この日、全ての出来事に終止符を打つ戦いが始まる。 千年前の謂れ。2匹の神。悪魔を打つ者。そして現代の7人のトレーナー。 かつての悪魔の仲間をも巻き込み・・・・。 全てが1つに終結し、全てを終わらせる。 誰にも知られることの無い、決着の時―― ************  リベンジャー  第100話「悪魔降臨」 ************ 「うい〜っす。ランディ散歩に連れてったぜ」 「サンキュ〜」 時は午後7時。場所はジョウト地方、西の海に浮かぶ小さな島。 その中にある港町に、1つの酒場。客の姿は無く、その代わり店内に動く影。 大きなテーブルに5つのイスをそろえながら、ユウラは戸口から入ってきたコウに顔を向けた。 コウはユウラに彼女のウインディ、ランディの入ったボールを渡し、カイへと顔を向けた。部屋のイスに置かれた椅子に腰掛け、分厚い本を読んでいる。 「カイ、何読んでんだ?」 カイは本から目を離さずに、 「ユウラが最近ハマってる本」 「どんな本?」 「知識が増える本。及び、頭が痛くなる本」 ・・・・一体どんな本なのか、彼には見当がつかなかった。普段本を読まない彼にとっては余慶にだ。 覗き込むコウに気がついて、カイは読んでいた本を差し出した。 手にとって、読む。数秒後・・・・。 バタリ。と倒れた。 床に転がった本を拾い上げて、彼はぶっ倒れたままのコウを見下ろす。 「・・・・そりゃムリだろうな。学校の成績芳しくなかったお前に医学関係の本は」 「ご飯できたよ〜!」 ティナがおぼんに乗せた夕食を運んでくる。その後ろから、同じようにティルア。 この家の炊事はラディス姉妹が担当。・・・・といっても、他の誰も料理が出来ないから必然的に決まったことだが。 晩飯を楽しみにしているカイと、軽く頭痛がする頭を抑えるコウ。どちらも夕食の席についている。 台所からユウラが姿を見せたころ、コウは既に箸を持っていた。 「・・・・そういえばクロは?昼頃から姿が見えないんだけど」 ユウラの素朴な疑問に反応して、カイも口を開く。 「ライラも見てねぇんだよな。コウ、何か知ってるか?」 「ほば?」 口の中に目一杯白米を頬張るコウは、首を横に振った。 「さて・・・・そろそろツッコもうか、コウ」 「おう、そうだな」 不意に、男2人が箸を置く。きょとんとする女3人に、彼らは声を揃え、言った。 「これ・・・・なんだ?」 彼らが指差すもの、それはテーブルの上に並ぶ献立の中に異質な空気を放つものが一つ。 おわんの中の肉じゃが。別にこれといってツッコみ所はない。・・・・見た目の問題では。 とにかくその肉じゃがが放つ異様な臭いが、彼らは気になって仕方が無かった。 突き刺さるような不愉快な臭いが、彼らの鼻腔をくすぐる・・・・いや、本当に突き刺さる。 そんな中嬉しそうな声をあげたのは・・・・意外にもユウラだった。 「へっへー!ティナに教えてもらって作ったのよ!」 何故か妙に自信ありげに胸を張る金髪少女を前に、彼らは絶句する。 ユウラの横でティナはなんと言ったらよいかわからない顔をしている。恐らくティナに非はない。カイは直感でそう考えた。 見た目の問題は皆無。臭いの問題は盛り沢山。 この世のものとは思えないほどの悪臭を放つ魔界の産物。彼らの前に一つずつ並んだ邪悪な物質は、牙を構えて箸をつけるのを待っている。 ・・・・食うのか?これを食うのか? 食べたら最後、二度と朝日を拝めないような気がするほどの恐怖。 ユウラは何故か固まる2人を見つめ、その悪魔の食物を口に運ぶ瞬間を心待ちにしている。 2人は顔を見合わせ、そして覚悟を決めた、その直後―― 「いやー!島のガキ供の相手は疲れるぜー!  ったく羽をひっぱんなっての!」 「ライ・・・・」 そんなセリフとともに現れたのは、ヤミカラスとライチュウ。無論、クロとライラだ。 クロは夕食の団欒にずかずかと飛び寄り、テーブルの上に着地する。 