※この小説は、少々残酷な表現を含んでおります。  お読みになる場合はそれを承知でお願いいたします。    我、人に在らず。     我、携帯獣に在らず。      我、無機物に在らず。       我、名を持たず。        ―― 我は、塊である。    私は人ではない。     私は携帯獣ではない。      私は無機物ではない。       私は名を持たない。        ―― 私は、ただの獣だ。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 Sin  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 誰かが逃げていく光景ばかりが記憶にある。 いや、これは果たして記憶なのか。我が眼に焼きついたただの映像ではないのか。 いや、これは果たして眼なのか。そもそも我に眼などあるのだろうか。 これは身体なのか。見えている光景は眼を介して見えているのか。 果たして我は、生きているのか。死んでいるのか。 「な、何なんだお前……!」 この反応はどちらかといえば珍しいほうだったかもしれない。 大抵の者は五秒ほどで逃げていくし、その姿を見ただけで干渉しないように近づいてこない。 それ故に、こうして存在の証明を迫られたことは少ない。 彼は、自分の存在を理解していない。 「我、我が存在を理解できず」 「へ……?」 彼の言葉は、重くのしかかるような何かがある。 「逆に問おう。汝は我が存在を知りえる者か?」 「し、知るわけねーだろそんなの! こっちが知りてーよ!」 「我、我が存在を理解できず」 繰り返しただけで、相手の恐怖は一段階パワーアップしたらしい。 変な悲鳴を上げて去っていく相手を、彼はじっと見つめて見送った。 ――己でも眼なのかどうかわからない、何かで。 「誰か我が存在を知る者はいるか」 それは誰かに聞こえただろうか。 「誰か我が問いに答えられる者はいるか」 それは誰かに答えられるだろうか。 「……誰か、我を生命体だと言ってくれ」 ……それは、彼の悲痛なる叫びである。 「我……我が存在を理解できず……――」 彼は浮いている。存在的にも物理的にも。 非常に硬い身体はメタグロスの大爆発ですら傷も付かない。だが、その身体はぴくりとも動かなかった。 羽がある。が、それは微動だにせず、それでも重力から解放されたように宙に浮く。 身体の中は空洞で真っ暗であり、背中にある裂け目からそれを覗くと魂を吸い取られるという。 「我、我が存在を理解できず」 あらゆる意味でその他の生物とかけ離れた存在だった。彼は生命体。確かに確かに生命体。 息もせず、動きもせず。宙に浮かび、凄まじく硬い身体は特殊な特性を纏う。 「我、我が存在を理解できず」 抜け殻の存在、ヌケニン。彼は今日も、自分と言う存在を追い求めている―― ―――――――――――――――――――――――――――――― 破壊された光景ばかりが脳裏を支配している。 私は己の力を制御できない。ふと気付けば全てを破壊している。 私は全てに触れてはならない。私は全てを破壊する。 私の指先は滅びを意味し、私の足音は罪無き者に黄泉の門を開く。 私の視線は万物を射殺し、存在そのものが否定される。     私は誰だ。私は……―――― 「なな……なぁ……!?」 つい先ほど奇妙な浮遊物体に直面していた彼……コノハナの彼は。 いつも通り森の中の獣道を歩いていると、また奇妙な物体に遭遇してしまった。 そいつは見たままを口にすれば、異様な奴だった。今まで見たことのない異様な身体つき。 白く染まった身体は下半身が不自然に膨らみ、上半身は痩せ細った貧相な身体。 下腹部を含む長くすらりとした尻尾は濃い紫を帯び、しっかりした足と違い細い両腕。 尖っていない角、いや耳に該当するだろう突起部分。尻尾と同色の鋭い瞳。 そんな特徴を持った人間大の存在が、目の前で倒れた姿勢から何とか上半身を起こしていた。 「何だ、お前……! ちくしょうっ、今日は一体何だってんだ……!?」 いつも通りの日常を送るつもりだったコノハナからすれば、今日は異常な日といえる。 変な塊に出会ったかと思ったら、今度は変な雰囲気の奴に出会ってしまった。……厄日だ。 「誰だ……私に、近づくな……!」 苦しみの隙間を縫うように、白いそいつから紡がれる言葉。 弱弱しくもどこかピリピリした雰囲気を持つそいつ。倒れながらも、今にもコノハナを睨み殺そうとしている。 「今見たことは忘れろ……お前は何も見なかった……!」  私は私が誰なのかもわからない。  存在そのものの意味は知っている。だからこそ、私は私という存在に疑問を抱く。  ―― 私は、ただの獣だ。 「よぉ。おめー、何心気臭ェ顔してんだ?」 「ッ!!?」 全くの不意打ちである。自分という存在を認識してから……いや、認識する前から、 驚く、という感情など自分にはないものだと思っていた。いや、決め付けていた。 目の前に堂々と現れたそいつは、あらゆる者に拒絶され続けた自分の顔をまじまじと見つめて、 「何か俺と似たようなニオイがすんだよな、おめー。あ、体臭じゃねーぞ?」 「…………」 「まぁゴーストタイプの俺らに体臭もクソもねーけどな。なっはっは」 確か、人間の言葉でジュペッタ、とかいう霊体だったハズ。 実際に見るのは初めてで、自分と同じ霊魂体――ゴーストタイプだ。 呪いの人形という別名を持つジュペッタは、ファスナー……とかいうものが付いた口を開き続けてくる。 「おめー、名前はあんのか?」 「…………。我に名はない」 「あー……いや、悪かった。で、こんなとこで何ふわふわ浮いてんだ?」 「我は、我が存在を理解すべく漂っている」 「自分の存在を理解ィ? 小難しいこと考えてんなー」 会話はあまり得意ではない。話す相手がいないからだ。 それなのになぜ自分は相手が理解できる言葉を持っているのか不思議だった。  なぜこんな身体で会話ができる。なぜこんな身体で浮遊ができる。  なぜこんな身体で、生命として存在できる。 「汝は……我が存在を知りえる者か?」 「あ? ヌケニンだろ?」 「……? 我は、我が存在するその真の理由に行き詰っている」 「…………マジでよくわかんねーんだけど」 「汝は、汝が存在する意味に疑問を持ったことはないのか?」 はぁ? と首を傾げるジュペッタ。 ヌケニンは続けた。まるで何かに操られたかのように。 「我は我が存在に疑問を抱く。何故我という存在がこの世に存在しているのか。  この冷たい身体は何なのか。何故霊体と称されるのか」 「…………おめー、まさかと思うけど……『知らねぇ』のか?」 ヌケニンはそこで初めて動揺した。心など硬い殻に覆われて硬く冷たくなっていたというのに。 己の存在意義を求め続けるヌケニンにとって、ジュペッタのその言葉は心にぐさりと刺さってくる。 鋭角に鋭く。疑問という名の飾り布を引っ提げて、『知らねぇ』という名の槍が。 「うわ、おめーホントに知らねぇのか。『元』は何やってんだ?」 「……呪い型を持つ者よ。その意味の真意を我に教えてくれ。  我は一体何を『知らぬ』というのだ?」 「…………。アレだ、一応心の準備ってヤツしとけよ」  ジュペッタの口から紡がれた言葉に、ヌケニンは暫し考えることすら忘れた。  硬い殻が急激に冷え切るような感覚。何もかもに否定されていく衝撃。 「まー……アレだ。気ィ落とすなってこった。  おめーにはおめーの生き方ってヤツが――――」 そう言って去っていったジュペッタの背をじっと見つめたまま、ヌケニンは動かなかった。 ようやく動き始めた頭。そこに響く、呪いの人形が紡いだ真実の調。  ――  ヌケニンは、ツチニンがテッカニンに進化する時に残る『抜け殻』なんだよ  ――  抜け殻。……抜け殻? 我は、抜け殻?  我が抜け殻だというのか? 我はツチニンとやらがテッカニンに進化する際にできる副産物に過ぎないのか?  我はツチニンではない。テッカニンでもない。でもどこかで繋がっている。  我は塊。我は抜け殻。我はヌケニン。  …………我は、誰だ。 「何をしている? 風邪を引くぞ」 その問いは自分にとって酷くバカバカしいことだと思う。この身体は風邪など引かない。 そもそも病気になるような身体ではない。この殻の中は何一つとして臓器の類がなく、 この考えも一体どこから湧き上がるものなのかわからない。 故郷、なのかどうかわからない森が見渡せる崖の上で、ヌケニンは己の存在を呪っていた。 身体を打ち続ける雨。冷たさも感じず、ヌケニンは改めて自分に感覚というものがないことを悟った。 ただ気になったのは、そんな自分に話しかけてくる変わり者の存在だった。 振り返った先には、……自分と同じくらい異質な白い存在が、紫の瞳でこちらを見ていた。 「我はただの塊だ。抜け殻であるこの身体は風邪など引かぬ」 「……では、こんな場所で何をしている?」 「死ねない身体というのは不便なものだ。幾ら身投げしても傷一つ付かん」 死にたいと思った。生きているのかどうかもわからないこの身体、死んでいるのかもしれないこの身体。 己の存在を己で認識できず、ただ只管に虚空を彷徨う者でしかない自分。 「我は塊。抜け殻。ただのオマケだ」 「私もオマケに過ぎん」 いつの間にか白い存在がすぐ横に立って森を見下ろしていた。 自分と同じ目をしている。