ハッキリさせたかったのかもしれない。 どちらが強いのか。 理由はわからない。 ただ、そんな気がしただけ。 ****************  リベンジャー  第73話「力押しVS作戦勝負」  **************** {力押しのティナと・・・・・・・作戦勝負のユウラ・・・・) 彼の左には、大人しい妹。 右には自分にとって最大のライバル。 さらに右にはギャーギャー騒がしいバカ。 ジンは一言も喋らず、戦況を見据えていた。 岩のフィールドで対峙しているのは、ドリルポケモン・サイドンと、シャドーポケモン・ゲンガー。 睨み合い、動かない2匹。 それと同じように、睨み合い、動かないティナとユウラ。 互いの出方を伺っている。 この時ばかりは、五月蝿いコウも黙っていた。 コウだけではない。スタジアムにいる誰もが、黙りこくっていた。 スタジアムが、静まり返っている。 聞こえる音は2つ。 吹き抜ける風。 サイドンが時折喉を震わせて出す、唸り声。 「サイクス!地震!!」 「グガァ!!」 先に動いたのは、ティナとサイドン。 サイクスと呼ばれたサイドンが、片足を振り上げ、同じ軌道を追って振り下ろす。 サイクスを中心に、地面を衝撃が響き渡る。 「フォーグ!ジャンプで回避!そしてシャドーボール!」 ユウラの的確な指示。 その通りに動くゲンガー、フォーグ。 ジャンプで地面を伝う衝撃を回避し、シャドーボールを撃ち出す。 シャドーボールは真っ直ぐサイクスへと飛んでいく。 「角ドリル!」 対してサイクスは、ドリル状の角を前へと突き出した。 ドリルをギュンギュン回転させる。 ドリルにシャドーボールがヒットすると、シャドーボールは貫かれるように霧散した。 「サイクス!穴を掘る!」 サイクスは地面にドリルを突き刺すと、そのまま回転させ穴を掘り、身を隠す。 あっという間にサイクスの姿は見えなくなった。 (奇襲・・・・・・?) ユウラはティナの行動を先読みしようとする。 穴を掘る。これは地面に穴を掘って一時的に身を隠し、敵の目を欺く技。 穴を掘った後の行動なんてたかが知れてる。 敵の背後や真下からの奇襲だ。 ユウラは岩が転がる地面を警戒する。 勿論、フォーグが立っている辺りを中心に。 奇襲でないとしても、サイクスが地中に身を隠した時点で、攻撃は地中からしか考えられない。 フォーグもいつ攻撃が来てもいいように身構えている。 「サイクス!地震攻撃!」 「!?」 ティナの指示はユウラのとって予想だにしない指示だった。 だが、よくよく考えればそんな指示も納得が出来る。 わざわざ敵に近づかなくても、地中から地震を起こして攻撃すればいい。 ゴウンゴウンと、地中から何かを殴る音が聞こえ、地面を衝撃が伝う。 フォーグはユウラの指示を待たずにジャンプする。 案の定、簡単に回避する。 だが、状況はきわどいものがある。 サイクスは地中から攻撃できるものの、フォーグには地中への攻撃方法がない。 フォーグがユウラのすぐ近くに着地する。 ユウラがフォーグにそっと耳打ちした。 フォーグがコクリと頷く。 フォーグが飛び出した。 走りはせず、サイコキネシスで自らの体を浮かせて、低空飛行している。 ある程度飛んだ、その時! 突如、地中からサイクスが飛び出した。 穴を掘った場所からは遠く離れている。地中を移動していたのだ。 フォーグはサイクスが飛び出した瞬間、後ろへ飛びのいていた。 ユウラはサイクスを一度飛び出させる必要があったのだ。 「フォーグ!サイコキネシス!」 後ろに飛び退きながら、フォーグはサイコキネシスを放った。 紫色の衝撃波がサイクスを襲い、吹き飛ばす。 サイクスは吹き飛びながらも体制を立て直し、受身をとった。 巨体なのにも関わらず以外に器用なサイドンだとユウラは思う。 