***********  リベンジャー  第96話「紅の決意」 *********** ティアの姉、ティルア・ラディス。 数年前に両親を亡くし、以来女手1つで店とティナを護ってきた。島でも評判の美人。 カイ、コウ、そしてユウラの居候を認めた・・・・が、カイとコウは条件付。 店の手伝いを要求。主に重労働。これでは居候とはいえない・・・・が、抗議すれば追い出されるかもしれないので、渋々従う。 そして事件は、店でバカ騒ぎした次の日に起こった・・・・。 様々な店が並ぶ小さな商店街のような通り。そのうちの一つの・・・・。 「・・・・?」 店の裏。 そこで彼は目の前のポケモンたちを、右から左に眺め、再び戻る。 おいしそうにポケモンフードにかぶりつく彼らを見て、カイは首をかしげた。 右から、ライチュウ、リザードン、ゴルダック、ブラッキー、サンドパン・・・・。 「いねぇ・・・・よな・・・・」 「おいコウ。ちょっといいか?」 「ん?なんかよーか?」 彼も自分のポケモンたちに朝飯をやっていた。 御馴染みのポケモンたちを一瞥して、カイは訊いた。 「・・・・カゼマル、見てないか?」 「へ?見てねぇけど。なんかあったのか?  ・・・・と、そーだ。俺のゲイル見てねぇか?」 「カゼマル?見てないけど」 店内にテーブルを並べる茶髪の少女は、素っ気無く答えた。 薄く汚れたエプロンを絞めなおし、彼女は告げた。 「ライちゃんたちは知らないの?」 「全員首を振ったよ・・・・。横にな」 「オラァッ!全身ダーイブ!!」 その叫び声とともに開いた窓から突撃してきた、黒い影。 影は・・・・1匹の生意気ヤミカラスは床に不時着すると、顔だけこちらに向けて、 「何点?100点万点中」 「5点」 「うおっ!キビしい!」 クロは起き上がり、並べられたテーブルの上にドカッと座ると、なんかやたら偉そうに、 「おうおうおめぇら。大人たちは語らない世の中の苦痛の叫びについて知りたくないか?」 「別に知りたくねぇよ。・・・・そーだ。おいクロ。お前カゼマル見てねぇか?」 「知りたくないか。まぁ知らないのも1つの知恵だな。うん。  で、カゼマル?あの右眼の傷跡があるハッサムか?見たぞ」 「そーか見たか・・・・。っておい!見たのか!?マジで!?ドコでだ!」 「よしよし教えてしんぜよう。だがその前に首を絞めるのはよせ。普通に死ぬわ」 クロがクゼマルを見たのは、朝6時ごろ。 ユウラのウインディ、ランディの頭の上に乗って早朝散歩に出かけたクロ。 海岸沿いに歩いていたとき、彼は見つけた。 「ぬ?ありゃー・・・・カゼマル?・・・・とゲイルだよな」 『あ、ホントだ』 クロとランディの視線の先。 島から離れた沖合いに、カゼマルとコウのオーダイル、ゲイルの姿が見えた。 ゲイルの背にカゼマルが乗った状態。進行方向はアサギ方面。 「おめぇらドコ行く気だ?まさか駆け落ち?」 『・・・・・・・・』 2匹に追いついたクロ。 海上を進む大ワニ・・・・ゲイルは進行を止めない。 ゲイルの背で胡座をかいて座っているカゼマルは、すぐ横を飛ぶクロを一瞥し、 『・・・・丁度良かった。頼まれてくれるか?』 「内容、及び報酬による」 『報酬は期待するな・・・・。で、カイに伝えて欲しい。  少しの間出かけてくる。夕方までには戻る・・・・と』 「よっしゃ任せろ。このクロ様に任せれば必要外なことまで漏れなく伝えてやる。  ・・・・で、マジで報酬なし?やりがいないぞ」 『じゃあ頼んだぞ』 「おお、聞いてないな。無視か?無視なんだな。  で、結局ドコ行く気なんだ?」 「・・・・で、ドコに行くって?」 「いや、場所は吐いてくれなかった。だが何をするかは聞いたぞ。  で、なんだこの取調べスタイルは?俺は犯罪者か」 どこからか持ってきた電気スタンド。 