自分という存在を怨み、憎み、苦しんでいる者の目だった。 「自分の元となる存在がいて、自分がそこから作り出された存在。  ……生み出した愚か者共を憎むことはできない。彼らは既に罰を受けた」  ……罰?  白い彼は確かに言った。罰と。  その言葉の意味がわからずにいると、彼はすぐに次の言葉を放った。 「私が与えた。……いや、与えてしまった。  私は生まれながらに、私を生み出した者たちをこの世から消してしまった」 「…………」 「私は生まれながらに罪人なのだ」 彼は己の手を見ていた。指が三本しかない手は、雨に晒されて既に水気を帯びている。 この手も、自分のものではない。これは自分の元となった存在から受け継いだもの。 自分は単純にその存在の子孫か何かではないかとも考えた。 自分は選ばれた存在で、この力は選ばれた者のみに与えられるとも考えた。 ……違う。それは自分を安心させるための幼稚な慰めでしかない。 私は歪。私は紛い物。私は……罪人。 「自らを罪人と証する者よ。汝の名は?」 「……私を造り出した者たちは、ミュウツー、と呼んでいた。  名はない。種族の名に過ぎん。お前は?」 「我も我個人を指す名はない。人間たちの言葉で、ヌケニンというらしい」  ヌケニンは、テッカニンの抜け殻。  ミュウツーは、母なる存在の歪。 「人間は私を私利私欲の果てに生み出したらしい。迷惑な話だ」 ――いつの間にか、ヌケニンは彼が寝床にしている洞窟へとやってきていた。 外は雨脚が強くなり、ゴウゴウと風も咆哮を上げている。 そういえば、こうして誰かと共にいることなど初めてかもしれない。 「お前は、自分にとっての母なる存在を知らなかったと言ったな」 「我は、今日初めてヌケニンという単語を聞いた」 「そう、か。私も似たようなものだ」  自分という存在が、母なる存在、ミュウから生み出された……『二番目』でしかないと。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― いつも同じ光景ばかり。機械仕掛けの無機質な部屋の中で、彼が見るのはいつも同じ光景。 黄緑がかった世界。身体は動かず、唯一自由が利くのは瞼と眼球だけだった。 「ミュウツーの様子はどうだ?」 「はい。比較的安定していますが、若干エネルギーの波形に乱れが――」 ミュウツー。嫌と言うほど聞いた単語。 それが自分の名……なのかどうかわからないが、自分と言う存在を示す言葉であることはわかっていた。 人間の言葉を理解し、自らも人間の言葉を操ることができる。 それ故に、自分がポケモンという生命体であることを理解していなかった。 だが、自分を見る人間たちの姿と自分の姿はあまりに違い過ぎて。 ミュウツーは、自分がポケモンなのか人間なのかその他なのか、理解できずにいた。  ミュウツー。ミュウの遺伝子。不安定。エネルギー。危険性。 よく聞く単語はこの五つ。意味は大体理解できる。 ミュウツー。……『ツー』とはに二を意味する言葉。 ミュウの遺伝子。これはよくわからない。 不安定。エネルギー。危険。どうやら自分のエネルギーは不安定な状態らしい。 自覚症状は……少しだけある。身体の奥底から渦巻くような衝動が、小さくも激しく吼えている。 この力は一体何なのだ? ミュウとやらが関係しているのか? 私はなぜ『ツー』なのだ? なぜ二を意味する名を与えられているのだ? なぜ私は動けない? なぜ彼らは私をじろじろと見つめるのだ? いつしか、彼は身体の自由が利くようになり。 黄緑ではないカラーの世界にやってきて、彼はまずこの質問をぶつけた。 「私は誰なのだ? 私はなぜ存在している? ……ミュウとは、何なのだ?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「正直なところ、そこから先は覚えていないのだ」 「何?」 雨の音。風の音。嵐の如く狂っている天気は、未だに衰えることを知らない。 深くはない、だが雨宿りには使える洞窟の中。焚き火の向こう側で、ミュウツーは小さく続けた。 「気がつけば、全てを破壊していたのだ。  機材を燃やし尽くし、青空が見えるその場所で。私は死肉が焼ける臭いを嗅いでいた」 地獄絵図の如く。恐らく何かに激怒したに違いない。 自分を生み出した研究所を破壊し、自分を生み出した人間たちを皆殺しにした。 その時になってようやくわかった。自分という存在が異質であること。 ミュウの遺伝子から生み出され、不安定ながらに強大な力を持った自分。   ―― 私は全てに触れてはならない。私は全てを破壊する。    ―― 私の指先は滅びを意味し、私の足音は罪無き者に黄泉の門を開く。     ―― 私の視線は万物を射殺し、存在そのものが否定される。 自らを戒める言霊だった。それが自分という存在であると。 怒りに任せ何もかもを破壊し、その先に残ったのは虚しさのみ。 「汝は、これからどうするつもりなのだ?」 今まで黙って聞いていたヌケニンが、至極ゆっくりと問い掛ける。 これから? これからどうするべきなのだろうか。 それもまた不安定だった。己の力のように。 「私は……わからん。一つ悩みがあってそれを解決すべきなのだろうな」 「悩み?」 焚き火の向こうで、ミュウツーの顔は不安そうに揺れていた。 火は全てを焼き尽くす。全てをなかったことにする。あの日のように。 「私は時たまに己の力を制御できなくなる。今日の昼間にも危うく暴走しかけた」 それは突然現われる。激しい衝動が腹の奥底からこみ上げてきて、力を牙に変えて暴風と化す。 今日は抑えられたが、今だっていきなり獣が現われるかもしれない。牙を持つ獣が。    ・・・ あれは不完全だ! これ以上の実験は危険過ぎる!  ・・・ 何を言うか。ここまで造り上げておいて投げ出すつもりなのか? 彼らが目指した先にあったのは、獣だった。 誰も止められない獣。狂い、怒り、何もかもを消失させる獣。 「汝と我は似ているところが多いようだ」 そんな言葉が焚き火の向こうから聞こえてくる。 項垂れていた頭を上げると、炎の揺らめきの向こうにヌケニンの無表情があった。 「己の存在を認知できず、否定もできない。  何時までも虚空を彷徨い、生きる意味を探し出そうと彷徨っている」 正しくその通りだろう。 認知、否定。生きる意味を探す。 そこに自分という存在の意味があるのかどうかわかならい。 それでも探す。自分たちが、ただの塊ではない、ただの紛い物ではないことを祈って。 テッカニンの副産物として誕生したヌケニン。 ミュウの強化複製品として誕生したミュウツー。 二匹は、似た物同士だった。 「よー、久しぶりじゃねーか」 そんな馴れ馴れしい声に振り返る。 清清しい青空の下。その中では一層目立つ暗黒の色が浮いている。 開いた口からエネルギーが漏れたりしないかどうか不安だが、ジュペッタはそんなことも気にせず、 「ま、二日ぶりが久しぶりっつーのかどうか微妙だけど」 カカカと、笑うジュペッタ。こちらが何もしなくても勝手に笑う辺り、 一日中笑えるのではないか。そんなどうでもいいことばかり脳裏に浮かんでは沈んでいく。 「元気そうだな」 「そりゃこっちのセリフだっつの。  あのあとどうもテンション低めにどっか行くから身投げでもしに行ったのかと思ったぜ?」 「身投げならした」 「…………へ?」 「いや、何でもない」 一応した。だが、死ねなかった。 自分という存在を滅却すべく、何度も落ちた。受身を取ったとしても大怪我は避けられない高度から。 それでも、この抜け殻の身体は傷一つつくことなく存在している。 ヌケニンは己の存在を呪いすらした。だが、それからほどなくして死ななくてよかったと考える。 「聞け、呪いの形。我に友ができた」 「へ? ヌケニンのか?」 「いや。同じ苦しみを持ち、同じ悩みを持つ者だ」 やっぱヌケニンじゃねーか、とか呟いているジュペッタを無視して。 ヌケニンは今一度思い返す。二日前の夜。雨の中で出会った白き罪人を。 自らを歪と称し、自らに戒めの言霊を被せて己を封じ込めている罪人を。 「あ、お前! こっち来んな!!」 唐突に投げつけられた硬い物体が、ハガネールよりも硬い身体にぶち当たった。 痛みもない。揺らぐこともない。何の変哲のない石ころの軌道を追うと、いつかのコノハナがいた。 「な、なんだよあれ?」 「俺が知りてぇよ! なんかフワフワ浮いてて……どっか気持ち悪いし!」 ……戯言だ。そして自分にとって何の価値もない言葉だ。 仲間のコノハナたちとつるみ、自分には理解できないものを貶すことで己を維持している。 哀れにすら思えた。揃って飛んで来る石ころが、意味もなく弾かれて地面に転がる。 「お前何なんだよ! こっち来んなよ!」 「出てけよ気持ち悪い! この化け物!!」 化け物。……化け物か。なんて自分にピッタリの言葉だろう。 以前、荒地よりの場所でボスゴドラにケンカを売られた時、 幾ら殴っても傷一つつかない自分に、地元で覇者とも呼ばれていたボスゴドラは気味悪がって逃げていった。 覇者すら慄く我。つまりは、化け物だ。 「止めろ、屑共」 今まさに当たろうとした石が、空中で静止する。 物理的に在りえないその状況を作り出した本人は、草陰から姿を現しコノハナを睨んだ。 紫色に光る、奇怪な瞳で。 「私の友を傷つけるな」 「……傷などついていないが」 「そういう問題ではない」 ヌケニンを庇うように、ミュウツーはすっと前に出た。 