『ここは・・・・・・・』 カゼマルは辺りを見渡しながら、呟いた。 真っ暗な空間に、彼はポツリと立っている。 見渡す限り、闇、闇、闇・・・・・・・。 『何処だ・・・・・・?』 ************  リベンジャー  第80話「風の四刀流」 ************ 『そうだ・・・・・・確か俺は・・・・・・』 カゼマルは失いそうになった記憶を掘り起こした。 スタジアムで行われたポケモンリーグ決勝戦。 その戦いの最中、自分はジンのカイリキー、ジーキと戦うことになった。 お互いに間合いを取って、そして突然悪寒に襲われて・・・・・・・。 気がついたらここにいた。 『何だ・・・・・・・・?』 不意に、彼の前に不思議な場面が現れた。 まるでテレビのように真四角な、見たことも無い映像。 その映像は、不気味だった。 血を流し、地に倒れ伏せている、無数の人間とポケモン。 無残に斬り裂かれ、絶命している彼らの真ん中に、1匹の紅のポケモンがいた。 そのポケモンの姿を見て、カゼマルは言葉を失った。 ポケモンは背中を見せていて、顔を見ることは出来なかった。 が、その独特の紅いボディを見れば、すぐにその正体を見極めることが出来た。 『ハッサム・・・・・・・』 映像の中のハッサムは見渡す限り人間とポケモンの遺体だらけの世界を一瞥し、彼はため息をつき、そして呟いた。 『退屈だ・・・・・・・』 『アレは・・・・・・・・俺なのか・・・・・!?』 いや・・・・・・・そんなハズは無い。 俺はハッサムに進化してから、ずっとカイと共にいた。 記憶が途切れたことは無い。 では、この映像は一体・・・・・・・・。 「殺して・・・・・・・やる・・・・・・・俺は・・・ま・・・・・・だ・・・・・・・・死なない・・・・・・」 遺体だらけの野原の中から、1人の人間が這い出てきた。 腹に大きな切り傷のあるその人間は苦悶の表情を浮かべながら、重い足取りでハッサムに近づいていく。 その姿は、墓地から這い出たゾンビの様。 ハッサムはその人間に目もくれない。 カゼマルは、無意識にその光景をじっと見詰めていた。 人間はうめく。 「お前・・・・・・・にはいつ・・・・・か・・・・・・・・天罰が・・・・・・・下る・・・・・・。  いつか・・・・・・・・きっと災いが降りかかる・・・・・・・」 人間は一呼吸置くと、 「裁かれろ・・・・・・・破壊王・・・・・・・ゼ」 ハッサムの一振りで、人間の身体崩れ落ちた。 ハッサムは動かなくなった人間を見下ろし、こう言った。 『俺は・・・・・・・・神の敵だ。神は俺を恐れる・・・・・・・神に俺を裁くことは出来ない・・・・・・』 その時、カゼマルの視界が真っ白になった。 『は・・・・・・!』 カゼマルは元の場所にいた。 湧き上がる歓声に包まれたスタジアムのフィールドで、カゼマルは立ち上がった。 「おいカゼマル!平気か!?」 カイの心配そうな声が聞こえてきたので、カゼマルは首だけ振り返り、コクリと頷いて見せた。 「審判。俺のカゼマルはまだ戦える・・・・・・・続けてくれ」 「では・・・・・・試合再開!」 長引けば、またいつ意識が無くなるは分からない・・・・・・・。 今度は身体自体の自由すら奪われる可能性だってある。 ここは・・・・・・・一気に攻める! カゼマルはギロリとジーキを睨む。 風が、吹いた。 カゼマルを中心に、風が回り始めた。 風はカゼマルのはさみに集められると、風の刀、風神剣を作り出す。 さらに風は羽と足にも集まっていき、それぞれを包み込む。 計6箇所に、風が鎧のように纏われた。 『“風神の鎧”』 『ほう・・・・・・なかなかのモンだ』 ジーキはいたって驚いたような仕草を見せない。 「カゼマル・・・・・・・?」 カイの呆けた声。 カゼマルは横目でカイを一瞥すると、力強く頷いた。 「一気に倒すってか・・・・・・?  理由は知らねぇが、その心意気、乗った!行くぜカゼマル!」 カゼマルが、ゆっくり地を蹴った・・・・・・・。 「風車輪!」 カゼマルの姿が消え失せると同時に地面が爆発したかと思うと、すぐさまジーキの右肩を激痛が襲った。 気配を感じ、振り返ってみれば、そこにはカゼマルの後姿が。 腕、羽、足に風を宿したその剣士は、ゆっくり振り返る。 