ジョウト西の海に浮かぶ島、ギンバネ島。 近海に位置する渦巻き列島に深い縁があるとうたわれる島。 然程大きくないその島の一つに、中心を水路が貫く町がある。 清らかな音を立てて流れる水路がメインストリート。そこから枝分かれするように道が伸びている。 その枝の中の一つ、木製の2階建ての建物。 数人の客が昼飯を頬張る店。そのカウンターの奥で、新聞に目を通す女性が1人。 ***********  リベンジャー  第99話「偉大な力」 *********** 「カイ、またアンタ新聞に出てるよ。人気者じゃない」 「うっせぇ。そろそろ飽きたわ」 ティルアの言葉に、店の裏手に酒樽を運ぶカイが噛み付くように言う。 カイの毒づきを無視して、彼女は続けた。 「そういえばさ、この一緒に映ってる銀髪のイケメン君、アンタの知り合いなんでしょ?」 「だからなんだってんだ」 「今度紹介してくんない?この年齢でこれだけイケてりゃ将来・・・・」 (・・・・ティルアさん、年下好み?) 「かなりの・・・・ってこらカイ!聞いてんの!?」 親友の将来が危ないと判断し、カイはその現況を無視して店の奥に姿を消そうとして―― 思い当たって、立ち止まる。 「・・・・なぁ、その新聞、ちょっと貸してくれ」 「?別にいいけど」 酒樽を床に置き、手渡された新聞を穴が開くくらい見つめる。 全てのページを念入りにチェックして・・・・彼はため息をつき、新聞を返した。 「・・・・何かあった?」 「いや・・・・別に」 カイが捜していたもの、それはルーラァズに関係する記事だった。 母親の仇であるヘヴンが統治する、犯罪組織。 ここのところ、妙に動きがなくなった。単に隠蔽工作で隠されているのか、それとも活動していないだけか。 「おお!捜したぞカイ!」 「・・・・コウ?」 酒樽をしまいこんだ矢先、いつもの声がするほうに振り返る。 予想通り、オレンジのバンダナをした少年だった。 「なんか用か?」 「オウ!客だ客」 「客?誰だ」 「さぁ」 「いや・・・・さぁってお前・・・・。まぁいいや、どーゆーヤツだ?」 「さぁ」 「・・・・お前そろそろ殺すぞ。なんで客の容姿も答えられねぇんだ」 「大丈夫大丈夫。俺について来れば万事オッケー。  とゆーわけで、手持ちポケモン全員揃えてレッツゴー!」 手持ちポケモンを全部揃える。その言葉に、カイは妙な胸騒ぎを感じた。 ・・・・何をするのか、容易に予想できるが。 切り立った崖。吹きつけてくる潮風。 街から少し離れた場所に位置する草原。その端に存在する絶壁の下で波が島を抉っている。 ・・・・そんな草原の片隅の岩陰で、カイは面倒臭そうにため息をついた。 「・・・・オイ、なんだありゃ」 「うむ、簡単に言やぁアレだ。とても短い時間で有名になろうとしているヤツら」 「・・・・つまり?」 「挑戦者ってヤツ」 草原のど真ん中にある、不自然な人垣。 少年少女トレーナーから、雰囲気だけだと強そうな青年トレーナー。 雰囲気だけだとベテラン風な大人トレーナー。その他多数・・・・。 リーグチャンピオンであるカイを打ち負かそうと集まったトレーナーたち。総勢約30人。 あちら側から見えないように、彼らを指差すカイ。 「あれ全部・・・・挑戦者?フザけてんのか?」 「うんにゃ、フザけてないぞ。・・・・・・・・俺は」 その時になって、カイは違和感を感じた。 目の前で「フザけてないぞ」とばかりに胸を張る友が1人。 その顔が・・・・さりげなく笑っている。本人は出していないつもりだろうが・・・・。顔全体的に微妙に笑みが滲み出ている。 「・・・・コウ」 「ん?」 「お前、何か隠してるな?」 「うんにゃ、何も隠してねぇぞ」 「・・・・殴らねぇから正直に言え。何か隠してるな?お前」 「・・・・おう、分かった。素直に自白しよう。  だからさりげなく岩に追いやって胸倉掴むのやめてくんない?」 