「メシまで待てねぇからちょっとばかし、つまませてもらうぜ」 そう言って彼の目が・・・・そう、あの魔界の産物に止まった。 「これでいいや。んじゃいっただっきまーすっ!!」 そう言って、彼は戸惑うことなく、不気味な肉じゃがを口へと運ぶ。 止めようとした手を漂わせる2人。間に合わなかった。 そんな中ユウラはクロのリアクションを心待ちにしている。ティナは汗だく。ティルアは知らん振り。 そして、ついに――!!  ポテ 倒れた。 「え・・・・ちょ、クロ!?」 クロを急いで抱き起こすユウラ。クロは魔界の産物を口にしたポーズのまま、固まっている。 「ギャアアア!ユウラがクロを殺した!毒殺だ!」 「毒殺ってどーゆー意味よバカ!」 ユウラの鉄拳がコウにヒットする場面を完全に無視して、カイはクロの容態を調べた。 呼吸がない。全く動かない。 「・・・・こーゆー時はポケモンセンターでいいのか?それとも・・・・」 カイはおもむろに、クロの身体を抱きかかえる。 そのまま洗面所に移動。クロの口を下にして・・・・。 ドスッと一撃。すると・・・・。 「――・・・・!?げっふぁあ!!」 カイの手刀がクロの背中を一撃した瞬間、クロは何かを吐き出しながら息を吹き返した。何を吐き出したかはあえて語らない。 「おいクロ。生きてるか?」 「お・・・・おう・・・・。なんか、この世の果てを見た気がした・・・・」 ユウラはかなりの料理オンチだと発覚した今日この頃。 何の変哲の無い夕食を楽しむ彼らは、まだその事態について知らなかった。 海。徐々に姿を現し始めた月に照らされた、神秘的な海。 その深海に、大きな影が一つ。その周りには何もいない。深海の住むキングドラなどのポケモンたちの姿もない。 姿がないのは当たり前だった。この大きな影が、彼らを避難させたのだから。 影はゆっくりと顔を上げた。海面を見つめ、いや、睨んでいる。 タイミングを見計るように、急浮上する。冷たい深海を突き破り、温かな海面をも突き破り、膨大な水しぶきとともに海上へと現れた彼は、凛とした声で呟く。 「この先に何か用か・・・・。どんな用であれ、お前を通すわけにはいかない・・・・」 「ツレないなぁ・・・・。久しぶりに会ったのにそのセリフはないんじゃないかい?」 子どもっぽい声で答えたのは、海の上に浮かぶ影。黒い、不気味な影。 銀色に輝く翼を持つ深海より現れし影は、精一杯眼つきを鋭くさせた。 「ここより先はお前のような外道が来る場所ではないぞ」 「・・・・勝手に外道とか決めないでくれるかなぁルギア・・・・。いや」 そこで彼は一呼吸置く。そして、 「ルギアの生き残り・・・・。ラスイ君?」 「・・・・・・・・」 影の問いかけに、ルギア改め、ラスイは黙り込む。だが瞳の光は消さずに、 「外道を外道と称して何が悪い。  ここから先にはあるのはギンバネ島のみ。貴様、カイたちに何か用か?」 「うん。大有りさ」 影は長く、血の様に真っ赤な尻尾を揺らめかせる。 尻尾と同じように真っ赤な瞳は、真っ直ぐにラスイと捉えて・・・・否、その後ろにある、ギンバネ島を捉えている。 ここからだとまだ島の影は小さい。距離もかなりある。 「僕はカイに用がある。これでいいかい?そこをどいてくれよ」 「・・・・先ほども言った筈だ。どんな用であれ、お前を通すわけにはいかない」 ラスイはその大きさ手のような翼を広げる。後方の、ギンバネ島を隠すかのように。 「ヘヴン。貴様にここを通り、カイと顔を合わせる権利はない」 「・・・・権利なんているのかい?」 黒いミュウツー、ヘヴンは腕組しながら、ラスイを見つめた。 「僕は今から・・・・カイを殺しに行かなきゃならないんだ。  今後の活動の際、カイのような力を持ったトレーナーは邪魔な存在。摘める内に摘んでおくのさ」 「・・・・貴様っ!!」 ラスイは眉間にしわを寄せると同時に、身体を反らせた。