私はとんでもないものを生き返らせてしまったと、反省している。 いや、反省だけでは終わらせない。 私が生み出した正義のミュウツー、エデンが私の罪を打ち滅ぼすだろう。 どうか一刻も早く、あの危険因子を消して欲しい。 ここまで書かれた事は、全て事実である。             ジェド博士が残した日記 最後のページより *************  リベンジャー  第84話「悪夢の始まり」 ************* 私は可能性を見つけた。 その日、島の漂着した謎のポケモン。 長い尻尾を持つ小さなポケモン。 その姿は、真っ黒だった。 私はその日、島に漂着した幻のポケモン、黒い“ミュウ”を回収した。 植物状態のミュウは、殆ど死にかけていた。 このミュウを助ける手立ては無いかと、私は考えた。 そこで私は一石二鳥な考えを思いついた。 このミュウは頬って置けば、確実にこのまま衰弱し、死に至るだろう。 ミュウを助けるには・・・・・・・・・。 遺伝子操作により、ミュウ自体の身体を作りかえるほかない。 その遺伝子操作よって戦闘能力を爆発的に高めることができれば、世に巣くう悪の組織、ロケット団を壊滅させることが出来るかもしれない。 だが、遺伝子操作などしてミュウは大丈夫だろうか。 いや、私の直感は、こう言っている。 遺伝子だけで失敗に終わったが、今度こそはと。 すべてのポケモンの遺伝子をもつミュウならば、きっと可能に違いないと。 「黒い・・・・・・・・ミュウ?」 ユウラの朗読を聞いて、カイは呆然と呟いた。 カイを始めとする他の者達も、呆然となっている。 が、そんな中、呆然とならない男が1人。 この中で一番のお気楽男。 「なァ・・・・・・・・・・ジェドって、誰だ?」 オイオイ・・・・・・・・・。 一同は軽蔑した眼でコウを見つめた。 半開きの口を無理やり動かしながら、カイはため息をつく。 「あのなァコウ・・・・・・・。この前教えたような記憶が俺の脳にちらほらしてるんだが・・・・・・・」 「いや、俺の脳にはちらほらすらしていない」 「お前の脳みそにさ・・・・・・・・アレだ。釘と金槌で無理やりしわ増やしていいか?  カツンカツンと。彫刻するように」 「そんなさりげなく危険すぎる発言は止めてくれ」 「あれ?」 次のページを開いたユウラだったが、そこで可笑しな点に気がついた。 「日付が飛んでる・・・・・・・」 「え?あ、ホントだ」 ティナが前のページを開いて日付を確認し、再び開いて日付を確認する。 ユウラの言うとおり、何日か日付が飛ばされていた。 「大体・・・・・・・一週間ってトコかな?」 この空白の一週間の間に起きた出来事は、とても恐ろしいものだった。 ミュウ本体を使った“ミュウツー計画”は、失敗に終わった。 確かにミュウツーという存在を作り出すことに成功した我々だが、他に問題点があった。 黒いミュウ、もとい、ヘヴンと名づけられたミュウツー・・・・・・・。 「ヘヴンだと!?」 エデンを筆頭に、カイとジンがノートに喰らい付く様に迫った。 思わず驚くユウラ。 3人とも信じられないという顔である。 「ヘヴンは元々は・・・・・・・・ミュウだった・・・・・・・・?」 カイのその言葉を、ジンとエデンは信じられなかった。 黒いミュウ、もとい、ヘヴンと名づけられたミュウツーは、その場で反乱を起こした。 植物状態から復活した直後で、殆ど体力は回復していない状態なのにも関わらず、ヘヴンを力は凄まじかった。 ヤツの視線は敵の戦意を喪失させ、そのエネルギーは全てを微塵に吹き飛ばす。 「何で僕が君たちのために戦わなきゃならないんだい?  やっと現世に戻れたんだ。じっとしてられないよ」 ヘヴンのその言葉を、私は今でも覚えている。 凍りつくような、それでいて意味深きその言葉を。 何処かへ飛んでいくヘヴンの後姿を、我々はただ見送ることしか出来なかった。 ノートから目を離した一行は、考え込む。 今の文章には、意味不明な文句が書かれていた。 そう、ヘヴンのセリフの中に・・・・・・・・・。 やっと現世に戻れた? これはどうゆう意味なのだろうか。 見当もつかないそのセリフが、頭の中で木霊する。 カイは自分の心が、何もない白い海を漂っているような気がした。 それからノートの日付が大きく飛んだ。 あまりいい気はしなかった。 ミュウの遺伝子を、敵対するべき組織から買うことなど。 奴らは殆ど押し付ける形で、それを買わせようとした。 最初は拒んだ。が、やはり買った。 今度こそ成功させようとした。 昔の失敗は繰り返さない。 私には秘策があった。 今のままでは、いずれヘヴンは大きな惨事を引き起こすに違いない。 