砕け、飛び散る破片。 力が抜けたように五体をだらりとさせているロボット。 ロボットの背中から突き出た拳。貫かれた部分が火花を散らす。 カイは表情を変えずに、 「時間の無駄だった・・・・・・」 腕を振り抜き、スクラップと化したロボットを投げ捨てた。 壁に叩きつけられたロボットが、ガシャンと音を立てて光り輝き――― 爆発した。 *************  リベンジャー  第92話「護るべきもの」 ************* 呆然となったカゼマル。その視線が、ただのガラクタになったロボットの破片からカイに移り・・・・・・。 『カイ!?』 倒れていた。うつ伏せに。まぁ体中から出血していれば倒れるのも同然か。 「悪いなカゼマル・・・・・・・ちょっと動けそうに無い・・・・。  少しばかり休ませてくれ・・・・・・・」 「ヤベェヤベェヤベェ!休みすぎた!」 いたるところに裂け目ができたシャツ。その裂け目から痛々しい傷が見える。 肩に愛用のパーカーをかけて走り続けるカイの左右に、彼の荷物を背負ったゴルダック、クーラルと、ハッサムのカゼマル。 傷をものともせずに走り続けるカイの眼が、あるものを捉えた。 巨大な鉄の壁。取っ手が見つからない、不気味でとても開けられそうに無い、壁のような扉。 とりあえず直感で叫ぶ。あの向こうに、仲間たちがいる。 「カゼマル!先行して扉をぶった切って侵入!敵っぽいやつがいたら容赦なくぶん殴れ!」 「シャア!!」 「カゼマル・・・・・・ちょっとの間1人で頼む。出血多量で動けそうにねぇ」 「・・・・・・・・」 高台の上から聞こえるカイの声に、彼はコクリと頷いた。倒れているためカイの顔は見えないが。 目線を壁周辺の瓦礫へと向ける。突き出た白い腕は、全く動かない。 が、直感で彼の脳は告げていた。敵はまだ生きている。戦える。 左半身を前に出し、カゼマルは戦闘態勢を崩さない。 「クーラルはバトルの状況を把握しといてくれ・・・・・・。なんかあったら伝えろ」 「カイ、動かないで・・・・・。消毒してから包帯巻くから」 しゃがみこみ、荷物の中から消毒液と包帯を取り出すユウラ。 それを見ながら、コウが呟いた。 「お前、機械が得意なのは知ってたけど、医学面でも長けてんのか?驚きだな」 「・・・・・あんたの口から医学って言葉が出てきたことにあたしは驚きよ」 「テキトーなことして傷口広げんなよ」 「黙ってなさい」 彼女のヤミカラス、クロをボールに押し込め、ユウラは向き直った。 とりあえずカイのボロボロのシャツを手際よく脱がせる。 現れた無数の切り傷に拒絶感を覚えながら、ぬらしたティッシュで汚れを拭い、ハンカチを消毒液で浸し、それをカイの傷口に当てた。 カイが一瞬顔をしかめたが、慣れたのかすぐに微動だにしなくなった。 「ユウラさん。私も手伝います」 「うん、ありがと」 「俺も手伝う?」 「あんたは邪魔」 キキの申し出を承知し、コウの申し出は断られ・・・・・・・。ちょっとヘコむコウ。 キキと協力して、カイの体をうつ伏せにし、包帯を巻いていく。 処置作業が半分あたりまで済んだころ、キキが口を開いた。 「あの・・・・・・ユウラさん」 「なに?」 「カイさんの応急処置ももちろん大事ですけど・・・・・・・。  早くカオスからミサイルを止める方法を聞き出したほうが・・・・・・・」 「その辺なら大丈夫よ」 「え?」 「カイが来たから・・・・・・。カイならあのカオスも軽くヒネれるでしょ」 その自身はドコから来るのか――― 一瞬迷ったキキだが、カイの力を信じ、処置を再開した。 「ちょっとコウ・・・・・・・じゃダメね。ティナ、ちょっと」 ますますヘコむコウを無視し、ユウラはティナへと顔を向け・・・・・・・。 「あ・・・・・・・」 涙眼のティナ。力なく膝をついて、肩を震わせてカイを見下ろしていた。 「・・・・・・・・ジン。あたしのバックからハサミとって」 危なっかしいコウや動けそうに無いティナよりも、まだジンのほうが役に立つと考えたのか。 手伝わされることに対する悪態よりも、ライバルが死んだら困ると考えたのか、素直に指示に従うジン。 2人の協力により、カイの胴や腕の応急処置が完了した―――直後。 ズドン!「コパァア!!」 何かが吹き飛ぶ音と、クーラルが何かを告げる声。 一同の視線(カイ、ティナ除く)が、瓦礫を吹き飛ばした白いポケモンに集まる。 全体的な体色は白、長い尻尾と瞳が青。 混沌を呼ぶポケモン、ミュウツー、カオスの復活の瞬間である。 