事の成り行きはこうだった。 ものすごく簡略的に述べると、コウは「ちょっと一儲けさせてもらった」に過ぎない。 今日に午前中、港に出来た人垣を発見した。 話を聞けば、それはカイとのバトルを望む挑戦者ばかり。 島に着いたのはいいものの、肝心のカイがいる場所がわからず途方に暮れていた。 そこでコウは閃いた。 「・・・・何を閃いた?」 「いやな、簡単に言うと、1人辺り千円で案内を・・・・」 全く迷いの見られないカイの鉄拳が、容赦なくコウの脳天に炸裂した。 ニブい音を立てた直後に響く激痛に、コウは顔をしかめる。 「いって〜!テメェカイ何しやがる!」 「・・・・案内で金を取るな、金を。  そんな商売成立するなら交番のおまわりさん裕福になっとるわ」 怒鳴るコウに対し、カイは冷静に告げた―― 「・・・・で、何で私たちが借り出されるわけ?」 2人の少女は、ややご立腹に見える。無論、ティナとユウラだ。 「まぁまぁ。実はな、お前ら3人と俺で、ちょっとやって欲しいことがあるんだよ」 「・・・・何すんの?」 「まぁ・・・・簡単なことさ」 ユウラの問いに、カイは笑顔で答えた。 「あ!カイだ!ポケモンリーグ優勝者の!」 「おぉ!ホントだ!」 岩陰から出るなり聞こえた歓声。嬉しいやら、ウザいやら、複雑な心境である。 カイの後ろについて来る3人の名前も飛んだ。全員ベスト8に入った強者ばかり。ポケモントレーナーとしては憧れるばかりだ。 「カイさん、俺とバトルしてくれ!」 「何言ってるんだよ!僕が先だ!」 「あんたこそ引っ込んでなさいよ!あたしが先よ!」 最前列にいた少年少女が騒ぎ出す中、カイはそれを手で制して見せた。 しんと静まる中、カイはちょっと面倒臭そうに話し出す。 「え〜とだな、早速だけど挑戦は受け付ける。だけどその前にあるバトルを見てもらう」 「?」 首をかしげる挑戦者一行。カイはさらに続けた。 「バトル終了後、やりたいヤツからかかってくればいい。  ・・・・今から行われるバトルを見て、挑戦する気になればの話だけどな・・・・」 不敵に笑う優勝者に、挑戦者たちは悪寒を覚えた。 カイは一応挑戦を受けるつもりはある。 だがさすがにこの数を相手に連戦するのは面倒臭いと判断し、とあるバトルを見てもらい、それから挑戦を受けることにした。 ・・・・だが。 カイはこのバトルで、挑戦者全員の戦意を喪失させるつもりである。 「・・・・別にあたしたちもバトルする必要ないんじゃない?  カイとコウでバトルすれば、丸く収まるんじゃ・・・・」 バトルがとり行われる直前、ユウラがカイに耳打ちした。 「俺とコウは大会で既にバトルしてて面白みに欠けるし、あいつらも恐らく見たことあるから迫力に欠ける。  だから・・・・お前らも呼んでダブルバトルにしたんだ。迫力あって、なおかつポケモンは1匹だけでいい」 「・・・・わかったわよ、しょうがないわね」 草原の隅に寄り、挑戦者からギャラリーへと姿を変えた一団。 相反する位置に、カイとティナ、コウとユウラがいる。 「考えたらさ、カイと同じバトルフィールドに立つのって初めてじゃない?」 「・・・・そういやそうだな」 ティナに言われて・・・・カイはジョウト地方の旅、そしてリーグでの出来事を思い出す。 確かに、行われてきたバトルでティナと同じフィールドに立つことはなかった。 「あ、でもある意味バトルしたよね。スリバチ山で」 「・・・・あれってバトルっていうのか?  お前が強襲してきただけじゃねぇか、シェルドのとげキャノンで」 「あれは強襲じゃなくて、ちょっと試してみただけよ。試しただけ」 「いや〜どーゆー成り行きかはあんま理解できないが、結局はバトルなんだな?  なんか観客もいるし、ここはいっちょ暴れてやりたい今日この頃。  ・・・・ところでユウラ、その無言でボールをこちらに向ける行動はあれか。