「・・・・何でお前らがここにいんだよ・・・・」 ここに来ることは誰にも言っていないはずだった。 だが彼女たちは確かにいた。それぞれのポケモンに乗って。 カイが疑問符を浮かべる中、ティナは頭をポリポリ掻きながら、 「あんたねぇ・・・・。  いきなりでっかい雷落ちて、いきなりカイとコウが出て行って・・・・。  なんかあったと思うのが普通でしょうが」 「まぁ・・・・そりゃそうなんだけどよ」 カイは視線を戻して、浮いているあの“敵”を睨みつける。 「あんま前に出ないほうが・・・・。身のためだぞ」 *******************  リベンジャー  第102話「語られぬ戦い 〜救援〜」 ******************* 「ねぇ・・・・まさかあいつが・・・・」 「ああ、そうだぜ。ヤツがヘヴン・・・・もといルインだ」 ユウラが指差したその黒いポケモンは、腕組みをして宙を浮いていた。 「・・・・ルインって?」 「まぁ・・・・あの野郎の本名みたいなもんだ。この戦いが終わったらイヤにあるぐらい説明してやらぁ」 「・・・・ところでさ、アンタなんで上半身裸なの?」 「うっせぇ、いろいろあったんだよ。なんなら下も脱いでやっか?」 「超遠慮」 コウとユウラのほのぼの(?)トークは、彼の耳には届いていなかった。 ヤミカラスのクロ。彼がユウラの肩の上で、ルインを凝視していた。  あいつが・・・・俺のお袋をォ・・・・!! 「うお・・・・りゃああぁぁ!!!」 「えっ、ちょ、クロ!?」 ユウラの肩から飛び出し、カイとラスイの間をすり抜け、クロは一気に突撃した。 途中でひらりと身を翻し、 「スーパー俺様キィィック!!」 「・・・・・・・・」 妙に凄そうで弱そうなキックは、ルインの目の前で静止した。 それどころか、クロの小さな身体が見えない力で弾き返される。 「打撃攻撃を自動的に防御してくれる、その名も守護壁。  クロ君。キミの技は全てこの壁にシャットアウトされる。ムダなことはよしたほうがいい。無意味だよ」 吹っ飛び中だった身体の体制をムリヤリ元に戻し、クロは声を張り上げる。 「う、うっせぇ!やってみなきゃわかんねぇだろうが!!」 「・・・・まぁいいや。  ラスイ。戦闘に入る前にキミに聞きたいことがあるんだけど」 「っておいコラァッ!  今の攻防は戦闘に入んねぇのかよ!?」 クロを完全に無視して、ルインの視線は完全にラスイへと向けられていた。 ラスイは額に脂汗を浮かべながらも、睨み返す。 「私に・・・・聞きたいことだと?」 「うん。まぁ答えてくれないだろうけど、一応聞いておくよ」 ルインの目が、確実に細くなっていくのが見えて・・・・。 「“ゼロのタマゴ”はどこにあるんだい?」 「・・・・そんな事を聞いて・・・・どうする!?」 「決まってるじゃないか。見つけ出して封印を解き、また一緒に暴れるのさ」 「・・・・愚問だな」 「予想通り」 何を思ったか、ルインは背をむけ、額に手を当てて呟く。 「今ここで答えてくれれば・・・・何も起こらなかったのに・・・・」 右側だけが見える程度に振り返る。指の間からのぞく狂気の目に、ラスイは悪寒を感じた。 「・・・・仕方ない。強引に吐かせるとしよう」 その言葉が、戦闘開始の合図だったのかもしれない。 リザードンが、カイリューが、ピジョットが、カメックスが、それぞれの得物をルインへと向ける!! 「竜激波!!」 「破壊光線!!」 「風乱舞!!」 「ハイドロカノン!!」 目の前から、巨大な火球、山吹色の閃光、強大な風圧。そして眼下の海面から、2つの圧縮された水砲。 その全てを、ルインは壁を作り出して受けきって見せた。 