「痛っ!」 ユウラがいきなり声を上げた。 振り返り、目に涙をうっすら浮かべながら、怒鳴る。 「ちょっとコウ!足踏まないでよ!」 「仕方ねぇだろ!このクソ暗い場所で足元見えるかってんだ!」 ************  リベンジャー  第85話「強行突破!」 ************ 彼らが歩くのは、薄暗い地下通路。 大勢で歩いても余裕のある大きな通路だ。 金属質な足音が響き渡っていることから、この床は鉄製のようだ。 ライチュウのフラッシュを頼りに、一同は進み続ける。 「ライラ、つらくなったら言えよ。  エレク、そん時ゃ変わってやれ」 「チュウ」 「ブル」 先頭を歩くカイのライチュウ、ライラは振り返らず返事をする。 コウのエレブー、エレクは自分の主人に言われたわけでもないのに、返答する。 エレクは歩きながら振り返り、ユウラに殴られた頭を摩っているコウを一瞥した。 エレクは正直な話、自分の主人はバカだと思っている。 「なんか・・・・・・・・でそうだよね・・・・・・」 「墓場じゃあるまいし、何にも出ねぇよ、心配すんな」 カイのすぐ後ろで片を縮ませてついてくる茶髪の少女、ティナ。 ティナはびくびくしながら辺りをきょろきょろする。 「そーいやお前、暗所恐怖症だっけか?  ついでに幽霊とかの類も苦手」 「そ、そうよ!悪い!?」 「何キレてんだ・・・・・・・?」 「・・・・・・・何も感じないな・・・・・・」 「?何がだ」 ボソリと呟くエデンを、ジンは横目で訊いた。 「もしかすればヘヴンもここにいるんじゃないかと思ったんだが・・・・・・期待外れだった」 「わかるのか?ヘヴンが近くにいれば・・・・・・・その場所とか」 「まァ・・・・・・・だいたいの場所は・・・・・・・な・・・・・・」 「キキちゃ〜ん!ユウラがいじめる〜!」 「うわっ・・・・・・・」 思わず殴りたくなるぐらい気持ち悪い顔でキキに迫るコウ。 が、前代未聞のキモイ顔もジンの裏拳にて撃沈。 壁に顔面をぶつけたコウが、崩れ落ちる。 ・・・・・・・・刹那。 ピッ! その妙な電子音が聞こえたのは、コウの顔面が壁にヒットした瞬間と同時だった。 危険を察知し、ザッと身構える一同。 「エレク!フラッシュ!」 ぶっ倒れて動かない主人の無視して、エレクはカイの指示に従った。 眩い閃光が迸り、通路の前後を照らす・・・・・・・。 が、何も起きなかった。 カイは不信に思いながら、辺りを見渡した。 すると、興味を引く点を発見した。 昏倒しているコウのすぐ横の壁が、開いていた。 いや、正確にはそこは扉だったというべきだろう。 壁にはなにやら小さなモニターがあった。 小さなモニターが緑色の光を放っている。 どうやらコウの顔面がモニターにヒットし、扉を開けてしまったのだろう。 注意しながら、一同は部屋に侵入した。 ライラとエレクのフラッシュで照らされた部屋には、大きなモニターがあった。 「何この部屋・・・・・・」 ティナはライラを引き連れて部屋の中を物色する。 「まったく・・・・・・・とっとと目ェ覚ましなよ!」 現在も昏倒中で動かないコウの足を掴み、ずるずると引きずって部屋に入るユウラ。 扉をくぐる際なにやらゴンという奇妙な打撃音が聞こえたが、とりあえず放っておく。 彼女は知らなかった。 目を覚ましかけていたコウが、扉の下にある床の出っ張りに後頭部をぶつけ、再び気絶していたことに・・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・?」 「?どーした?エデン」 エデンが急に顔をしかめ始めたのに気付いたカイ。 