喋ってねぇでボールの中に入ってろ?」 「明答」 「最近の小娘は人に対する思いやりが――」 そこでクロの言葉は途切れた。光の塊となってボールに吸い込まれたからだ。 「カイ!リーグの続きがてら、とっとと始めようぜ!」 「・・・・アレはお前が棄権したんだろうが」 「・・・・・・・・い?そうだっけ?」 「うし、そんじゃあ始めようか。俺&ティナVSコウ&ユウラのダブルバトル」 カイは自分が使用するポケモンを選びながら、審判のように告げる。 「使用ポケモンはそれぞれ一体ずつ。どちらか一方のポケモン2匹が戦闘不能になった時点でバトル終了」 4人は無言でボールを手にとる。自分たちがバトルするわけでもないのに、ギャラリーたちに緊張が走る。 ポケモンリーグベスト8入りのトレーナーたちによるダブルバトル。早々見れるものではない。 「そんじゃあ・・・・レディ、ゴー!!」 「行って来い!スピン!」 「行くわよフィル!」 「ファン!ひと暴れすっぞ!」 「テフナ、ゴー!」 カイのボールからはサンドパンのスピン。ティナのボールからはエーフィのフィル。 コウが繰り出したのはドンファンのファン。ユウラが使役するはバタフリーのテフナ。 先手必勝。真っ先に指示を出したのはコウだ。 「ファン!全速力で転がる攻撃!!」 ファンは瞬時で丸くなると、その場で空回り、勢いをつけ、一気に飛び出す。 「転がるには転がるだ!スピン!」 臆病者のサンドパンが、ファンと全く同じ動作で飛び出した。互いにぶつかり合い、弾きあう。 「風起こし!更に銀色の風!!」 羽ばたくテフナの羽が、突風、さらに不思議な銀色の風を繰り出す。 狙いは・・・・勿論弱点となるフィルだ。 「ヤバ、虫タイプの技・・・・!  電光石火で回避!そしてサイコキネシス!!」 その指示通り、フィルは電光石火で斜め前に回避。さらに距離を詰め、薄紫の波動を繰り出した。 その動作を・・・・風起こしでフィルの体勢をムリヤリ崩し、中断させる。 「乱れひっかき!」 「んじゃこっちは乱れ突きィ!!」 ・・・・なんだか似たような技のやりあいになってきたスピンVSファン。 互いにツメとツノを弾きあい距離をとる。 攻撃はせず、相手の出方を伺い始める2匹・・・・が、その内の1匹に変化がおきた。 何故か虚ろな顔でフラフラし始めたのは・・・・スピンだ。 「お、おいスピン!?どうした!?」 「ふふ・・・・!」 不敵に笑ったのは・・・・ユウラだ。 「ついさっき眠り粉を撒いといたんだけど・・・・。今更になって効いてきたみたいね。  “見せるバトル”だけど・・・・やるからには徹底的にやるわよ!」 眠り粉の効果は上々だった。スピンは何とかくっつこうとする瞼に抵抗している。だがこの様子だと時間の問題だ。 「おいスピン!寝てる場合じゃねぇぞ!」 カイの喝も虚しく、スピンは今まさに夢の世界へ旅立とうと―― 「フィル!スピンの目の前でフラッシュ!!」 とても気転の効いた指示。目が眩むほど強力な光で、スピンの眠気は一瞬で吹き飛んだ。 ・・・・若干クラクラしているのはしょうがない。 「サンキュウティナ!  ちょっとばかし命中率下がってるけど礼言っとくぜ!」 「当たり前でしょ!眠りこけてるより100倍マシよ!」 「捨て身タックル!」 大きな地鳴りとともに、ファンの巨体がフィルに迫る! 「“超・・・・念力”!!」 フィルの瞳が、サイコキネシス発動時よりもさらに輝く。 ファンの体が、何かに引っ張れるように後方に飛ぶ。内側の・・・・鎧のような殻が覆われていない無防備な部分が剥き出しになる。 「スピードスター!」 「サイケ光線!」 その弱点部分を狙ったスピンのスピードスターを、テフナのサイケ光線が襲った。 星をすべて打ち落とされた挙句、技発動中のため回避不可。見事にブチ当たった。 「スピン、平気か!?」 