「黒い束縛!」 「穴を掘る」 カイのブラッキー、リングがその瞳を怪しく光らせる前に、ジンのアーボック、ジークは地中へと姿を消した。 唐突に、リングの背後の土が盛り上がって・・・・・・。 「リング!後ろだ!」 「ギュ・・・・・ッ!」 ジークの奇襲を避けたリングだが、ジークはすぐに穴の中に引っ込んだ。 フィールドには、リングただ1匹が残される。 ***************  リベンジャー  第79話「怪しい瞳と唸る牙」 *************** ジークが飛び出した。 今度がリングの目の前からだ。 ジークが牙をむいて襲い掛かるが、リングはそこから後ろに飛び退き、避ける。 「クソ・・・・・!ホント奇襲好きだなあのアーボックは・・・・。  リング!サイコ・・・・・・」 指示を、そこで止めた。 「やっぱ攻撃中止ィ!避け続けろォ!」 ジークの攻撃は終わっていなかった。 再び牙をむき、リングを襲う。 リングは先ほどと同じように、避ける。 ジーク、噛み付く。 リング、避ける。 ジーク、噛み付く。 リング、避ける・・・・。 フィールド全体を利用して避け続けるリングだが、ジークはしつこく襲い掛かってくる。 「!あのアーボック・・・・・・」 「まずいですね・・・・・・」 バツが悪そうに呟いたキキ。 「何がだ?」 ユウラの肩の上で、クロが横目でキキを見ながら聞いてくる。 それにつられてか、コウ達もキキに目を向ける。 「さっき・・・・・・・言ったじゃないですか。ジークは相手を瞬殺することを生きがいとしているって・・・・・。  カイさんのブラッキー、リングはさっきから避け続けて、ジークから一撃もくらっていない・・・・。  これが何を意味するか、わかりますか?」 質問をし返されて、3人と1匹は一瞬きょとんとしたが、すぐに考え込む。 が、わからない。 キキはそんな彼らを見て、そしてジークに視線を移すと、答えを語りだした。 「・・・・・・・言い換えれば、ジークは敵を瞬殺できないと不愉快になって、攻撃が荒々しくなるんです。  荒々しくなって攻撃に隙が生じやすくなり、そこを攻撃されると手も足も出ないんですよ・・・・・・」 「へへ・・・・・・弱点発見だな」 一方カイも、ジークの特徴を掴んだようで、余裕の表情となる。 避け続けるリングを気にしながら、ジークの動きをよく観察する。 攻撃の隙はだんだんと大きくなり、表情も険しい。 そして・・・・・・。 「今だ!サイコキネシス!」 ジークが大きく口をあけて噛み付いてきたときに出来た、一瞬の隙。 ジークの背後にするりと入り込んだリングが、その目を怪しく光らせ、衝撃波を放つ。 リングがニヤリと笑った。 衝撃波をまともに向けたジークは、そのまま倒れ・・・・・・・。 なかった。 「!?」 「叩きつけろ!」 踏みとどまったジークはその長い尻尾を高らかと振り上げ、その下にいるリングに思い切り叩きつけた。 勝利を確信しきっていたリングは大ダメージを受け、気絶した。 「ブラッキー戦闘不能!アーボックの勝利!  カイ選手、残り2体!」 「あー・・・・・・・・・なんてこったってカンジだな、この状況は」 ダウンしたリングをボールに戻しながら、カイは悔しがる。 「リングは防御力が高ぇからすぐにはやられねぇと思ってたんだけど、ちっと調子に乗りすぎた」 反省しつつ、ジークを睨み、次なるボールに手をかけた。 放たれたボールは弧を描き、地に着く。 ボールがまばゆい光を放ちながら、中のポケモンが外へ飛び出す――― 「!?」 ジンはその光景を凝視した。 スタジアム内の空気が、変わった。 そこにいた全員が黙り込み、その状況に目を疑った。 全ての視線が、ジークに向けられていた。 ジークは地上にはいなかった。 地上5m地点まで跳ね上がった、ジーク。 誰も、その状況を理解できなかった。 ジンの視線だけは、ジークには向けられていなかった。 紅い身体を持つポケモンが、フィールドに立っていた。 ジークが立っていた地点から少しジン側によって立っていたことから、このポケモンがジークを攻撃したに違いない。 だが、ジンにはそのポケモンの攻撃の軌跡が見えなかった。 見えない攻撃を放ったわけではない。 速過ぎて見えなかったのだ。 ジークが重々しい音を立て、落下した。 「ア、アーボック戦闘不能!ハッサムの勝利!  ジン選手、残り2体!」 途端に、スタジアムが沸きあがった。 「・・・・・見えたか?」 「・・・・・全然」 コウの呆然とした呟きに、ティナも呆然となりながら呟く。 「クロ、あんたは?」 「いんや・・・・・・俺にも見えなかった。残像すら・・・・・・」 「あ、あのハッサムは一体・・・・・・」 キキも呆然と呟いた。 「あー・・・・・・・キキちゃんは知らないんだよな。  あのハッサムの名前はカゼマル。カイ曰く・・・・・“風の剣士”だとよ」 「戻れ、ジーク」 カゼマルを睨みながら、ジンはボールの中にジークを戻した。 ジンはカゼマルの攻撃スピードが信じられなかった。 人が今まで見てきたどのポケモンよりも、はるかに凌ぐスピードを持っている。 そんなハッサムが、今、目の前にいる。 