『さて・・・・・・・・・面倒なことにならぬ内に・・・・・・・』 カゼマルが、片足を前に出し、 『我が四刀流の剣技、とくと見るがいい』 『・・・・・・・・・!!』 あせるジーキとは裏腹に、ジンはいたって冷静を保ち、 『ジーキ、怯むな。四連爆裂パンチ』 ジーキに静かに指示を出す。 ジーキの4つの拳が光り輝きだす。 走り出し、カゼマルを狙う。 「カゼマル・・・・・・・・行くぜ。四刀流!」 カゼマルが倒れるぐらい前傾姿勢になる。 両腕と両羽を出来る限り前に出し、ジーキを待つ。 後1歩でカゼマルが爆裂パンチの射的距離内に入るところで、ジーキは恐怖を感じた。 この異様な構えを取っているカゼマルに近づくことが、いかに危険なことか、すぐに知ることになる。 カゼマルが両腕と両羽を上半身ごと振り上げた。 すると、4本の風の刃が出現する。 カゼマルはさらに両腕両羽を振り下ろし・・・・・・。 「“双頭風牙”!!」 下から迫る4つの風の刃、上から迫る4本の紅の刃。 計8つの刃が迫る様は、2匹の獣がそれぞれ4つの牙を剥き出しにして襲い掛かる様子にそっくりだった。 瞬間的にガードするジーキ。 だが。 激しい風圧と共に8つの牙が襲い掛かり、ジーキは後方へ吹っ飛ばされた。 『グ・・・・・・。小賢しい・・・・・』 ジーキは舌打ちしながらカゼマルの行方を追った。 先ほどと同じように、カゼマルはジーキの背後にいた。 『風の中で踊るがいい』 再び、地面が爆発して・・・・・・。 瞬間的に移動したカゼマルの斬撃が、ジーキを襲った。 「カゼマルのやつ、一体どうやって移動してんだ・・・・・・!?」 カゼマルの高速移動術を見ながら、コウが呆然と呟く。 「ポケモンの限界を超えてるわよ・・・・・・・あんなデタラメなスピード・・・・」 ティナも呟く。 そんなか、ユウラはカゼマルの動きをよく監察する。 「多分アレは脚に宿した風を爆発させて移動している・・・・・・・。  その爆発の勢いを利用した技なんだ・・・・・!」 『クソ・・・・・・ちょこまかと・・・・・!』 ジーキは再び構えて攻撃しようとしているカゼマルを睨む。 が、やはりその主人であるジンはいたって冷静で、 「ジーキ、構えろ」 『!何か対策でも思いついたのか!?』 振り返り、腕組したまま無表情のジンを見て、ジーキは何かを感じ取った。 無言で、パンチを打てるよう構える。 「カゼマル!“双頭風牙”!!」 カイの指示で、カゼマルが再び前傾姿勢になる。 足を踏ん張り、足元の風が揺らぎ始め・・・・・・。 飛び出すと同時に、風が爆発した。 「“刹那の打撃”」 カゼマルの身体が、唐突に跳ね上がった。 丁度ジーキに攻撃がヒットする瞬間に、跳ね上がった。 『く・・・・・・』 カゼマルは空中で体制を立て直すと、受身を取り、着地する。 まだ“風神の鎧”は消えていない。 『見切りとリベンジを・・・・・・同時に・・・・・・』 カゼマルがうめくと、ジーキは冷静を取り戻し、鼻で笑う。 『よくぞ見切ったものだな、小僧。  あのスピードでリベンジを受け、立っていられるのもちとおかしな話だが』 ジーキはジンの指示で技を発動させたのも忘れ、すっかり得意になる。 「カゼマル!平気か!?」 カイが声を上げて訊いてきたので、カゼマルは軽く構えてまだ戦えることを意思表示する。 まだ戦える・・・・・・でもどうすっかな・・・・・・。 “風神の鎧”の高速移動を見切られちまったし、だとしたら・・・・・・。 「カゼマル!アレやるぞ!」 (アレ?・・・・・だと?) カイの言葉を、ジンは理解できないでいた。 カゼマルももうそれしかないと考えたのか、無言で頷く。 「何だ・・・・・・あの構えは・・・・」 『・・・・・・?』 ジンのジーキは、ただただ呆然となった。 カゼマルの構えが、実に妙だった。 前傾姿勢になり、右腕を真横に伸ばし、左腕をだらりと垂らす。 右羽を空に向けて直立させ、左羽を真横に伸ばす。 その姿を真正面から見れば、十字架そのものだ。 腕と羽は風を纏っている。 『風の十字架に斬り裂かれよ』 カゼマルは呪文のように呟く。 ジーキは顔だけ振り返り、ジンの様子をうかがう。 やはりジンもカゼマルの異様な構えに戸惑っているのか、カゼマルを探るような眼で睨んでいる。 