「パーティ・・・・・・かな?」 緑の上に、赤。 巨木の天辺に、彼は立っていた。赤いローブをはためかせ、彼は直立不動で空を見つめる。 「さぁカイ・・・・・・。僕の兄弟の力は凄まじい。紛れもなく最強種の1つ。  君は勝てるか・・・・・?いや、勝たねばならないだろう。  僕へと通じる・・・・・・大きなハードルだ。だが僕は信じているよ、君は勝つ。混沌を打ち負かす。  そうやって力を付けて僕の元へと来るがいい・・・・・・。僕に匹敵する力とともに」 赤いローブからはみ出た黒い頭は、かすかに笑った。 「彼も・・・・・・・・ただの手駒に過ぎないのだからね」 ****************  リベンジャー  第93話「右腕という名の犠牲」 **************** 《ミサイル発射まで、残り10分を切りました・・・・》 ガス・・・! 気がつけば、世界が反転していた。世界といっても、寂れた部屋の光景だが。 右眼に傷跡が残る赤いポケモンが放った燕返しに、カオスは防御もままならず、吹き飛んだ。 強いとは分かっていても、流石に驚いたのか。カオスに普通に一撃を入れる少年とハッサムに、仲間たちは度肝を抜かれた。 音速を超えた攻撃に、ミサイルのタイムリミットを告げる所内放送を聞きながら、カオスは体制を立て直す。 「この・・・・・!人間ごときが・・・・・・そしてその人間ごときが鍛えたポケモンが・・・・・」 右手に、不思議な光を灯し・・・・・。 「俺をナメるな!!アンチタイプ!!」 打ち出された摩訶不思議な攻撃。光は真っ直ぐハッサムに・・・・・・カゼマルへと飛んでいく。 「その光を防御するな!対抗するな!避けるんだ!」 不意に聞こえたジンの声に素直に従うカゼマル。 避けられた光が壁にぶち当たる光景に舌打ちし、カオスは目標を変えた。 「邪魔をするな!!」 打ち出されたシャドーボール。狙いは・・・・・ジン。 即座に避けようとしたが、気付く。自分の後ろに妹がいることに。 キキへの流れ弾を防ぐべく、彼は偽獣でヘルガーへと姿を変え・・・・・・。 「ぬん!」 砲弾のようなシャドーボールを腕で払いのけた。 「お兄ちゃん・・・・・!?」 「なにィ!!?」 「ほう・・・・・・やればできるもんだな」 煙が燻る手を振るい、ジンは微笑した。 その行為が、カオスの気を逆なでし・・・・・・・。 シャドーボールの砲口を、金髪の少女に・・・・・・ユウラへと向けた。 えっと声を漏らす少女に対し、カオスは一瞬の躊躇もなかった。 カオスの腕が火を噴くのと同時に、ユウラの前に影が割って入る。 彼女の眼に、オレンジのバンダナが映って・・・・・・。 「コウ!?」 「クレス!!」 コウのボールから青い体が出現する。・・・やや体を上下させる、疲れ気味のヘラクロス。 カオスのリムーヴを受けた満身創痍の青い体に、手すりをかすって飛来するシャドーボールが炸裂した。 立ち込める煙を見て、嘲笑うかのようにカオスが眼をニヤリとする。 そんな、束の間の出来事・・・・。煙が割れて、クレスが飛び出すまでは。 「!?」 「虫の知らせで威力激増!ぶっ飛びやがれ!!」 空気を突き破り、光り輝く立派な角をカオスに向けて、飛ぶ。 その勇気ある渾身の攻撃に、カオスが作る鋼属性の壁も無意味だった。 白い体が青い尻尾を振り回して吹っ飛んでいったのを見送って、クレスはボールへと戻された。 攻撃を堪え、ギリギリの状態に陥ることによりヘラクロスの特性“虫の知らせ”を発動。 威力の上がったメガホーンに、カオスの壁は耐えられず、崩壊した。 「コ、コウ・・・・」 「ん?なんだ」 「あ・・・・・・ありがとね」 「おう。つーかお礼ならクレスによろしく。後でな。今瀕死だし」 腹の損傷部分を自己再生で癒し、カオスは怒りを露にして立ち上がった。 大砲とも呼べる両腕を、コウとユウラに向けて・・・・・。 「殺してやる・・・・・・!!」 「お前の相手は・・・」 『俺たちだろう!!』 床すれすれを飛ぶ・・・・・・2つの白刃。 避けられて目標を見失ったかまいたちが、壁に鋭利な爪あとを残す。 かまいたちを放った張本人のハッサムを・・・・カゼマルを睨み、告げる。 「図に乗るなァ・・・!もう俺はイカったぜェェ・・・・!!すぐさま冥界送りだ!!!」 『真っ平ごめんだ。お前が行け。クズめ』 「カゼマル!高速移動から燕返し!!」 目にも止まらぬ斬撃。壁を張る暇も与えぬカゼマルの燕返しが、再びカオスを捉える。 今度は吹き飛ばず、その場に耐え切ったカオスが即座に振り返り、後ろへと回ったカゼマルに両手を向けた。 「燕・・・・返し!」 再び床をけり、飛び出す赤い影。 大してカオスは高らかに笑い出し、 「俺をナメるなァァ!!」 今度は壁を作り出す。茶色い、岩属性の壁。