『我が名は・・・・・・・風の剣士、カゼマル』 カゼマルが、唐突に語りだした。 偽獣能力を持つジンはポケモンの言葉を理解できるため、その言葉をはっきりと聞くことが出来た。 カゼマルが、ジンをギラリと睨み、 『我が鋼の太刀に斬れぬもの無し!』 と、ジンに向かって言い放った。 「・・・・・・・・そのスピードとはさみが、自慢か?」 ジンの質問に、カゼマルは全く表情を変えず、 『・・・・・・・』 言葉も発さず。 「・・・・・・ならば」 ジンがボールを1つ、手にとった。 同時に、カゼマルが両腕のはさみをゆっくり持ち上げた。 カイもジンの動きを見つめ、すぐにカゼマルに指示を出せるようにしている。 ジンの投げたボールが、地面につき、中からポケモンを繰り出す。 中から現れたのは、四本腕のポケモン。 どれも立派な筋肉の塊で、それを支える胴体の筋肉もまた素晴らしい。 ジンのカイリキー。名を、ジーキ。 「俺のチーム一の格闘王が相手しよう」 「カゼマル!メタルクロー!」 『ハ!』 カゼマルの右腕が光り輝き、ジーキを右斜め上から襲った。 が、簡単に腕1本でガードする。 すかさず、空いている腕1本を使い、カゼマルの腹にパンチを入れる。 『効かん!』 カゼマルは全くダメージを受けていないようで、再びメタルクローを叩き込む。 脇腹にメタルクローを受け、よろめいたジーキから飛び退く。 「クロスチョップ」 ジーキが、下段の腕2本を交差させ、飛び出した。 「カゼマル!迎え撃てェ!」 カイの指示は、それで十分だった。 カゼマルは両腕を下にまわして後ろまで引き、さらに両腕に風をまとわせる。 これだけでいい。 『風の秘技・・・・・・』 ジーキが、射的距離に入った。 『風牙!』 両腕を振り上げた際に発生した、風の太刀、かまいたち。 振り上げた両腕でそのまま振り下ろして敵を攻撃。 かまいたちが下の牙、はさみが上の牙となり、ジーキを襲った。 ジーキは独断でクロスチョップを中断し、4本の腕全てをガードにまわらせた。 胴体にダメージは無かったが、腕は少しばかりダメージを受けたようだ。 逞しい筋肉が、ダメージを軽症化させていた。 ジーキをすれ違いざまに攻撃したカゼマル。 それを何とか受けきったジーキ。 2匹はお互いに背を向けたままだ。 ジーキがカゼマルに顔だけ向け、 『少しは出来るようだな、小僧』 『・・・・・・・』 と、その時だ。 「あーーーーっ!!」 突然、カイの叫び声がスタジアム内に木霊した。 皆の視線が注がれる中、カイは掌をポンと叩き、やたらと笑顔で、 「そうだそうだ!俺、ジーキの存在忘れてたぜ!  エンジュで一回会ったことあんのにすっかり忘れてた!  あー、カゼマル。そんな気にしなくていいぞ。俺の個人的なド忘れだ」 『・・・・・・・・・・・』 カゼマルは、何も言えなかった。 ただただ主人の鈍感ぶりに、呆れていた。 「剣の舞!」 「ビルドアップ」 カゼマルが身体を回転させ戦いの踊りを踊り、大幅に攻撃力を高める。 ジーキの筋肉が盛り上がり、攻撃力と防御力を高まる。 戦いの準備は整った。 2匹が構え、今まさに飛びかかろうとした、その時だった。 カゼマルに、異変が起きたのだ。 『う・・・・・・っ!?』 「カゼマル!?」 「!」 『?』 カゼマルが膝をつき、両腕で自らの体を抱くかのように抱え込み、苦しみだしたのだ。 『う・・・・・・ぐ・・・・・・あ・・・・・・』 「おい!おいどーしたカゼマル!ハラでも痛いか!?」 「ジーキ・・・・・・お前、何かしたのか?」 ジンが訳がわからないという風にジーキに問う。 『い、いや。俺は何もしていない』 ジーキは急いで頭を振った。 「カゼマルの様子が・・・・・・・・」 ユウラがボソリと呟くと、クロが、 「進化か?腹痛か?腹痛の場合、ストレス、またはただの食い過ぎが原因・・・・・」 「いや、絶対違うと思う」 『あ・・・・・・・く・・・・・・』 カゼマルは自分の身体を抱きかかえ、もがき苦しむ。 これは・・・・・・・あの時と同じ・・・・・・。 アサシンとの戦いで現れた・・・・・・・俺の中にいる何か・・・・・・・。 俺の身体を乗っ取り、アサシンに致命傷を与えた何か・・・・・・・。 お前は・・・・・・・・誰だ・・・・・・! お前は・・・・・・・・何者だ!  つづく  あとがき YAN「さて、今回はアレだ。オリジナル技について語るぞ」 コウ「おお、オリジナル技についてか。オリジナル技はこの小説の代名詞ってヤツだ」 クロ「読み難さは天下一品だ」 YAN「黙っとけ!とりあえす、この2つを」 尾炎爆→びえんばく 水撃→すいげき クロ「そのまんまだな」 コウ「つーか漢字くっつけただけだな」 YAN「この他のいくつかあるが、ほとんどこんなカンジだから、そのまんま読んでくれてかまわないってこった」 クロ「今回の話についてはどーだ」 YAN「カゼマルに異変発生だ」 コウ「いや、そりゃ見ればわかるって。カゼマルの中には何がいんだ?」 YAN「物語に大きな影響をもたらす超重要人物・・・・・・・・かもしれない」 コウ「かもかよ!不確定なのか!?」 YAN「いや、もう既に確定しているのだが・・・・・・やっぱりかもだな」 クロ「どっちだよ!?」