既に傷を自己再生で癒したカオスの青い瞳が、1匹のハッサムを捉えた。 「よくもまぁすっとばしてくれたもんだ・・・・・・。ええ?おい」 カゼマルは何も答えず、動かず。 無動のハッサムは腰を低くし、構え直した。いつでも飛び出せる体制。 「カゼマル・・・・・・・・俺が動けるようになるまで・・・・頼む」 「グハハ・・・・下等種族の人間が鍛えたポケモンで、俺を倒せるとでも?  俺は敵が出した技に対して抵抗属性の壁で防御できる・・・・・・。何をしてもムダだ」 嘲笑い、構える。右腕をカゼマルに向けただけの構え。 その構えだけでも事足りる、そうカオスの頭には浮かんでいた。 ・・・と。 不意にカゼマルの姿が消え失せた。衝撃が襲い、跳ね上がるカオスの体。 「なに・・・・・・・?」 空中で体制を立て直し、手で床をついて受身を取る。右肩を走る激痛。 左手が放つ癒しの光で右肩の傷を治しながら、カオスはカゼマルの姿を探した。 真後ろ。 「テメェ・・・・・・・・今なにをした!?」 『・・・・・・・・』 構えなおし、カゼマルは告げた。 『お前は話から察するに、強力な壁が張れる様だが・・・・・・。  そんなもの、壁を張る前に攻撃すればいい・・・・・・。このようにな』 再び、消え失せる。今度は右肩を激痛が襲う 『お前に俺の技は防げない・・・・・・・。音速の技、燕返しは』 「おのれ・・・・・・。人間ごときが鍛えたポケモンに・・・・・・この俺が・・・・・・」 いつの間にか横たわっていた体を起こし、カオスは叫んだ。 「負けるはずが無いィィ!!」 シャドーボールのエネルギーを宿した両腕を、カゼマルに・・・・・・否、高台の仲間たちへと向けた。 「皆殺しだァァァ!!!」 両腕から発射された・・・・・・エネルギーを凝縮させ、高密度のシャドーボール。 大砲から発射された弾のように、青い球体は着弾。黒煙とともに轟音を撒き散らす。 『な・・・・・・・!?』 「グハハ・・・・・・脆いもんだな。ええ?おい」 突き出していた両腕を、そのままスライドさせて・・・・・・カゼマルへと向けた。 「次はお前だ・・・・・・あいつらの後を追わせてやる・・・・・・」 「勝手に殺してもらっては困る」 その声は、黒煙の向こうから聞こえた。 晴れてきた黒煙から姿を現したのは・・・・・・・。 『!』 「何ィ!?」 左手を中心に張られた、一同を囲い込む巨大な壁。 右腕を負傷したミュウツー・・・・・・エデンが、余裕の笑みを浮かべ、告げた。 「お前の力はそんなものだったか?先刻の威力はドコへ?」 (そんなバカな・・・・・・。俺は一切手を抜いていない・・・・・・なのに何故!) 困惑するカオスを襲った・・・・・・黒い炎。 禍々しい黒い炎は生きているかのようにカオスに巻きつき、離れようとしない。 その隙を突くかのように現れた、拳。 拳はカオスの胸板に炸裂。その勢いで吹っ飛んでいった。 一瞬視界に入ったもの。2つの影。 ヘルガーとオーダイルだった。 壁に叩きつけられたカオスを睨む、ジールとゲイル。 その主人たちが高台の上から降りてくるところを、カオスは薄目で見ていた。 (ついさっきまで殆ど戦意喪失していたのに・・・・・・なぜ急に・・・・・!?) 「カイの回復を待っている時間はない。一気に叩くぞ」 「・・・・・・俺、残り2体しか戦えねぇんだけど」 「気合で行け」 光を灯し、活力が戻ったジンとコウの瞳。 その光景が、カオスにとって不思議でならなかった。 特にオレンジ男のほうは数分前に力の差を見せ付けたはず。なのに・・・・・・。 「何故だ・・・・・」 「?」 「何故お前たちは戦う!?」 カオスは立ち上がり、一切の恐怖感を持たずに立っている2人と2匹を凝視する。 「とっとと倒してミサイルを止める方法吐かせなきゃならねぇだろ。だから戦うんだ」  さっき重症の男が来てからだ・・・・・・。こいつらの俺を見る眼が変わった・・・・! 「おいカイ、平気か?」 「見てわからねぇか・・・・・・?平気じゃねぇよ。少しな」 馴染みのある顔が彼の視界に入った。一応心配しているらしいクロの顔。 クロは半べそ状態のティナを一瞥し、告げた。 「あんのカオスとかいうミュウツーな、スゲェ酷いんだぜ?  俺たちの怒りを駆り立てようとして、ティナを殺そうとして・・・・・・」 「なに?」 その一言がいかに怒りを含んでいたことか。 クロは多少ビビりながら、カイの顔を覗き込み続ける。 不意に、カイが体を起こした。帽子のようなクロの頭のすぐ近くを顔が通り過ぎる。 「おい・・・・・・カイ?」 