テーブルをはさんで座ったカイとクロを顔が、日中なのに怪しく照らし出す。 スタンドをクロに顔面に押し付けて、彼は刑事風に訊いた。 「とっとと吐いちまいな。お袋さんも泣いてるぞ。ん?」 「吐くからやめろ。ヤミカラスの俺にンな光押し付けんな。眩しいっつーに。  ・・・・つーかお袋死んだわ。あのバンギラスにやられて」 「・・・・悪かった」 ・・・・タブーを口にして謝るカイ。クロは大して気にせずに、 「気にすんな。もう昔のこった。  で、カゼマルの伝言だな・・・・えっと、確か・・・・」  “ケジメ”をつけて来る・・・・とか言ってたな 真紅の人型ポケモンが、アサギの町を高速で通り過ぎる。 ゲイルを帰し、彼は既に森の入り口まで来ていた。うっそうと茂る・・・・懐かしき森の入り口に。 『・・・・帰ってきたか』 右眼の傷跡をもつハッサムは・・・・人間には理解できない言葉で1人呟いた。 この森こそ、彼の故郷。 この森こそ、彼は育った場所。 この森こそ、彼が1人で鍛錬を積んだ場所。 そう、1人で・・・・。 彼はいつも1人だった。彼を認める者は・・・・この森に、誰1人としていなかった。 森には同族の群れがあった。・・・・仲間が欲しかった。 あの日も、群れのボスに挑み、負けて、そして・・・・。 1人の少年に・・・・青髪のカイに出会った。 1人と5匹の仲間とともに、彼は強くなった。進化も体験した。 彼は・・・・ハッサムのカゼマルは、この時を待っていた。 ヤツに挑む日を。ヤツに自分の存在を認めさせる日を。 『・・・・?』 森に入ろうとした・・・・その時だった。彼らを見つけたのは。 森から少し離れた場所にある巨大な大木。 順応無尽に伸びまくった枝に無数の葉っぱ。それらが巨大な天井のようにも見える。 彼らは、その下にいた。 幾匹もの野性ポケモン。種類は様々。 カゼマルは・・・・その種族に見覚えがあった。 コラッタ、ラッタ、ナゾノクサ、クサイハナ、ポッポ、ピジョン、ビードル、コクーン、スピアー。 キャタピー、トランセル、バタフリー、ヒメグマ、リングマ、ニドラン♂♀、ニドリーノ、ニドリーナ・・・・。 彼らは何故森の中で住まないのか。それがカゼマルにとって最大の疑問だった。 理由を聞くため、取りあえず近づいて・・・・。 『来るなァ!!』 『!?』 威嚇してきたのは・・・・勇ましいニドリーノ。 幾多もの傷跡を残す誇らしげな角をこちらに向けて、叫ぶ。 『この悪魔め!この木の下で暮らすことも許さない気か!?』 ・・・・なにやら勘違いしているらしい。 弁解しようと口を開いた瞬間、何かが飛来した。 殺意が込められた一筋の破壊光線。身を翻して避けて、カゼマルは後方から射撃してきたリングマを睨む。 『これ以上近づいたら、ただじゃおかねぇ!とっとと消えろ!ヤイバの手先が!』 『!』 カゼマルの表情が、一瞬変化した。 何を思ったか、警戒心全開の彼らに向かって歩き出す。 勿論、前線に立ったニドリーノ、リングマはそれを許さない。 『近づいて・・・・』 『来んじゃねぇぇ!!』 ツノドリルと切り裂くの一撃。 それらは・・・・何も捉えずに空振りした。 『!?』 『こ、こいつ!こっちに来るな!』 怯えるニドランたちを護っていた2匹のニドリーノ。 先刻のニドリーノとリングマの間をすり抜けるように突破したハッサムに、各々のツノを向ける。 突進。そして・・・・。 『な・・・・!?』 『えっ!?』 彼らの攻撃が、すり抜けてしまった。陽炎のように揺られ貫かれたカゼマル。 その姿が、揺らめきを激しくして・・・・。 消えた。影分身である。 怯えるニドランの内・・・・1匹のメスの元へ歩み寄るカゼマル。 恐怖で動けないのか、涙を浮かべて震えている。 目の前のハッサムが、腰を落として、告げた。 