だが、怒涛の攻撃は止まない。 「エアロブラスト!!」 「・・・・だから効かないって。何度言えば理解できるんだい?」 彼らの一斉攻撃を全て受けきり、彼は少なからず落胆していた。 期待していたカイの攻撃も、この程度。 「・・・・やっぱりキミは、殺すべきだね」 「は・・・・?テメェ、この前は勧誘しておきながら、今度は殺すだぁ!?」 「うん。もうめんどくさいんだよ。  いつまでたってもキミは僕の力量まで達しない。飽きたのさ」 平然と言い切るルイン。 「3,4年前にギンバネ島を襲撃し、銀色の羽根を奪う・・・・。  元はと言えばラスイからゼロのタマゴの在り処を聞き出すためだったんだけど。  そんな羽根を捜さずとも、目的のラスイは既に目の前にいる。・・・・あの襲撃はムダだったな・・・・」 彼にとっては世間話だったのだろう。 だが、カイにとってはこの上ない屈辱的な言葉だった。 「ムダ・・・・?母さんを殺しておいて・・・・ムダだと!?」 「そう、ムダだった」 ――・・・・・・・っ!!!―― ついに、カイはキレた。 それに呼応するように、カゲロウが紅蓮の炎をぶちまける。 ルインは腕組みして浮き上がり、余裕で炎を回避した。 「このくらいの挑発で怒るなんて、やっぱりキミは弱――」 ・・・・刹那。 「うおりゃあああ!!」 何かの叫び声とともに、激しい振動。 真後ろからの謎の攻撃を、守護壁が防御する・・・・が。 その攻撃がかなりの威力だったためか、ルインは壁ごと弾き飛ばされた。 「な・・・・に・・・・っ!?」 「“嘔吐”状態でも空元気の威力って上がるんだな。  ってあぁ〜、マジ吐きそう・・・・」 クロである。あの非力なヤミカラスの一撃に、ルインは後退していたのだ。 「あ〜もう気持ち悪ぃ〜っといいながら空元気じゃあぁぁ!!」 再び特攻。 ユウラの悪魔の産物により“嘔吐”状態(?)になったクロが、渾身の一撃を繰り出す。 だがルインも同じ過ちを繰り返すほどバカではない。身を翻し、通り過ぎていたクロに右の掌を向ける。 撃ち出されるは赤いエネルギーが渦巻く漆黒の球。影球である。 だが割って入ったシャドーボールが、影球を打ち消してしまった。 エネルギーが霧散する中、ルインは発射下を睨みつける。 「・・・・僕の影球を粉砕するなんて、やるじゃないか」 「テメェに誉められたって嬉しくともなんともねぇよ!  リング、シャドーボール!!」 真っ直ぐに伸ばされたカイの左腕の上。そこに彼のブラッキー、リングが器用に立っている。 口を開き、体中の輪の模様が光り輝く。撃ちだされるシャドーボール。 攻撃は確かに、ルインを貫いたように見えて・・・・。掻き消えた。 霧のように消え失せるルインの姿に、カイは記憶を掘り起こす。   確か以前の戦いでも、ルインは残像を残しながらテレポートする、あの技を・・・・。 「やばい・・・・おいみんな!気をつけて――!」 「遅いね」 その声は、ティナの背後から聞こえた。 彼女は恐る恐る振り返り・・・・見てしまった。漆黒の身体に紅の瞳を持つポケモンを。 その左手を、まっすぐ天を向けていた。 「まだ空に雨乞いの効果が残っている。  ・・・・落ちよ、裁きの閃光」 左手が振り下ろされる瞬間、ティナは前方へと投げ出された。 自分を乗せていたジットが、ティナの身体をムリヤリ突き放して―― ジットの身体は、天より降り立つ光の柱の中へと消えていった。 「・・・・っシェルド!!  戻ってジット!」 海にたたきつけらる瞬間、新たなボールが開きパルシェンを出現させる。 巨大な二枚貝の上に降り立ち、真っ黒焦げになったジットを回収する。 「ごめんねジット・・・・。