**********  リベンジャー  第67話「仲間達」 ********** 『たく!暇で暇で仕方ねぇよ!暇すぎておかしくなっちまいそうだぜ!』 ポケモンリーグ出場者用のホテルの前。 大きく開けた広場になっており、中央に噴水がある。 その広場の片隅に、3匹のポケモンがいた。 カイのブラッキー、リング。 ティナのエーフィ、フィル。 キキのサンダース、スパイア。 リングは最近の不満をぶちまけていた。 『いいよなー、フィルは。もう何回もバトルしてんだろ?』 『うん・・・・・・まぁそれなりに』 『俺まだ一回もバトルしてないんだぜ?カイの野郎、ライラばっか戦わせやがって・・・・・・』 『でもさ、本選が終わって決勝トーナメントが始まったら出させてくれるんでしょ?』 『まぁそりゃそうだけどさ・・・・・・。  おっし決めた!決勝トーナメントは無傷で勝ち抜く!』 『で、できんの?』 『気合でやる』 『はぁ・・・・・・』 『・・・・・・・ところでよ』 リングがさっきから広場を行き交う人の流れを見つめ、こちらの話に加わる気配が無いスパイアに顔を向けた。 『おいスパイア!お前何か言ったらどうなんだよ!  明らかに話の輪から外れてんじゃねぇか!』 リングが怒鳴り声に、スパイアは顔も向けずに黙っている。 『スパイア!』 やっと、スパイアが顔を向けた。 『・・・・・・五月蝿い』 とだけ言った。 『こ・・・・・・!このヤロ〜!ケンカ売ってんのか!?』 『・・・・・・やるか?月光ポケモン』 『!ヘヘ・・・・・・・・後悔すんなよ!雷ポケモン!』 リングは先に広場に飛び出した。 その後を追うようにゆっくりとスパイアが広場に歩いてくる。 一瞬で、憩いの場とも言える広場がバトルフィールドと化した。 広場にいた人たちがなんだなんだと集まってくる。 『な・・・・・・・2人とも!何でこんな展開になってるわけ!?』 睨み合う2匹。 少し間が空いた後・・・・・・・・。 どよめきが起きた。 集まってきていた人たちが、リングとスパイアから目をそらしだした。 リング、スパイア、フィルが何事かと彼らの目線を追った。 広場を出ると、左へ道が続いている。 道を辿るとメインスタジアムがあり、その前に道には露店が並んでいる。 人だかりは次第に道とは反対側のある林のほうへずれていった。 何か珍しいものでもあるのだろうか? 人の群れをかいくぐり、リングたちは顔を道に出す。 『・・・・!?イリス!?』 林から出てきたそのポケモンを見たスパイアが驚いた。 よろよろ歩く、狐ポケモン・キュウコン。 体中傷だらけで、その足取りはおぼつかない。 キュウコンが倒れこんだ。 同時にスパイアが飛び出し、キュウコンに声をかける。 『オイどうした!何があった!』 『・・・・・キ・・・・・・・キキが・・・・・・』 『キキ!?キキがどうした!』 『キキが・・・・・・・・殺される・・・・・・・ジン兄も・・・・・・!』 『・・・・・・!キキは今、何処にいる!』 『ダメ・・・・・・・・行っても・・・・・・勝てない・・・・・』 『じゃあどうすればいい!』 『カイさん・・・・・・・を・・・呼び・・・・・ゲホッ!』 『!わかった!もう喋るな!  オイ!月光ポケモン!』 『名前で呼べや!雷ポケモン!』 『お前でだって同じだろう!  カイは何号室だ!』 『・・・・・・711号室だけど・・・・・。  ・・・・・・て俺が行きゃあいいじゃねぇか!  ・・・・てアレ!?アイツ何処行った!?』 『もう行っちゃったよ・・・・・・。  イリスをよろしくだって』 『何ィ!?』 自動ドアをぬけ、ロビーを横切り階段を目指すスパイア。 