紫の尻尾を翻し、紫の瞳を研ぎ澄ませて。ミュウツーはヌケニンとコノハナたちの間に立ちはだかる。 その異質な姿に恐怖したのだろう。呂律の回らない舌で、早口で捲くし立てる。 「な、何だよお前! そいつの仲間かよ!」 「……あ! お前この前道の真ん中で苦しがってたヤツ!  気味悪いんだよ! こっち来るってうぉああああ!!?」 突如発生した猛烈な衝撃にコノハナたちが成す統べなく吹っ飛んだ。 攻撃と言うより追い払うための衝撃。腕を下ろし、紫の瞳が細く研がれた。 「もう一度言う。私の友を傷つけるな。  次に石など投げようものならどうなるか……今、味わってみるか?」  ―― いつもの光景と似ている、ような気がする。 誰かが逃げていく光景。誰もが拒絶していく光景。 ミュウツーの超能力を見せ付けられたコノハナたちが逃げていく光景。 フン、と小さく鼻で笑いミュウツーは腕を下ろす。後ろのヌケニンの言葉に目を細めた。 「……感心せんな」 「何?」 「拒絶する心を力で払えば、更なる拒絶を生む。  ミュウツー、汝にわからないことではあるまい」 ミュウツーのしたことは火に油を注ぐようなもの。 別にコノハナたちを追い払ってほしくなどなかった。寧ろどこかで繋がりが持てればよかった。 幾ら石を投げられたところで傷など付かない。まぁそれを維持したところで何か変わるわけでもないが。 「私も最初はお前のように耐えていた。言葉があるならばそれを架け橋にできないかと」 「…………」 「結局のところ、自分が理解できないものは半永久的に受け入れることなどできない。  私は初見で私を拒絶した者は、今後一切受け入れる可能性がないと踏んだ」 欠片でも拒絶の心の持つ者は、既に相容れぬ領域にいる。 私はミュウツー。造り出された存在。同じ存在などいない。    それ故に。 「う……っ!?」 寝床にしている洞窟内。ミュウツーは胸に走る痛みを感じて呻き声を上げた。 外は夕焼けの橙色が支配し、緑の森が赤く染まり強い影が小さな闇として蠢いている。 この感覚は……そうだ。己の中の獣が唸り声を上げている時の感覚。 「くそ……出てくるな……!」 玉のような汗が浮かぶ白い肌。膝をつき、手をつき。胸の中を掻き毟る衝動。 獣だ。予兆もなく牙を見せ、突如として咆哮を上げる獣。 自分が異形である印だった。他の者とは違う容姿。他の者にはいない獣。 (抑え……られん……!) ――ふと思い出すのは、抜け殻の友だった。 あいつはいつもこの時間帯になるとこの洞窟までやってくる。ミュウツーはその習慣を呪った。 いくら不死身の身体であるあいつでも、唯一弱点があることを知っていた。 もし獣が牙をむけば、その二時災害であいつは……――   吼えた。 (? 空気が……) 震えている。赤く染まる森の中で、ヌケニンは微かな振動を感じ取っていた。 いつも通り友が住む洞窟まで行く途中。平穏な森の中での奇妙な感覚。 誰もいない。でも何かを感じる。 (ミュウツー?) 思い浮かんだのは白き友の顔。自らを罪人とする友。 今日はいい話があるんだ。いや、自分でいいこととして勝手に決め付けているだけだが。 自分たちになかったもの。それは自分の意思で手に入れられることに気付いた。 それを提案しようと思った。自分の頭では適切なものが浮かんでこなかった。 彼はどんな顔をするだろう。……きっと顔には出さないが喜ぶに違いない。 だが、この空気の振動に嫌な予感がした。 正面から吹き付けてくる波動。……なんだ? これは。 ミュウツー。汝なのか?  ―― …… 不意に、視界が白く埋め尽くされた。  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「おい、お前! 起きろ!!」 「…………」 「起きろっつってんだろ! でないとその頭ン後ろの管みてぇの引っこ抜くぞ!!」 ―― 頭が覚醒していく感覚。ミュウツーは頬がざらざらしたものと密着していることに気付く。 目を開き、自分が地面に突っ伏していたこと。自分を奇妙な黒い存在が叩き起こしたことにも気付いた。 人間の子供よりも小さく、確か……ジュペッタとかいう霊体だ。 管……そういえば湖に映ったそれを見たことがある。引っこ抜かれたところで支障はないだろう。 何より腕が吹っ飛んでも再生できたこともある。 (……?) 異質な感覚。ミュウツーは気を失う前の状態と今の状況を照らし合わせる。 洞窟内。胸を突き抜ける獣の感覚。 開けた場所。剥き出しの地面。ジュペッタ。赤い世界。   ……違う! こんなに赤くはなかった!! 「なん……だ……これは……!!」 森が、燃えていた。