「うぐ・・・・くそ・・・・」 肩からぶら下がっただけの・・・・哀れな右腕。 いたるところから血を流し、真っ黒に焦げた彼の右腕。 誰がどう見ても、使い物にはならないとわかった。 「さすがに・・・・エネルギーを注ぎすぎたか・・・・。  ・・・・。マズった・・・・な・・・・」 *************  リベンジャー  第94話「失われた楽園」 ************* 悪魔のような強さを持ったポケモン、純血のミュウツー、カオスを撃破した混血のミュウツー、エデン。 その代償ともいえるボロボロになった右腕を引きずって、彼は仲間の待つ高台の上へとテレポートした。 左手で右腕を抑えながら現れたエデンを眼にし、コウは少し退きながら、 「おい・・・・。エデン、お前大丈夫か?」 「なに・・・・全く・・・・問題ない・・・・。  マズイことになったな・・・・。カオスのヤツ、ミサイルを止める方法を知らなかった・・・・」 自分の負傷具合よりもミサイルを止めることを重視するエデン。 (問題ないように見えるかってんだ・・・・。バカみてぇに意地張りやがって・・・・) 上半身に包帯を巻いた少年、カイは階段を上りながら、満身創痍の仲間を見つめていた・・・・。 「で、どうする?破壊したほうが手っ取り早いな。俺たちは死ぬだろうが」 「ちょ、ちょっと待てい!いきなり死に直結するような提案はやめとけ!」 ミサイルを見上げながら人事のように呟くジン。 納得のいかない・・・・普通はいかないだろう・・・・コウはジンを睨んだ後、自分もミサイルを見上げた。 「・・・・どーにも・・・・なんねぇのかな・・・・」 「多分・・・・なんない・・・・」 答えたのは・・・・ユウラだ。 「操作を全く受け付けないし・・・・それ以外には何も出来ないよ」 「おい!だからって諦めるわけにも・・・・」 そこで、気付く。 眼にうっすらと涙を浮かべる彼女の顔に、コウは押し黙ってしまった。 「何も・・・・できないよ・・・・。もう・・・・こうやって、ミサイルが飛び立つ瞬間を眺めることしか・・・・」 「ユウラ・・・・」 彼女の肩の上で、いつもはうるさいだけのクロの表情が、何時になく暗かった。 「お兄ちゃん・・・・」 「・・・・」 妹の・・・・キキの心配そうな顔。 ジンは・・・・・・・・何も答えることが出来なかった。 ガン!と音がして、一同が振り返る。 蹴り飛ばされて吹っ飛んだ手すりの一部が、乾いた音を響かせて床に転がった。 「カイ・・・・?」 ティナが・・・・俯いたカイの顔を覗き込む。 その顔は・・・・微妙だった。 「なぁ!」 振り返り、続けて叫ぶ。 「他に・・・・なんかねぇのかよ!?  もっと他に・・・・さ!なんかあるだろう!?止める方法が!」 「ある」 その言葉に、全員が息を呑んだ。 声の主は・・・・ミサイルの最も近くへと・・・・端末の前へと歩み出る。 エデンだ。 「エデン・・・・?」 カイが呟いたすぐ後に、所内放送がかかった。 《ミサイル発射まで、残り1分》 その放送に、誰も耳を貸さない。 ただ、止める方法があると断言するポケモンの背中を、彼らは見つめていた。 状況を打開できると分かり、少年少女プラス1匹の表情が、嬉しさにほころんでいく・・・・。 エデンの次の呟きに、彼らの中の何人がその言葉を理解しただろうか。 「最低限の犠牲で・・・・被害を最小限に抑える方法だ・・・・」 「―・・・・・え?」 「何を・・・・言っている?」 そう口から漏れたのは・・・・カイとジン。 答えない白い後ろ姿に、彼らは再び訊いた。 「なぁ・・・・!それってまさか・・・・エデン・・・・!?」 「私はヘヴンを止めるために存在している。その野望を阻止する上で・・・・な。  あいつの予定を1つでも狂わせることが出来れば本望。  