ニドランの前脚に出来た、切り傷を見ながら。 『その傷は・・・・ヤツらにやられたのか?』 『え・・・・』 『ヤイバの率いるストライクの群れにやられたんだな・・・・。かわいそうに』 『な・・・・なに言ってやがる!お前もその一味だろう!こっから出てけェ!!』 すでにカゼマルの背後まで忍び寄っていたリングマ。 豪腕を振りかざし、振り下ろしかけて・・・・。 『・・・・ん?』 その良く利く鼻をヒクヒクさせて、リングマは眼の色を変えた。 『あんた・・・・まさか・・・・』 『その通りだ』 カゼマルは腰を上げると、振り返り、断言した。 『俺はトレーナー付きのハッサムだ。今は近くにはいないが』 彼はリングマの横を通り過ぎた。 リングマが嗅ぎ取った臭い、それは紛れもない人間の臭いだったのだ。 『おい。群れはどこにいる』 振り返らずに聞いてくるカゼマルに、枝の上にいたピジョンが答えた。 『群れなんかあちらこちらにいるぞ。森全体に広がってるんだ』 『そうか。じゃあ歩いていれば出くわすな。遭ったヤツから締め上げるか』 独り言のように呟き、歩き出す。 慌ててリングマが引き止めた。 『お、おいあんた、まさか俺たちのために戦うつもりか?  ヤツらに森を追い出された俺たちのために・・・・』 『違う。俺はただ単にヤイバを潰しに来ただけだ。お前たちのことなど知らん』 『で、でもヤツらは大勢いるんだぞ!?あんた1人が行ってどうにかなる相手じゃ・・・・』 『知らないな。そんなこと』 ぶっきらぼうに答えて・・・・右眼に傷跡を持つハッサムは歩き出した。 森を1人歩く赤い影。 右眼に傷跡を持つ紅の虫ポケモン、ハッサムのカゼマル。 野性ポケモンの気配は殆ど感じない。 これだけ歩けば、虫ポケモンや草ポケモンの1匹や2匹見かけそうなのに・・・・いない。 青空を見上げても、鳥ポケモンの姿はない。 彼は特に気にせず、歩き続ける。 アサギ〜エンジュ間の広大な森。 そこに現在住むポケモンは・・・・たったの2種類だった。 不意に地面に映りこむ、4つの影。 カゼマルを囲むように、彼らは降り立った。 森の緑に溶け込む身体。2本の鎌。 カゼマルの進化前・・・・4匹のストライクが殺意剥き出しで現れた。 脚を止めたカゼマルに対し、ストライクたちは殺意を消さずに訊いてきた。 『ちょっとアンタ・・・・群れのモンじゃないわね?』 『ここでなにしてやがる・・・・。もしかして群れに入りてぇとか、そんな類か』 声を発した前方の2匹。後方の2匹は黙ったまま。 カゼマルは全く考える素振りを見せずに、口を開いた。 『ヤイバはどこだ』 『ああ?何言ってやがる。テメェみてぇな余所者にヤイバさんの居場所を教えてたまるか!』 『ヤイバさんに何の用だ!』  答える気0%。  彼はそう判断して、冷酷に告げた。 『お前たちはただヤツの元に案内してくれればいい。  案内する気がない場合、力ずくでも案内してもらう』 『な・・・・ンだとォ!!?』 『やれるもんな        らやって・・・・・・・・』 前半のセリフと後半のセリフがずれて聞こえたのは聞き間違いではない。 カゼマルのメタルクローによって吹っ飛んだストライク。一瞬呆気に取られた残りの3匹が・・・・。 『な・・・・!よくも同胞を!』 『生きて帰すなァァ!!』 斬りかかって来る3匹のストライク。 カゼマルは彼らに聞こえないようにため息をつくと・・・・。 紅の影となって、舞った。 『う・・・・ああ・・・・』 『案内する必要はなかったな。俺はこの森の構造を熟知している。  ヤイバが何処にいるか吐くだけでいい。さぁ言え』 木の幹に追いやられた1匹のストライク。 倒れて動かない仲間のストライクたちを横目で盗み見て・・・・恐怖に駆られた。 半開きのハサミで首を押さえつけられたストライク。その脳裏に・・・・。   