エデンは低く項垂れながら、呟く。 「感じる・・・・・・」 「ヘヴンか?」 ジンの問いに、エデンは首を振る。 「違う・・・・・・・他の・・・・・・・何か・・・・・・・・」 「他の?」 「・・・・・・・・・・・・・」 何だこの不気味な感覚は・・・・・・・・・。 ヘヴンとはまた違う、殺気を宿した存在・・・・・・・・。 まさか・・・・・・・・・。 カオス・・・・・・・・・? 「うおおおおっ!」 「あ、復活した」 突然起き上がり叫び声を上げるコウを、ユウラは面白そうに見つめた。 顔面を打っておかしくなったのだろうか。 いや、多分後頭部の間違いだろう。 「いや〜何か突然後頭部に奇妙な打撃を感じて気絶しちまった俺!  恐らく、その犯人は!」 「俺だ」 「キメる前に自首すんなっ!」 ポーカーフェイスで自首するジンに、コウがくってかかる。 恐らく、ジンは自分のやったことを罪だとは思っていないだろう。 実際に罪ではないのだが。 「こんのヤロ〜!相変わらずスカしたヤツだなオイ!  その性格なんとかなんねぇのか!?」 「生まれつきだ。  俺としても貴様の性格・・・・・・・・というよりも、貴様の存在が気に食わん」 「ああっ!?そりゃオメェ俺にケンカ売ってんのか!?」 「売ってるのは貴様だろう。  まァどっちにしろ、俺は貴様に負ける気はない。  なんなら今すぐお前の喉元を噛み切ってやろうか?」 「・・・・・・・・・いや、テメェが言うとシャレにならねぇからヤメロ」 口喧嘩が終了した所で、コウははじめて部屋の中をじっくり見渡した。 「で、ここドコだ?」 「遅ぇ質問だな」 後頭部を摩りながら辺りを見渡すコウ。 カイはとりあえず、状況を説明してやる。 「ほほう・・・・・・・つまりだ、俺のおかげでこの部屋を発見できたわけだな」 「まァそうなるな。この部屋自体に意味があったらの話だが。  ところで話が変わるんだが、ティナよ、そろそろ離してくれ。動きにくい」 「・・・・・・・・・・・・え?」 このときになって初めて、ティナはカイの服をずっと引っ張っていることに気がついた。 慌てて手を離すティナだが、すぐに顔が真っ赤になる。 「いや〜・・・・・・・・あはは・・・・・・。  ホラ、私ってアレだから・・・・・・・」 「暗所恐怖症及び幽霊恐怖症」 うっと息が詰まるティナ。 コレを言われると、何も言えなくなるのがティナの悩みだった。 そんな光景を、キキは羨ましそうに見つめていた。 「ん〜・・・・・・・しっかしなァ、この部屋、何にもねぇなオイ。  これじゃあ俺の手柄ゼロじゃねぇか」 そうぶつくさ言いながら、コウは不服そうな顔で壁にもたれかかった。 ・・・・・・・・・刹那。 ガシャンッ! 「おわっ!?」 奇怪な音と共に、コウが背中から崩れ落ちた。 それと同時に、部屋の中が光に満ち溢れた。 部屋の天井に設置された電球が、光を放っている。 コウがもたれかかるはずだった壁に目をやるジン。 そこには、何かのレバーがあった。 次に電球に目をやり、呟く。 「・・・・・・・・・・・非常電源か」 光の代わりを見つけたことになるので、ライラとエレクはボールに戻された。 「なんだこれ・・・・・・・・」 カイは部屋内に取り付けられたモニターを見上げたまま、呟いた。 部屋に初めて入ったときには何も映し出されていなかったモニターに、謎の図面が映し出されてた。 上からB1、B2、B3という数字が表示され、各数字の横には細い横長の図面。 図面は所々大きく四角い空間が設けられている。 そしてB3の横の図面に一番端だけ、他の大きな空間と比べてかなり大きい。 