戦闘で重要なことは“力の大きさ”だ。 大きい者は小さい者は潰し、小さい者は大きい者に潰される。 だが。 小さい者が大きい者を潰す時がある。 それは小さい者が自分の“小さい力”を信じる場合だ。 力は信じるか否かでその姿を大きく変える。 勝ちたいのなら、自分の力を信じることだ。 自分の力を疑ってはいけない。 ************  リベンジャー  第74話「力の大きさ」 ************ 分からない。 何故、彼は立ち上がるのか。 自分のポケモンなのに、分からない。 カイVSコウの試合が、既に始まっていた。 フィールド属性は、氷。 氷の上には乱雑に配置された氷の小さな山があり、これをどう活用するかがカギになる。 さらに、氷の下には冷たい水が張られている。 これは水ポケモンでもかなりヤバイ冷たさで、水タイプであると同時に氷タイプでないとダイビング不可だ。 『アンタ・・・・・なんで・・・・・』 コウのオーダイル、ゲイルは呆然となっていた。 ゲイルは同じ氷のフィールドに立つゴルダック、クーラルを凝視している。 クーラルは体中に傷を負っていた。 ゲイルも、体に傷を負っている。 だが、その傷の酷さは比ではない。 ゲイルが軽傷なのに対し、クーラルは重傷。 『アンタらしくねぇぜ・・・!』 クーラルはゲイルの言葉を無視した。 片膝をつき、肩で息をしている。 頭が働かない。 何も考えられない。 「クーラル!」 後方から自分を呼ぶ声に反応して、彼は振り返った。 主人、カイが自分を心配していることが分かった。 数ヶ月前。 ジュエルタウンでの死闘後、休養をとっていたキキョウシティでのこと。 クーラルは1人、小高い丘の上にいた。 無心で空を見上げ、唐突に・・・・・・。 額の第三の目とも言われる赤い宝石から、破壊光線を放った。 黄色く、通常のものよりやや太めな破壊光線が空に吸い込まれ、消えうせる。 『クソ・・・・・ダメだ・・・・・』 彼は柄にもなく、舌打ちした。 ジュエルタウンで遭遇した、バンギラスのブラッド。 ブラッドが打ち出す破壊光線は、クーラルの比ではなかった。 クーラルが打ち出す破壊光線を通常の威力数値の150とすれば、ブラッドの破壊光線は・・・・・。 400・・・・・いや、500。 カゲロウを一度は死に至らせた、最凶の技。 「・・・・・・!?何で・・・・・」 ティナはクーラルの今までの謎の行動に、驚愕した。 ティナやコウはクーラルのことは良く知っている。 クーラルはどちらかといえば頭脳派のゴルダック。 相手ポケモン、そしてフィールドの状態を見て即座に作戦を練り上げ、実行する。 だが、今回は違う。 クーラルは試合開始時から様子がおかしかった。 まず最初に、カイの指示を待たずして、破壊光線を放った。 クーラルの性格からして、100%あり得ない行動。 その後も、どこか力任せな行動が目立っていた。 クーラルが立ち上がった。 唐突に、額に力を込める。 『・・・・・・!!?クーラル・・・・!?』 ゲイルは驚愕した。 そう、破壊光線だ。 クーラルが破壊光線を放とうとしている。 「クーラル!テメェこれ以上ムチャしたら体がもたねぇぞ!わかってんのか!?」 カイの叫び。クーラルは無視した。 クーラルの額の宝石に、エネルギーが渦巻くように収束していく。 大気がエネルギーに反応するかのように、揺らめく。 普通の破壊光線ではない。 生命力までも注ぎ込むかのように、破壊光線の威力を無理やり上げようとしている・・・・・。 いつもより鈍い音の破壊光線。 その威力に耐えられなかったことを示すかのように、クーラルの体が後ろに飛んだ。 否、飛ばされた。 『グ・・・・・・ッ!』 ゲイルはクーラルの破壊光線を真正面から受け止めた。 滑らないようにと足を踏ん張り、氷に無理やり足を埋める。 避けようと思えば避けれた。 だが、避けたくなかった。 ここで避ければ、クーラルの“意地”が無駄になる。 ゲイルの両腕によって抑えられた破壊光線が、少しずつその威力を殺されていく――― そして、消沈した。 「・・・・・・・・!?クーラル!?」 クーラルが、膝をついた。 カイにはまるでスローモーションのようにゆっくり見えた。 クーラルはふらふらしながら、振り向いた。 「・・・・・・・・・・・!」 その顔は、疲れきっていた。 すまない・・・・・・・・・カイ・・・・・・。 クーラルは力なく倒れた。 「ゴルダック戦闘不能!オーダイルの勝利!  カイ選手、残り5体!」 分かってたんだ。 自分の力がライラたちより劣っていることぐらい。 ただ、認めたくなかった。 「何でだよ・・・・・・・。お前らしくねぇよ・・・・・」 カイはクーラルの入ったボールを見つめながら、ぼそぼそと呟いた。 だが、いつまでも考え込んでるわけにはいかない。 クーラルのボールを腰に戻し、新たなボールを握り、放る。 「わからんな・・・・」 「ホント・・・・・わかんないよ・・・・・」 「いや、俺がわからないのはお前のほうだ」 「え?私?」 ジンの言葉にティナは首をかしげた。 てっきりクーラルのことを言ってるものだと思っていたらしい。 「明日戦うことになる相手が横にいるのにもかかわらず・・・・・・。  よく普通に会話が出来るな」 「!」 そう、ジンとティナは明日、準決勝で戦うことになる。 ジンにとっては明日は敵となる相手と普通に会話できることが不思議らしい。 