サイクスはちらりとすぐ側の地面を見た。 そこには、先ほど自分が掘った穴がある。 次にサイクスは後方のティナを横目で見た。 サイクスの視線にティナはコクリと頷く。 すると、サイクスは再び地面の中へと姿を消した。 穴を掘ったわけではない。 先ほど掘った穴の中へ身を投じたのだ。 「かかった!フォーグ!」 ユウラのやや高めの声。 すると、フォーグはなんと自分も地面に出来た穴の中へと姿を消したのだ。 ゲンガーは本来、穴を掘ることは出来ない。 フォーグはサイクスが飛び出した穴の中へと入ったのだ。 「ゴガアアァァァァァアアア!!」 突如、穴の中からサイクスの悲鳴が轟いた。 「!?サイクス!どうしたの!?」 ティナが慌てて応答を求めたときには、サイクスの悲鳴は止まっていた。 穴からサイクスが這いずり出てきた。 上半身を穴から引きずり出すと、サイクスはそのまま倒れ伏せた。 すると、同じようにフォーグが穴から現れた。 サイクスとは違い、体力満タンの状態で。 倒れたサイクスを見て、ニヤリと無気味に笑う。 「今のは・・・・・・・」 カイがバトルフィールドでのやり取りを見て、1つの可能性を見出していた。 何故フォーグは穴の中へ入ったのか。 何故サイクスは悲鳴を上げ、倒れたのか。 「影・・・・・かな?」 「おそらくな」 カイにとっては独り言のつもりだったのだが、ジンは自分に訊かれたように答えた。 「・・・・・・だとしても、かなり高度な技だがな」 「オイオイオイオイ!おめぇら2人で勝手に会話してねぇで教えろ!」 どうやらコウには今の技がなんだったのかわからなかったらしい。 「だからお前は鈍感だと言われるんだ。もう少し勉強したらどうだ?」 相変わらずポーカーフェイスでコウをバカにするジン。 「お前は・・・・・・わかっただろう?キキ」 「うん・・・・・・まぁ大体だけど・・・・・・」 キキが少し自信なさ気に言う。 「影に入り込んだ・・・・・・んだよね?」 「ああ・・・・・・そうだ。  ユウラはゲンガーの“影に入り込む能力”を駆使し、サイクスの大ダメージを与えていた」 「影ェ?いつフォーグがサイクスの影に入り込んだんだよ」 「鈍感男は黙って聞いていろ」 「あンだとゴラァ!」 「・・・・・なーんでテメェらいっつもケンカ腰なんだよ?」 一方、バトルフィールドでは変化がおきていた。 「!?」 サイクスが突如起き上がり、地震を放ったのだ。 確実にノックダウンしたのと思い込んでいたフォーグは、思いも寄らぬダメージを受け、ダウンする。 サイクスもその地震が最後の攻撃とばかりに、力尽きる。 これでティナが残り3体、ユウラが2体となった。 「何で・・・・・・!?さっきのギガドレインで、あのサイドンは瀕死になったハズ・・・・・・」 ユウラは信じられないという顔で、フォーグをボールに戻した。 「私のポケモン達はね、皆負けず嫌いなの。  自分1人でダウンしてたまるか、自分がダウンするくらいなら相手もダウンさせてやる・・・・てね」 「・・・・・・・・!」 ユウラの頭に、先ほどのバトルの情景が浮かび上がった。 ボルクVSキャノン。 あの時も、ボルクはダウンした直後、オーバーヒートを発動させ、キャノンを道連れにしていた。 負けるよりも、相打ちを望んでいたのだ。 絶対に負けを認めない。 ティナのポケモン達は、皆、負けず嫌い。 あの時、ユウラはフォーグに前へ飛ぶよう指示し、サイクスを飛び出させた。 これにより、“フォーグが入り込む穴”が完成した。 次にフォーグはサイコキネシスでサイクスを吹き飛ばした。 微妙に調整して、サイクスが掘った穴の付近に吹き飛ぶように仕向けた。 サイクスは余計な体力を使わないようにと、元掘った穴へと飛び込んだ。 ・・・・・・そろそろわからないか? 