「ここの・・・・・・・・・地下の図面か」 「で、ありゃ何だ?」 コウが指差した場所。 四角い空間の所に書かれた、不思議な文字。 B1の文字、J1。 B2の文字、J2。 B3の文字、J3。 「暗号?」 ティナがとりあえず思いついた言葉を口にする。 「・・・・・・・ぽくないよね」 ユウラに言われて、ティナは口を閉ざした。 「ほ〜、あの電源、この施設全体に効いてんのか」 モニターの部屋を出た一同。 再び廊下に繰り出したのだが、フラッシュを使う必要はなかった。 あの部屋の電灯が灯ったように、廊下も光で満ちている。 先ほどは分からなかったが、壁、天上、床、ずべてが金属で出来ている。 「ティナよかったな。暗くもねぇしちょっと幽霊も出そうな雰囲気も消えたし」 「うん・・・・・・・・まァ・・・・・・・」 「?どした?」 そのときになって初めて、カイはティナがかすかに震えていることに気がついた。 自分自身を抱え込むように腕をまわし、俯き、震えている。 「寒いのか?風邪か?」 「ううん・・・・・・・・・そんなんじゃなくて・・・・・・・。  別に寒いわけでもないし、身体がだるかったり、そーゆーのじゃなくて・・・・・・」 「?」 「嫌な予感・・・・・・・ていうのかな。  何か・・・・・・・・不安で胸が一杯になっちゃって・・・・・・・・」 「なんだよティナらしくねぇ。  気のせいだよ、気のせい!」 「うん・・・・・・・そだね・・・・・・多分・・・・・・・」 「止まれ」 後方から聞こえたジンの言葉で、一同は足を止めた。 「どーした?便所か?」 「妙な音が・・・・・・・・聞こえた」 「水流?」 「黙れ、殺すぞ」 場違いなセリフを吐くコウを睨んだ後、ジンが続ける。 「妙な足音と、さらに奇怪な機械のような音・・・・・・・・」  前方から聞こえた・・・・・・・・・・」 「?」 全員の眼が前方を向いた。 数m程行った所に、機械的な扉が見える。 「何も聞こえねぇぞ?」 「いや、確かに聞こえた」 扉の前まで来た一同。 カイは扉に聞き耳を立てるが、特に何も聞こえない。 「確かこの先は・・・・・・・・多分、大きな広間になってるはずだよ」 ユウラが先ほどのモニターの映像を思い出しながら言う。 「・・・・・・・それで、このドア、どうやって開けるんですか?」 キキの疑問に対し、答えられる者はいなかった。 機械の扉には取っ手の様な物はなく、先ほどの扉にようにモニターも無い。 「下がっていろ」 困り果てた一同を間を通り抜け、前へ出たのはエデンだった。 エデンの細く白い左腕が、開かずの扉に触れる。 「開かないのなら壊せばいい・・・・・・・・それだけのことだ」 その言葉でエデンが何をやろうとしているか察知した一同は、速やかに後方へ非難した。 エデンの右腕が怪しい紫色の光を放ち始める。 そして、ボソリと呟いた。 「“エクスプローション”」 小さな爆発が発生した。 それでも威力は絶大で、機械の扉を微塵に吹き飛ばした。 少量の白煙が視界を邪魔する。 「ヒュウ♪派手に吹っ飛ばしたなオイ」 コウが口笛をはさみながら言う。 エデンがその広間に一歩を踏み入れる。 白煙が消えていく・・・・・・・・。 !!? 眼前に広がる光景を見て、彼らは固まった。 確かの、そこは広間だった。 そこに、先客がいた。 ガシャンという特徴的な足音を立て、一番前にいた先客が、その不気味な赤い眼でこちらを見ていた。 その身体も特徴的だ。 タマゴ型の白いボディにつけられた、赤いカメラアイ。 これまたタマゴ型の足につけられた、2本の黒いツメ。 