私をかばって・・・・」 「こんのヤロ・・・・ッ!!  クレス、マグナムホーン!!」 「クロ、ドリル嘴!!」 飛来する蒼き装甲と、闇に生きるカラスがそれぞれの得物を向けながら回転、突進する。 それらをもひらりと回避。ルインはそのまま急上昇し、遥か高く、黒雲のすぐ近くまでやってきた。 「ここから雷で狙い撃ち――」 「させぬ!!」 上昇したのはルインだけではなかった。ラスイもまた、その一人。 偉大な巨体が、ルインの前へと踊り出る。 「受けよ、真空の破砕弾!!」 「効かないって何回言えば・・・・」 やはり、遮られてしまう。ルインの防御壁、魔力消沈壁に。 ルギアのみが扱える一息の呼吸、エアロブラストも、ルインの前では無力だった。 「ティナ!ユウラ!  お前らはそこで待ってろよ!」 「はっ!?何で!?」 海上のティナたちを見下ろしながら、カイは続ける。 「敵の強さはハンパじゃねぇんだ!  ヘタしたら殺されるぞっ!」 「で、でも・・・・!」 「大丈夫だって!俺たちの心配なら無よ――」 そこまで言いかけたとき。 黒雲の下、殆ど影の出来ない空間で、その巨大な影は彼らを飲み込んでいた。 呆然と見上げる中、コウは生唾を嚥下する。 「ラス・・・・イ・・・・!?」 力なく落下してくる海の神。受け止められるわけもなく、ラスイは派手に水しぶきを立てながら海面に激突した。 ・・・・また引き上げるのか。そう思った矢先、ラスイは自らの力で浮上してきた。 海から飛び出したラスイの身体には特に損傷は見られない。だがラスイの顔は、妙に疲れているようにも見えた。 「お、おいラスイ?」 「今の技は・・・・一体・・・・!」 カイの言葉が聞こえていないのか。ラスイは小島に着地し、手のような翼で自分の首を撫でた。 その長い首に異常が無いことを確認し、呟く。 「どうなっている・・・・!?」 「やぁラスイ。僕の精神攻撃はどうだった?」 いつもの見下すような顔で、ルインは再びカイたちの前に現れた。 その視線だけは、小島の上のラスイに向けられている。 「もう一度、仕掛けてあげよう・・・・」 「!?」 「“幻死(げんし)”・・・・」 「う・・・・あぁぁあああああ!!!」 突然倒れこむラスイ。何か・・・・精神的な攻撃なのだろうか。 ルインは黒いエネルギーを帯びた左腕を向けて、なにやら楽しんでいるようにも見える。 それを見かねて、カイが叫んだんだ。 「おいルイン!  テメェ・・・・ラスイに何してやがる!!」 「・・・・そうだね、分かりやすいように説明してあげよう。  彼は今・・・・死と戦っている」 「!?」 「簡単に言えば、死を迎えるほどの虚構の苦痛と戦っているのさ。  彼には、自分の体がとある現状を迎えていることに悲鳴を上げている。  ラスイの場合、“首の完全消失”という苦痛を味わっている。実際には首はくっついているんだけどね」 ルインの真っ赤な瞳が、ゆっくりと移動した。その先には・・・・コウ。 「キミにも魅せてあげよう。 ・・・・“幻死”」 黒い腕が、コウへと向けられる・・・・。 妙な悪寒に襲われて、コウはゆっくりと自分の体を見下ろした。 ない。あるべきものが。 ・・・・どてっ腹を中心に、身体に巨大な穴が開いていた・・・・。 「あ・・・・っ、あああああああ!!!!」 「クロロ!?」 「アオッ!?」 突然主人が身もだえし始めたことに、動揺を隠せないリュウとクレス。 コウは膝をつき、自分の腹をおさえこみながら悲鳴を上げる。 「俺の・・・・俺の腹に・・・・穴・・・・っ!?」 「カイッ!!」 声の主は・・・・小島の上のラスイだった。 “幻死”から開放されたらしい。