空高くへ避難したジンへ、少し黒ずんだ黄色い光線、破壊光線が打ち出された。 ジンは身体をそらし、破壊光線を回避すると、 「“人闘”!!」 人の構えに戻り、急降下して地面に着地、そして、 「“黒炎拳”!!」 瞬時にブラッドの間合いに入り込み、どてっぱらに黒い炎のパンチを打ち込んだ。 偽獣能力の心得 そのニ       獣の力と人の力の融合は強大と知れ 「グ・・・・・!?」 息と声が同時に口から吐き出されるブラッド。 ジンはさらにパンチを打ち込もうとするが、自分が何かの影に入っていることに気付き、後ろに飛んだ。 案の定、そこにブラッドの右腕は振り下ろされた。 ジンは両足と片腕をすべらせながら着地し、止まる。 ジンに休息の瞬間は無い。 既にブラッドは次なる攻撃のために凶悪な口を開いていた。 「ブラッド!ダークソウルブレス!」 ロットの指示により、ブラッドは口から奇妙な黒い息を吐き出した。 見れば、その黒い息は無数の髑髏の形をしており、異常なほど不気味である。 だが、ジンはその不気味な髑髏たちを目の前にして、怯まない。 過去に、その技を自分のポケモンの技の開発に参考にしたことがある。 その結果、出来上がったのが、ジールの黒い息吹。 今では、欠かすことが出来ない技だ。 ジンが、口を開いた。 偽獣能力の心得 その三       獣の技は己の技と知れ 「火炎放射!」 ジンが口から、火炎放射を吐き出した。 火炎放射とダークソウルブレスがぶつかり合う。 ロットとブラッドはダークソウルブレスには自信があった。 だが、その自信は一瞬で打ち砕かれた。 火炎放射が、ダークソウルブレスを貫いたのだ。 瞬時に吐き出したホットサンドブレスで、近寄ってきていた火炎放射を無理やり地にねじ伏せる。 ねじ伏せられた火炎放射が、草むらを燃やし、灰にする。 火炎放射、ダークソウルブレス、ホットサンドブレスを消え去り、ロットとブラッドが見たものは・・・・・・・。 「!?」 「!チィ!野郎、何処行きやがった!?」 ジンの姿が、消えていた。 おそらく先ほどの技のやり取りの隙を突いて姿をくらましたのだろう。 だが、今のブラッドには関係ない。 「ヌン!」 ブラッドが、草むらを殴りつけた。 すると、ブラッドを中心に辺り一面岩が突き出たのだ。 続々と突き出てくる、天辺が尖った岩。 数秒で、草むらは岩石地帯へと姿を変えた。 半径、約10mほどの岩石地帯。 岩の高さ、約2m。 「へへ・・・・・・・この岩の群集でテメェが俺を攻撃できる角度と言えば・・・・」 ブラッドは空を見上げた。 「上しかねぇからなァ・・・・・・・へへ・・・・・・・」 ブラッドが微笑する。 ロットも、このフィールドなら攻撃される可能性が無いと踏んでか微笑する。 この岩の群集を突き破ることは難しい。 破壊光線などの強力な技を使えるポケモンなら話は別だが。 生半可な技では、この岩の群集を突き破ることは出来ない。 が、そんなロットとブラッドの常識は打ち砕かれた。 突如、ブラッドの中心に半径2,3mほどの岩の群集が、吹き飛んだのだ。 まるで、粉々に砕かれたように。 次にブラッドの目に飛び込んできたのは、ジンの顔。 視界いっぱいに、ヘルガーと瓜二つの顔。 その顔は瞬時に消え去り、次に右腕に違和感を感じた。 見れば、ブラッドの右腕にジンが牙を立てて噛み付いていた。 「何・・・・・・・・・!?」 「“獣の唸り”」 ジンが、その屈強な顎を使ってブラッドの身体を持ち上げた。 「な・・・・・・・・!?」 ジンは力任せに、ブラッドの身体を振り回した。 