絶対勝てない・・・・。このままじゃ殺される・・・・!! 『わ・・・・!わかった!言うから!  ヤイバさんは森の中央の湖の・・・・!すぐ近くの大樹にいる!』 『・・・・本当だな?』 『ほ・・・・ホントだ!だから頼む!殺さないでくれェ!!』 『ああ。わかった』 その言葉に安心して・・・・胸を撫で下ろせないがホッとするストライク。 ・・・・が。 『え!?』 もう片方のハサミを持ち上げている・・・・右眼の傷跡を残すハッサムの姿が眼に入った。 『・・・・何もしないとは言っていない』 『いっ!?そりゃちょっと理不尽・・・・』 ストライクの訴えも届かず。 脳天を襲った鈍痛に、彼は昏倒した。 あのストライクの示すとおり、彼の足はおのずと湖へと進んだ。 目の前に広がる青い湖。そして右手に・・・・例の大樹。 その大樹へと向かうカゼマル。辺りは静かで、生き物の気配を感じさせない。 ・・・・刹那。 ヒョオオオ・・・・!! 吹き抜ける突風。踊り出る緑の影。 ものの数秒後・・・・彼らは殺気を漲らせて現れた。 ストライク、ストライク、ストライク・・・・。 ストライク、ストライク、ストライク・・・・。 見渡す限りストライク。数十匹もの軍勢が、カゼマルを取り囲んでいた。 緑の中に・・・・1つ、赤い影。 カゼマルと同じ、真紅のメタリックボディのポケモン、ハッサム。 『話は聞いてるぜ・・・・。テメェ、森の入り口付近にいた同胞3人をやりやがったな?  ヤイバさんが治めるこの群れに手ェだすってことは、それなりの覚悟はあんだろうな』 『・・・・知るか。あっちが勝手に仕掛けてきたんだ。  俺はちょっと相手をしてやったまで。恨まれる筋合いはない』 『ン・・・・だとォ・・・・!?』 カゼマルの言葉にハッサムはいきり立つ。飛び出しかけた脚を引いて、彼は冷静に告げた。 『俺はヤイバさんにテメェの排除を任されたナタっつーもんだ。  消す前に聞いといてやる。薄汚い人間臭ェ保護者付きのハッサムがヤイバさんに何の用だ・・・!』 『・・・・お前に3つだけ告げてやる。  1つはお前に対して一言。もう1つはここに来た理由。そしてもう1つはお前の「薄汚い人間」という言葉に対してだ』 『・・・・?』 『お前に対して一言。俺はお前、及びお前たちに排除される気は全くない。問題外だ。  ここに来た理由。俺はこの森の出身だ。ヤイバにはいろいろと用がある。  ・・・・そして、お前の言葉に対して一言』 そこでカゼマルは言葉を切った。 しばらくナタを睨む。ナタも睨み返すが、すぐにカゼマルの視線におじつけついた。 先程とは違う・・・・表情を凶悪にガラリと変えたカゼマルが、声を低くして・・・・。 『あいつを侮辱するな・・・・。  カイは・・・・俺の大事な主人であり、仲間だ。カイをバカにするヤツは俺が許さない・・・・!  そこをどけ。歯向かうヤツは容赦なく斬らせてもらう』 『う・・・・っ!?』 ナタはおろか、周りのストライクたちも一歩退く。 カゼマルの眼光鋭い視線。その威圧で、彼らから血の気が引いていく。 が、ナタの一喝で我に帰った。 『な・・・・。何ビビってやがるおめぇら!  とっととそいつを・・・・たたんじまえ!!』 『ウ・・・・ウォオオオオオ!!!』 飛び出す緑の影。 真ん中の赤い影に収束されるように、緑の影は鎌を構えて斬りかかる――― それがいかに無駄な行為か、彼らはすぐに思い知ることになる。  つづく  あとがき カゼマルのケジメ編・・・・ってカンジですね、ハイ。 ・・・・ちょっと思ったこと。それは自分の書く小説に出てくるキャラは皆、口が悪いってことですね(笑)。 コウやクロは勿論のこと、ナタも口悪いです。 この後出てくるヤイバも口悪いです。恐いです。 ・・・・な〜んでこんなに口悪いのかな〜。