ラスイは苦しむ動作を見せずに、 「ヤツの術は、“左手を向けている相手”にしか効かない!  そのおかげで私も術から開放された!!」 「・・・・っってこたぁ話は簡単だぜ!!」 カイが囁きかえると、カゲロウが翼をはためかせ、飛び出す! 「ヤツの腕を弾く!!できなくても邪魔してやらァ!!」 「よく考えなよ、カイ。  別に意地を張ってコウに術をかけなくても、“キミにかければいい”ことじゃないか」 ルインの邪悪な手が、ゆっくりとこちらと向いて―― カイは自らの左胸に、ポッカリと穴が開くのを感じた。 ・・・・そう、心臓もなく。   !!!?? 『お、おいカイ!!』 突撃を中止し、カゲロウは背の上で苦しむ主人に振り返る。 『バカ!ただの幻覚と幻痛じゃねぇか!  そんなアホを仲間を認めた憶えはね――』 「気にかける前に、まず己の身の安全を確保することだね。カゲロウ」 自分の体が、何故か急降下していることに気付くのに、深くにも時間を要してしまった。 後頭部に衝撃を受け、成す術もなく叩き落されて。 薄れ行く意識の中、彼は空中で放り出された主人の姿を眼に映していた。 ティナのシェルドに移り乗ったユウラ。 キャノンによって海面ギリギリでキャッチに成功。・・・・カゲロウに意識は無い。 だが。 ユウラとクロは、空を見上げて幼馴染の名を叫ぶ少女をただ見ているしかなかった。 「カイッ!・・・・カイィィーー!!」 「このヤロ・・・・ッ!!」 「下劣な・・・・!」 「一種の作戦ととってもらいたいね」 ラスイと、“幻死”から開放されたコウ。2人が対峙する相手は・・・・卑劣だった。 目の前の黒いミュウツーは、紅の瞳を細目ながら、 「ラスイ、取引しようじゃないか」 「取引・・・・っ!?」 「そう・・・・」 ルインの右手でもがく影。 首を掴まれ、空中でぶら下がっている青髪の少年は苦悶の表情を浮かべていた。 「ゼロのタマゴの在り処とカイの身柄・・・・ってことで」 カゲロウの背から放り出されたカイは、すぐさまルインに首下を鷲づかみにされた。 もとより・・・・こうゆう技だったのかもしれない。“幻死”は、言うなれば“タチの悪い混乱を引き起こす技”。 混乱しているうちに技を仕掛ける。ポケモンバトルでもよくある光景。 ルインは“幻死”で異常な混乱を仕掛け、その隙にカイを掠め取ったのだ。 「ダメ・・・・だ・・・・。ラスイ・・・・」 何とか声を絞り上げ、カイは身体を震わせながらラスイに目をやる。 「ゼロ・・・・ってのは・・・・ルインの・・・・な・・・・かまなんだろ・・・・?  そんなヤツが入った・・・・タマゴの在り処なんて、教えたら・・・・ダメ・・・・だ・・・・」 「しかし・・・・!!」 「それにコイツは・・・・俺を殺すつもりでここに・・・・来てんだぞ・・・・。  コイツが約束を守る保証なんて・・・・皆無・・・・だろ」 カイの言うことに確かに正しかった。 ゼロのタマゴの在り処を教えた途端、ルインはカイの首を握りつぶすかもしれない。 だが在り処を教えなくても、カイを殺すかもしれない。 ・・・・だけど。 (在り処を教えなかったら・・・・私はカイを見捨てたことになる・・・・!)   あの戦いの後、私は誓ったはず。   もし、もし再び仲間と呼べる存在が現われようなら、絶対に見捨ててはならない。   いくらホウオウを呼ぶためとはいえ、自分はルギアたちを見捨ててしまった。 「わかった・・・・。教えよう」 「ラスイ・・・・」 「あンの・・・・バカ・・・・」 「そう、それでいい」 緊迫したムード。ラスイは一応、確認を取ってみた。 「ゼロのタマゴの在り処を教えれば、カイを開放してくれるんだな?」 