頭を振る仕草を見せ、振り返ったスピンはコクリと頷いた。まだ戦闘可能である。 「よし・・・・。穴を掘る!」 「やろ・・・・。ドコいった?」 ファンを待機させて、コウは考え込む。 テフナが放ったサイケ光線を、フィルはサイコキネシスで相殺する。 だがスピンの姿は見当たらない。案の定、地面の下だ。 「地面の下なら・・・・この技が効くぜ!  ファン!地震だ!!」 ファンは両前脚を、というよりも前身を持ち上げ、体重を乗せて地面を叩く。 強力な衝撃波が地面を伝い、地下のスピンと地上のフィルを襲う。 「あ、フィル!?」 テフナを相手していたためファンへの警戒が疎かになっていた。防御、回避ともに出来ずに戦闘不能になる。 「へっへっへ。おいカイ!  スピンのヤツ、地面の下で気絶してんじゃねーか?」 ファンの地震により、フィルはダウン。さらにスピンも地面の下で攻撃を受けている。 オマケに攻撃者であるファンは然程ダメージを受けていない。テフナも同様。 「いや・・・・まだだ」 「へ?」 カイのその自信は一体ドコから来るのか。コウは首を傾げるばかりだ。 カイは自信満々に、告げた。 「俺のスピンはそう簡単にはやられねぇ・・・・。  そうだろう!?スピン!!」  ドゴォッ!!「バオオッ!?」 その直後だった。ファンの真下から、勢いよく何かが飛び出したのは。 言われずとも分かること・・・・。スピンである。 「地面の下で地震を受けて、まだ戦えるってのか!?」 コウが驚く中、スピンはファンの重量級ボディを打ち上げた。穴を掘る攻撃と同じ要領だ。 「地震が来ることは最初っからわかりきってんだよ!  だから地面の下で丸くならせて、防御力を上げておいた!」 スピンの突き上げ攻撃はかなりの威力を誇った。ひっくり返ったファンの体が、空を飛ぶテフナを越えるほどに。 さらに空中でファンの身体をガッシリ掴み、オマケに回転を始めて・・・・。 落下を始めた2匹。そのコースには・・・・。 「えっ!?ちょ・・・・テフナ!サイコキネシスで軌道を変えて・・・・!」 ユウラの指示、間に合わず。 スピンはファンを下敷きに、さらにその下にテフナを挟む形で地面に直撃した。 「最後の攻撃なにさ〜!何かプロレス風な技だったんだけど・・・・」 完全にノビているテフナをボールに戻しながらユウラが愚痴る。 対してカイは、スピンの頭を撫でながら、 「いや、フィニッシュの技なんだけど・・・・。  アレ、俺全く関知してねぇんだけど」 「関知してない?」 ティナが聞きかえす。 「ファンを打ち上げてからスピードスターで攻撃しようかと思ってたんだけど・・・・。  まぁ簡単に言やぁ、あの技、スピン自身のオリジナル・・・・つーか、アドリブっつーか・・・・」 呆然となる3人。見つめられて、ちょっとビビるスピン。 そんな中、輪をかけて呆然となっている一団があった。バトルが始まってから一言も喋らなくなった、挑戦者グループだ。 微笑しながら、カイは一団に訪ねる。 「・・・・で、勝負してぇヤツは?誰からでもいいぞ」 言われて、ハッと我に帰る。 相手の手持ちポケモン、サンドパンのスピン。 仮にもリーグベスト8に入ったトレーナーが鍛えたポケモンを、一撃で2匹同時に葬り去った。 1匹だけでこの強さ。となると・・・・。 「お・・・・おい、お前行けよ」 「え・・・・やだよっ!絶対負けるじゃん!」 ビビりながらお互いに譲り合い・・・・。 顔を見合わせて、そそくさとその場を立ち去っていった。  カイの作戦大成功。  ・・・・ただ単に戦うのが面倒だった。ただそれだけ。  つづく  あとがき あ〜、意味不明の99話でした〜。 次回、ついに100話です。100話にとても相応しい重要話を・・・・。 やりません←最悪 ・・・・冗談です。やります。それ相応、「リベンジャー」最終章の始まりです!