こちらを覗く、機械の仮面の奥深く。 その瞳が、青い・・・・・・・それでいて、不気味な光を漏らす。 その不気味な存在に逸早く気付いたポケモンが、一匹。 ミュウツー、エデンである。 彼はそいつの存在を認めるやいなや、叫んだ。 「上だっ!!」 *************  リベンジャー  第87話「1匹目の魔人」 ************* 彼の行動、そしてその叫びの意味はわからない。 ただ、自分達に危険が迫っていることは理解できた彼らは、すぐさまその場から後ろへ飛び退いた。 自分達がいた場所・・・・・・・壊れたマスターボールが置かれた台座を踏み潰すかのように、アイツは降ってきた。 巨大なミサイルを安置するほどの大きさの部屋の中で、彼はど真ん中に立っていた。 「これは・・・・・・・!?」 誰がそう叫んだのかわからない。 ただ誰であっても、そのセリフはおかしくなかった。 全身を鎧のように機械を覆った、人型のソイツ。 身長約2m。彼の肌が露出しているのは関節部分だけ。 その色は、白。 頭部を覆う仮面のような機械の、眼に当たる部分。その奥で、青い光が漏れていた。 腕、足、そして頭部の機械から謎のコードがいく本も伸び、その全てが背中に集められているように見える。正面から見ているため本当に背中に伸びているかは分からない。 そして、彼の正体がわかったのは、次にあげる2つの特徴から。 2本のツノ。そして、長い青色の尻尾。 色は違えど、コウたちはこのポケモンについてよく知っている。 そう、今も横にいるのだから・・・・・・・。 機械の鎧を装備したポケモン、遺伝子ポケモン・ミュウツーが、彼らの前に降臨した。 「力量計算中・・・・・・・」 ミュウツーの無機質な呟きで、やっと彼らは我に帰った。 「あいつは・・・・・・一体・・・・・・!?」 コウの呆然とした呟きが、部屋の中に響いた。 「話の全てが見えた」 エデンが一歩、前へ踏み出る。 ミュウツーがいぜん、なにやらブツブツ呟いている。 「このミュウツーとその奥に見えるミサイルが、2つの兵器。  そして、マスターボールに封じられていたはずのこのミュウツーを、ヘヴンが開放した」 「え・・・・・・・それじゃあ!」 「ああ・・・・・・・」 ユウラの声に、エデンが頷く。 「ヘヴンのプレゼントとは、封じられしミュウツー・・・・・・・カオスだ」 「計算終了」 エデンとはまた違う、無機質なカオスの言葉。 カオスの目線が、一番左にいたティナへと伸びた。 「危険レベルB」 次にユウラ。「危険レベルB」 次にキキ。「危険レベルB」 さらにコウ。「危険レベルA」 そしてジン。「危険レベルS」 最後にエデン。「危険レベルS。レベルSヲ優先シテ排除スル」 「皆下がれ!」 エデンが左腕に紫の炎を灯し、飛び出す。 「やつの動きをよく見ていろ!」 エデンの左腕が、カオスへとの伸びた。 紫の炎が、少しだけ揺らぎ、球体へと姿を変える。 「その力、見せてもらう!」 紫の球体、シャドーボールが真っ直ぐにカオスへと伸びる。 そして、呆気なくカオスにヒットした。 「―――!?」 カオスの体が飛び、空中に弧を描く。 抵抗することなく、床へと叩きつけられた。 「・・・・・・・・・」 エデンの警戒心が解かれることはない。 だがはやり拍子抜けしたのか、眼を見開いて呆然となっている。 「呆気ない・・・・・・・?」 カオスがゆっくりと、まるで操り人形と同じ糸でつるされているかのように、手足を使わず、起き上がる。 カオスの青い眼が、また仮面の奥深くで輝き、 「損傷率0,03%。身体ニ異常ナシ。攻撃ヲ開始スル」 「殆ど・・・・・・・効いていない!?」 ジンが驚きの声を上げる。 「バッチリヒットしたはずだぜ!ガードもしてねぇ!」 とコウ。 「いや・・・・・・・・・当たりはしたが、ガードされた」 攻撃した当の本人の呟き。 エデンの眼が、鋭くカオスを捉える。 「シャドーボールが当たる瞬間、強力な壁を作り出してガードした。  その衝撃で体が吹っ飛び、床に着地する瞬間も背中に壁を張ってダメージを軽減した」 カオスの右腕が、ゆっくりとこちらを向いた。 指先まで機械で覆われた不気味な腕。 再び、無機質な声が響いた。 「シャドーボール」 大砲のような発射音。 瞬時に避けたコウ達の間をすごいスピードでシャドーボールが飛んでいく。 壁にぶち当たると、シャドーボールが壁を蝕むかのように膨張し、壁の一部分をクレーターのように消失させた。 「キキ!ティナ!ユウラ!」 