頭を大きく後ろに反らせ。思いっきり前へと突き出す。 同時に吐き出された空気弾が異様な速度でヘヴンに襲い掛かる! 「ルギアの十八番・・・・エアロブラストねぇ・・・・」 対してヘヴンは、向かってくる豪快な空気弾を前にして表情一つ崩さない。 それどころか、右腕を振りかぶって・・・・。 エアロブラストを一撃で粉砕する。二酸化炭素の塊が、粉々に粉砕された。 「僕に攻撃してきたってことは・・・・。僕も攻撃していいてことだね?ラスイ」 「・・・・ハナからそのつもりだろう。私もそろそろ、お前の横暴を見過ごすのも飽きた頃合だ!」 「見過ごす・・・・。ってラスイ、見過ごしたんじゃなくて、見てみぬフリをしてたんじゃないの?  キミの力じゃ・・・・僕を倒すどころか、疲れさせることすら出来ないから・・・・」 「それが本当のことか、今ここで確かめればいい!!」 「後悔しないでよ、ラスイ」 ラスイと一定の距離を保ち、ヘヴンは右手にエネルギーを収束させる。 赤く、それでいて禍々しい黒いエネルギーを帯びた、バレーボール大の塊。 それを突き出すように繰り出す。エネルギーの塊は異常なスピードで、ラスイに迫る。 「シャドーボール・・・・!」 ヘヴンの技名を呟きながら、ラスイは急上昇。シャドーボールを避け、攻撃態勢をとる。 先ほどと同じ動作で、空気弾を繰り出す。強烈な空気弾、エアロブラスト。 だがエアロブラストは、ヘヴンには通用しないを分かりきっている。 「そうやってバカ正直に攻撃したって意味ないのに・・・・」 またも腕を横に凪ぐ。たったそれだけの動作で、エアロブラストは沈静した。 攻撃の先にラスイの姿が無いことに気付いたヘヴン。だが、全く慌てない。 「これはどうだっ!!」 全く別の位置、ヘヴンの真後ろ、つまり死角。 そこから繰り出されたのは、強力な水砲、ハイドロポンプ。 流石は海の神。自身が水タイプでなくとも、その速度は素晴らしい。・・・・だが。 「意味無いって」 ヘヴンが作り出した強力な防御壁。赤いエネルギーが渦巻く禍々しい壁は、ハイドロポンプを一瞬で消し去ってしまう。 「キミの技は全てが無意味。僕の前では・・・・ね」 ヘヴンの微笑。ラスイは苦味潰したような顔で、ヘヴンを睨む。 「ならば・・・・!」 ラスイの大きな翼が、天へと向けられる。途端に、彼らの上空に黒雲が渦巻き始めた。 時折唸り声を上げ、小さな金色の蛇を吐き出す黒雲。さらに、少量ながら雨が降り始めた。 「・・・・雨乞い・・・・ねぇ。それで、どうするんだい?」 「こうする!」 ラスイは再び、身体を大きく反らせる。エアロブラストやハイドロポンプと同じ動作。 今度はどんな技が飛び出すのか観察していると、またもエアロブラストが飛び出してきた。 ため息をつきながら、彼は攻撃を腕で弾く。 「まったく、これが一体何の・・・・」 そこから先に、意味があったのかもしれない。 エアロブラストの直後、更にハイドロポンプ。再びエアロブラスト。 2つの大技の、連続攻撃である。しかも休むことなく、超高速で撃つ続けてくる。 (この数を腕で弾き続けるのは・・・・。ちょっと分が悪いか) ヘヴンが突き出した右腕。それを中心に、光り輝く壁が出現する。 壁にぶち当たった攻撃が、いとも簡単に打ち消される。空気弾、水砲どちらとも。 「僕の魔力消沈壁は・・・・全ての攻撃を遮断する。いくら撃っても体力のムダだよ、ラスイ」 その声が聞こえて、素直に攻撃を中止したのか。ラスイの連続攻撃が止まった。 だが魔力消沈壁を消したヘヴンの前には、エアロブラストやハイドロポンプに含まれていたエネルギーが霧散して、白煙を作り出している。 ラスイの姿が完全に隠れてしまったことに、ヘヴンは妙な違和感を覚えて―― 不意に感じた高密度エネルギーに、ヘヴンは天を見上げた。 「雨乞いの真価は・・・・雷にあり!!」 ラスイの士気とともに、巨大な雷が黒雲から吐き出された。 