タマゴ型の肩、それから黒いチューブのような腕が伸びている。 さらのその手はタマゴを半分に切ったような形。 本来なら黄身が見えるはずの場所を、彼らは両手ともこちらに向けていた。 黄身は無い。 周りに3本の黒いツメが伸び、黄身がある場所は、赤いガラスで出来ていた。 その赤いガラスが、怪しく光っている。 赤いカメラアイも、怪しく光る。 「退け!」 エデンが危険を察知し、そう叫んだときには・・・・・・・・・。 赤いガラスからエネルギー弾が発射されていた。 「ディフェンスウォール!」 エデンが右腕から作り出した壁、ディフェンスウォールの後ろに隠れた一同。 屈強な力を持つ念の壁はエネルギー弾を打ち消していく。 半透明な壁の後ろで、カイは謎の機械軍団を見つめる。 掌ともいえる場所から無数の光弾を乱射し続ける謎の機械軍団。 機械軍団は部屋の半分を占める数で、その最前列にいる機械たちが光弾を発射している。 「ちょ、ちょっとカイ。アレ・・・・・・」 ティナが指差した箇所を、カイは目を凝らして見つめた。 ティナの指が指す場所、機械の肩に書かれた文字・・・・・・・・・。 J1。 「とりあえず・・・・・・・・どうでもいいさ。  今はこいつらをどうするかが問題だ。  エデン、その壁、いつまでもつ?」 「まだまだいける」 「うし、じゃちょっと作戦会議を・・・・・・・」 「そんな必要は無い」 「ジン?」 ジンはカイを押しのけ、前へ出る。 未だに撃ち続ける機械軍団をギロリと睨む。 「カイ、コウ。  お前達のゴルダックとフーディンが作る壁で、その場凌ぎ出来るだろう」 「へ?」 気の抜けた返事をする2人。 ジンはかまわず続ける。 「カイ、カゼマルを出せ」 壁で攻撃を防ぎ続けるエデンの後ろに、ジンが指定したポケモン達が揃った。 ゴルダックのクーラル、フーディンのディン、ハッサムのカゼマル。 「あの機械どもを実際に相手するのは、3人。  俺とカゼマル、そしてエデンだ。  エデンの代わりになるのが、クーラルとディン。  俺たちが奴らを片付け終わるまで、カイ達を守っていろ」 ジンは作戦内容を伝えると、荷物と上着をキキに預ける。 慣れた手つきで偽獣し、ヘルガーの姿に変身する。 「行くぞ」 エデンが壁を解くと同時に、ジン、カゼマル、エデンが飛び出した。 代わって、クーラルとディンが壁を張る。 ジンたちはこのまま速攻をかけるつもりだったが、立ち止まってしまった。 機械たちの動きが止まったのだ。 光弾の乱射を止め、腕を下ろし、そのまま動かない。 状況が変わると素早く動けないのか、彼らのカメラアイは忙しくぎょろぎょろ動いている。 カメラアイの動きが止まり、再び手砲をこちらに向ける。 「随分と鈍感らしい」 『・・・・・・・・・・』 「フン・・・・・・・・」 彼らは一呼吸置くと、声をそろえて、こう言い放った。 「かかって来い。1分でスクラップにしてくれる!!」  つづく  あとがき ユウラ「前フリ長すぎよ、コレ」 YAN「うおおっ!?いきなり失礼だな!」 ユウラ「どーでもいいでしょ。それにしてもやっと前フリ終了したの?」 YAN「おう、やっとバトルに突入ってなんかお前、スゴイな」 ユウラ「は?何が?」 YAN「レギュラー全員をあとがきトークに呼び始めて、ビックリしなかったのはお前が初めて・・・・・・・」 ユウラ「いっつもコウとクロに騒がれてるからこのぐらい驚かないわよ」 YAN「そうそう、最近どうだ」 ユウラ「何が?」 YAN「コウとの関係は」 ユウラ「う、うっさいわね!あんたが関与することじゃないでしょ!」