血が、緑の草を赤く染める。 1時間もしない間に5回は吐血した。 彼の牙は赤い鮮血で染まっている。 己の血で。 彼はくらくらする頭、そして踊り狂う内臓をにムチを打ち、敵を睨みつける。 片膝を地から離そうと試みるが、がくがく震えて立てそうにない。 確実に、劣勢だ。 ***********  リベンジャー  第68話「夢と野望」 *********** 偽獣したままジンは己の腹に手をあてる。 もうかれこれ3発は掌底を叩き込まれ、その度に内臓が踊った。 片膝をついたジンの前方約10m地点に、ロットは平然と立っている。 黒いグローブを装着した右手の指をコキコキと鳴らして、余裕を見せつけている。 「僕は・・・・・・・ヘヴンを殺さなきゃいけない」 「!?」 突然のロットの告白。 ジンは己の耳を疑った。 「ヘヴンを・・・・・・殺す・・・・・!?どうゆうことだ!」 「今から死を迎えるあなたに・・・・・・・・教えても意味はありません。  そろそろ・・・・・・・・死んでもらいます!」 ロットは右腕を後ろに振りかぶり、走り出した。 ジンは何とか避けようと身体を動かすが、やはりダメージがでかい。 ロットは既にジンの間合いに入っていた・・・・・・・・。 「!」 「!?」 ロットとジンの間に入り込んだ、翼を持ったオレンジ色のポケモン。 「リ・・・・リザードン・・・・・・!?」 何処からか現れたそのリザードンは、ロットの掌底を己の左手で受け止めていたのだ。 ロットの掌底と組み合ったリザードンの左手に力が込められ、ロットの右手がきしみ出した。 「!グ・・・・・・!」 リザードンの静かな攻撃にロットは顔をしかめ、無理やりリザードンの手を振り切って後ろに跳んだ。 草の上を少し滑って止まる。 さらに刺客が現れた。 リザードンの前に現れたのは、怒りのために鬼のような形相をした、漆黒の体を持つポケモン、ヘルガー。 ヘルガーは口の隙間から炎を漏らし、闘志満々でロットを睨む。 「ジ、ジール・・・・・・・!?」 ジンとロットのセリフが重なった。 「さてと・・・・・・ツッコミ所満載な状況だな」 さりげなく現れたのは、青髪の少年、カイだった。 カイは偽獣しているジンの横に立ち、ジンをまじまじと見つめる。 「え〜と・・・・・・あのヘルガーが連れてきたこの場所にいるルーラァズ以外の人間はっと・・・・・・・」 カイはジンから目をそらし、辺りを見渡す。 辺りにロット以外にこの謎の未確認生命体以外何もいないことを確認すると、 「やっぱお前・・・・・・ジンか?」 と言った。 「・・・・・状況の理解が早いな、カイ」 未確認生命体、ジンのやや低めな声で、カイは確信した。 「まぁその姿に関して今はとやかく言う気はねぇよ。  辛そうだな、大丈夫か?」 「あ、ああ・・・・・・まぁとりあえず死にはしない」 ジンは腹を摩りながら言う。 だが、時折顔をしかませるところを見ると、死にはしなくてもかなりキツイ状態らしい。 「ま、とりあえず休んでろよ。  ヘルガー・・・・・・ジールつったっけか?お前、ジンについててやんな」 カイに言われ、ジールはロットを睨むのをやめて苦しそうなジンに駆け寄る。 『ジン、大丈夫か?』 「ああ・・・・・お前が、呼んでくれたのか?」 『お前が偽獣した時と同じ感覚になってな。  鼻で探し当てた。偽獣を解け。少しは楽になる』 「わかった・・・・・・・」 ジンは身体から光を発し、元の人間の身体に戻ると、気になっていたことをジールに質問した。 「キキは・・・・・・・」 『カイの仲間が助けに行っている。  今は自分の身を心配しろ』 「そうだ・・・・・・な・・・・・・」 一方、こちらはカイとそのリザードン、カゲロウ。 カイはロットを見つめる、いや、睨む。 ロットはいつもの無表情でカイを見つめる。 カゲロウは口からグルグルと息を漏らし、ロットを睨む。 「さてと・・・・・・いろいろ訊きてぇことがあんだ。  ロット、お前、ここで何やってた?」 「・・・・・・・・僕は・・・・・」 「任務の協力者ってのは、お前のことだったようだな。  わからねぇな、あの時、お前は俺に協力者を倒すように頼まなかったか?」 「・・・・・・・」 ロットはしばし、口を閉ざした。 少し考えているようにも見える。 