だがヘヴンはやはり、慌てず騒がず、 「そうゆう大技は・・・・僕が気付く前にやるんだね、ラスイ」 ヘヴンは再び、右腕を使った。今度は天に向けて。 発生した巨大な壁が、雷を完全に遮断する。・・・・否、“飲み込む”ように打ち消してしまった。 白煙が完全に晴れた頃。海上に2つの影。 何事も無かったかのような風体の2匹だが、明らかにラスイは疲れている。大技を使いすぎたためだろう。 「エアロブラストとハイドロポンプで足止め、及び目くらまし。  僕がキミの姿を見失っている内に雨乞いで命中精度を上げた雷で僕を打つ・・・・」 ラスイの作戦を完全に見切るヘヴン。 「けど残念。僕はエネルギーの発生、及び地点を身体で感じ取ることができるんだ。  今みたいに・・・・雷の発生を予測できた。キミの敗因は情報収集能力の足らなさだよ」 「敗因だと・・・・。そんなセリフ、私を海に沈めてから言うんだな」 「大丈夫だよ。もうキミは・・・・負けたも同然だ」 「僕がさっき雷を打ち消した壁。あれね、エアロやハイドロを打ち消したものとは違うんだよ」 「何?」 「全くの別物。全ての攻撃を遮断する壁、魔力消沈壁。  そして今のが・・・・放出系の技を全て吸収する、“魔力吸収壁”。  吸収した技には二つの使い道がある。一つはそのまま体内に取り込み、体力や技のエネルギーに変換する。  ・・・・だけどこれをする必要は無いね。僕全然疲れてないし」 その言葉が、ラスイをいかに侮辱したことか。疲れ始めたラスイに対し、ヘヴンは顔色一つ変えない。 睨みつけていた目を更に鋭くさせるラスイ。だがヘヴンは平然として、 「もう一つは放出。吸収した技を相手に返す技さ。・・・・だけどミラーコートと一緒にしないでくれよ。  放出する際に僕の念を少し加えるだけで、威力が倍増。さらに僕自身の特殊攻撃力でさらに威力は跳ね上がる。  今回の場合・・・・威力数値120の雷を倍増させて、240。キミ自身飛行タイプだからさらに2倍」 彼はニッコリ笑って、更に続けた。 「合計威力数値480の特殊攻撃。これを僕が放つ・・・・。  これが一体どうゆうことか、ラスイ、キミなら分かるよね?」 ラスイは頭の中が真っ白になっていくのを感じた。 ただでさえ能力値が高いヘヴンが・・・・。際立って特殊攻撃力が高いヘヴンが威力数値480の特殊攻撃を放つ。 直撃を受ければただではすまない。絶対に避けなければならない。絶対に―― 「考え事なんて、随分と余裕じゃないか」 「!!?」 気がついたときには・・・・・・・・。 ヘヴンが右腕に膨大な量の電撃を纏って、ラスイの目の前にいた。 「ん?」 夕食を終えて、コウと共有の部屋に戻ったカイは、何かを感じ取ったように部屋を見渡した。 とりわけ異変は無い。だが妙な感覚だった。 カイはベットの上に腰を下ろしていたが、不意に立ち上がり、窓を開ける。 2階の窓から通りが良く見える。この前コウを真っ黒にした、タルの中のオクタンの姿も見える。 自然と目が、東の海を眺めたとき、彼は気付いた。 かなり距離があるであろう海の上。黒雲が渦巻く、妙な海域。今日の天気予報では、今日は快晴の筈。 黒雲が闇夜を更に暗くする。その海域一体が、不気味な闇に包まれている。 どうやら雨も降っているらしいその闇の中に、何かがいるのがわかった。白い、大きな影。 ・・・・刹那、その闇夜周辺が、目も眩むほどに発光した。 「!!?」 遠きこの島へも衰えることなく届いた光。さらに遅れて、雷鳴。 反射的に目を覆った手をどけると、影が揺らぎ、落下していくのが見えた。 謎の大きな影が海へと落ちていくさまを、カイは呆然と見つめていた。  ・・・・カイ・・・・ 「!?」 今度は、頭の中に声。語りかけるように、謎の声は再び聞こえてくる。  ・・・・逃げろ・・・・ カイは引き寄せられるように、部屋の中の押入れへと向かった。 