エレベーターという手もあったが、彼の素早さよりは劣る。 一気に7階まで駆け上がり、見つけた。 711号室。 そのドアを、タックル風にノックする。 ドア、ゆっくりと開いた。 中から現れた、青髪の少年、カイ。 カイは一瞬、目の前の見慣れないサンダースに首を傾げたが、すぐに手をポンと叩き、 「・・・・・・お前、もしかしてスパイアか?」 スパイアはコクリと頷いた。 スパイアは迷った。この緊急事態をどうやってカイに伝えるか。 ジンやキキはポケモンの言葉を理解しているため、ほとんど会話には困らない。 その要領でカイに伝えようとしていたが、よく考えたら2人は特別なのだ。 よって、今、カイにスパイアの言葉は伝わらない。 スパイアが何か困っているように見えたカイは、また手をポンと叩く。 おもむろに部屋を出て、すぐ隣の部屋の前に立ち、ノックした。 「ユウラ、俺だ。クロはいるか?」 部屋から出てきたユウラは、 「うん、まぁ一応いるけど・・・・・」 「呼んでくれ、通訳が要るんだ」 「えっと・・・・・・」 ユウラはちょっと困ったような顔をして、 「ここに・・・・・・」 ユウラが指を差す先に、1つのドアがある。 「さっきここに入ったのを見たんだけど、出てこないんだよね。  ティナも見たでしょ?」 ユウラに質問され、部屋の奥から出てきたティナは、 「うん、まぁ・・・・・・チラッとだけど・・・・・」 「・・・・・・ここって確か、風呂じゃなかったっけ・・・・・?」 クロはどう考えてもポケモンである。 人語を喋る時点で普通のヤミカラスではないと思っていたが、まさかここまで人間臭いとは思ってもいなかった。 カイが恐る恐るドアを開けてみる。 ドアの向こうに広がっていた光景とは・・・・・・・。 案の定、そこにはクロがいた。 椅子に座って、体中泡だらけ、羽を手のように使いこなしてタオルを持っている。 鼻歌まで歌い、かなりご機嫌に見える。 クロはこちらを見て、 「あ」 とだけ呟き、そして・・・・・。 「見ちゃイヤン♪」 バキッ!ドゴッ!ベチャ カイの容赦ない蹴りが炸裂。 壁にぶち当たり、湯でぬれた床に落下した。 クロは痙攣し、さらに口の端から血を流しながら、笑顔で、 「フ・・・・フフ・・・・・・・風呂のドアを開けていきなり蹴りを入れるたァ流石はカイ・・・・・・・・」 クロはまたも羽を手のように扱い、ビッと羽を人間の親指のように立て、 「・・・・・フフフ・・・・・・君の蹴りに乾杯・・・・・・」 とだけ言い残し、力尽きた。 カイ、ユウラ、ティナが同時に、心の中で呟いた。 (ついに壊れた・・・・・・?) 「おいクロ!とっとと起きろ!」 「う・・・・・・・う・・・・・・・・」 クロを助け起こし、身体を揺さぶりながら声をかけるカイ。 クロはうっすらと目を開ける。 そして、くちばしを尖らせ、なぜかキスをおねだりしてきた。 ドゴ 今度は踏み潰した。 「う・・・・・うう・・・・・・冗談に決まってんじゃねーか・・・・・。  そんな本気で踏みつけなくても・・・・・・・」 「テメェのボケにゃあもう飽き飽きしてきたっつーの!  ・・・・・・・お」 奇怪なコントが目の前で繰り広げられ、部屋に入りずらそうにしていたスパイアが、意を決して入ってきた。 自分が急いでいたことを思い出したスパイアは、早口でクロに事態の状況を伝える。 「な、何ィ!?」 「え・・・・・クロ!どうしたの!?」 「お隣の奥さんが妊し・・・・・・」 3人と1匹の後ろに怒りのオーラが浮かび上がった。 「・・・・・・・キキとジンがピンチだそうだ・・・・・」 「!?