「あなたは・・・・・・やはり僕との約束を守ってくれた・・・・・」 「は?」 「止めたじゃないですか、協力者である・・・・・・・僕を・・!」 「・・・・意味がよくわからねぇな・・・・・・・・」 ジンが立ち上がり、腹を手で抑えながらカイの横に立った。 「俺にも・・・・・わからないことがある・・・・・」 「おいジン、動かねぇほうがいいぞ。  重症なんだろ?」 「いや、どうしても訊きたいことがあるんだ・・・・・。  ロット。お前、カイに自分を止めるように頼んだらしいな・・・・・・。  何故だ・・何故そんなことをする必要がある・・・・・!」 ロットはうつむいたまま、何も喋らない。 また少し考えた後、 「僕は何処かで・・・・・・・止めて欲しいと願っていたのかもしれない」 と呟いた。まるで独り言のようにも聞こえる。 「?」 「一度は友達になったジンを・・・・・・・殺したくない・・・・・そう考えていたかもしれません」 「・・・・・・・!」 ジンは直感でロットのその言葉に偽りが無いことを悟った。 「・・・・・・・他にも訊きたいことがある。  貴様、さっきヘヴンを・・・・・・」 「それについては・・・・・・・・いくら訊かれようとノーコメントです」 ロットが不意にモンスターボールを取り出した。 カイも腰のボールに手をかけ、カゲロウとジールは臨戦態勢となる。 ジンはこの身体では足手まといになると踏んでか、少し後ろに下がる。 ロットがボールを己の目の前に落とすと、ボールからはエアームドのホークが現れた。 ロットがホークに飛び乗った。どうやら戦う気は無いらしい。 「カイさんの仲間となれば、おそらくもう姉さんを止め終わっているでしょう。  お二人に、最後の忠告をしておきます」 ロットは目を細めて、こう言った。 「もう・・・・・・・ルーラァズに関わらないでください」 ホークがその鋼鉄の翼を羽ばたかせた。 ある程度高度を上げると、ロットを乗せたホークは青い空へ吸い込まれていった。 敵がいなくなった草むらのバトルフィールドは、元の静かな草むらへと戻った。 風が、残ったカイたちの間をすり抜ける。 カイはここから少し離れた場所にある、奇怪な岩の群集を一瞥すると、 「随分ハデにやったみてぇだな」 と言った。 「まぁな・・・・・・・」 「腹は?」 「もうだいぶ良くなった・・・・・・。  だが、まだ歩けそうにない・・・・・・・」 「・・・・・・・・ホテルに戻るぞ」 「?」 「訊かせてもらうぜ。さっきの妙な姿についてな」 「・・・・・・わかっている。  今日、お前達に能力のことがバレる事は少し前から知っていた・・・・・・」 「・・・・・・・・・・?」 「痛・・・・・・・」 とある崖の上で、ロットは右手に感じる痛みと格闘していた。 カゲロウに握られた痛みだ。 その傍らで、ブラッドも右腕に左手をそえて顔をしかめている。 ジンに噛み付かれた痛みだ。 「!」 ブラッドの動作に気付いたロット。 「まだ・・・・・・・痛むか?」 ロットに気を使われていると直感したブラッドは顔をそむけ、 「ヘン!このくれぇ全然平気だっつーの!  テメェはテメェの身を心配しろ!」 「僕のほうは大丈夫さ・・・・・・外傷は無いからね」 「・・・・・・・・・」 ブラッドは微笑しているロットの顔を見つめた。 ロットのポケモンとなって数年経っている。 主人の偽りの動作ぐらいすぐに見抜ける。 「・・・・・・・・よかったのか?」 「・・・・・・・・・うん」 急に、話は深刻な雰囲気になった。 「何でだろう・・・・・・・」 「?何がだ」 「任務の協力を失敗したはずなのに・・・・・・・・・」 「・・・・・・」 「何でこんなに・・・・・・・嬉しいのかな・・・・・・・。  やっぱり僕は・・・・・・・・・」 「止めて欲しいと、願っていたのかな・・・・・・・・・」 「お、来たな」 ホテルの前まで差し掛かっていたカイ、ジン、カゲロウ、ジールは、歩いてくるユウラ、ウインディ、低空飛行しているカイリューを見つけた。 ユウラたちがそばまで来ると、カイは1つの疑問を抱いた。 「・・・・・・・なーんでそいつは寝てるかな」 カイリュー、リュウの背中には、ぐっすりと眠りこけているコウの姿が。 確かホテルを出る前にも寝ていた記憶がある。 