「チッ!ふざけた事をしてくれる・・・・・・・!ヘヴンめ・・・・!」 「・・・・・・・・・・!!」 「ユウラ!そのタイムリミットってのはあと何分ぐらいだ!?」 「えっと・・・・・・あと48分!」 *************  リベンジャー  第88話「数年ぶりの力」 ************* 「なんとか止められないのか!」 「・・・・・・・っ!なんとかやってみる!」 ユウラが目の前に広がるデバイスにくらいついた。 横長に広がるそのデバイスを前にして、キーボードを叩く。 「ユウラさん、止められるんですか!?」 「そんなことよりもあんた、パソコンわかるの!?」 「少しぐらいなら・・・・・・!」 と、そこでキーボードを叩く手が止まる。 その表情こそ、まさしく絶望を味わったかのような顔。 「ムリ・・・・・・・・なにをやっても全然受け付けない・・・・・・!」 「とにかく・・・・・・・ヤツを倒す!」 ミサイルをどうにかするよりも、目の前の殺人兵器を倒すことを優先することにしたエデン。 紫の炎を灯す左腕を、カオスに向けて目一杯突き出す。 炎が球体となり、シャドーボールとして打ち出された。 襲い来る紫のシャドーボールを前にして、カオスが機械で包まれた左腕をエデンに向けた。 そして、ボソボソと呟く――― 「“アルティメットボール”」 エネルギーを溜める素振りすら見せずに発射された、光の弾。 シャドーボール大の不思議な玉は、エデンのシャドーボールに負けないスピード・・・・・・いや、それを上回るスピード。 エデンを絶望が襲った瞬間、それは光の弾がシャドーボールを貫いた瞬間だった。 「な―――!!?」 呆然となるエデンに、光の弾が容赦なく炸裂する。 光の弾はエデンの体を押し出すかのように直進し、エデンの体が壁に当たる瞬間、爆発した。 「な・・・・・エデン!大丈夫か!?」 半球状に砕かれ、瓦礫と白煙に包まれたエデン。 ジンの心配の声も、虚しく虚空へ消える。 「やろっ・・・・・・!エレク!ディン!」 コウが放ったボールから、彼のエレブー、エレクとフーディンのディンが姿を現す。 「ディン!冷凍パンチ!」 冷気を纏ったディンの両手。凍てつく力をカオスへと叩き込むが、カオスが作り出した赤い壁・・・・・・炎属性の壁に遮られる。 「・・・・・・・っ!?ギ・・・・・・・」 カオスが驚いたように振り返った。その先には、なんとエレクの姿が。 唸る拳が電気を纏わせ、カオスを襲う。 その時、カオスの様子に変化が起きた。 今までのようにエスパーの力を使わずに、腕力だけでエレクを殴り飛ばした。 反射的に両腕でガードする。 (今のは・・・・・・・なんだ?  カオスのヤツ・・・・・・・・急に何か脅える様に・・・・・・。  コウのエレクが脅威だった?いや・・・・・・・・・) ジンの頭の中でいろいろな考えが右往左往する。 そして、ついに考えがまとまった。 (背後を取られたから・・・・・・・?) 「ものは試し・・・・・・!ジーテ!」 ジンのボールから、灰色の翼竜が姿を現す。 太古の力を宿すポケモン、プテラだ。 ジンがその俊足で、一気にカオスの前へと現れた。拳が黒い炎に包まれている。 するとカオスは慌てず騒がず茶色と黒が混じったような色の壁が作り出した。 (二重属性の壁・・・・・・オリジナルの技でも属性を見切るか・・・・・・!) ジンの拳が宿す黒炎拳。その属性は炎と悪。 カオスが作り出したのは炎、そして悪をも遮断する岩、悪属性の壁。 (行け・・・・・!) カオスの不意を突くが如く、カオスの背後にジーテが両翼を銀色に輝かせて現れる。 鋼タイプの技、鋼の翼だ。 「!!」 またもここでカオスが可笑しな行動する。岩、悪属性の壁を解いて振り返り、ジーテをその腕で殴り飛ばそうと振り上げる。 その瞬間、カオスの背中がジンの目の前で露になる。 「・・・・・・・!!これか!!」 二重の鈍い音。 黒炎拳が背中に、鋼の翼が胸にヒットした。 いや、正確には黒炎拳は・・・・・・・・。 「グ・・・・・・・ギ・・・・・・・!?」 