それを止めることが出来るのは、彼と同じ力を持ったポケモンしかいない。 私は残されたヘヴンの遺伝子と新たなミュウの遺伝子を合成させること決意した。 そして誕生した。 悪の力と幻の力の集合体。 希望という名の光を宿した、正義の心をもつミュウツー。 ミュウツー、エデンを。 私はとんでもないものを生き返らせてしまったと反省している。 いや、反省だけでは終わらせない。 私が生み出した正義のミュウツー、エデンが私の罪を打ち滅ぼすだろう。 どうか一刻も早く、あの危険因子を消して欲しい。 ここまで書かれた事は、全て事実である。 ユウラが読みえ終えたとき、その場にいた全員の顔が、硬直した。 「・・・・・・・・心の整理は、ついたか?」 「・・・・・・・・・」 カイの問いに、エデンは地平線のかなたまで広がる海を見つめたまま、動かなかった。 ホエルコとホエルオーの潮吹きを見ても何の反応も示さないエデンに対し、カイは何も言えなかった。 自分は一体誰なのか、今回、初めてハッキリした。 それと同時に、何故ジェド博士が自分の出生について何も語ってくれなかったのかも、理解した。 自分はヘヴンの力の片割れなのだ。 倒すべき敵から受け継いだ力をもつ、呪われた存在なのだ。 悪魔の・・・・・・・・・側近のようなものだ。 「カイ・・・・・」 「ん?」 「私が・・・・・・・・・悪魔に見えるか?」 「・・・・・・・・・いや、見えねぇ。  お前は悪魔なんかじゃねぇよ」 「・・・・・・・・・・」 「お前は・・・・・・・・俺達の仲間さ。  それ以外の何者でもねぇ。もっと気楽に考えな」 仲間という言葉が、エデンの心に染み付いた。 一同の元に戻ってきたエデン。 まだ何か考えているような、難しい表情で。 「・・・・・・・それは?」 ユウラの手の上にある、先ほどとは違うノート。 こちらのほうがはるかに古ぼけており、中の文字が読めるかどうか不安である。 カイがそのノートを指差し、 「コウが髑髏シュートしたらまた瓦礫から飛び出したんだよ」 意味不明、なおかつ不思議なシュートである。 ノートはかなりボロボロで、殆どのページが破りとられていた。 私の野望は、幻想に過ぎなかったのだ。 あの“破壊兵器”も、今考えれば一体なんの役に立つのだろうと、思わず笑いたくなる。 世界征服というバカげた野望を胸に作り上げた、生物兵器“カオス”。 ミュウの遺伝子のみから作り出したカオスは、不完全だった。 暴走するヤツを私はマスターボールに封じ込め、破壊兵器と共に地下深くに封印した。 破壊兵器も、カオスも、私の野望・・・・・・・・・それをかたどったものに過ぎなかった。 「・・・・・・・なにやら面白げな単語がいくつか出てきた気がする」 顎に手を当てて探偵風に考えるコウ。 「・・・・・・・・・・」 エデンが、その目を細くした。 ジェド博士が、過去に世界征服を目論んでいた・・・・・・・・・? 「エデン、あんまいろんなこと考え過ぎんな」 カイは考え込むエデンに顔を向けながら、続ける。 「このノートにゃなんかあぶなそうな文句があったが・・・・・・・。  俺達に行き先を示してくれた」 「地下・・・・・・・・」 「お、よくわかってんじゃねぇか、ティナ」 「そ、そのぐらいわかるわよ!」 「のわう!?」 「うおっ!?」 コウの声と、クロの声が重なった。 再び髑髏サッカーを始めた1人と1匹だったが、不意にコウが何かにつまずいたのだ。 打った顔面を抑えながら、コウが鬼の如き形相で振り返る。 「クオラァ!何処にどいつだ俺の足を引っ掛けやがったバカ瓦礫が!」 と、命のないものに対し怒声を上げるコウ。 自分の足を引っ掛けたと思われるものを発見する。 「・・・・・・・なんだこりゃ」 それは、何かの取っ手だった。 ドアノブとは少し違う、ただU文字型に鉄棒を曲げただけの、粗末な取っ手。 地面から突き出たそれを囲む一同だが、一体なんの取っ手か分からない。 が、すぐに見当がついた。 これから自分達はこの島の地下へ行かなければならない。 だとすると、この不思議な取っ手の正体は・・・・・・・。 「やはり・・・・・・・・な・・・・・・・」 ジンがとっての周りに被った砂を脚で払いのける。 砂の下から現れたのは、古ぼけた鉄板だった。 そう、地下への扉である。 「なっはっはっは!さっすが俺様!皆がいくら探しても見つからない物を一発で・・・・・・」 「まだ探してないんだけど」 左手を腰に、右手を天に向けて大威張りのコウだったが、ユウラのツッコミにより、黙り込む。 「うし、では早速・・・・・・・・」 カイがしゃがみこみ、両手を手で掴み、そして・・・・・・・・・。 