「・・・・・・・・・・相手が十字なら」 ジンが呟く。 「ジーキ。“二重の十字架”」 ジーキが4本の腕を、上と下でそれぞれクロスさせる。 どうやらダブルでクロスチョップを放つようだ。 スタジアム内が、シンと静まった。 フィールドの真ん中で構えを取り、動かない2匹。 そのポケモン達に指示を出すトレーナー2人も、タイミングを計っている。 唐突に、2匹が地面を蹴り・・・・・・・・。 『くたばれ小僧!』 2匹が急接近したとき、ジーキが腕を振りかぶった。 いざ振り下ろそうとした、その時! 「今だカゼマル!」 カイの指示により、カゼマルは風を宿した両腕と両羽を、ぐるりと右回転させ、身体に密着させた。 振り下ろされたジーキのチョップが、襲い掛かる・・・・・・・・。 『“風車大回転”!!』 カゼマルの両腕と両羽が、勢いよく左回転した。 一瞬の攻防後、2匹は動かなかった。 互いに相手が立っていた場所に立ち、背を向け、技を放った姿勢で静止していた。 ジーキは4本の腕を振り切った状態で。 カゼマルは4本の刀を身体の後ろに回した状態で。 全く動かない2匹、観客達は無言で見守る。 いつもは五月蝿いコウとクロも、このときばかりは、黙っていた。 カイも、ジンも、何も喋らなかった。 観客の誰かが、アッと声を上げた。 カゼマルがよろめき、両膝をついたのだ。 同時にごふっと咳をして、今にも倒れそうになる。 『俺の勝ちだ、小僧』 ジーキが振り返り、勝ち誇った顔で言う。 だが、カゼマルは 『いや・・・・・・・違う』 と、苦しそうな声で否定する。 『何?』 『俺は1人では倒れない・・・・・・』 カゼマルが、虚ろな眼で呟いた。 『もう1度・・・・・・・・言っておこう・・・・・』 『風の中で・・・・・・・踊るがいい・・・・・・』 そう言い残し、カゼマルは倒れた。 「ハ、ハッサム戦闘不能!カイリキーの・・・・・・・」 審判の声が、そこで途切れた。とあるものを発見したからだ。 『!何だこれは・・・・・・・・』 ジーキは自分の周りで起こっている事態に目を疑う。 風が、回っていた。 ジーキの身体の周りを、先ほどまで起きてはいなかったはずの風が、吹いている。 穏やかに吹くその風の渦は、ジーキを監視するように纏わりつく。 ジンはその光景を、じっと見詰めた。 不意に、カゼマルの言葉が頭に浮かぶ。 風の中で踊るがいい。 「・・・・・・・・!!」 ジンは額から汗を流すと同時に、叫んだ。 「ジーキ!すぐそこから離れろ!トラップだ!」 時既に遅し――― 『グアアアアアァァァアアアア!!!』 ジーキの苦悶の声が、スタジアム内に響き渡った。 穏やかだったはずの風が、唐突に激しく回りだし、ついにはジーキの身体を持ち上げてしまったのだ。 渦上の風・・・・・・・つまり竜巻の中をその流れに沿って飛ばされていくジーキを、観客達は口をあんぐり開けたまま見上げていた。 さらに風はかまいたちと同じ性質のようで、舞い上がっていくジーキを縦横無尽に切り裂く。 しばらくそんな光景が続いて・・・・・・・・。 風がやみ、2,3秒立ってからジーキの身体が地面に落ちた。 その傷だらけの姿は、明らかに戦闘不能だった。  つづく  あとがき YAN「今回はどうだ?感想を述べよ」 コウ「オリジナル技が出まくりだな」 クロ「そして俺達の出番が少ねぇな」 YAN「まだ言ってんのか?今はカイとジンのバトルなんだから、出番無くたってしかたないだろ」 クロ「そうなんだけど、なんとなく心の中に不満が満ちるのは気のせいか?」 YAN「そう言うなよ。いいかクロ、お前はこの小説のマスコットキャラなおかつ悪の象徴なんだぞ?」 クロ「マスコットキャラはうなずいといてやるが、悪の象徴ってのは聞き捨てならねぇな」 コウ「悪タイプだからか?」 YAN「う〜む・・・・・・・・いや、ゲームでいう出現しにくい隠れキャラみたいな存在だ」 クロ「?どーゆー意味だ?」 YAN「かまってくれる人が少ない」 クロ「・・・・・・・悪の象徴と隠れキャラの繋がりは?」 YAN「特に無い。思いついたから言ってみただけ」 クロ「オイ(怒)」 ちなみに“風車大回転”の風車は“ふうしゃ”ではありません。 “かざぐるま”です。知っても特に意味はありませんが。