カオスの背中に装着された謎の機械に炸裂していた。 「コウ!ヤツの弱点がわかったぞ!」 「ぬわにぃ!?マジでか!」 「マジだ!」 エレクとディンを従えたコウの横に、ジンが足を滑らせながら現れた。 「ヤツは背中に妙な機械を背負っている・・・・・・・。恐らくアレは生命維持装置・・・・!  やっと合点がついた!ヤツはヤツ自身の“生きる力”をも戦闘に利用している!」 「・・・・・・・はい?」 「カオスは完全に命を生命維持装置に預け、己の力を全て戦いに利用してる・・・・・」 ユウラの推測もジンの推測も、どちらも見事に当たっていた。 ミュウツーとしての力を常に全力で解放しているため、あのような並外れた力を使用できていた。 カオスが背後を取られたとき動揺したのは、生命維持装置を狙われる可能性があったからである。 「あ〜・・・・・・・なるほどな!」 「全然理解してないな・・・・・・・」 「ク・・・・・・・効いたな・・・・・」 くらくらする頭を何とか奮い立たせ、瓦礫から這い出るエデン。 その紫の眼が、なにやらブツブツ呟いているカオスを捉える。 「・・・・・・・?」 なにやらバトバチと火花を飛ばす背中の機械。 腕、脚、頭部にそれぞれコードを伸ばす重要そうな機械。 「リミッター解除」 カオスがそう呟いた、その直後。 突き出された両手から、なにやら不思議な光を放ちだす。赤から青に変わり、そして黄色に変わり・・・・・・・。 無数の色に輝く両手が、ゆっくりとコウに向けられた。 「へ?」 轟音とともに、光がプリン大の大きさの球となって発射された。 コウの指示を待たずして、ディンがコウとエレクを強制テレポートさせる。勿論自分も。 光が発射時と同じような轟音を鳴らしながら、壁を大きく抉った。 「・・・・・!?なんか危なくなかったか!?」 一瞬で立ち位置が変わって動揺するコウと、同じように動揺するエレク。 「いや〜、ホントありがとな!ディ―――」 細身の体が、ばたりと倒れた。 「――!?オイ!ディン!?」 ディンが何故倒れたのか分からない。 コウとエレクは命の恩人でもあり仲間でもあるディンの体を抱き起こす。 「げ・・・・・」 コウが発見したもの、それがディンの左腕と左足を覆った黒いもの。 「こりゃ・・・・・・・悪タイプの傷・・・・・・!」 再び、あの忌まわしい轟音。今度のターゲットはジンである。 「・・・・・・!」 ジンの黒い指が、光を指す。 「ジーテ!破壊光線!!」 「ギャアア!!」 濁声に近い鳴き声とともに、ジーテの口から放たれた白い閃光。 光と閃光がぶつかり合い、相殺しあう・・・・・・・・・ことはなかった。 「・・・・・・・ッ!!」 ジンが驚いたのは破壊光線が打ち消されたことではない。 問題は、破壊光線を貫いた光の不思議な動作。 破壊光線を貫いた直後、光から妙な銀色に輝く光線が射出されたことだ。 「ギ・・・・・・ャ!?」 それを紙一重で避けるジーテ。目標を失った銀色の光線が、壁を大きく抉る。 (なるほど・・・・・・・) 「ジーテ!あの妙な光に対して技を使うな!」 ジンの指示も束の間、再び発射された不思議な光。 ジンもジーテも、攻撃せずに光を避ける。 (ディンがやられたのは、テレポートをしたからだ。  あの光は相手が行った技に対してそれを凌駕する属性の技を出す!  無駄に攻撃すれば、さっきのディンのようにテレポート直前に悪属性の技を受けることになる) 不意にカオスを襲う、紫の球の嵐。 決死の連続シャドーボールも、カオスが作り出す銀色の壁に遮られた。 ゆっくりと、カオスが振り返り、その視界にエデンを入れた。 その両手が、再びエデンに向けられ――― 全く別角度から飛んで来たシャドーボールに邪魔された。 「敵影確認・・・・・・」 銀色の壁越しにカオスの青い眼が捉えたもの、それは高台の上から攻撃してきたゲンガー・・・・・フォーグ。 「ユウラ!?」 「黙って見てられない・・・・・・・あたしも加勢する!」 「サイクス!ロックブラスト!」 次にカオスを襲った技、大量の投石、ロックブラスト。 