先ほどの戦いの傷が全く見られないポケモン。その表情は、どこか冷たかった。 いや、冷たいというよりも、その表情しかできない・・・・・・・といったほうが正しいか。 彼の青い双眸は、何処までも深く、暗かった。 絶句する一同を、青い眼のミュウツーは微笑しながら睨みつける。 「ククク・・・・・・力を封じ込められた俺を倒すのに、随分と手間がかかったなァ・・・・・・・。え?人間どもよ」 その言葉を理解できたものは誰もいない―――ミサイルの端末の傍らで、彼らは硬直していた。 勇気を振り絞り、何故か背中を流れる滝の汗を無視して、ジンが訊いた。 「何者だ・・・・・・?」 「んん?」 「名乗れ・・・・・・!」 何とか出たその言葉。ミュウツーの放つ異様な殺気に、ジンの言葉は上ずっていた。 「俺の名・・・・・・・?既に承知済みだろう・・・・・・」 ミュウツーはとても静かに、それでいてとてもはっきりと答えた。 「俺の名は・・・・・・・・ミュウツー第一号、カオス・・・・・!」 ************  リベンジャー  第90話「混沌の語り」 ************ 「おお?どうしたどうした。さっき俺を倒した意気はドコいった?ん?」 カオスは嘲る様に言ってきた。手を大っぴらに広げて、続ける。 「押し黙っちまって・・・・・・ったくよォ」 「お・・・・・・・・・おい!」 震える声に喝を入れた、コウの声。高台の上から柵に手をかけ、身を乗り出す。 「お前・・・・・・・俺たちが倒したはずだろ!なんで生きてんだ!」 「んん?」 カオスはワケが分からないとでも言うように、首を傾げた。そのまま言ってくる。 「勝手に殺すな。んん?まさかお前ら、さっきの攻防で俺の息の根を止めたでも思ってたのか?」 次の瞬間、カオスが高らかに笑い出した。 何もできない・・・・・・・というか、体が動いてくれない一同。このミュウツー・・・・・カオスが放つ嫌な殺気で、押し込められてしまっている。 てくてく歩いていき、自分が今の今まで倒れていたはずの場所に行き、そこに転がっていた機械の残骸を拾い上げる。 その機械こそ、カオスが先ほど背中に装着していた生命維持装置だった。 「お前らまさか・・・・・・・これさえ壊せば自分たちの勝ちだとでも思ってたのか?」 途端に、再び笑い出す。 「クハハハ!まったく!お笑いモンだぜ!ったくよォ!!」 機械の残骸を高らかと捧げ、カオスが大声で告げた。 「こりゃ生命維持装置とか、そんな類のもんじゃねぇさ!  この機械はな、俺の力を封じ込める、ただの制御装置!」 そのまま床へと叩きつけられた生命維持装置・・・・・・否、制御装置が、木っ端微塵に砕け散った。もはや原形すらとどめていない。 「俺を殺るにゃ・・・・・・・この辺りを貫くしかねぇぞ?んん?」 カオスの右手が、己の左胸を突く。そう、心臓の位置だ。 「コウ・・・・・・エデン・・・・・動けるか・・・・・?」 カオスに聞こえないように、ボソボソと呟くジン。 それになんとか同意して、頷く2人――― 「無駄なこたァやめとけよ。こっちにゃお前たちの言動は全部筒抜けだ」 カオスはゆっくりと振り返り、閉ざされた巨大な入り口に向かって歩いていく。 その後ろ姿は無防備にも見えた―――が、彼らの背筋を凍りつくような感覚が襲い、どうすることもできない。 別に入り口に用があったわけではないようで、カオスはまだ入り口まで距離があるところで止まった。 彼らに背を向けたまま、唱えるように呟く。 「天国の使者は獣達を天国へ誘い・・・・・・・楽園の使者は邪を嫌い、聖に基づく者達を楽園へ誘う・・・・・・・」 本当に何かの呪文のように聞こえる、カオスの呟き・・・。 「そして混沌の使者は、天国の使者に同意する・・・・・・・・」 そこで言い止り、振り返った。 「これの意味がわかるか?んん?  まぁ十中八九、お前はわかるはずだ・・・・・・・そうだろう?」 カオスの青い相貌が、舐めるような視線でエデンを捉えた。 「第三のミュウツー・・・・・・・・エデンよ」 「何者だ」 その問いは唐突だった。舐めるような視線を見返して、エデンが呟く。先ほどと同じ波長で、 「何者だ」 「物覚えの悪い奴だなァ・・・・・・んん?同じミュウツーとして恥ずかしいぜ」 彼の右腕が、唐突に振り上げられて・・・・・・。何の躊躇もなしに、青い弾を発射した。 弾は誰を狙ったわけでもなく、高台の横の壁に炸裂し、歪なクレーターを作る。 「俺の名はカオスだ」 「・・・・・・・っ!!」 声にならない悲鳴を女3人が上げた所で、エデンは気にせず告げた。 「お前とヘヴンの関係を訊いている」 「!」 カオスの顔色が眼に見えて変化した。 