「うおりゃああ!!」 全力で引っ張った・・・・・・・・・が。 「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・・」 「・・・・・ねぇ、あんた本気で引っ張ってんの?」 額から汗を流して尻もちをつくカイに、ティナの厳しい言葉が飛ぶ。 「オイ・・・・・・・言っとくけど、この扉、並みの重さじゃねぇぞ」 「・・・・・・・よっしゃあ!次は俺だ!」 と、張り切ってコウも挑戦するが、全く扉は動かない。 (・・・・・・・・動きすらしない・・・・・か・・・・・・) 汗だくの2人を見て、ジンが動いた。 荷物をキキに預け、取っ手の前に立ち、そして・・・・・・・。 「オオオオオ!!」 ヘルガーの姿へと偽獣する。 二足歩行・・・・・・・人闘の構えの状態で取っ手を掴み、それを全力で引っ張る。 ガコ・・・・・・。 かすかだが、扉が浮いた。 ほんの2,3cmだが。 「おおっ!そのまま開けろ!」 コウの声援が飛ぶが、扉の動きはそこで止まってしまい、そして・・・・・・。 「ク・・・・・・もう・・・・・・ダメ・・・・・・だ・・・・・・」 ジンが取っ手を放した。 扉が重々しい音と共に砂埃を舞い上げながら、再び閉じられた。 「なんだよジン〜・・・・・・・お前開けたんならそのまま開けろよな〜」 「・・・・・・・・・」 コウの野次を無視して、ジンは考え込む。 「偽獣でもムリか・・・・・・・・。・・・・・・・よし」 ジンがボールの1つの放った。 中から現れたのは、ジンのカイリキー、ジーキ。 ジンとジーキが取っ手を掴み、再挑戦する。 すると・・・・・・。 再び扉が持ち上がったのだ。 しかも今度は止まらずにそのまま持ち上がっていく。 ある程度持ち上げると、ジンとジーキは扉の内側に手を滑り込ませ、再び持ち上げる。 一同が見守る中、扉は完全に開いた。 カイが覗き込むと、そこには地下へと続く階段があった。 暗く、全てを吸い込みそうな大口を開けた、不気味な階段。 「さ〜て、何が出るかな?」 カイは腕組しながら、少しばかり、楽しんでいるようにも見えた。 ニヤニヤしながら、階段を覗き込む。 「う〜ん・・・・・・・・ちっと暗いな、こりゃ。  うし!おい髑髏サッカー選手!」 「・・・・・・・なんか嬉しくねぇな、その呼び名」 後頭部をボリボリ掻きながら、コウが気だるそうに歩いてくる。 「こん中さ、結構暗いんだ。  んで、俺のライラとお前のエレクでフラッシュすっぞ」 「キキ・・・・・・・・・・お前はここに残ってもいいぞ。  さっきの日記からして、この中には・・・・・・・・・」 ジンは偽獣を解き、ジーキをボールに戻しながら、キキに問う。 出来ればキキを危険な目に合わせたくない。 いつもは足手まとい扱いして着いて来ることを拒んだ。 それもすべて、キキの安全を祈願しての行動だった。 「いや。私も行く」 キキはキリッとした表情で、否定した。 「私・・・・・・・・自分を変えたいから!  いつまでも守られてるのはいや!」 6人と、4匹。 彼らは開いた扉の前で、階段を睨む。 「・・・・・・・・」 「エデン?」 エデンはその手に2冊のノート・・・・・・・ジェド博士の日記があった。 ユウラが何故それを持っているのか聞く前に、事は起こった。 ノートが、燃え上がった。 驚く一行を他所に、エデンは燃え上がるノートを放り捨てた。 地に落ちた2冊のノートは、着々と黒く染まっていく。 「真実を知るは・・・・・・・・我々だけで十分だ」  つづく  あとがき ティナ「・・・・・・・・・・」 YAN「ふっふっふっふ・・・・・・・・ついに来たな、二番目の生贄よってなんで驚かない?」 ティナ「もうカイに聞いてるわよ・・・・・・・レギュラー全員をここに呼んであとがきトークするんでしょ?」 YAN「おおっ!察しがいいな!」 ティナ「ていうかさ、さっき生贄がどうとか言ってなかった?」 YAN「ん?空耳よ空耳!人生には付き物だ!」 ティナ「はぁ・・・・・・・・」 ティナ「私から言わせてもらうと」 YAN「ふんふん」 ティナ「今回、メチャクチャつまんないわね」 YAN「(ギクゥッ!)バ、バカ野郎!物事にはな!前フリってヤツが必要なんだ!    アチャモがワカシャモに進化せずに突然バシャーモに進化したら恐いだろ!」 ティナ「まァ確かにあの小鳥があんな炎の格闘王みたいなヤツになったら恐いわね」 YAN「ココドラがコドラに進化せずにボスゴドラに進化したら恐いだろ!?」 ティナ「まァ・・・・・・・」 YAN「タツベイがコモルーに進化せずにボーマンダに・・・・・・・」 ティナ「もういいわよっ!(怒)」