「勿論。僕は約束は守る。僕はポケモンたちの世界を作ろうとしているんだ。  もしかすれば同志となりゆるかもしれない存在を相手に、約束を違える事など無い」 ・・・・信じられないのに。 ラスイは震える口が、何かに操られているようにも感じた。 「ゼロの・・・・タマゴは・・・・」 ・・・・刹那。   ドゥンッ!! 「ぐ・・・・!?」「あ・・・・」 謎の攻撃が、的確にルインの背に直撃した。 ルインがのけぞるほどの破壊力。ルインはカイを放してしまったことにも気付かず、振り返る。 「何者・・・・!?」 攻撃により巻き起こった黒煙。それから吐き出されるように、カイの身体は落下していった。 「あ・・・・カイッ!?」 ティナがシェルドに指示を出そうとして・・・・。 颯爽と現われた金色の影が、カイを掠め取っていった。 軽やかに跳躍したように見える影はカイを抱きかかえたまま、今まさに海に飛び込まんとした時。 海をぶち破って現われた巨大な青い影が、金色の影の足場となった。 不思議な・・・・流れるように綺麗な9つの尻尾を持つ影。だが頭部からも別に尻尾のように長い体毛をもつ、神秘的な存在。 その影が光を放ち、姿を変えていく。 “元の姿”に戻った影。その膝の上で、カイは朦朧とする意識の中、影の顔をよく観察した。 その顔が良く知っている顔だと気付き、 「キ・・・・、キキ・・・・!?」 「カイさん、大丈夫ですか?」 心配そうにこちらを覗きこむその少女は、何処からどう見ても、あのキキだった。 (エネルギーを感じ取れない・・・・!?) 今だ消え去る気配の無い黒煙の中、ルインは全神経を集中する。 先ほどの攻撃は、エネルギーの波長からしてゴーストタイプ。そして爆撃系ともなれば、シャドーボールだということが推測できる。 だが周囲にシャドーボールと同系のエネルギーを関知できなのだ。 「余所見か?」 その声は背後・・・・そう、今の今まで自分が向いていた方向から聞こえた。 振り返る・・・・が。 「黒炎拳!!」 黒煙を突き破って表れた黒い影の打撃。その一撃は鋭く、深く、正確にルインに腹に突き刺さった。 突き抜ける激痛に意識が飛びそうになりながらも、ルインは攻撃者の顔を確かめる。 その人物は姿を変えていたものの、知っている顔だった。 「ジン・・・・ッ!?」 「まだ終わりませんよ」 黒い影と入れ替わりに、青い影が飛び込んできて・・・・。 その巨大な豪腕が、雲を一瞬で突き破りそうな、流星の如く鉄拳を繰り出す! 「コメットパンチ!!」 「・・・・っ!?」 黒煙の中、二度目の打撃音が聞こえた直後。 コウとラスイは見た。黒煙を突き破って、ルインがなす術もなく海面に叩きつけられ、沈んでいく姿を。 誰が攻撃したのか。ルインをたった二撃で海に叩き落すほどの攻撃を、誰が繰り出したのか。 その疑問は、黒煙が晴れていくたびに、明らかになっていった。 「・・・・ゲッ」 「ジン・・・・と、誰だ?」 プテラに乗った、銀髪の少年。エアームドに乗った、金髪の少年。 焼けた搭にて、ジンについては承知済みであるラスイ。だが、傍らに見慣れない青いポケモンを従えた少年に見覚えが無かった。 2人と3匹はコウたちに目もくれず、ルインが落ちた辺りを見下ろす。 「・・・・上がってこないな」 「タイタンには本気で技を繰り出すように指示しましたからね。  ジンが黒炎拳で隙を作ってくれたおかげで、バッチリ決まりました。自己再生に手間取ってるんですよ」 金髪の少年が頭を撫でた、青いポケモン。 4本の脚を器用に折りたたみ、浮遊するその姿はやはり見たことが無い。 「気分はどうだ、阿呆が」 「ジン・・・・、お前なんでこんなとこに・・・・!?」 