「パラセクトのキノコの胞子を吸いまくってこうなちゃったの」 ユウラの説明に、カゲロウの背中で横になっているジンが、 「レダは状態異常で相手を苦しめる攻撃を得意としている。  パラセクトのキノコの胞子もその戦略の一つだ」 と説明し返した。 「で?そのレダは?」 「なんとか追い返した」 「・・・・・・・・?キキもキノコの胞子にやられたのか?」 カイがウインディの背中で寝ているキキの姿を見て質問した。 「必死に催眠術と戦ってたんだけど、やっぱり耐きれなくて寝ちゃったんだ」 「そっか・・・・・・・・まぁいいや。  とっととホテルに入ろうぜ、おもしれーことが訊けそうなんだ」 「おもしろいこと?」 カイがやたらとわくわくしながら言うので、ユウラの頭の上に浮かぶ?マークは増える一方だ。 ホテルのロビーでは、ティナがカイたちが帰ってくるのを今か今かと待っていた。 「俺考えたんだけどさ」 「何だ」 「お前さ、前に風呂場で《地獄に仏》みたいなこと言ってたけどさ・・・・・・・。  正式名称には《地獄で仏に会う》じゃねぇのか?」 「お前はそんなことを訊きに来たのか・・・・・・・・?」 カイとコウの2人部屋。 その少し散らかった部屋に、彼らは各々の場所に座っていた。 自分のベットに座り、苦笑するカイ。 床に座って、相変わらすポーカーフェイスのジン。 カイの横に座り、これから何が始まるのかドキドキ、ワクワクしているティナ。 自分のベットに座り、少し眠たそうにあくびするコウ。 コウの横に座り、眠たそうにしているコウの頭を小突くユウラ。 ちなみにキキは自室で寝ており、そばでスパイアがその様子を見守っている。 ジンは女2人、さりげなくカイとコウの横を陣取っていることに疑問を抱いたが、とりあえずそのことについては置いておく。 「まず・・・・・・・・・・礼を言いたい。  キキを助けてくれて・・・・・・・ありがとう」 ジンの言葉にコウとユウラはきょとんとしたが、すぐに2人とも笑顔になり、 「仲間がピンチだって時に、助けに行かない訳無いでしょ?」 「キキちゃんがピンチなら俺は何処にだって飛んでくぞ!」 と胸を張っていった。 そのすぐ後ユウラに手の甲の皮をつままれ痛そうに手をふっていたが、そのことについては誰も気付いていなかった。 「じゃあさっきの妙な姿について、説明してもらおうか?ジン」 「そう・・・・・・・だな・・・・・」 ジンは1つため息をついた後、その超常現象は起きた。 ジンの身体が光り輝き出したのである。 「!?」 「おお!?何だァ!?」 光がやんだ。 そこに座っていたのは、ジンではない、別の生き物だった。 黒い顔。 突き出た鼻、その下に口。 頭から突き出た、2本の曲がりくねったツノ。 その姿は、何処からどう見てもヘルガーだった。 突然の出来事に、開いた口が塞がらないコウ、ティナ、ユウラ。 その3人の中で最初に口火を切ったのはコウだった。 「す・・・・・・・・スッゲェェェェェッ!カッッチョイィー!!」 素直に喜ぶコウ。 女2人は、まだ何とコメントしたらいいかわからない様子。 ジンは説明を開始した。 「この能力の名は“偽獣”。ポケモンの姿になることで、3つの力が手に入る。  1つ目はそのポケモンが元とする戦闘スタイル。  ヘルガーの場合、4足歩行となって戦うことが出来る。これを俺は“獣闘”と呼んでいる。  2つ目は人間と同じように2速歩行で戦うスタイル。  驚異的な運動能力が加わり、戦闘を有利に進められる。これを俺は“人闘”と呼んでいる。  3つ目はそのポケモンが使える技が使えるというものだ。  俺の場合、ヘルガーの技である火炎放射、スモッグなどの技が使える」 ジンは一通り説明し終えると、偽獣を解いた。 「・・・・・何か質問は?」 4人は呆然と名って聞いていたが、ジンの言葉にハッと我に帰った。 「・・・・・・・ちょっといいか?」 静寂を破ったのはカイだ。 「何だ」 「お前とキキは、ルーラァズ・・・・・・当時のロケット団で、その偽獣っつー能力を植え付けられたってことか?」 ジンは口を閉ざした。 カイは聞いてはいけなかったような気がして、瞬時に己の口を手で抑えた。 だが、ジンはあまり気にしていないような口調で、 「そうだ」 とだけ言った。 ちょっと拍子抜けとなるカイ。 「・・・・・・・・話が変わるが、いいか?」 