不意に女3人の耳に響くジンの声。 見ればジンが既に偽獣を終え、カオスに対して構えをとっていた。 「ヤツは危険すぎる!お前達は来た道を戻り、カイを助け、ここにつれて来い!」 その作戦に一同納得し、通路へと戻ろうとした―――が。 「ウソ・・・・・・・」 扉が、いつの間にか閉じられていた。 部屋に入ってから危なそうなミサイルやら壊れたマスターボールやら不気味なミュウツーまで出できたせいか、全く注意が行かなかった。 そして、結果がこの閉じられた扉。 「チッ!」 エデンがその事態に逸早く気付き、テレポートで扉の前まで来る。 開けたときと同じように扉に手を添え、サイコキネシスを送り込む・・・・・・・。 「開かない・・・・・・・・!?」 扉はうんともすんともいわなかった。 「排除スル」 「・・・・・・ッ!!」 ジンに向けて放たれた無数のシャドーボール。 漆黒の球体の雨をするりと避けきり、一気にカオスとの距離を詰める。 機械で覆われたカオスの両肩を強引に掴み、そのまま押し倒そうとする・・・・・・がしかし。 「・・・・・ッ!ク・・・・・・」 カオスは微動だにせず、体中からサイコキネシスを放った。 ヘルガーの体と同時に悪タイプの体のはずのジンが、サイコキネシスで吹き飛ばされそうになる。 腕に力を込め、離れるもんかと頑張るジン。 「我ハじぇど博士ニ命ヲ受ケシ者・・・・・・・」 「・・・・・・・!?」 「コノ危険地区ヲ荒ラス者、全力ヲ持ッテ排除スル」 「ジン!離れろォ!!」 どっかのバカの声が響いたと同時に、ジンは自らカオスを突き放した。 いつの間にかカオスの後ろへと潜り込んだのは・・・・・・・コウ。 「一発ブチかます!クレス!」 ボールから現れたのは、彼のヘラクロス、クレス。 いつものようにやる気満々なクレスが、その立派なツノをぶんぶん振り回す。 カオスが、ゆっくりとこちらを向いた。 「排除スル」 「させない・・・・・・!ランディ!」 ユウラが放ったボールから、彼女のウインディ、ランディが姿を現す。 出現すると同時に、砲口ともいえる口を開いてカオスに向けた。 「“ショックロア”!!」 ランディの口から放たれた、見えない砲弾。 相手を脅し、戦闘回避させる技、吼えるの強化版・・・・・・。 “音の衝撃波、ショックロア”。 その衝撃波も、カオスが作り出した壁に遮られる。 だが、それだけでよかった。 コウとクレスとは全く別方向にいるユウラとランディが攻撃したことにより、カオスの注意は完全にユウラとランディに向けられている。 今なら・・・・・・・・。 「クレス!“マグナムホーン”!!」 飛び出すと同時に、体を急速回転。 メガホーンの強化版、ギガホーンに回転を加えた、クレス最強の技・・・・・。 “弾丸を超えたツノ、マグナムホーン”。 「ウソ・・・・・・・だろ・・・・・!?」 その光景に、コウは愕然となった。 カオスは左腕で壁を作り、ランディの“ショックロア”を防御。そちらに顔を向けたまま、死角からの“マグナムホーン”を・・・・・・。 右腕だけで、角を掴んで見せた。 「ク・・・・・・ロ・・・・・・ッ!」 もはや回転すら止められ、ただツノを掴まれただけの状態のクレス。全力で引いたり押してみたりするが、カオスの力は凄まじかった。 「排除スル」 それは、その直後だった。ツノを掴む手が、赤く光りだしたのだ。 「―――!!戻れクレス!!」 間一髪入れず、コウがクレスをボールへと戻す。 何もなくなったカオスの手の中で、炎が燃え上がった。もし戻していなけば、クレスはあの炎の中へと消えていったに違いない。 「ボルク!火炎放射!!」 次なる攻撃者は、ティナ。 彼女のバクフーン、ボルクが真っ赤な業火を吐き出し、カオスを狙う。 が、その攻撃も壁に遮られ、消沈する。 カオスが作り出した、空色の壁に・・・・・・・・。 (え・・・・・・・?) その光景を見て、ユウラの脳裏に不安がよぎる。 もし、その予想が当たっていたら・・・・・・・・。 (マズイことになる・・・・・・・!) 「キャノン!」 その真意を確かめるべく、ユウラが繰り出した、カメックスのキャノン。 その二門の水砲が、カオスへと向けられた。 「“ハイドロバルカン”!!」 ハイドロポンプとは違う、水圧の雨。水弾の乱射攻撃“ハイドロバルカン”。 その攻撃さえも、カオスが作り出した壁に遮られた。 先ほどの空色ではなく、緑色の壁・・・・・・・・。 「みんな!聞いて!」 ユウラの声に、全員が耳を傾ける。 「カオスはあたしたちの攻撃に対して、“有利な属性を持つ壁”を作り出してる!