テメェそんな緊急事態にふざけてんじゃねぇ!」 クロを再び踏み潰したカイは急いで自分の部屋に戻り、ベットで熟睡中のコウに走り寄った。 「おいコウ!昼寝してる場合じゃねぇぞ!起きろ!」 コウ、よだれを垂らしながら爆睡中。 「だぁもう!仕方ねぇ!」 カイのかかと落しがコウの頬に炸裂。 が、やはり起きない。 「あーもう!どうすりゃいいんだ!」 カイは深く考えた後、ついにあの方法をとることにした。 「すまないコウ・・・・・・・親友であるお前にこんなことをするのは少し抵抗があるんだが・・・・・」 カイは寝ているコウに深刻そうに頭を下げると、 「こうするしかないんだ!許せ!コウ!」 カイは再び脚を振り上げ、 ドゴ 炸裂した。 頬ではなく、股間に。 「―――――――!!?」 声にならない悲鳴を上げながら、コウ、起床。 「おっしゃ!コウ、緊急事態だ!ついて来い!」 そう言い残し、カイは部屋を飛び出した。 だが。 「く・・・・・・お・・・・・・ひ、人の股間にかかと落しくらわせといて、ついて来いって・・・・・・。  そりゃお前・・・・無理があんだろ・・・・・・」 股間をおさえながらも、コウは何とか部屋を出て行った。 ホテルを出た一行は、道の端で倒れているイリスを発見した。 その傍らにはフィル。 サイコキネシスでイリスを運んできたのだろう。 「・・・・・・・もしかして、イリスか?」 カイの質問に、スパイアはコクリと頷く。 「こりゃあ・・・・・事態はかなり深刻だな。イリス、大丈夫か?」 イリスはポケモン語で何か喋り出した。 それをクロが通訳する。 「セキエイ高原西で、キキがルーラァズの連中とやりあってるらしい!  しかもそのルーラァズってのが、最高三幹部なんだってよ!」 「最高三幹部・・・・・・!」 昼頃レストランで遭ったロットの言葉がカイの頭に浮かんだ。 「任務を背負ったルーラァズなら・・・・・・・ここに来ています」 「・・・・・・とりあえず、イリスをポケモンセンターに・・・・・・!」 カイの提案により、イリスをポケモンセンターに連れて行くことにした。 イリスを背負ったカイを、コウ、ユウラ、スパイア、クロ、フィルをボールに戻したティナが追いかける。 ポケモンセンターの前まで来たとき、ポケモンセンターの自動ドアが開いた。 中から1匹の黒いポケモンが飛び出してきた。 「!あれは・・・・・・」 カイはその黒いポケモンに見覚えがあった。 黒いポケモンは焦り顔で辺りを見渡している。 『クソ・・・・・・!俺の感覚が鈍っていなければ、ジンは・・・・・!』 黒いポケモン、ヘルガーは走り出した。 ポケモンセンターの脇を通ろうとするが、その眼がカイたちの方を見て、止まった。 「お前・・・・・・・たしかジンと一緒にいた・・・・」 『・・・・・・!ジンが言っていた、カイとかいうヤツか・・・・・?』 ヘルガーの眼が、カイの背負っている黄色い物体を見た瞬間、凍りついた。 『イリス・・・・・・・・・!?ク・・・・・・かなりまずいことになっているな・・・・・!  オイ!そこのカイとかいうヤツ!』 「カイ、あのヘルガーが呼んでるぞ?知り合いか?」 クロがヘルガーを羽で指差しながら言った。 「ああ・・・・・・・多分顔見知りだ」 ヘルガーはポケモン語でカイに向かって口を動かす。 それをクロが直訳する。 「事態は深刻だ。俺についてきて欲しい・・・・・だそうだ」 「・・・・・・・・・!」 カイは少し考え込んだ後、 「ティナはイリスをポケモンセンターへ連れて行ってくれ。  コウとユウラはキキの方へ。  俺はヘルガーについて行く!」 セキエイ高原西の岩石地帯。 