メラメラと火の手を上げて、赤い舌が緑色だった森を嘗め尽くしている。 それは夕焼けなんかよりも強く、生々しく。肌に広がる熱い空気が不快だった。 洞窟のはずだったその場所は、まるで元から何もなかったかのように平らな大地になっている。 「なんだこれはじゃねーよ。何か光ったと思ったらいきなりドカーンだ。  運よく森から出てて良かったぜ。おめーもな」 汗が出るはずもない霊体で額を拭うジュペッタ。 ゴウゴウと燃える森を見上げて舌打ちする。 「大半のヤツは……マジな話、逃げられたなかっただろうな。  瞬く間に森が火の海になっちまったんだ。助からなかったことにも気付かず逝っちまった」 「…………」 「しっかし何だっただろな、あの光。  いきなりピカッとなって森が燃えたんだ。そういや、この辺からっぽいかったな」 「…………」 「なぁ、おめーなんか知らねぇか?」 私は。……そう口が紡ぎかけて閉じられた。 私に一体何が言えようか。私はただの罪人。私は罪を犯し続けた。 今回も、私。森を火の海に変えたのは、私自身の中に眠る獣が咆哮を上げたから。 「ヌケニンは……」 「あ?」 「ヌケニンは、どうした?」 白い彼に問われて、ジュペッタは脳内の記憶を掘り返す。 彫れども彫れども、あの抜け殻の彼の姿は現れず。 次に呪いの人形が吐いた言葉に、ミュウツーは更なる罪を認めた。 「そういやあいつ……どこ行ったんだ?」 気付いた時には、既に念力が重い身体を浮かせていた。 他の者たちにはできない奇妙な立ち方で身体を起こし、目を閉じて精神を統一させる。 己の意識をクモの巣のように張り巡らせて目的のものを捜す。 (ヌケニンの気配が見つからない……!) 恐らく、炎の蛇が目の前でのた打ち回っている所為だ。 炎というのはあらゆるものを遮ってしまう。声も、意識も、呼吸も。 感覚でヌケニンを捜すのは無理がある。目を開け、今度は炎へと近づいていった。 「お、おいお前! 何する気だ!?」 「ヌケニンを捜してくる」 「捜すゥ!? この火の中を――」 意識が暴風と化すイメージ。それがこの技の真髄ともいえる。 突き出した腕の先でエネルギーが渦巻き、解き放たれた。荒れ狂う炎に荒れ狂う意識が殺到する。 脆くなっていた木々ごと炎を吹き飛ばして道を作り、彼は振り返らずに告げた。 「私は……ヌケニンを捜す。彼は私の友なのだから」 今、この森は己の罪を具現化したものといえる。 炎の蛇たちがのた打ち回り、真っ赤な牙と舌で全てを紅蓮に染め上げていく。 全ては自分が招いたこと。全てこの手が下した真実。 「ヌケニン、どこにいる! 返事をしろ!!」 メラメラと燃える森の中、ミュウツーは声を張り上げる。 こんなに大きな声を上げたのはいつ以来だったか。……ああ、研究所を破壊した時か。 あの時、自分の力に恐怖し、自分のしたことに恐怖し、自分という存在に恐怖し。 彼は叫んだ。恐怖ではない、友の生存を祈りながら。 ……不意に視界に入ったもの。それもまた恐怖の象徴だった。 倒れた木々。炎に包まれて真っ赤に燃えるそれの下に見える……それ。 尻尾だった。何の尻尾なのかわからない。だが、それが自分の罪そのものであることはわかる。  ―― お前は罪人だ。 誰だ――そう口が動きかけて、気付く。これは声なんかじゃない。 意識だ。自分を取り囲む炎がギラギラと燃え滾り、何か口走っているようだった。  ―― お前は罪人だ。  「うるさい……」  ―― お前は罪そのものだ。  「私は……」  ―― お前の存在が罪だ。  「私は……!」  ―― 罪の友となった者には罰を……。  「やめろ……!」  ―― お前の呼吸、お前の足音、お前の視線、     お前の頭、お前の身体、お前の腕、お前の足。     その全てが罪だ。お前は罪から逃れられん……!   ―― 私は全てに触れてはならない。私は全てを破壊する。    ―― 私の指先は滅びを意味し、私の足音は罪無き者に黄泉の門を開く。     ―― 私の視線は万物を射殺し、存在そのものが否定される。 思い出すのは己に言い聞かせた言霊だった。己を罰し、己を戒める言葉。 正しくその通りじゃないか。自分という存在が死を撒き散らし、罪として君臨している。 「私は……罪……」 「独り言というのは、端から見れば滑稽な光景なのだな。初めて気付いた」  ――  ヌケニン !!? 聞き覚えのある声に振り返る。ヌケニンだ、生きていたのか。 ヌケニンは不死身に近いだけで不死身ではない。その身体は炎に極端に弱いのだ。 そんな身体で炎の中に放り出されては生存率も低いと思っていた。   ただ、          地面に転がっているヌケニンが、その身の半分を消失させていた。 