だからいくら攻撃しても無駄なの!」 「え〜と・・・・・・・」 やはりこの男だけは分からなかったらしい。 次のモンスターボールを選ぶ手が止まった、コウだった。 「どゆこと?」 そんなコウを無視して、エデンが口を開ける。 「つまり、炎属性で攻撃すれば水属性の壁で対処し、水属性で攻撃すれば草属性の壁で防御している・・・・・・ということか」 「やっかいな・・・・・・・」 ジンの舌打ちも、次なるカオスの声で遮れられた。 「排除スル・・・・・・・・・全力ヲ持ッテ排除スル」 「ならばこうすればいい」 そう言って歩み出たのは、エデン。 その右腕に、不思議な黄色の炎と茶色の炎を宿して。 「異属性で同時攻撃すればいい」 不思議な炎を灯らせた右腕が、上から緩やかな弧を描いて床に叩きつけられた。 「“グランシャイニング”!!」 雷鳴が轟き、黄色い閃光が地を走る。 床を派手に破壊しながら、それはすごい勢いでカオスに炸裂した。 同時に煙が立ち込める。 煙に包まれたカオス。それをエデンは気を抜かずに見つける。 (頭もキレるな・・・・・・・。雷と地を同時に防ぐ属性が草だと瞬時に割り出し、実行したか・・・・・・・) 「―――!?」 まだ消えぬ煙から、機械で覆われた腕が抜き出てきた。 さらに腕、肩、頭部、そして胴の順に飛び出してきて、その腕がエデンを捉えた。 掌底がエデンの胸に炸裂し、さらに衝撃波でエデンを吹き飛ばす。 対処の暇もないうちに、壁へと吹き飛ばされた。 「・・・・・・っ!おいエデン!生きてっか!?」 コウの心配も虚しく、崩れた壁の破片の下敷きになったエデンは動かない。 いくらなんでも死んではいないはずだが、いざとなると不安になるのが人間だ。 「・・・・・・・・オイ!」 そのジンの言葉が一瞬誰の向けられた言葉かわからなかったが、女3人、自分達に向けられていることにようやく気付く。 部屋の隅で何とか巻き添えを回避しているティナたちに向けて、ジンが叫ぶ。 「ミサイルのデバイスの前にいろ!そこのほうが幾分か安全だ!」 確かにそこは部屋の隅にいるよりは安全だった。 そこは戦闘フィールドから少し階段を上った場所で、ミサイルを管理しているらしいコンピュータが並んだ場所。 そこを駆け上がって、とりあえず安全を確保しホッとする3人・・・・・・・・。 が、そこにあるもの見つけて、愕然となった。 デバイスの画面に表示された、不思議な数字。 それは、少しずつ少なくなっていく。 48:45、48:44、48:43・・・・・・・・。 何かのカウントダウンにも見えるこの表示。 突然こんなものがコンピュータに表示されたら普通は首を傾げるが、この状況だとすぐに見当がつく。 このカウントダウンが表示されたデバイスの奥には・・・・・・・・。 ミサイル。 「みんな聞いて!緊急事態なの!」 ユウラが台の上から、手すりに手をかけて叫ぶ。 アボ面でコウが、犬面でジンが、瓦礫から身を引きずり出したエデンが、不思議そうな顔をする。 そして、ユウラの口から思いがけない言葉が飛び出した。 「このミサイルのカウントダウンが始まってるの!早く止めないと発射しちゃう!」 「・・・・・・・っ!?」 3人の顔が、一瞬静止して・・・・・・・・。 コウの叫びが、沈黙を破った。 「何ィィィーーーーーーっ!!?」  つづく  あとがき YAN「あ〜・・・・・・・やっと全員とトーク終了したな」 クロ「いや・・・・・・・・終わってねぇだろ」 コウ「明らかにジンをスルーしたよな、お前」 YAN「だってさ、トークしたくないじゃんあんなクールなヤツ。テンションの熱も下がるわ」 コウ・クロ「・・・・・・・・・・・(汗)」 コウ「カオス&ミサイルか。ま〜たよくわからん状況作りやがってからに・・・・・・」 YAN「いいじゃん!おもしろいじゃん!」 クロ「主人公の出番が少なくなってきたぞ?どーゆーこった?」 YAN「ん?カイのことか。まぁあいつはあいつなりに・・・・・・・」 クロ「ちっが〜うっ!カイじゃなくて俺様よ!俺様!」 YAN・コウ「・・・・・・・・・・はい?」 クロ「リベンジャーの主人公、俺様の出番が最近少なくなってきたぞ!」 YAN「よし、コウ。この勘違い野郎をコンクリートで固めて海に沈める案を提案したい」 コウ「いや、ここは首だけ出して地面に埋めて、それを殴ったり蹴ったり床にこぼした牛乳を拭いた雑巾の臭いを嗅がせたり・・・・・・」 クロ「いやコワいわ!特に最後のヤツ!地味にキツイ!」