「おいお前」 カイの声は、幾分か刺を含んでいた。 上半身や腕に包帯を巻いた、明らかに怪我人風のカイは、カオスをじっと見下ろしていた。 カオスでも思わずたじろいでしまいそうな、鋭く、冷たい眼で。 「? なんだ」 「お前、ティナを殺そうとしたんだってな」 語調を変えず、睨み続けるカイ。カオスは何事もなかったかのように、 「だからどうした?」 「お前に・・・・・・何がわかる?」 「?」 「ティナはな・・・・・・。俺の心の支えなんだよ。  ヘヴンに母さんを殺されて・・・・・・現実逃避しかかっていた俺を慰めてくれたのが、ティナだった・・・・・・。  ティナがいなけりゃ今の俺はいなかった!!」  ・・・・・ちくしょう・・・・・・・なんでだよ・・・・・・・。  まーた泣いてんの?あんた。  泣いてなんかない!・・・・・・ほっとけよ・・・・・・。  あんたねぇ・・・・・泣いたところで何も変わらないし、あんたのお母さんが生き返るわけでもないし。  私は・・・・・・小さい頃にお母さんもお父さんも死んじゃったからわかんないけどさ。  なんか行動に移さないと始まらないわよ。敵討ちでもしてみるとかさ。 「俺にとって、一番大切なヤツなんだ・・・・・・・。そいつを殺そうなんて考えるな・・・・・」 一呼吸置いて・・・・・・・。 「俺がお前を殺すぞ・・・・・・!!」 「ッッ・・・・・・・!!?」 今にも睨み殺されそうな・・・・・カイの眼。 思わずカオスも震え上がる。 「カイ・・・・・・?」 眼球に溜まった涙を拭って、ティナはカイを見上げた。 包帯を巻いた、カイの後ろ姿。顔は見えないため、表情は読み取れない。 振り返らずに、彼は告げてきた。 「心配すんな、ティナ」 「え?」 「あいつにお前は殺させねぇ」 カイは転がっていたボロボロのシャツを着ると、高台から飛び降りた。 仲間2人の間を抜けて、カゼマルの後ろへと立つ。 「今から俺1人であの野郎をぶっ飛ばす。  お前らはさ、高台の上に戻ってティナたちがとばっちり受けないように護っててやってくれ」 コウとジンは顔を見合わせて眼をパチクリさせると、申し合わせたように2匹を連れて戻っていった。 身体はボロボロだが、眼は死んでいない。カゼマルはそう判断した。 前はミュウツー、後ろは主人。 カオスは右半身を前に出して構えると、嘲笑うように言った。 「いくら攻撃が速くても・・・・・・・俺は倒せない。  自己再生ですぐ癒せるからな。そのハッサムには決定打が無い・・・・・・」 決定打がないと侮辱されて、少しムッとするカゼマル。 対してカイはこれといって表情を変化させていない。 「戯言は終わったか?すぐにそんなセリフ吐けねぇようにしてやるよ」 「グハハ・・・・・・・そうやって自信満々で立ってないで、とっととかかってきたらどうだ?  カントー滅亡まで、残り10分ってとこか・・・・・・?」 「・・・・・・?カントー滅亡?」 「そういえばお前の仲間は話していなかったな・・・・・・。  そこにある巨大ミサイル。あと約10分で発射されて、カントー、及び周辺の地域を跡形も無く吹っ飛ばす手筈になっている」 「んでもってそいつが解除方法を知ってんだよ!」 付け加えるように飛んできた声・・・・・・コウだ。 「カイ!あと10分以内にそいつをぶっ飛ばして、解除方法を吐かせてくれ!」 「オーケイ、わかった」 不意に起こった、地鳴り。 地下研究所全体を揺るがす・・・・・・否、孤島全体を揺らすほどの地鳴りである。 だが彼らの注意は他へ向けられていた。ミサイルの、丁度上。 砂埃とともに瓦礫が落ちてきた。地上研究所の残骸である。 そう、ミサイルの発射10分前を告げる、予備動作。ミサイル上部の天井がスライドして、青空が顔をのぞかせてきた。 瓦礫がミサイルに当たって弾かれ、床に落ちて目障りな音を立てる。 「あと10分を切った・・・・・・・。たった10分の短い時間で、俺が倒せるか?」 「安心しとけ。5分とかからねぇ」 カイVSカオス。 制限時間は、10分。  つづく  あとがき YAN「ちょっとこの展開引っ張りすぎたような気がする」 コウ「今ごろ自覚かい。ま〜たダラダラと始まったな、あとがきトーク」 YAN「ぶっちゃけるとな、なんにも話すこと無いんだよな。もう終りにする?」 クロ「いや早すぎだろ!もうちょっとこう・・・・・・なんか話すことないのかよ!?」 YAN「もうカントー滅亡の勢いだし。このまま滅亡の方向で話進めていい?」 コウ・クロ「やめんかい!!(怒)」