「っ!! ヌケニン!!」 慌てて駆け寄り、非常に軽い身体の友を抱き上げる。 軽いなんてものじゃない。果物よりも軽いではないか。 炎にやられたのだろう、この世で最も炎に弱い身体は、半分が焼け落ちて無残な姿となっていた。 焼け落ちた部分から中が見えてしまった。……案の定、何もない。臓器はもちろん、本当に何もない。 それがヌケニン。それがヌケニンの運命。 「ミュウツー、実は汝に相談があってな」 「喋るなヌケニン! 崩れているぞ!!」 口などないが、ヌケニンが声を発するたびに彼の身体はボロボロと崩れていく。 それに気付いているのか、気付いていないのか。ヌケニンの声はいつもと変わらない。 「我らにずっとなかったものがあるだろう。よく考えればそれは簡単に手に入るのだ。  名前だよ、ミュウツー。それこそ、存在を識別する……証のようなもの……だ……」 「喋るな!」 明らかに声がおかしくなっているヌケニン。それでも彼は喋ることを止めなかった。 それこそ、己の運命が既に決定付けられているかのように。 「だが……我ではい……い名を付ける知識……がナ……い……。  そこでだガ……ミュウツ……なんジに考……てもら……」 「やめろ……! やめてくれ、ヌケニン!」 これを、自分がやった。やってしまった。 己の中の獣。牙を光らせ、その全てを引き裂くために存在する獣。 森の者たちを殺し、そして友であるヌケニンを傷つけた。  私は罪人だ。 「そウいえ……ば……身体ガ動……カないのハ……なぜ……」  私は罪人だ。罪そのものだ。 「ミュ……つー……。我ら……かたマり……でも……、  罪ビと……でも、ない……。ワれら……生きテ……」  私は友を傷つけた。私は罪だ。私は罪人だ。 「みゅう……ぅ……ドコダ……マ……エガミ……エナイ……。  ワレ……ダレダ……ドコニイ……ル……ナニモ……エナイ……」             ワレラ……イキテ……ソンザイ……ヒテイ……デキナ……イ……。                          ナハ……  ワレラ、シメス……  スベテ……                   ワレ…… ラ……  …………   ――――       私は罪人だ。……何故なら、友を殺したのだから。 「あ、こんなとこにいやがった! おい!」 暑苦しい森の中を彷徨い、ジュペッタはようやくあの白い背中を見つけた。 こんな燃え滾る炎の中、ヌケニンを捜すと言って勝手に森へと入っていった大馬鹿者。 いや、そんな大馬鹿者を捜しに来た自分も大馬鹿者だなと自嘲する。 蹲って動かないそいつ。ジュペッタは声を張り上げた。 「こんなとこにいたら焼け死んじまうぞ! おい、聞いてん――」 そこまで言って。彼が奇妙な物体を抱えていること、 その物体が元は一体なんだったのか検討がついて、ジュペッタの声が詰まった。 ヌケニン……のようなもの。半分以上が崩れ去り、顔に該当するパーツだけが残っている。 ただの欠片のようなもの。それがヌケニンを模った何かだと言われたら納得してしまうだろう。 ただ、そこに宿った魂が見えたような気がした。薄く、小さく、そしてどこかへ消え去っていく魂が。 「お、おい……それ……」 「…………」 ヌケニンの遺体を抱いた彼は、何を考えているのか。 悲しみか、苦しみか、怒りか。……違う、彼が考えているのは『罪』だ。 友を殺した自分。その自分を怒る自分。自分に課せられた罪。 「とにかく、ここにいたら死んじまうって! おら、逃げんぞ!」 「…………」 急かすジュペッタだったが、彼は動かなかった。 魂が抜け切った『塊』を胸に抱き、じっとその場を動かない。 ヌケニンは彼の友だった。その友の死ともなれば、身を裂かれるより苦しいだろう。 だが、だからといっていつまでもここにはいられないのが現実だ。 「悲しんでたってあいつは帰ってきやしねぇ! てめぇの所為じゃあるめぇし!!」 「違う!!」 どれが引き金だったのかわからない。突然その白いヤツが叫んだ。 紅蓮に染まった世界の中で、紫の瞳はじっとヌケニンを見つめている。 罪。……そうだ、私は罪だ。 「私は……私は……!!」 唐突に、背後で空間が歪むのを感じてジュペッタが振り返る。 捻じ曲げられて強引に異空間の扉が開き、そこにいたのは自分と同じ霊体の存在。 ブラックホールを開けて現れたのは、仲間のサマヨールだった。 「おい、何やってる! 早くこっちに来い!」 「だけどよ、こいつ一人ほっとけねぇって!  おいコラ管野郎! ヌケニンはもう死んだんだ! いつまでも凹んでんじゃねぇ!!」    死。……そうだ、死んだんだ。     死。もうこの世にはいない。生存していない。      