私は人間、及びポケモンたちを護るために生まれたようなもの・・・・。 右腕がイカれた1匹のしがないポケモンからすれば、この上ない誉れな最期だ」 そこまで聞いて・・・・また1人、気付く。ユウラだ。 「ちょ・・・・ちょっと待ってよ、エデン。  あんた・・・・まさか・・・・」 「エデン」 「うん?」 声の主は・・・・ジンだ。 「俺・・・・。いつか、お前を仲間と認めていない・・・・とか言ったよな」 「・・・・・・・・」 「訂正しよう・・・・。お前は仲間だ。俺の自慢の1人・・・・だ」 エデンは少し間を置いた後、ゆっくり振り返って、 「ああ・・・・私からしても・・・・お前は仲間だ・・・・」 《残り30秒・・・・》 不意に、エデンの姿が消え失せ、再び現れた。 ミサイルの・・・・すぐ近く。ミサイルの出っ張りを左手でガッシリ掴む。 「お、おいエデン!お前何する気だよ!?」 コウの叫びに、エデンは背を向けたまま答えない。 「ユウラ・・・・まさか・・・・。あの野郎・・・・!」 「・・・・・・・・」 耳元で聞こえたクロの呟きが、耳から耳へと抜けていく。 《残り20秒・・・・》 「お兄ちゃん・・・・まさか・・・・エデンさん・・・・!」 「ああ・・・・。お前の思っている通りだ」 「も、もしかして・・・・エデン・・・・!」 「他に・・・・方法無かったのか・・・・?」 ティナとカイの顔に、眼に見えて焦りの表情が見えた。 《残り10秒・・・・》 何も答えなかった後ろ姿が、声を上げた。 「カイ!コウ!ジン!ティナ!ユウラ!キキ!ついでにクロ!」 各々の名を呼ばれ・・・・白い後ろ姿に彼らの視線が集中した。 背中の前で、紫色の尻尾がゆっくりと揺れる。 尻尾の持ち主が、ゆっくりとこちらに顔だけ向けて・・・・眼だけで笑って・・・・。 「私を仲間と呼んでくれて・・・・・・・・ありがとう・・・・」 《3、2、1・・・・》  ヘヴンのことを・・・・頼んだぞ・・・・ 《発射》 ミサイルが尻から煙を上げて、浮上する。 ゆっくりと浮上した後、鉄の塊はよりいっそう煙を撒き散らして・・・・青空へと吸い込まれる。 地下研究所を飛び出して、地鳴りを残して飛んでいく・・・・。 1匹の、人型の白いポケモンを連れて・・・・・・・・。 ミサイルは外界の力をくわえられ、予定以上の高度を飛んでいた。 その・・・・ミサイルに無理やりくっついてきた、白いポケモンのサイコキネシスによって。 (ミサイルを強引に高く持ち上げる・・・・。出来るだけ、高く・・・・。  カントーを一撃で葬る力があるならば、普通の高さで仕留めても、被害が及ぶ・・・・)  地上に被害が及ばない所まで持ち上げたら・・・・。 ズン・・・・!! 小さいが・・・・とても力強い音が聞こえた。それとともに北の空に小さな花火が上がったように見えて・・・・。 呆然と立ちつくす。 やっと口を開けたのは・・・・コウだった。 「あいつ・・・・」  護りやがった・・・・。沢山の人間と・・・・ポケモンたちを、体を張って護りやがった・・・・! 彼らは地下研究所を脱出し・・・・単にミサイルの発射口から出ただけ・・・・各々で何かを考えていた。 カイは海を見つめていた。ずっと向こうで、ホエルオーの潮吹きが見えて・・・・。  研究所に入る前に・・・・あいつも、見てたよな・・・・。ホエルオー・・・・。 その隣で、彼を地上まで運んだリザードン・・・・カゲロウも、ホエルオーを見ていた。 よく見れば、ホエルオーのすぐ近くに2匹のホエルコがいた。おそらく親子だろう。 ボールの中で、既に何が起こったのかわかっていた。それゆえに・・・・心に悲しみが渦巻く。 耳元で聞こえるヤミカラスの声に、ユウラは・・・・。 