ギャラドスの背の上で、なんと下半身を起こしたカイの目に映ったもの。 それはプテラから降り立ち、こちらを見下ろすライバルの姿だった。 その向こうの空に、もう一つ影があった。ルインではない。 「ルインを潰しに来た。ただそれだけだ」 「・・・・ルインって、お前・・・・」 「もう全て承知済みだ。詳しくは後でたっぷり聞かせてやる。  ジード、カゲロウのところまで移動しろ」 やはり何処かで見たことがあると思った。自分が乗っているのは、ジンのギャラドス、ジードである。 カゲロウのところ・・・・。つまり、キャノンがカゲロウを頭の上に乗せ、ティナたちがシェルドの上に乗っているところだった。 来るやいなや、ジンはボールを一つ、放る。 「ジール、カゲロウに喝を入れてやれ」 ジードの尻尾の、一番先端部分まで歩いてきたジンのヘルガー、ジール。 そのすぐ側に浮かぶカメックスとリザードン。といっても、リザードンは気絶しているが。 その気絶中のカゲロウを見下すように見下ろし、ジールが呟く。 『哀れだな、トカゲが。以前ならクソ犬呼ばわりして噛み付いてきただろうに』 『・・・・・・・・』 『たかだかサイコキネシス一発受けただけで気絶するとは情けない。  ・・・・ましてや、そのお前と引き分けた俺自身も情けないな』 『・・・・・・・・』 カゲロウに変化は無かった。眉間がピクっと動いたが。 『バカ面でよく眠るやつだ。もう一生眠っていろ、アホトカゲ』  ・・・・プチン 何かが切れた音。不意に起き上がったカゲロウは、キャノンの頭の上だという事も忘れて叫ぶ。 『おいコラ、何かよくわかんねぇ悪口浴びせやがって!  いい加減ぶっ飛ばすぞクソ犬ゥ!!』 『フン・・・・』 何故か何も言い返さず、踵を返すジール。 途中、振り返り、 『やればできるじゃないか、カゲロウ。  まだ・・・・戦えるだろう?』 『あ・・・・あったりまえだァ!!』 『そうか。それならいい。  それはそうと、そろそろどいてやれ。沈むぞ』 『へ?』 見下ろすと・・・・。 暴れるカゲロウの重みで徐々に沈没を始めたキャノンの姿があった。 ジードの背の上で。 半身を起こしたものの、今だ放心状態のカイ。それを見下ろす影が一つ。 銀髪の少年は鋭い目で、青髪の少年を睨みつけていた。 「・・・・いつまでそうやっているつもりだ、カイ」 「・・・・・・・・」 がっくりと項垂れるライバルを前にして、ジンは余計に腹が立っていた。 「どんな攻撃を受けたか知らぬが、いつまでもヘコんでいられるは邪魔だ。  ・・・・どこか隅に行っていろ」 「・・・・・・・・」 カイは左胸を押さえつけて、うめいていた。 ルインの精神攻撃、“幻死”を受けた際、カイは心臓がなくなるという幻を見せられた。 その幻は、カイに多大なダメージを残していたのだ。 ・・・・だが。 「まったく・・・・。ポケモンリーグ決勝戦で俺と対等の力を示して見せたヤツの面影が全く無いな。  ・・・・進歩の無いヤツだ。どうせ無鉄砲に突っ込んだのだろう。そしてこの有様だ。  それにカイ、貴様俺との約束、忘れていないだろうな?」 「・・・・?」   ――俺と再び戦うときまで、負けることは許さない―― カイが不意に立ち上がり、なんとジンの胸倉を乱暴に掴んだ。 キキが止めようとするが、ジンの静止により留まる。 自分の胸倉を掴む年下の少年。その青髪の隙間からの除く目・・・・。 それは正しく、灯の付いた目だった。 「・・・・負けてねぇ」 「聞こえないな」 「俺は・・・・っ!!」 凶暴に据わった眼光を撒き散らし、カイが叫ぶ――!! 「負けてねぇっ!!!」 