いつの間にか高台から降りてきたティナと、そのサイドン、サイクスである。 一方、高台の上に取り残されたキキ。 足が震え、ユウラやティナのように戦場に降り立てず、恐怖を飲み込まれる寸前。 何も聞こえなくなるような感覚に襲われ、聞こえるのはミサイルのカウントダウンのみ。 残り30分を切っている。 (恐い・・・・・・・・あんなポケモンに歯向かっても・・・・・・・・殺される・・・・・・!) 「危険因子優先排除」 ロックブラストを全て打ち消したカオスの眼が、ジンを捉えた。 「“アンチタイプ”」 先ほどの不思議な光が再び発射される。 (どうすばいいの・・・・・・・!?) キキの頭が錯乱状態に陥る。 何も聞こえない。恐怖という名の耳栓に耳を塞がれている様な感覚。 勇敢に挑みかかり、やられていく仲間のポケモンたち。 ジーテがやられ、エレクがやられ、さらにフォーグやサイクスもやられ・・・・・。 脚の震えが、全身に行き渡ったような気がした、その直後。 ジンの腹にカオスのパンチが炸裂する瞬間を、見てしまった。 「ウ・・・・・・ア・・・・・・!!?」 腹を押さえて悶絶するジンに、カオスがつかつかと歩み寄っていく。 「最高危険因子。排除スル」 仲間たちもそのカオスに力と恐怖を味わい、動けずにいた。 なんとか立ち向かおうとするエデンも、カオスの“アルティメットボール”のダメージが残っているためか、自由に動くことができずにいた。 動けるのは、ただ1人。    私にそんな勇気はない・・・・・・・!    私は何も変わっていない・・・・・。  お兄ちゃんがやられるのを、ただ見ていることしかできない・・・・・・!  いや・・・・・・・そんなの・・・・・・・イヤ! 「排除」 振り上げられた機械の腕が、動けないジンに向かって振り下ろされる――― 勢いがついた腕が、空振りした。 「・・・・・・・・」 驚いているのかどうかは、機械の仮面のせいで分からない。 目標が突然消えたことで面を食らっていることは確かだが。 その場にいた全員は気付くことは無かった。ジンがミサイルのある高台に寝かせられていることに。 その救済者が、ふたたびカオスに向かって飛んでいったことに・・・・・・・・。 誰も気付かなかった。 謎の衝撃。自分の体がなす術もなく吹っ飛び、床に叩きつけられる。 「・・・・・・!?衝撃確認・・・・・」 カオスが壁を作る暇をも与えない、超スピードの攻撃。 やっと全員の眼に、部屋中を走り回る黄色い閃光の存在を確認できた。 「・・・・・・・?  なに・・・・・あれ・・・・・」 呆然と呟くユウラの横を、黄色い閃光が走り抜ける。 壁に向かっていたと思われた閃光が、直角に折れ曲がり、カオスに一撃を入れた。 倒れこむカオスを確認するように、閃光がブレーキをかけて止まった。 9本の尻尾をゆらゆらさせ、彼女は2本足で立っていた。 何度も眼にしている黒のノースリーブのシャツを着た、不思議な生き物。 頭からも尻尾がはえているように見える、黄色の長い髪。 何度も眼にしているツインテール。 「もう誰も傷つけさせない・・・・・・」 不思議な生き物が言葉を発した。仁王立ちだが、何処にも隙が無い。 「キキちゃん・・・・・?」 そのコウの呟きは、正しかった。 キキ・グローリー。数年振りのキュウコンへの偽獣。  つづく  あとが クロ「おおっ!?中途半端で止めんな!なんだよ「あとが」って!」 YAN「いやな、いっつも「あとがき」じゃつまんないかもって思ってな」 コウ「でも「あとが」はねぇだろ!せめて「あ」にしろ!」 YAN・クロ「短すぎるわァ!」 コウ「キキちゃんが偽獣か。先がわからなくなってきたな」 クロ「つーか作者よ。俺の出番が減っているというか、無くなってないか?    ここんとこ出てる気がしないのだが」 YAN「大丈夫だ。次回は出番がある」 クロ「おお!ホントか!・・・・・・ってまたやられ役じゃねぇだろーな?」 YAN「大丈夫!信用しろ!」 クロ「いや、今までの傾向から考えてなんか無さ気のような気がしてならない・・・・・」