その岩石地帯で、戦いはクライマックスを迎えようとしていた。 奇怪な音が、バトルフィールドを包んでいた。 チリンチリン ガリガリガリガリ クワワァ〜ン 催眠ポケモン・スリーパーが手に持った振り子をゆっくりとふる。 振り子の動きはスリーパーの念と共鳴し、チリンチリンとやたらと響く音と共に催眠術をかけてくる。 シャムネコポケモン・ペルシアンが辺りの岩を爪で引っかく。 ギギギと嫌な音が、鼓膜を揺らしてくる。 磁石ポケモン・レアコイルが体中から出す頭を揺らす音。 音は超音波となって脳を苦しめる。 彼らが発するどれも神経をくすぐる音。 キキは膝をつき、頭を抱えて震えている。 その隣でも、彼女のドードリオのイーグスがその場に崩れ落ちている。 催眠術、嫌な音、超音波。 眠気を誘い、鼓膜を揺らし、頭を苦しめる嫌な技の取り合わせ。 コレは全て、スリーパーたちのトレーナーであるレダが独自に編み出した連携技である。 「さぁどうするの?このままじゃ、“精神崩壊”に飲み込まれちゃうわよ?」 レダが不敵に笑った。 「でも・・・・・・偽獣すれば、少しは楽になるんじゃない?」 「う・・・・・・うう・・・・・・・・・」 キキは頭を抱えたままうめいた。 どうやらレダは、こうやってすぐにはケリをつけないで偽獣の力を使わせようとしているらしい。 偽獣の力をルーラァズの戦力として使うつもりなのだ。 レダの考えとしては、キキの偽獣を一目見てから捕らえるつもりらしい。 レダが勝利を確信していた、その時だった。 「変な音出しまくってんじゃねぇよこのクソネコがァ!!」 突如として現れたその黒い塊は、ペルシアンに勢いよく突進した。 突進の衝撃で思いっきり吹っ飛んだペルシアンの身体が、激しく岩に叩きつけられ、気絶した。 その頬には、鳥の足跡がくっきりと残っている。 次に、スリーパーに大量の蔓が撒きついた。 蔓はスリーパーの身体を完全に行動不能にし、倒れさせた。 突然の攻撃の魔の手はレアコイルにも襲い掛かった。 レアコイルの身体が、一瞬で炎に包まれたのである。 炎が消え去り、丸焦げになったレアコイルの身体がごろんと転がった。 一瞬でポケモン3匹をやられ、呆然と立ち尽くすレダ。 攻撃主の正体、それはヤミカラスとメガニウムとウインディだった。 気がつけば、いつの間にか1人の金髪の少女がキキを介抱していた。 攻撃した3匹は2人を護るように取り囲んでいる。 少女はキキを助け起こし、しきりに声をかけている。 「キキ!キキ!大丈夫!?」 半分失神し欠けていたキキは声を絞り出し、 「あ・・・・・ユウラさん・・・・・・?」 「人語を喋るヤミカラス・・・・・・?そうか、あなたがユウラ・シアードね?」 「!あなたは・・・・・・・・・?」 「私はルーラァズ最高三幹部、“マジシャン”レダ・バズアル。  あなたがあの、ジュエルタウンただ1人の生き残りね?  あなたまさか、1人で私に勝つ気?」 「・・・・・・・あのさ、あたし達、あなたと話をしに来たわけじゃないの。  キキを助けるためにここまで来たの」 「ふ〜ん、そう・・・・・・」 あたし達? 達? レダが急いで辺りを見渡した。 その時だった。 自分の目の前を、何かが通り過ぎたのは。 レダの鼻先をかすり、回転しながら通り過ぎていった、その物体。 鎧ポケモン・ドンファン。 ドンファンはレダの前を通り過ぎ、少し距離をとって止まった。 そこにまるで打ち合わせでもしてあったかのように立っている、オレンジ色のバンダナを頭に巻いた、1人の少年・・・・・・。 コウが腕組して立っていた。 「1人じゃ勝てねぇかもしれねぇけど、2人ならどーなんだ?ん?」  つづく