「天国と楽園と混沌・・・・・・・それは私たち3匹のミュウツーに付けられた名だ。  何故今の今まで封印されていたお前が・・・・・・・その事を知っている?」 「聞いたからさ。封印されていたからといって、何も聞こえないなんて言ってない」 カオスの眼が、幾分か鋭くなる。 「ヤツは・・・・ヘヴンは俺の第一の封印を解きに来た。まぁ第二の封印を解かなかったのはハラが立ったが。  ヤツは語ったよ。自分の目的についてな。俺はそれに納得した。同意した」 カオスはさらに続ける。 「ヤツの目的は・・・・・・・・そう、“獣だけの世界”だ」 「獣だけの・・・・・・世界?」 ジンが聞き返す。カオスは気にせずに、 「ポケモンという名は人間が付けた名だ。だから獣。  ふざけた話だと思わねぇか?《ボールに入れればポケットにでも入る。だからポケットモンスター》  これじゃまるで元から俺たちが人間に捕まるために存在してるみたいじゃねぇか。 ヘヴンはそのバカな人間をすべて排除し、獣だけの世界を作ろうとしている。そして・・・・・・」 カオスの指が、コウたちの後ろのミサイルを指す。 「そのミサイルは前座だとよ。カントー、そしてカントー周辺地域を一撃で吹っ飛ばすそうだ」 絶句した。カオスの語るヘヴンの目的に。 カオスは全ての人間を消し去ろうとしている。さらにその序曲の如く、ミサイルでカントー周辺を消し去ろうとしている。 ヘヴンはエデンにそのミサイルをどうにかしないと、カントーにいる人間全てが消えるという脅しをかけてきていたのだ。 「カントーを滅ぼせば、人間と一緒に沢山のポケモンが死ぬ!それでもいいのか!?」 「知らねぇよ。これはヘヴンの意思だ」 何も言えなくなるエデン。 嘲るように、カオスは告げた。 「あと20分弱か・・・・・カントー滅亡まで」 「・・・・・・・!」 全員の視線が、端末の画面に表示された数字に集まる。確かに、もう後20分を切っている。 「おい!ミサイルを止める方法を教えろ!」 コウの叫びに、カオスはどうでもよさそうに答えた。 「そんなもんねぇよ。あっても教えねぇ」 「・・・・・・・ッ!!」 そこでカオスが、なにやら考えるような仕草を見せた。2,3秒後、面白そうに答える。 「あ〜・・・・・・そうだな。あるにはある」 「何ィ!?教えろコラァ!」 「俺を倒せたら教えてやるよ」 「・・・・・・後悔すんなよ!」 柵を越えて高台から飛び降り、コウはカオスと対峙する。 腰のボールに手をかけるコウに対し、カオスは直立不動だ。 「よせコウ!お前じゃ敵わない!無駄死にするぞ!」 ジンの静止の声を、コウは全力で無視した。 「ファン!全速力で転がれェ!!」 コウがカオスから見て左にボールを投げた。出現した彼のドンファン、ファンが前足で床をこすると、体を丸めてその場で空回りする。 回転力を上げたファンの体が、勢いよく飛び出した。まるで戦車だ。 狙いは勿論カオス。 「フン・・・・・・」 カオスの右手が迫り来る戦車に狙いをつける。 不意に――― 「チッ!」 ファンに対して向いていたカオスの体が、不意に右を向く。そしてジャンプ。 空振りした青い角が勢いよく空を凪ぐ。 コウのヘラクロス、クレスだ。 空振りしたクレスと回転を止めたファンが、空中のカオスを見上げる。 「ドンファンにヘラクロスか・・・・・・・何も考えていないような組み合わせだな。どちらも突撃型か」 「あ!?」 カオスの呟きにコウが抗議の声を上げた―――直後。 空中のカオスの体が、掻き消える様に霧散した。出現場所は・・・・・・。 「あぶねぇ!」 クレスとファンの間。 呆然となる2匹の顔に、カオスの手があてがわれる。 「散れ・・・・・・・“リムーヴ”」 炸裂音。そして衝撃。 2匹はその2つの感覚しかなかったが、次第に自分達の状況がつかめてくる。 彼らは壁に叩きつけられていた。が、普通にではない。 彼らの身体は中を浮いたまま壁に押し付けられている。 「・・・・・っ!?戻れ!ファン!クレス!」 コウが翳した2つのボールに、2匹が吸い込まれた。それを見送って、カオスは腕を下ろす。 「お前らじゃ俺には勝てねぇよ・・・・・・エデン、お前でもな」 「・・・・・・・!」 「幻と呼ばれ、そして最強に最も近いポケモン、ミュウから作り出されたミュウツーは、確かに強力だ。  ・・・・・・・・・だが、それは純粋にミュウから作り出された場合」 カオスが哀れみの視線を向ける。 「残念ながら、ミュウとミュウツーの念波動は全く正反対の性質を持っている。  そのため、その2つのエネルギーを持つポケモンは体の中で力同士が打ち消しあい、不完全になってしまう。  