「へ?」 「人は、どうやったら強くなると思う?」 「?」 ジンの少し理解しがたい言葉。 4人は首をかしげる。 「カイは・・・・・・・・・・既に知っているはずだ」 「は?俺が?」 指名され、戸惑うカイ。 「俺の夢は最強のポケモントレーナーになることだ、とか言うヤツがよくいる」 「ああ、よくいるな」 「所詮は夢だ」 「・・・・・・・・?何が言いたいかよくわかんねぇぞ・・・・・?」 「夢は叶えられないから夢と呼ぶ。  夢にすがる者は自分に力が無いことを自白しているようなものだ。  人は夢を断ち切らなければならない」 「ジン・・・・・・・?」 分かるようで分からない、ジンのセリフ。 4人はますます分からなくなる。 「現実を認めたものだけが強くなる権利を持つ。  カイ、お前その1人だ。そこのオレンジ髪のアホ面とは違う」 「ああ!?今なんつったゴラァ!!」 「聞こえたとおりだ。お前達4人の中で、カイ以外は全員弱い」 「な・・・・・!」 「ンだとゴラァ!」 「ちょっと!さっき助けてくれてありがとうとか言ってたのに、何でそんなこと言うの!?」 「・・・・・・ルーラァズはお前達よりも弱い。  ロットと・・・・・・・・・ヘヴンを除いて」 「?」 「ロットは夢を持っていない・・・・・・ロットが何故素直にヘヴンの言うことを聞いているかどうかは知らんが・・・・・・。  ヤツは俺やカイと同じなんだ」 「同じ?」 「お前達は確かに強い、一般のトレーナーよりはな。  だが、そのままではルーラァズの力には遠く及ばない」 「・・・・・・・・・」 4人は黙り込んだ。 カイ、コウ、ユウラは、ジュエルタウンでの戦いが頭をよぎった。 手も足もでなかった、忌まわしい戦い・・・・・・。 「カイ、お前は野望を持っているな?」 「!あ、ああ・・・・・」 「俺もこの忌まわしい力を植え付けたヘヴンを倒す、という野望を持っている」 「え?偽獣の能力はサカキが・・・・・・・」 「・・・・・・・・そういえば言ってなかったな・・・・・」 「・・・ヘヴンが・・・・・」 「そう、ヤツこそが全ての元凶だ」 能力を植え付けたのがおそらくヘヴンだと告げたジン。 その表情が、かすかに険しくなった。 「俺はヤツ自身が植え付けたこの能力で、ヤツを倒す。  これほど屈辱を味合わせる方法は他に無い」 「・・・・・・・・」 「カイ、お前は俺とよく似ている・・・・。  夢を見ず、現実を見て、野望を持っている。  少なくともそこの3人よりは強くなる・・・・・・・」 「!コノ・・・・!」 ジンの言葉に耐かねてコウが飛び出しかけたがユウラに押さえ込まれる。 「カイ、俺はお前と戦いたい・・・・・・・・勝ち続ければ、決勝トーナメントでいつか、お前とあたる・・・・・・。  その日を楽しみにしているぞ」 ジンはそう言い残し、立ち上がった。 そして、ドアノブに手をかけたとき、 「ジン」 カイに呼ばれ、立ち止まった。 「俺・・・・・・・・夢を持ってないとは言い切れない・・・・・」 ジンはカイたちに背を向けたまま耳を傾ける。 「やっぱポケモントレーナーなんだから誰よりも強くなりたいとか、夢を抱いてるかもしれない。  お前も、心のどっかでは・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 ジンはドアノブに手をかけたまま、黙った。 数秒し、 「さぁな・・・・」 とだけ言い、ついに部屋を出て行った。 部屋に残った4人。 ジンについて、討論中。 まずユウラが、 「なんかムカツク」 と不満そうに言った。 コウが、 「もし決勝トーナメントであたったらボッコボコにしてやる!」 額に怒りマークを浮かべながら言った。 ティナが、 「いいヤツかと思ったのに・・・・・・・なんかガッカリした。  結構いやみなこと言ってきたし」 と穏やかに言った。 最後にカイが、 「まぁそう言ってやるなって。  あいつなりの忠告だったんだろ、今のままじゃ勝てねぇってことサ」 と言うが、3人は納得しきれない様子。 「あいつだって一応・・・・・・共通の敵を持つ、仲間なんだからよ」    つづく  あとがき うわっ!つまんねーなオイ!(爆) ジンは変なキャラになっちゃったし・・・・・。 まぁなんとかなるでしょう(オイ)。