中にはダンボールやらいろいろなものが。その中に、この旅で使っていたリュックが入っていた。 操られるように、開けてみる。中にはもう何も入っていないはず。・・・・だが。 「あ・・・・」 1枚の羽根。銀色に輝く、不思議な羽根。 そうだ、確かこの羽根は、エンジュでルギアに貰った羽根。長い旅で、その存在をすっかり忘れていた。 だが羽根は以前のような神々しい光を放たず、妙に弱りきった光を漏らしていた。 またも、声が聞こえてくる。   ・・・・早く・・・・逃げろ・・・・  ヤツが・・・・ヘヴンが来るぞ・・・・!! 「うおっと!?カイ!」 共同部屋に戻ろうと階段を上がってきたコウの横を、カイはすり抜けるように走り去った。 だが途中で急停止。ガバッと振り返って、 「コウ!ついて来い!!」 「へ?」 ティナたちの声は、カイの耳には入っていなかった。 彼の後を追いながら、コウが叫ぶ。 「ちょ・・・・カイ!一体どうしたんだよ!!」 「黙ってついて来い!!」 舗装された道路を駆け抜けながら、カイは再び東の空を睨んだ。 包み込まれた闇。その中に、とても分かりにくいが、一つの影。 「キミの力は結局そんなものだったんだよ、ラスイ」 今さっき自分と戦い、そして葬った相手の名を呟くヘヴン。 眼下の海面には消えかけた波紋。どんどん小さくなっていく影。 海の中を沈んでいく影が、ほとんど消えた頃、彼は顔を上げた。 「よし、さっさとカイのところへ・・・・」 迫る顔面。それも二つ。 1人の少年の、憤怒の顔。そしてリザードンの顔。 目の前まで迫っていた顔が、叫ぶ――!! 「ヘヴンッ!!」 「!!?」 彼らが不意に、背を見せる。入れ替わりに、炎を灯したリザードンの尾が迫る。 不意に降下して、その一撃を避けて・・・・。 目の前に、不意にボールが出現する。 「!?」 当然の如く、ボールが光を放ち、中のポケモンを開放する!! 「スピン!“大地蛮咆”(だいちばんほう)!!」 中から現れた茶色い影が、その手に灯した光を振り下ろす。光はポケモンの手を離れ、上を向いたままのヘヴンを襲った。 その身を翻し、ギリギリの所で光を避ける。光はそのまま降下。海にぶち当たり・・・・。 大砲の発射音のような轟音が聞こえて、海が水しぶきをあげた。それもかなり高く。 巨大な水柱に包まれたヘヴンは、すぐに攻撃者たちを探した。だが、少年も、リザードンも、茶色のポケモンも姿を消している。 そんな中、真下に巨大なエネルギーを関知して、急いで見下ろす。 クレーター状に抉れた海のド真ん中に、青い影。 再び、少年の声が響く――! 「クーラル!渦潮だ!!」 影が大きく腕を振り回す。すると周りの海が意思を持ったかのように上昇。水柱と融合し、巨大な水の竜巻へと変貌する。 「カゲロウは炎の渦!ライラは10万ボルト!!」 水の竜巻が炎と融合。蒼と紅を宿した巨大な渦が出来上がる。 その中心で、ヘヴンは更なるエネルギーを関知した。ラスイのエアロブラストを遥かに越えた、異常なエネルギー。 渦の青い・・・・渦潮の部分が、かすかに発光する――! 「う・・・・!?」 渦が膨大な量の電撃を纏う。海の上に出来上がった水、炎、電気のエネルギーを宿した巨大な渦。 その渦が次第に収縮を始める。最初はゆっくりだったが、不意に勢いをつけて縮まった。 中に誰も存在できないほど空間を無くした渦。しばらく渦は咆哮を上げていたが・・・・。 何か大きな衝撃で、消し飛ぶ。 消え去った渦の真ん中で、ヘヴンは自分を睨みつける少年とリザードンを睨みつけた。 「・・・・随分と手洗い歓迎だねぇ・・・・。カイ・・・・」  つづく  あとがき さぁ始まってしまいました、「リベンジャー」最終章! いつの間にか100話まで続いてました。そろそろケリをつけないと・・・・。 最後にカイが繰り出した渦。初めての登場はかなり前のことでした・・・・。