確かに飛行タイプの燕返しなら岩タイプの壁で防ぐことが出来る。 ・・・・・・・・・が。 防げるはずの攻撃が、自慢の壁を粉砕した。パリンと音がして、エネルギーの壁が虚空に消える。 ただ速いだけの斬撃・・・・・ではなく、銀色に輝く鉄槌に。 「メタル・・・・クロー・・・!?」 『もう遅い』 入れ違いに現れたハサミが、メタルクローとなってカオスを襲う。 威力は然程高くないとはいえ、油断していた所への攻撃。全く防御がなっていなかった。 体制を崩すカオスを一瞥しながら、カゼマルは大きく跳躍、壁を使った三角跳びで、カオスの真上に移る。 その両腕と薄い両羽が、白い何かを纏って・・・・・・。 「双頭風牙!!」 天から舞い降りた4つの斬撃が、カオスを真上から捉える。 飛び退いて距離をとるカゼマルを睨みながら、カオスは自己再生で傷を癒した。 「おのれ・・・・・・・おのれおのれおのれぇえぇぇぇぇ!!!」 怒りが絶頂に達したカオス。突き出した両腕に、禍々しいエネルギーを集めに集め、 「全て吹き飛ばす・・・・・。後ろの連中も、その後ろのミサイルも、その後ろの壁も・・・・・。  全部全部吹き飛ばす!!俺の前には何も残らねぇ!!」 エネルギーがぐにゃぐにゃと蠢いて、その形を変えていく。 それが巨大な青い球体に・・・・・・シャドーボールとなったとき、全員の顔が青ざめた。 「おいおい!あんなモンぶっ放されたらヤバイぜ!」 「チリも残らんだろうな」 「なに冷静に構えてんだよ!?  アレ受けたら・・・・・つーか受ける以前の問題か!?カスったたけでオダブツだ!」 「・・・・・・俺とて・・・・・」 「?」 「何も望みがないわけではない」 ジンの言葉に、コウは首を傾げまくった 「グハハ・・・・・!全て消え失せろ!!“シャドードライ・・・・”」 「やめておけ」 背筋が、凍り付く。 後ろから首にあてがわれた掌。いや、あてがうどころか鷲づかみにしている。 「お前が完全に激怒する瞬間を待っていた。 そうすればお前の注意は散漫になる。その時を待ち、狙っていた」 「・・・・・・テメェの技なんかで俺の攻撃は止まらねぇ。残念だったな」 「いや、止まるさ」 「何ィ?」 声の主は・・・・・エデンは静かに、それでいてとても冷淡に告げた。 「私の右腕を犠牲にすれば、貴様の首に致命傷を負わすことぐらい出来る・・・・・・」 ・・・・・・右腕を犠牲に? 「テ、テメェ何言って・・・・・」 「元々お前の攻撃でもはや使い物にならない腕だ。お前を倒すことが出来るのなら、安い代償だ」 今度はカオスが青ざめた。青い瞳に畏怖が乗り移る。 地を流すズタボロの右腕で、首を掴み続けるエデン。 「残り3分を切っている・・・・・・。もう時間がない」 「や・・・やめろ・・・・」 「聞こえないな」 「やめ・・・・・」 やめろォォォォォォオオオオオオ!!! 「死んではいないだろう」 「・・・・・ゥ・・・・・」 首全体を火傷が覆い尽くしていた。 同じように全体を火傷・・・・・・否、血を流し、真っ黒になり肩からぶら下がっただけの存在になったエデンの右腕。 うつ伏せに倒れたカオスを見下ろしながら、エデンは眼を細くした。 「・・・・・吐け」 「な・・・・・に・・・?」 「ミサイルを止める方法だ。吐け」 「あぁ・・・・・・・・そんなもんねぇよ」 「!?」 「俺はただ戦いたかった・・・・・。だから止める方法を知っているなんてウソをついたのさ。  そのほうがお前ら、やる気になるだろう・・・・・」 「・・・・・・・・」 「お前じゃヘヴンにゃ勝てねぇよ、エデン。  そこの高台の連中も、そこのハッサムのトレーナーも・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「カントー滅亡の瞬間をここで眺めるがいいさ・・・・・・」 そこでカオスの言葉は途切れた。双眸を閉じて、動かなくなる。 ミュウから作り出された違法の体が、無理やりな遺伝子操作で造られた体が。 エネルギーを使い果たし、体中の細胞が死んでいく。体を霧に変えて、虚空へと消えていった・・・・・・。  つづく  あとがき コウ「なんか最後呆気なくないか?」 クロ「もうちょっとこう・・・・・・・奇跡の大逆転的な終り方はないわけ?」 YAN「ない。戦闘ネタの残ったヤツはほとんど使う機会が決まっちゃったし。    もう片方の小説・・・・「レジェドラ」の方にネタ回したから、もう残ってないよ」 コウ「作りゃいいじねーか!ネタは考えるモンだろ!」 YAN「もうなんかさー、脳みそが老化しちゃって・・・・・・」 クロ「いややめろ!老化ストップ!俺たちの存在自体が危うくなる!」 YAN「あ〜?もうちょっと大きな声で喋ってくれんか?わしゃ耳が遠くて・・・・・」 コウ「手遅れ!!?」