「そんなコト言ってたら何も話せないじゃん」 ティナは笑顔で淡々と告げた。 思わずきょとんとなるジン。 「・・・・・・・まぁいい」 ジンは再びフィールドに顔を戻した。 腕にバトルは始まっていた。 氷のフィールドの上にいたゲイルが、ライラによって殴り飛ばされた。 電気エネルギーを上乗せしたパンチ、雷パンチで。 ゲイルは氷の上を背中で少し滑った後、気絶した。 審判の声がスタジアムに響き渡る。 「オーダイル戦闘不能!ライチュウの勝利!  コウ選手、残り5体!」 「おー!やるじゃん!」 ティナはもうクーラルの異変を忘れてしまったかのようにはしゃいでいる。 ユウラが簡単にやられてしまったゲイルに一喝している。 キキも声には出していないようだが、その視線はカイに釘付けだ。 ジンはふっと視線を後ろにそらした。 「・・・・・・・・!!?」 そこに、彼はいた。 階段状の観客席の一番後ろに、彼は立っていた。 すぐに彼は振り返り、立ち去っていった。 だが、彼の特徴的な姿はジンの脳裏に焼きついていた。 白い体。 長い、紫色の尻尾。 ジンが立ち上がった。 「お兄ちゃん?」 「すまない、席を取っておいてくれ」 ジンはキキにそう言い残し、席をはずした。 ここはスタジアム裏。 普段から人気がなく、今日は決勝トーナメントが行われているためか、人気はゼロ。 ジンはまるで待っていたかのように立っている白いポケモンを発見した。 「・・・・・・・・・何か用か」 ジンは相変わらずポーカーフェイスで質問した。 どこか、警戒しているかのような表情。 質問された白いポケモンは、少し眼を細めながら、 「何故警戒している」 と質問し返した。人語で。 「俺はカイ達の仲間にはなったが、お前とは仲間になったつもりはない。  お前がヘヴンと繋がっていないという証拠はないからな」 「・・・・・・・・・」 ジンの返答に、白いポケモンは何も言わなかった。 「・・・・・・話が反れた。  もう一度訊く。俺に何か用か」 「いや・・・・・・特に用はない」 「・・・・・・じゃあ何故ここにいる、エデン」 白いポケモン・・・・・エデンの答えにちょっとイラついたジンは、声を強めて質問を変える。 「私は戦いのために生みだされたポケモンだ・・・・・」 エデンがスタジアムの壁を見上げた。 観客の歓声が聞こえる。 「戦いのすぐ近くにいると・・・・・心なしか、心が安らぐのだ」 その言葉を聞いて、ジンが 「フン・・・・・・・・その“戦いのため”とやらが“ヘヴンを倒すため”ならいいんだがな」 と、吐き捨てるように言った。 エデンがジンに顔を戻した。 「・・・・・・・・何が言いたい」 「お前は信用できない」 ジンがボールを軽く放った。 現れたジールが前傾姿勢でエデンを睨む。 グルグルと喉を鳴らし、歯軋りさせている。 「ジール、用心しろ」 ジールが口の中で黒い炎を燃やす。戦闘態勢は既に整っている。 「・・・・・・・・・」 エデンは黙っている。 手をいつかの紫色の炎で包むことも無く、ただただ黙っている。 ジールはいつでも黒い息吹を吐けるようにスタンバイしている。 さらにジンも、すぐさま偽獣できるように下っ腹に力を込めている。 散々押し黙った後、エデンが口を開いた。 「私は・・・・・・・・・お前達と戦う意思は無い」 「!」 「ジン。お前が私のことをどう思おうと勝手だが・・・・・・。  倒そうなどという考えだけはよしてくれ」 「・・・・・・・信用できん」 「私はお前達の仲間だ。この命を賭けてもいい」 エデンの言葉に、偽りは無い。 根拠は無いが、そんな気がした。 ヘヴンとの繋がりも“薄そう”だ。 あくまで“薄そう”だ。 エデンからは、どこかヘヴンと同じような匂いを感じさせる“何か”がある。 「あ、お兄ちゃん」 ジンは観客席に戻ってくると、すぐに席に腰をおろした。 スタジアムは相変わらず盛り上がっている。 ジールはボールの中。エデンは何処かへ飛び去っていった。 まだ完全にではないが・・・・・・・エデンを信用しておくことにする。 ジンはフィールドを見渡した。 フィールドにいるのは、カイのライチュウ、ライラと、コウのエレブー、エレク。 傷つき、仰向けに倒れているエレクに対し、ライラは無傷でぴんぴんしている。 「・・・・・・・・状況は?」 ジンの質問にティナが答えた。 「ん〜とね。コウがエレクを繰り出して殴り合い。つってもライラが一方的にだけど。  で、現在にいたる」 「・・・・・・だいたいわかった」 『テ・・・・・・・・・テメェ・・・・・・バケモンかよ・・・・・・・・!!?』 エレクが無理やり首だけ起こし、ライラを睨む。 ライラは微笑した後、 『ヘヘッ♪かもね♪』 『へ・・・・・・・・・・たいしたヤローだぜ・・・・・・・おめぇはよ・・・・・・』 そこまでいって、エレクは無理やり起こしていた首から力を抜いた。 否、抜けたのだ。 「エレブー戦闘不能!ライチュウの勝利!  コウ選手、残り4体!」  つづく  あとがき YAN「いやー!突然のエデンの登場だったな!」 コウ「・・・・・・・・つーかエデンの登場は何か意味あったのか?」 YAN「まぁそんなに気にすんなって!」 クロ「オイバカ作者!俺の出番が最近無さ気だぞ!」 YAN「まぁそんなに気にすんなって!しばらく無いから!」 クロ「笑顔でサラっと言うなァ!!」