死。それは私が齎した。私が……――――          私が、殺したんだ……! 「な……?」 白いそいつの雰囲気が、目に見えて変化していることに気付いて後退りする。 殺意。激怒。悲哀。……それも、その全てがジュペッタではなく自分自身に向けられていること。 自らに殺意を抱き、自らに怒りを抱き、自らに悲しみを抱く。 そいつの周囲で空気が渦巻く。周りの炎がそれに絡め取られ、炎でできた竜巻のように唸りを上げる。 「何なんだ……? おい、早くこっち来い! 危ないぞ!!」 「お、おお……」 その異常な様子に流石のジュペッタも、己の身を消しかねない衝動に恐怖を感じた。 自らを憎むそいつ。怒りで森を焼き尽くす炎を消し飛ばし、時に炎を操り渦へと変える。 誰だってあること。怒りに任せて周りが見えなくなる。こいつもそれと同じ。 異次元の穴に足を掛けたところで振り返る。そいつは蹲ったまま炎を操っていた。 もう動かないヌケニンを抱きしめて、何を願い何を思っているのか。 サマヨールが穴を閉じる。その隙間からじっとあいつを見つめていたが、 あいつが何を考えているのか最後までわからなかった。    ただ、あいつが最後に何か叫んでいたのが聞こえて。     異次元の穴の隙間を、猛烈な白い閃光が突き破ってきて。      世界が消えてしまったような感覚だった。全てを滅ぼす光が、何時までもジュペッタの目に焼きついた。    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 平地だった。そう、平地なのだ。 何もない平地の中で、ミュウツーは顔を上げる。見渡す限り何もない平地がどこまでも続いていた。 乾いた空気。乾いた大地。……そこに乾いた自分がいる。紫の瞳が乾き切っている。 腰を上げて立ち上がる。掌に残った白い粉がさらさらと風にさらわれていった。 乾燥して割れた地面。燃えカスすら残さず全てが消失してしまった。 木々を燃やし尽くす炎も、真っ赤に染まった森も、その犠牲者たちの遺体も。 獣は再び咆哮を上げた。全てに牙をむき、全てをその爪で引き裂いてしまった。 (……違う) 衝動的なものじゃない。これは自分の意思で解き放った。 突発的なものでもある。ヌケニンを失った、いや、殺してしまったことに対する怒り。 精神的なものとして、全ての罪の痕を消し去ってしまいたかった。 あの森は自分の罪を具現化したもの。あらゆる命を消し去った唯一普遍の罪。 (私は……) 風にのった真っ白な粉が舞い上がる。この世で唯一の友だった者の欠片が空を舞う。 彼は私が殺した。言い訳はしない。私が殺した。……言い訳など、できようものか。 一時として獣は自分の意思に従った。或いは、自分の意思に獣が勝手に呼応したのかもしれない。  ―― お前の呼吸、お前の足音、お前の視線、     お前の頭、お前の身体、お前の腕、お前の足。     その全てが罪だ。お前は罪から逃れられん……! 「ヌケニン、私は私に名を付けようと思う」 白き粉が舞い上がる天を見つめ、そこに広がる青空を意識する。 彼が最期に願ったこと。名を考えて欲しいという最期には似合わない願い。 彼は自らの死を最期まで認めなかった。あれは、彼が彼であることを示しているような気がした。 この世界で最も強力でありながら、この世で最も脆弱な身体を持った友。彼なりの生き様。 私に彼の名を考える資格はない。私は彼を殺した張本人であり、罪人なのだから。 「私は私自身を呪い続ける。自分という存在を怨み続ける。  私は私が犯した罪を認める。私は自分自身が罪であることを認める……!」  ミュウツーの身体が浮かび上がり、その身に濁った紫色のオーラを漂わせる。    彼は自らを罪とした。自らが罪であることを認めた。     例えそれが自分の偏見だとしても、彼はそれに対して後悔はしない。     「『罪』……そうだ、私の名は罪。私は罪そのもの……」    ヌケニンは彼を罪人ではないといった。故に、ヌケニンはこの名を認めないだろう。     わかってくれ、我が友よ。これは私なりのケジメ。私なりの罰なのだから。     「私の名は…………!  『Sin』……『シン』だ!!」    その場から消失するミュウツー――シン。    彼は自らを呪う。自らを怨む。自らを蔑む。自らを獣と称す。      ―― 私は全てに触れてはならない。私は全てを破壊する。       ―― 私の指先は滅びを意味し、私の足音は罪無き者に黄泉の門を開く。        ―― 私の視線は万物を射殺し、存在そのものが否定される。         ―― 私は友を殺した咎人であり、私は罪そのものである。