ブラッドの身体は弧を描き、地面に叩きつけられる。 叩きつけられたブラッドの身体を顎の力だけで再び持ち上げたジンは、さらに振り回してブラッドを地面に叩きつける。 野性の本能に任せたような技に呆然としていたロットだが、はっと我に帰って叫んだ。 「!ブラッド!何とかした牙から抜け出すんだ!」 「う・・・・・・・んなこと言ったって・・・・・・・」 ジンは通算三度目の叩きつけ行為を行なった。 ジンはちょっとぐったりしたブラッドの身体を、今度は真横にブン投げた。 もちろん、顎のみの力で。 岩の群衆に突っ込み、派手に破壊しながら吹っ飛んでいくブラッド。 地面に身体がつく前に、ジンの身体がブラッドの真上に飛来した。 そして・・・・・・・・・。 ジンがブラッドの身体に直接踏みつけるようにのしかかり、地面に叩きつけるように落とした。 「・・・・・・・・・エースのブラッドをやられた今、お前に何が残っている?」 偽獣したジンが、岩の群集越しにロットを睨んだ。 「・・・・・・・・・その格闘術は、いったい何処で?」 「別に・・・・・・・型も全部我流だ」 「その割には・・・・・・・・戦い慣れていたように見えます」 「俺のポケモンの中に格闘ポケモンがいるんでな。  そいつとよく手合わせしてたおかげで、人間、または接近戦を得意とするポケモン相手なら自信がある」 ロットの腰には、戦闘不能となった3匹と、まだ戦闘可能の3匹。 だが、この残りの3匹で、超人的な力を身に付けたジンに勝てるとは思えない。 だとしたら、残された方法はただ一つ・・・・・・・・・。 「・・・・・・・・!!?」 岩の群集の間から見えていたロットの姿が、消えうせた。 眼力、そして犬並の嗅覚を総動員して、ロットの居場所を探し出した。 「な・・・・・・!?」 ジンの眼と鼻がロットを捕らえた場所、それは岩の群集の真上。 ロットは脚力だけで、岩の群集を跳び超えようとしているようだ。 高さ2mの岩を、少し余裕をもって飛び越えるロットの姿に、ジンはしばし呆然となった。 ロットは飛び越え終わり、火炎放射で草むらが焼け、土をさらし出して草むらの面影も無い地面に着地すると、瞬時にジンの間合いに入った。 ロットはジンに対して身体を横にすると、両手を地に付き、足を思いっきり広げた。 なんとゆう柔らかさか。 ジンに向けて突き出された右足。 右足の爪先が、ジンの顔面に迫る。 まるで槍の様な鋭い攻撃。 ジンはその槍を体を後ろにそらせてかわす。 そのまま後ろに5,6歩飛んで、ロットとの距離をとる。 それを追い込むように、ロットが走り出した。 再び両手をつくが、今度は真横ではなく正面を向いて手をついた。 両足を振り上げ、そして振り下ろす。 先ほどの槍の様な攻撃から一変、今度は斧の様な攻撃だ。 「ク・・・・・・!」 斧を横っ飛びでかわすが、勢いがつきすぎて地面に転がるジン。 既に体制を立て直したロットが、走り出した。 走りながら何処からか黒いグローブを取り出し、右腕に装着する。 まだ両膝をついたままジンに、ロットは一気に間合いを詰めた。 ジンの防御は、間に合わない。 鈍い音がした後、腹に激痛が走った。 見れば、腰を低くしたロットが、気合一閃、掌底を叩き込んでいた。 内臓が、踊ったような気がした。  つづく  あとがき うわっ!途中から人間同士のバトルになってました。さりげなく(オイ)。 わかりにくいところがちらほらしてましたが、まぁご理解を・・・・・(無理)。 ジンも強いけど、ロットも強いです。彼ら自身が特に。 次回で決着します。まぁ決着ってカンジではありませんが・・・・・・。