「わからん」 「・・・・・・・・・」 ジンはコウの鈍感さに少しあきれ果てている。 カイとキキはもう次のバトルに魅入っている。 フィールドには、ティナのパルシェンとユウラのバタフリー。 パルシェンがバタフリーをやや押し気味だ。 「サイクスとフォーグの穴が繋がっているのは分かるな?」 「まぁなんとなく」 「・・・・・・じゃあもうわかるだろう」 「わからん」 「・・・・・お前、ケンカ売ってるのか?」 「悪ィ、マジでわからん」 ジンはため息をついた。 コウの顔は真剣だ。どうやら本当にわからないらしい。 ジンは呆れながら、全部教えてやることにした。 「いいか?フォーグは穴の中に出来た影に入り込んだ。  穴の中は全て影が覆い尽くしている。サイクスはフォーグの腹の中に入り込んだも同然の状態だ。  その状態でサイクスは全身のギガドレインを受け、ダウンした」 「・・・・・・・・?  ああ〜、アレだ。“油断大敵”ってヤツだろ?」 「・・・・・・無関係だ。お前、ほとんど理解してないだろ」 「シェルド!吹雪!!」 「シィィィ!!」 シェルドと呼ばれたパルシェンが、猛吹雪を放った。 ユウラのバタフリー、テフナは一撃で凍り付く。 「バタフリー戦闘不能!パルシェンの勝利!  ユウラ選手、残り1体!」 「いいわよシェルド!カンペキ!」 「シーッシッシッシッシ!!!」 シェルドは歯を見せならがらせせら笑う。 「キキ・・・・・・・このバトルの末路をよく見ていろ」 「え?」 あまりにも突拍子もないジンの言葉。 ジンはフィールドをじっと見つめている。 「勘違いする前に、教えておきたかった」 「?」 「今俺達が見てるのはポケモンバトルだ。  だが、本来の俺達の目的はこんな甘っちょろいものじゃない」 「!」 今までバトルに魅入っていたカイとコウが、ジンの緊迫気味たセリフに顔を向けた。 「ヤツとの戦いは・・・・・・・命をかけた戦いになる。  ヤツは今まで何人もの命を平気で奪ってきた。  そんなヤツと戦う時・・・・・・・できればお前を側においておきたくない」 「!」 「・・・・・・・・それでも・・・・・・・戦う意思はあるか?」 キキは全く迷わずに、 「うん!」 と答えた。 あまりにも簡単に答えが返ってきたことに、違和感を感じるジン。 カイとコウも同じだ。 「私も・・・・・・・・・ちょっとお兄ちゃんに言いたかったことがあったし」 「?何だ」 「この大会が終わったら・・・・・・特訓して欲しいの。  偽獣能力の・・・・・・・」 「・・・・・・・!!?」 岩のバトルフィールドに、傷ついたメガニウムの体が転がった。 その前には、ソーラービームを放ちきったフシギバナの姿があった。 「メガニウム戦闘不能!フシギバナの勝利!  よってこの勝負、ティナ・ラディス選手の勝利!」 「OKギーバ!完璧!」 「ギャウウ!!」 ティナの種ポケモン・フシギバナのギーバが嬉しそうに鳴く。 勝ちたかった。それが本音。 わかっていた。自分の力が相手より劣っていることに。 いかなる戦力も、力でねじ伏せられるとどうしようもない。 無力ではないと、自分に言い聞かせた。 精一杯やった。 でも、負けた。 めげているつもりはない。 次に戦ったとき、あたしは勝者になる。 ・・・・・・・・・絶対に。  つづく  あとがき YAN「いやー!やっとティナVSユウラ終わったよー!」 クロ「長ぇよバカ!1回のバトルに何話分かかってんだ!?」 コウ「そーだそーだ!つーか俺達の出番少ねぇぞ!」 YAN「まァ安心しとけ。次回はカイVSコウだ。出番在りまくりだぞ」 コウ「何ィ!?よっしゃ任せとけ!大暴れしてやるぜ!」 クロ「俺は!?俺は!?俺の出番は!?」 YAN「在っても活躍はしないと思う」 クロ「・・・・・・なんか寂しいぞ・・・・」