「なぁ・・・・ユウラ・・・・」 「・・・・なに?」 「今ごろ気付いたんだけどよ・・・・。あいつ・・・・」 「・・・・」 「俺のこと・・・・ついでとか言ってなかったか?」 「・・・・知らないよ。そんなこと」 「キキ・・・・もう泣くな・・・・」 「うぅ・・・・う・・・・」 しゃがみこんで泣き続ける妹を、彼は・・・・やりきれない気持ちでいた。 眼の前・・・・といっても、かなり距離があったが・・・・で仲間が死んだ。 そんな状況を目の当たりにして・・・・10歳とちょっと生きただけの少女からすれば、その思いは重すぎた。 ジンのプテラ・・・・ジーテも、なんとか慰めようと彼女の顔を覗き込む。 視界の端に灰色のポケモンの顔が見えたが・・・・心境の変化はなかった。 「ヒュオオ?」 「うん・・・・大丈夫だから、心配しないで・・・・ね?」 覗き込んできたピジョット・・・・ジットの慰めの声に、彼女は・・・・。 ティナのすぐ近くで、カイとカゲロウが海を眺めていた。何の変哲の無い後ろ姿。 カイから聞いていた。カゲロウが、エデンと共にヘヴンと戦ったことを。 一度でもともに剣を取り合った仲間同士・・・・。その思いは複雑だった。 一方、コウはというと。 大地に大の字に寝そべり、横に座り込んだ彼のカイリュー、リュウを相手にしていた。 「なぁ・・・・リュウ」 「アオゥ?」 「なんかさ・・・・わけわかんねぇ心境なんだよな・・・・。  なんで・・・・ヘヴンの策略でエデンが死ななきゃならねぇんだ?」 「・・・・・・・・」 「ホント・・・・わけわかんねぇよ・・・・」 「破壊しよう」 「・・・・え?」 声の主は・・・・ジンだ。 ジーテにキキを任せて、こちらに歩み寄ってくる。 カイは立ち上がって、ジンに眼をやる。 「何をだよ?」 「この研究所をだ。  今はまだ他の人間に知られていないらしいが、それも時間の問題だ。  ここは最強の力を秘めたポケモン、ミュウツーのデータの塊だ。悪用する輩が出ても不思議じゃない。  さっき戦った部屋の中に、自爆スイッチを見つけた。ここは消そう。ここは・・・・あってはならない場所だ」  ジンの提案に、俺たちは同意した。  スイッチを押して、聞こえてくるカウントダウンを背にし、ポケモンたちに乗って・・・・。  轟音とともに吹き飛んだ孤島を見つめて・・・・。  俺たちは・・・・心に誓った。  あいつとの約束を、守る。  絶対に・・・・・・・・・。  ヘヴンを倒す!! ここは・・・・どこかはわからない。 辺りを流れる不気味な空気。冷たい風。 どこかの建物の頂上。そこで、黒い影は、うっすらと笑って・・・・。 「まったく・・・・意味が無いことをしたなぁ・・・・エデン。  あのミサイル・・・・『爆発しないように爆薬を抜いておいたのに』・・・・。  無駄死にだよ・・・・エデン」  つづく  あとがき クロ「あああぁぁぁぁあああ!!!」 コウ「ぬあおぅいやぁぁぁぁぁあああああ!!!」 YAN「い、いやお前ら・・・・。何故に泣く?あとさ、コウ。    お前、何言ってるかわからなかったぞ?ぬあおういや?」 クロ「ズズ・・・・。仲間の1人・・・・じゃなくて1匹が死んだんだぞ!?泣かずにいられるかァァ!!」 コウ「そーだぞ!泣かずにいられるかと見せかけてドロップキィィィック!!!」 YAN「ぐはっ!?」 YAN「さて、今後の展開に関するトークをしましょーか。    まず・・・・。お前ら死ね」 コウ「おお!?いきなり自分のキャラに対して死亡宣告!?」 YAN「冗談冗談。しばらく本格的なバトルは無いな。・・・・あ、ちょっとあるか」 クロ「そして俺の前に絶世のヤミカラス♀が現れると」 YAN「安心しろ。そんな予定微塵も無いから」 クロ「いや、そこまで言うか・・・・」