そう・・・・・・・・・エデン、お前のような不完全なミュウツーにな」 「だからどうした!お前と私の力はさして変わら・・・・・・」 「全く別物なんだよ、エデン」 カオスの青い瞳が、ゆっくりと移動した。 高台の上の一同を、右からゆっくり、なぞるように見つめていく。 そして、聞き捨てなら無い言葉を発した。 「仲間の1人でも死ねば・・・・・・・俺と同じぐらいの力を発揮できるか?」 エデンの紫の瞳が、驚愕に見開く。 「貴様、何を・・・・・・!?」 「聞いたとおりだ。そうだな・・・・・・」 再び、右からゆっくりと移動した瞳が・・・・・・・とある地点で止まった。 ゆっくりとそれを右手で指差し、告げる。 「お前がいい・・・・・」 「え・・・・・・っ!?」 指を指されたのは・・・・・・・茶髪の少女、ティナだった。 思わず後退するティナに、追い立てるように続ける。 「お前には死んでもらう・・・・・・そうすればエデンの力は開花するし、そこで固まっているやつらも本気になる」 ティナを指していた指がゆっくり開き、さらにその手の中に青い球体のエネルギーを作り出す。 ミュウツーの十八番、シャドーボールだ。 「一つ言っておくぜ・・・・・・俺のシャドーボールは破壊力抜群、何者にも防げない。  まぁ・・・・・・・・・・その身で防御すれば防げないことも無いが」 手の中のシャドーボールが渦を巻くように回転する。 「俺のために・・・・・・・・死ね」 大砲のような音の次に、炸裂音が彼らの耳に突き刺さる。思わずユウラが尻もちをつく・・・・・・・着弾点のすぐ近くにいたから。 彼らは動けなかった。グローリー兄妹も、尻もちをついたユウラも、その肩から転げ落ちたクロも、高台の下から見上げるコウも・・・・・・・。 ただ、ティナを中心に巻き起こる爆発を眺めることしかできなかった。 煙が、徐々に晴れていく・・・・・・・・。 「ほう・・・・・・・身を呈して護ったか。なかなかの根性だな、エデン」 「グ・・・・・・・」 ティナに向かっていたシャドーボールを遮るような形で立っていた、紫眼のミュウツー。 エデンの右腕が、血を流しながら彼の肩からぶら下がっていた。 (壁を・・・・・・・内事も無かったように貫いた・・・・・・。こと破壊力だけならヘヴンの上を行く・・・・・・・) 「だが・・・・・・邪魔してくれるな、エデン。“リムーヴ”」 エデンに向けられたカオスの右手が、左から右へ空を凪ぐ。 それに同調するように浮かび上がったエデンの体が、何かに引っ張られるように左へ移動、急スピードで右へ飛び、そのまま壁に叩きつけられた。 視界を邪魔するものがいなくなり、カオスの青い瞳が再びティナを映し出す。 震える脚。高まる心音。 その2つがなくても、自分が恐怖で動けなくなっていることは既にわかっていた。 「あ・・・・・・あ・・・・・・」 ティナの震える口から、ボソボソと小さな悲鳴が聞こえてくる。 「安心しろ。恐怖は一瞬、痛みも一瞬、それから待っているのは死後の世界だ」 左手が放つ“リムーヴ”でエデンを押さえつけながら、カオスの右手が、再びシャドーボールを宿す。 震える彼女を、更なる恐怖が襲う・・・・・・・直前。 カオスの右側頭部を強烈な衝撃が襲う。殆ど殴り飛ばされるように炸裂した衝撃は、カオスがシャドーボールを放つ直前に現れた。 尋常とは思えないほど異常なパワーで殴り飛ばされたカオスの体が、成す術も無く吹っ飛び、真横の壁に突っ込んだ。 “リムーヴ”から開放されたエデンを含む全員の眼が、瓦礫に埋もれるカオスから、ゆっくりと確かめるように謎の救世主を確認する。 ジンの口が、聞こえるかどうかわからないほど小さく、その正体の名を告げた。 「ハッサム・・・・・・・?まさか・・・・・・カゼマル・・・・っ!?」 部屋のド真ん中で、1匹のハッサムが構えた。  つづく  あとがっき クロ「ぬ?なんだか一瞬ホップしたような・・・・・・。あとがっき?」 YAN「気にするな、遊び心だ。遊び心」 コウ「カオスが強すぎだと思う人、挙手!」 クロ「ハイハイハイハイ!4人分だ!」 YAN「んなこと言ったって、しょーがないじゃん。ミュウツーなんだし」 コウ「つーかおかしいんだよ!敵ばっか強いじゃねーか!」 YAN「別にいいじゃん。そっちのほうが盛り上がる」 クロ「戦わされる俺たちの身にもなれ!」 YAN「あ〜・・・・・・・まぁその辺はあんま考えてないし」 クロ「・・・・・・よしコウよ。今からこの男をボコボコにしようじゃないか」 コウ「オウ、賛成だな」 YAN「まぁ別にボコボコにしてもいいよ。後から待っているのはお前たちの存在の抹消だ」 コウ・クロ(この男卑怯臭っ!)