その場にいた全員に聞こえるほどの叫び。畏怖を与えず、どこか安心させる叫び。 カイはまだ、戦える! 「カイ、大丈夫!?」 声の主はティナだった。 カイはティナを一瞥し、 「・・・・カゲロウ」 自分のリザードンの名を呼ぶ。その背に乗り、カイはティナに笑顔で振り返った。 「任せろ!」 戦場に戻ってきたカイとジン。 それぞれの飛行ポケモンに乗りやってきた戦場に、新顔があった。 サラサラの金髪に、緑の瞳。まだまだあどけない顔・・・・。そして、エアームド。 どこかで見たことのある取り合わせ。・・・・そして、一人の少年の姿が脳裏に浮かび上がった。 「・・・・お前、ロットか・・・・っ!?」 「お久しぶりです、カイさん」 「カゲ――」 「落ち着けカイ」 その正体を確認するやいなや、カゲロウに攻撃指示を出そうとするカイ。 それをジンに遮られ、カイはますます憤怒した。 「なんで止めんだよジン!!  コイツは・・・・ルーラァズ最高三幹部の一人だぞ!!」 「マジで!?」 驚いたのはコウだった。確かに、彼はロットと一度も顔を合わせたことが無い。 明らかに自分より年下の少年が、あのロケット団の復活組織、ルーラァズの幹部だと言うのだ。 「今はワケあって仲間だ。・・・・殴るような真似だけは止めておけ」 「・・・・どう信じろってんだ・・・・」  その頃。  海中から彼らを見上げる影が、一つ。  影は一人微笑して、そして・・・・。  加速をつけて、飛び出すっ!! 「来たぞ!」 ラスイの声で、カイはとりあえずロットを探るのを中止した。今はそれどころではない。 海をぶち破って現われた影。影は滴り落ちる海水をまとって、その無気味な姿をさらした。 ・・・・だが、そいつの様子がいつもと違うことに、一同はすぐに気付いた。 ヤツの・・・・ルインの赤い瞳が、ある人物を凝視している。・・・・それはロットだった。 「何故・・・・お前がここにいる・・・・。確かにあの時・・・・」 ロットを指差す黒い指は、震えていた。 「殺したはず・・・・!」 「幽霊かもしれませんよ?  あなたを殺すために蘇った、亡霊のように・・・・」 即座に言い返すロット。それが、ルインに襲いかかる恐怖を増幅させた。 邪悪な右腕が、こちらに向けられる。ロットを中心に。 「・・・・霊だかなんだか知らないけど、もう一度殺せばいいこと!!」 右手に宿る赤黒いエネルギー。それに対処しようと構えるカイ。 だがジンが腕で静止のポーズを取り、カイは首をかしげた。 「必要無い」  俺たちには強大な仲間がいる その時見えたもの。発射された影球。割って入った、青い影・・・・。 その影は、妙にルインに似ているような気がした。 ルインの影球を無力化させた者。 ルインの攻撃を完全に遮断して見せた者。 俺たちを守ってくれた、青い尻尾を持つ者・・・・。 やはりどこかで見たことのある背中。・・・・だが、その色にはイヤな思い出しかなかった。 片腕を前に突き出したポーズで静止する、人型のポケモン。真っ青な瞳で、ルインを睨む救済者。 ・・・・でも、その姿はやはり、あいつだった。 あの地下研究所で戦った、一番最初に作られたミュウツー。 「カオ――」」 その名を叫ぼうとした。・・・・だが。 ルインが先にその名を叫んだ。・・・・それも、カオスとは違う、全く別の名を。 「エデン・・・・ッ!!?」  つづく  あとがき あ〜、疲れました。いつもより長い・・・・はずです(曖昧 突然ジンやらロットやら出てきました。しかもコメットパンチが使える青いポケモンっていったら丸わかりですよね。 全体的に強引な部分が目立つ第102話。ツッコミはナシで。